「ふーん、それで今日の一夏君は一組の娘達と一緒に訓練してるんだ」
「です。下心の発露っすね。若気の至り若気の至り」
放課後の生徒会室。ニコライ・フリスチェンコは今回の決闘騒動に関する情報を直属の上司(生徒会的な意味で)たる更識楯無に報告していた。内容は主に織斑が
報告内容について語るには今回の決闘騒動、即ち一組クラス代表セシリア・オルコットvs五組クラス代表織斑一夏の模擬戦の発端について説明せねばなるまい。
今回の騒動は一組の分裂、更に言うとセシリアの態度が大きすぎると主張する一派の台頭から始まった。入学初日、一組のクラス代表は五組のようにわざわざ決闘の様な真似をする事無く、実力とやる気を見せたセシリアの自薦をクラスメイトらが肯定するという形であっさり決まった。
初日の時点では目につく問題も無かったのだという。そして問題が表面化し始めたのは男性操縦者が自主訓練を始めた辺りで、その頃からセシリアの傲慢とも言えるような発言が目立つようになる。
原作でもあった様な日本片田舎発言、男性操縦者を見くびり自分を持ち上げるような発言がセシリアの口から発せられ、徐々にクラスの反感を買い始めたのだ。
この辺りで一組はセシリアの肩書を傘にする腰巾着勢、差別ともとれるクラス代表の発言に反感を覚えた推薦後悔勢、そして我関せずの無関心勢へと分裂する傾向が見られた。
決定的な事件は織斑vsレイモンドvsリチャードの決闘の時だと考えられる。セシリアがあの決闘を見る価値も無いサーカスと断言したのだ。この発言に後悔勢力の中でも真面目な、あの決闘から得るものを探していた数名が爆発。セシリアが本当に強いのか、偉そうに人を貶すに値する操縦者か試す発言をした結果、売り言葉に買い言葉としてセシリアを相手取った決闘となったそうな。
織斑を代理にしている理由は、
ちなみに今まさに一組後悔派が織斑を囲って訓練している建前は、代理として彼を立てた自分達が一切関わらないまま決闘に出すのは道理に反する、だそうだ。全員ではないが下心が透けて見える訓練風景であったと追記しておく。
「本音、今日の一組の様子はどう?昨日のリチャード君との模擬戦の影響が出てるみたいだけど」
「もー凄く居心地が悪いよー。セッシ―は考え事ばかりだし、
「手の平を返す気持ちは分からないでもないわ。ただ良くない傾向なのは確かね」
昨日のセシリアの敗戦はやはり彼女の人物像を大きく損なうものだったようだ。しかし昨日の今日でもう陰口の対象に早変わりとは。女子ってエグイ。
陰口の経緯は置いておくとして、楯無より一組の対立解消に妙案は無いかと問われる。各国の代表となるべき人材を育成する教育機関として、既に国家代表候補生たるセシリアが雑言の対象になる事態はやはり避けたいらしい。
俺も理由はともかく陰口はもちろんいじめが好きな質では無いのでいい案が無いか考える。原作にこういう展開は無かったし、前世の経験にも女子のいじめを解消したなんて功績は持たない。のほほんさん(原作織斑に倣ってそう呼んでみたが是認されたので使っている)もクラスの居心地が悪いのは嫌らしく、実現性はともかく仲直りの案を考えている。お菓子を食べて全て許せるのは彼女だけだと思う。そして虚さんは流石三年生と言った風情で今までのIS学園の事例から引用した解決策を提示してくれている。そして楯無さんが出た案に
……結局この日出た結論は、セシリアvs織斑がどうなるかで変わるとして保留となった。
「そうだ、あと一つ聞くことがあったんだ」
「何すか?織斑一夏周りでもう報告できることは無いと思うっすよ?」
「違うわ。一夏君じゃなくて……」
名指しの上で説明されると確かに怪しい奴だった。でもクラスに居る時の様子で報告する事なんて在ったっけな……転生者だって言ったってどうしようもないもんなぁ…言い出したら俺もだし、どうしたもんか。
◇予行演習 / 下心の矛先
さて織斑一夏の今日の放課後は、いつもの愉快な仲間達とは別行動でISの特訓である。いつもの仲間達の内、幸島は課題、
「なぁ、これって本当に意味あるのか?」
白旗の頼みごとの正体、それは一組のクラス代表セシリア・オルコットと決闘する事だった。今日の放課後は一組の女子達(全員では無いみたい)の作戦を聞いて明日の決闘に備える、という名目でアリーナに来ていたんだが…
『大事大事!だって相手は中距離射撃型、もしかしたら客席の方に追い詰められるかもしれないでしょ?だったらその時に次はどっちに避けるか分かるようにしとかなきゃ』
