男性転生者だらけのインフィニット・ストラトス   作:鋳型鉄男

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何とかエタらずに済みました。所属不明機襲撃イベントの話です。
集団戦を表す難しさに悶えて苦し紛れな場面描写となりましたが、また読んでいただけると幸いです。


対所属不明機戦Ⅰ vs golemⅠ

『ムーンバリア!!!』

『プロテクトシェード!!!』

 

 降り注ぐ荷電粒子に対応したのは専用機に防御機構を持つレイモンドと檜山の二人。

 遮断シールドによって減衰された粒子ビームは客席へと到達することは無かったものの、続いてアリーナに響いた轟音と合わせて客席のほぼ全ての人員を恐慌状態に陥らせた。

 

『試合中止だ!織斑、ロミーはすぐに試合を中止して退避しろ!』

『緊急事態発生!アリーナ内の全員は直ちに客席から退避し、職員の指示に従ってください!繰り返し…って皆何してるんですかっ!すぐにアリーナの外に逃げてください!』

 

 だがその混乱を尻目に観客に居た五組の専用機持ちのうち(ミン)を除いた五人、そして()()()()()()()企業から新武装を受領していた二人は前もって決めていたようにアリーナ内へ突入する。

 常の訓練で外部からの攻撃までは想定している学園教師陣もこの行動に度肝を抜かれた。

 なんせ相手は競技用ISの攻撃では揺るがない遮断シールドを破損させる攻撃手段を持った所属・正体不明機で、しかも三機。精々二か月しか訓練を受けていない様な()()が数的有利だけで相手にして良いものでは無い。

 

『皆さん!変な事を考えてないですぐにアリーナから脱出してください!今から先生たちがISで制圧に行きますから!』

『無理だ。今出てきたピット含めアリーナへ続く全隔壁が閉鎖されたことを確認。教員機の武装では突破できまい』

『え……そんな、遮断シールドがレベル4で再起動、全隔壁ロック!?学園のシステムが乗っ取られてます!』

 

 ピットより突入したレイからの報告に、アリーナのステータスチェックを行った山田先生は悲鳴を上げる。つまり、彼らの蛮行を止められないどころか救援にすら向かえない事が確認されたのである。もはや最悪の想像すら脳裏を過ぎり、冷静な判断力が彼女から失われていく。

 

『落ち着け山田先生。そしてお前達、そんな無謀に挑むからには()()はあるんだな?』

『当然。俺の力を見せつけてやる』

『俺達の、にしておけリチャード。織斑先生、以前から嫌な予感がしていたのである程度集団戦の用意はしています。不足分のオペレートを頼みます』

『……なるほど、良いだろう。やって見せろ、ただし全員無事で帰れ』

『『『『『『『了解』』』』』』』

 

 こうして多くの者の想定を越えながら世界最大規模のISによる集団戦が始まった。

 

「無論、無事で帰った全員は後で事情聴取と説教だがな」

「あ、あははは……」

 

 

 

 

  ◇乱戦 / 原作イベント(難易度ハード)

 

 状況を確認しよう。ISがそれなりの機動戦を行える広さを誇る第二アリーナには現在十二機のISが存在している。

 アリーナの中央に上空から突入してきた所属不明機(砲撃型ゴーレムⅠ)が三機、外へ出ようとしたゴーレムを中へ押し戻した檜山の機体(獅魂(しこん)と言うらしい)とマッケイのユートピア、そしてマリアーノのテンペスタⅡ(ラフィカ)が既に格闘戦を始めている。

 すぐ周囲では新武装と思しきのレーザーライフルとハンドレールガンで刺すような援護を加えるマクスウェルのエグザウィル、新武装どころか機体フレームを丸ごと新調してきたカーチスの対エネルギー兵器仕様重量二脚型トリスタンが囲う。

 元からアリーナ内で戦闘していた織斑の白式とその対戦相手ロミーの六盾(一枚は欠損しているが)ラファールは状況確認のため一旦距離を取り、その更に外縁で砲撃型ISである俺のギャラクシーとリチャードのサンダーボルトが待機している。

 

「マリアーノ、敵機の反応は」

『今の所は近距離戦に応じてる……っ!ただ想像より苛烈なヒトだ』

「事前の想定通りだ。織斑に説明する間は持たせろ」

『分かった。それまでは抑えてみせるよ』

 

