長い説明文で無理矢理プロットを進めるのをお許しください
「…事情聴取は以上だ。全員今回の行動が如何に軽率なことだったか良く反省し、その上で養生しろ。いいな」
そう言って保健室を去る織斑先生を見送り、柔らかいベッドへ身を預ける。
体の痛みとは全く別の要因で強張っていた体から意識して力を抜き一息つけば、同じような溜め息と舌打ちが周囲のベッドからも聞こえてくる。
専用機たる
「Shit!仮にも怪我人に容赦はないのかよ。昼に起きたと思ったらもう日暮れじゃねえか」
「そう言うなリチャード。向こうも仕事で、何より勝手な事をしたのは此方だ」
「だからと言って意識が戻って早々5時間も事情聴取と言う名の説教はキツい。挙句出席簿でもう一晩寝る所だったぞ」
と言うわけで、先の対
予定通り緊急参戦した専用機持ちの私たちは揃ってベッド送りにされたわけである。意気込んで出た割にこの始末と言うなかれ。
「あれはリチャードが間抜けなだけだろうが。ま、スケープゴートには丁度よかったがな」
「黙れ威圧だけで負けて隠し撮っていた無人機戦のデータを削除させられた腰抜けカーチス」
「危うく
「二人とも落ち着こうよ。不毛なだけだし、まだ誰かが突然入ってくるかも知れないだろう?」
弛緩した空気の中、少なくない怪我を抱えたストレスをぶつけ合う2人に対して今回はほぼ独りで空に上がりきりだったトリコット君の静止が掛かる。
伊達にも事情聴取で話さなかった内容を不意に漏らすかも知れない。そう考えれば真っ当な意見に対し、睨み合っていた二人は声を揃えてこう返す。
「「いきなり宙から降って来て戦いを終わらせた隕石の言う事は傷に沁みるなぁ」」
今回の戦闘、決着の一手はトリコット君を弾頭としたメテオストライクである。
◇リザルト / 制御不能因子
所変わって別棟の救護室――生徒向けの保健室は10人も収容したらそりゃあ満室である――にて目を覚ました一夏は、まず目前から飛び退く幼馴染…ではなくめくれたカーテンの先で自分よりも背の高い男を締め上げる雄姿を目に入れる。
何か良い所を邪魔されたらしいが、詳しくは分からない。だが、救護室で暴れるものでは無い事は確かだ。
「おい鈴、それくらいにしてやれって。明の顔…は気持ちよさそうだけど、怪我してるみたいだし」
「あら一夏目が覚めたの。少し待って、こいつ落とすから」
「鈴ちゃんに落とされる(恋愛的な意味で)なんて本も゛」
救護室で耳にしてはならない音がした。
「良し。改めて一夏!もう目覚めて大丈夫?無理してない?他の奴は先に目が覚めてのに起きないから、本当に心配したんだから!」
「お…おう。ちょっと痛むけど大丈夫そうだ。それより明は「あいつなら死なないから平気よ」えぇ…」
幾らなんだでも扱いが苛烈ではなかろうか。
駆け寄って来た鈴の後ろに視線を向けると、間接の角度がおかしい気がする明を誰かが扉の外に引き摺り込んで行くところを目にしてしまう。
……多分気にするだけ無駄なのだと悟る事にする。
「というか、あの正体不明機はどうなったんだ?アリーナのバリアが消えてて、飛び込んできた先生たちと一緒に抑え込んだ所までは覚えてるんだけど、その後がどうなったか」
「あーやっぱり気になるわよね。正直私も又聞きになるけど良い?もっとも、お互い気絶したタイミングで全部終わっちゃったから話せる事なんてそんなに無いんだけど」
「そうなのか?」
「そ。ちなみに最短で説明するなら、あんたのクラスメイトが降ってきて爆発して全滅した。で終わるわ。ね、ロミー」
「短っ!と言うかベンサムさんも居たのか」
流石に端的過ぎて意味が分からない。むしろ詳細を聞いても分からないかもしれない。
「あ、織斑君酷い。いくら幼馴染優先だからって存在に気付かなかった宣言は傷つくな~。説明が短いには私も同意するけど」
「ごめん。ちょっと起き抜けの光景が衝撃的過ぎて。ちなみにベンサムさんが短くまとめると?」
「空から謎の助っ人ビームと衝撃波で全滅エンド」
意味が分からない。
「冗談はこれ位にして私が聞いたことをちゃんと説明してあげる。まず――
――アリーナの遮断シールドが消えた直後。千冬さんの悲鳴にも似た指示を聞き観客席からアリーナ内へ飛び込んだ私たちは、とにかく全員であの無人機の腕を抑えに行ったわ。
ここは一夏も憶えてるでしょ?ハァ曖昧?あのグネグネ気持ち悪いくらいに曲がる腕を抑えるの大変だったんだから。
万が一にも射線が観客席に向かない様に出来るだけ真上から仕掛けて、跳弾がとか破片が怖いから射撃は出来なくて。
そうそう。あの白い…いや最後の方は黒かったISとあのライオン顔のISはすぐに抑えてコア抉ってたわね。最初からやっときなさいよ。
一夏が腕を落としてた方は先生たちで絞めてたの憶えてる?そこだけ憶えてるのね。正直アレを見るまでIS学園の先生舐めてたわ。
それで最後の一機…と言うと語弊があるけど残った奴。アリーナに居る全員で抑えに行って、でもアイツはもう何を巻き込んでも気にしないってくらいビームばら撒いて。