「…ホントか?そもそも逃げ惑う事になったらほとんど
と言う事でアリーナ中央から一気に外壁まで加速、直後反転してどっちかの方向に逃げるという良く分からない動きを繰り返させられている。絶対にこの訓練の目的は最初の加速の間に焚かれるフラッシュの方だと思う。体勢どころか表情まで指示されたときは流石に引き攣った。
『そろそろ満足したでしょう?真面目にやるから通信機返して』
『ハイハイ。そこまでしなくてもセシリアには勝てるでしょうに』
「いや、そんなに期待されても困るんだけど…」
そしてこれだ。どうも今日一緒に訓練に来ている(空いた訓練機が無かったため見学)女子の大半がなぜかもう勝った気でいるのだ。
俺も昨日のリチャードvsセシリアの結果は聞いてるし、マリアーノが新聞部から買ったという対戦の動画を見て、いつもの皆とちょっとした作戦会議をして勝てるだろうという予想を立ててはいる。だが彼女らのそれはもう自信とかそう言うのを越えている気がするのだ。
『変な事ばっかりやらせてごめんね織斑君。次から真面目にやるから』
「今まで真面目じゃなかったって認めちゃうのか…」
『ごめんごめん。それじゃあ部の先輩に聞いてきた対射撃型の練習始めよっか。前のリチャード君との決闘でも結構避けてたし、織斑君ならすぐできるよ!』
何だかなぁ…まぁ真面目にやってくれるらしいので有り難く指導を任せておく。
『メモメモっと……まず対射撃機の初歩は相手の射線の先から居なくなることって書いてあるね。織斑君はリチャード君の時はどうしてたの?』
「いっぱいいっぱいだったから具体的にって感じじゃないけど、とにかく足を止めない以外は無かったかな」
あの時は本当に全力で避けていた。特にミサイルが飛び始めた辺りで本当に足を止めるという選択肢が無くなり、やっと近づいたと思ったら投げ飛ばされたのは本気で絶望しかけた。勝てたのは本当に運だと思うし、言う事を聞いてくれる白式には感謝しかない。
それとは別に皆一度あの弾幕に飛び込んでみると良いと思う。多分この世界で恐ろしいと思う事はほとんどなくなる筈だ。
『あの時の織斑君は評価分かれてるよね。逃げ回るだけでカッコ悪い派とビュンビュン飛び回っててカッコいい派。』
『ハイハイ雑談は後で。ISだと相手の射線って表示されたりする?』
「いや、そんな機能は無いみたいだ。凄い欲しい」
『え、じゃあ織斑君勘だけであの弾幕避けてたの?何回か先読みしてるみたいに避けてたよね?もしかして〇ュータ〇プ?』
「違う違う。ISのセンサーのおかげで銃口がどっちに向いてるかまでは見えるから、それから逃げようとはしてたな」
ここはIS様様である。全力で前に進んでいても振り返る事無く横から撃ってくる相手の銃口が見えるので、違う動きをするとすぐに分かるのである。特にリチャードは撃っている間は動きがほぼ止まる、その点では相手にしやすかった。なおそこが隙だとは言っていない。
『それ回避テクとして本に書いてある奴だよ。最初からできるって織斑君もしかして天才?』
「そんな事無いって。これくらい皆もすぐできるようになるだろ」
『持つ者の余裕ちょっと妬ましいわ。射線を避けるのはもうできる、なら次は…
「今更って言われるかもしれないけど、いくつかの空中機動はもう習ったんだよ。前の決闘の時に」
教わってなかったらユートピアに鱠切りでサンダーボルトに蜂の巣だったと思う。
『なら私たちから見てセシリアに通じそうかどうか考えるから、いくつか見せて貰っても良い?』
「分かった。失敗しても笑わないでくれよ?」
なお失敗して笑われた模様。本番では上手く行くから大丈夫…のはず。
さて、そんな話を一夏君から聞く食後の一幕。私、マリアーノは明日の決闘がどう転ぶか不安になるわけだ。下手すると一組の関係が拗れセシリアが色恋どころではなくなる可能性も含んでいるだけに、慎重に彼を導かなければならない。
「それは大変だったね。少し明日が心配になりそうだ。では一夏がその訓練で得られたものは?」
「オルコットさんはビットを使うとき足が止まるし、ビットとライフルは同時に使えないから狙い時」
「知ってた」
「俺も聞いてた」
残念ながら一組の女性陣に一夏を原作以上のポテンシャルに出来る大物は居なかったらしい。もし居れば様々な意味で気にかける必要があったので事の是非は置いておく。
「そういえば一夏君は彼女たちから決闘の経緯は聞いたかい?」
「それが聞くタイミングが中々掴めなくって。聞いてた方が良かったのか?」
「できれば当事者たちの口から聞いてほしかったけど仕方ない。私から簡単に説明しよう」