 他の二機のゴーレムも同様に抑えられているが、そう長くは持たない想定だ。今の内に織斑に役割を伝え、戦線に加わらなければならない。

 

『デリック、あれは誰なんだ……?』

「不明。だがIS学園に襲撃し、加えてハッキングで無防備な生徒までも危険にさらす敵だ」

『なっ……あいつのせいで皆が観客席から出られないのか!?なら早く倒さないと!』

『落ち受け一夏っ!お前のシールドエネルギー、後いくつだ』

『……残り183、でもまだ戦える!』

『零落白夜何発分か考えろ。お前は機体はそれを把握した上で仕掛ける必要がある』

 

 状況を理解し興奮した織斑だが、ライバルたるリチャードの叱責に落ち着きを取り戻す。通信を聞いていたベンサムも呆けた表情を改め、盾を構えいつでも援護に回る体勢に入るのを確認する。

 

 ……ここからが()()()()の要。()()()()にとって公平に、そしてそれ以外にとって自然な流れで事前に取り決めた戦線を整える必要があるのだ。我ながら面倒な役割を引き受けたものである。

 

「織斑、お前はマリアーノと組み撃破にあたれ。零落白夜のタイミングはあいつが作るはずだが敵の回避性能は高い、心しろ。ベンサムはリチャードの直掩。射撃中動きが鈍るサンダーボルトに付き流れ弾の処理を頼む」

『デリックは?』

「指揮と遊撃だ。援護射撃は任せろ』

『分かった。マリアーノ!今行く!』

『こっちも了解。リチャード君の援護、完璧に成し遂げてあげる』

 

 そして頼もしい()()()()()が予定通りの配置に向かうのを眺めつつ、前もって聞いておいた転生者共の“要求”を確認する。

 

一つ、「俺が撃破する」これはリチャードの要求で、相変わらず目立つ場面自体は狙っているらしく早速ベンサムを伴い攻めあぐねていたマッケイ(デュエリスト)の相手を引き継いでいる。

二つ、「主人公(一夏)が止めを刺す」こちらはマリアーノの要求。原作通りの止めシーン再現がお望みらしく、上手いこと鳳・ウォルコットが介入出来ないかまで相談されている。

三つ、「“集中砲火による瞬殺”の除外」企業勢の要求。新規装備を使うほど金になるらしい。動機が動機だけに断ろうとも考えたが、そもそも集中砲火で瞬殺できる保証が無いので諦めて飲んだ。彼らの援護が思ったより優秀なのは幸いであろう。

 マッケイ、檜山(勇者ロボ)の二人は特に要求無し。指示に従い制圧の補助に回るとの事で、先の初動と言い現在の奮戦と言い大助かりである。

 

 ………正直、ゴーレムが複数来てくれて助かった。イベント成否による人間関係の不和などに比べれば、原作から撃破の目途が立っている所属不明機が増える方がマシと言える。

 これを幸いとし、全員が納得できる結末を導かねばならない。

 

『マクグラス、戦略は決まったようだな』

「イエス、マム。これより援護射撃を行います」

『織斑先生だ。お前達は所詮新人、相手を見くびるなよ』

「承知しています、織斑先生」

 

 

◆◇◆

 

 

「山田君、この戦況をどう見る」

「始めの想像ほど悪くは無いです。皆さん良く動けています」

 

 アラートの鳴り響くピット内、そこにあるリアルタイムモニター越しにアリーナの戦況を見守る。

 山田先生の言う通り、逸って突入してくれた生徒たちは対ISの多対少戦として悪くない滑り出しを迎えている。

 

「ラッセル君以外は接近戦が得意な機体二機掛かりで大火力のビームを撃つ隙を減らし、射撃機でダメージを稼ぐ戦術でしょう。例外のラッセル君も、マクグラス君が上手く援護していますね」

「織斑は抑えか。……いや、敵機の回避性能が高い。エネルギー残量を考えれば妥当だな」

「やっぱり弟さんには活躍して欲しいんですね。こう言っては何ですが、まだチャンスはありますよ?」

「口を滑らせた私もだが、君も二言多いな。どれ、私特製の微塩コーヒーでも入れてやろう」

「え…遠慮します」

 