先生が何とか取りついたと思ったら荷電粒子砲の接射で炙られて、暴れる無人機の動きが収まらないから巻き添えに出来なくてそれ以上切り込めなくて。
そうやって攻めあぐねてた所に空から…えーっと誰だったかしら、あのフランスの、そうそうデコスケ・トライポッ…あ違う?デクスターだったっけ。まぁそいつのISが本当の最後の一機を巻き添えにして空から降って来たってわけ。正に隕石が墜ちてきたって衝撃で、暴れてた無人機も、周りに居た私たちもまとめて吹き飛んだの。
これまでが地上の私たちにも分かった事。で、ここからが私達が知らなかった事。
さっきのデコスター、あいつ対抗戦の間中ずっっっと勝手にIS展開して空に上がってたんですって。バレなきゃ犯罪じゃないってバレてんじゃないの。
そんなことするからバチが当たったみたい。デコスケの奴は一緒に墜ちてくるまでずっと上に居た追い掛け回されてたらしいわ。
んで何でそんな勢い良くアリーナに降って来たかって所なんだけど、その理由ってのがロミーが言ってた助っ人ビームって奴ね。
…そう、助っ人。全く正体不明の第三勢力がデコスケに加勢してたみたい。
助っ人は一度置いておくわ。デコスケのISの特殊装備って聞いたことある?ヴォワ何とかルミエール…ヴォワチュール・リュミエール?フランス語発音しづらいのよ。背中の輪っかでビーム受けると超加速できる装置だって。レーザーとか荷電粒子のエネルギーをなんやかんやして運動エネルギーに変換する宇宙用推進システムとかなんとか。
ここまで聞けば一夏も予想できたわね?デコスケの奴、その助っ人から背中にビーム受けて超加速して隕石になったの。
◆◇◆
学園の地下50mに存在する極秘の空間。土埃の中から発掘された無人機が運びられたこの場所では昼夜を問わず先日の事件の解析が続けられている。
もっとも、その成果は芳しくはないが。
「山田君。上空に居た正体不明機について何か分かったか」
「織斑先生、その…やっぱりデクスター君の証言以外に確認できるものが何も残ってなくて」
「デクスターのスターゲイザーに記録があるはずだが、確認はしたのか」
「したんです。でも
「なんだと?この間の明と檜山と言い、アウトログの信憑性が次々に失われていくな。他の監視はどうだ」
ディスプレイの薄ら明かりに照らされる山田先生が、首を横に振る。
作業を止め振り向く彼女の表情は暗く、調査が全く捗っていない事を察する。
「学園からアクセスできる監視衛星も駄目でした。ダメもとで他国の知り合いも当たってみたんですけど良い返事はなくて」
「それ以上踏み込む必要はない。恐らく空振りで借りを作ることになる」
わかりました、と力無く頷く彼女に暖かいコーヒーを渡す。
自分のカップを啜りながらディスプレイを見れば、彼女が当たったであろう伝手と各企業製ISのリストが目に入る。
ただし、そのリストにデクスターの証言に合致するISは無い。
「全身装甲で主兵装に強力なビーム砲と機関銃、までなら何とか見つけられますけど、あの無人機のビームでほぼ無傷の重装甲にカメラアイから超強力な照射型レーザービームとなるともう現行のどの兵器からしても冗談みたいなスペックですよ」
「私も何人か知り合いに聞いてみたがやはり心当たりがないそうだ。設計思想すら想像がつかん」
何人か、の中にはそれなりに軍事方面で無理の利く者もいる。
それで駄目ならば、つまり
…或いは。そう頭の片隅に思い浮かぶ一人の顔を、頭を振って打ち消す。
もし彼女だとしたら、此度の事件が意味の通らない一人芝居となる。
そしてそれは、彼女の流儀に沿う物ではない。
何者かが存在する。
我々を、ともすれば現代の技術を嘲笑う何者かが、影から此方を監視している。
手元のコーヒーではどうにもならない寒気を無表情で抑え、思考を回す。
何か他に、見逃している点は――
◆◇◆
「社長。準備ができました」
「そうか」
まだ少し冷える5月のパリ。社の施設の前で
わかっていたやり取り。もう少しまともな会話がしたいと思うのは、自分にも父親に未練があったのか、それともこれから始まる
「IS学園でするべき事はわかっているなシャルロット」
「はい。"第三世代機のデータを可能な限り盗み、デュノア社に還元する""まだ所属が確定していない男性パイロットをデュノア社に引き込む"」
「そうだ。それらが終わるまで帰ってくるな」
「はい」
有無を言わせない態度。真っ当ではない命令。
いっそ本当に受け入れるか、壊れてしまえば楽になるのだろうか。
男装した僕を白馬の王子だ貴公子と嘲り、事情を分かった上で要らない知識をひけらかすあいつらの様に、非道を楽しんでみようか。
でもそれはお母さんとの思い出が許さない。
確かにあった暖かな日々が、僕を正気に押し留める。
「では行け」
「はい。失礼します」
最後まで短いやり取りが、僕と彼の関係の強さを示しているのだろう。
丁度たどり着いたリムジンに乗り、此方を睨む父親の前から失せる。
――ああ神様。18人のうち一人くらい、僕だけの白馬の王子様が居ます様に。
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