と言う事で一組の女子達から聞かされた決闘の経緯を説明する。端的に言うとこの決闘は鼻持ちならない
前世でも似たような経緯から散々な目に遭っている人を見る機会が何度かあった。当事者になる事はなかったが、今世で同じことを繰り返してはいけないと心に決めている。少なくとも亡国機業が動き出すまでは、彼女らは、或いは彼女らもただ青春を謳歌する権利を持っているはずなのだから。
「……今度の対戦相手ってそんなに上から目線なのか?」
「伝聞だけどね。ただ昨日リチャード君に負けてから少し様子がおかしいみたいだ。戦っていて変だと感じたら、少し話してみると良いかもしれない。リチャード君と仲良くなれた一夏君なら、彼女も変われるかも知れない」
「いや、男友達はともかく昔から女の子が絡んで事態が良く成った記憶が無いんだけど」
「確かに初めの頃の箒さんの様子を見るとその通りみたいだね。なら、私からその時になったら聞いて欲しい事を一夏君に授けよう」
一夏君の対女性経験はまともじゃ無かったんだなと少しほろりとしながら、セシリアの態度軟化に必要になりそうな言葉を考える。
彼女の居丈高な態度の根源は貴族の誇り、素晴らしかった母への憧憬、そして自身への絶対的な信頼だ。そして男性絡みで態度が硬化するのは顔色を窺うばかりで情けなかった父への軽蔑と両親の資産を狙う者共への反抗だったはず。原作の彼女が一夏君を気にし始めた理由は強い意志の籠った瞳を見たからだったか。
これらから導かれるセシリア攻略の選択肢は……
「そんな事聞くのか?」
「ああ。きっと彼女の事を理解する手助けになる筈だ」
…仕込みは済んだ。後は一夏君のポテンシャルを信じるだけである。彼ならばきっとセシリアの青春を灰色にはしない筈だ。
『あら、あなたはMr.レイモンドのセコンドに居た…』
『白旗ですよ。そっちもこの時期人気の無い第六アリーナで自主訓練?』
『ええ。そういうあなたは一人で自主訓練ですの?寂しい方ですこと』
『ブーメランブーメラン。そして次におまえは「良い事を思いつきましたわ。折角なのでイギリス代表候補生たるわたくしが特別に指導して差し上げましょう」と言う』
『良い事を思いつきましたわ。折角なのでイギリス代表候補生たるわたくしが特別に指導して差し上げましょう――ハッ!』
『八つ当たりの的なら他を探してくれよ。ついでに俺、レイモンドにモニターして貰うんで実は一人じゃないんだよなぁ。つまり単純な指導なら足りてると言っとく』
『くっ…で、ですが実際にその場に相手が居るのと居ないのとでは訓練の質に差がありましてよ。あなたが頭を垂れてお願いすれば、高貴なわたくしがわざわざあなたの様な一般人に手を貸して差し上げますわ』
『その態度が悪いと気付かないほど子供じゃないだろうに。……ん?何さレイモンド……あぁ、後輩を立ててやってくれって事?晩飯のおかず一品な』
『さて俺は予定通りこの打鉄に乗って
『人に言われてというのが気に入らない所ですが今回は特別ですわ。貴方の様な初心者がわたくしの特別指導を受けられること、光栄に思いなさい!』
『ハイハイ光栄光栄』
「……この録音の内容に話を合わせれば良いのかい?」
「勝手に名前使ってスンマセンね。あんまりにも上から目線なんでつい反射的に」
「構わないさ。この程度で目くじらを立てるほど狭量じゃないし、君には研究で世話になっているからね。貸しにするほどですらないさ」
「助かります。明日辺りに開発室メンツにも話通さなきゃですかねぇ」
「その必要はないよ。実はその時間帯、私も整備室を離れていてね」
「そうなんすか?珍しい」
「ちょっと気になる事がね。ところで君の…」
「ストップ。大体聞きたい内容と居なかった理由読めたんでそれ以上は黙秘で」
「食い気味だね。ならこれで貸しを一つだ。明日の朝は一品多めに食べさせて貰うよ」
「夕食後の紅茶にスコーンまである」
「良い事だ。それじゃあ録音は一度聞いた後消去しておくよ。今後はもっと用心深くね?工作員の白旗君」
「忠言身に沁みますが工作員は止めてくださいよ。最近その説を真に受けた人がいるのか監視付いてるみたいなんすよ!」
「僕にも産業スパイが付いているよ。親近感を覚えるね」
「そんな共通項嫌だ…」
長文の切り処がいまいち分かりません。読みにくいと思われた方には申し訳なく思います。
以上。感想・誤字脱字報告・助言・ご意見お待ちしております。
リアルの都合と作者の力量の為次話vsセシリア当日の更新はしばらくお待ちください。
6/14 誤字修正