 軽口を挟みつつだが、次々と更新されるアリーナ内の情報に眼を通す。

 敵機突入の際に破壊された遮断シールドは何者も援護には来させまいと、中に入ったからには逃がすまいと言うかの如く高レベルで再起動。

 観客席のメインゲートを含め第二アリーナの扉は全てロック、観客の避難にも支障をきたしている。

 万が一のために控えていた教員機は起動できたものの十分な武装が無く、結局ピット内に閉じ込められたままだという。

 

「そういえば観客席には鳳、明、オルコットがいたな?通信は出来るか」

「あっ!彼女たちの専用機ならメインゲートの隔壁を破れるかも…」

『こちら明、リンちゃん探すためにIS部分展開したらロックオンアラートが出て人が居るとこに逃げられなくなったんですがどうすれば!』

『千冬さん!こっちもロックされた!』

『わたくしもです……これでは下手にゲートへ近づけませんわ』

「お前達許可を出す前に…いや、今は良い。私の緊急時の権限で許可する。速やかに周囲の人間を退避させ、攻撃に備えて専用機を展開。二次被害を防ぐため三人は今から送る地点へ移動し待機だ。追って指示を出す』

『『『了解』』』

 

 状況解決を試みるも上手を行かれる。敵の攻撃が遮断シールドを貫通した実績がある以上、無防備な生徒が巻き込まれる可能性を前提に行動せざるを得ない。

 

「マズイな。生徒の避難が終わらない事には出来ない事が多すぎる」

「三年に隔壁関連のシステム奪還を優先させます。吉報を待ちましょう」

「仕方ない。……アリーナで戦闘中の各機、観客の避難が事実上不可能になっている。遮断シールド外の安全確保のため、敵の腕部ビーム砲無力化を優先目標としろ」

『そうは言うけど千冬姉、こいつらバリアが厚くて……装甲まで刃が届かない!』

「零落白夜があるだろう。あれならばシールドバリアを無視してダメージを与えられる。むしろなぜ使わない?」

『避けられるし、しかもさっきの試合でエネルギーが…』

『やれ、当てろ。一夏(お前)がもたつく度に生徒が十人怪我を負うと考えろ。マリアーノ、お前の機体(テンペスタ)の実力はそんなものではない筈だ。一太刀入れる隙くらい用意して見せろ』

『……分かったよ、千冬姉。マリアーノ!作戦変更だ!手伝ってくれ!!』

『もう少し安全策を探りたかったけど、仕方がないね。一夏君、一度距離を取ったら一気に仕掛けよう』

『おう!』

 新たな指示に対応する弟に僅かな期待を覚えつつ、他の敵機にあたる生徒への指示を練る。他にシールドバリアを抜いた上で武器破壊が狙える大火力を備えた機体は有っただろうか?

 ラッセルのサンダーボルト、時間帯火力・制圧力ともに凄まじく今もアリーナを耕しているが、やはり実体弾頭兵器ではシールドバリアを抜けないらしい。マクグラスのギャラクシー・ストライカーも同様。当たればその衝撃によって体勢を崩させているのは考慮すべきだろう。

 一方で新たにエネルギー兵器を装備してきたカーチスのトリスタン及びマクスウェルのエグザウィルは、それぞれ新武装であるレーザーライフルと背部レーザーキャノンを使いシールドバリアを貫通、装甲へとダメージを通している。分散してそれぞれ別機体に当たっている二人を集中させれば破壊を狙えるか。

 シールドしか装備していないベンサムのラファールは論外として、最後にマッケイのユートピアと檜山の獅魂、現在までの戦績や開示されたスペックを見る限りシールドを抜く事の出来る武装は無いが、敵機突入からここまでの数分の間に対応している機体に高出力ビームを撃たせていない。

 

 これらから導かれる作戦は……

 

「マクグラス、今から敵機の武装破壊までの間、織斑たちが当たっている機体の妨害に専念しろ。カーチスとマクスウェルは標的をラッセルと共有、敵腕部の機能停止を急げ、お前たちのレーザー攻撃は通っていたな?」

「マッケイ君と檜山君、難しいかもしれませんが、マクスウェル君を除いた二機で現在対応している敵機を抑え続けて下さい。ベンサムさんはその補助をお願いします。ただし、無理だと感じたらすぐに下がってください」

 

 ほぼ全員からの了承と共に、画面に映るフォーメーションが変化する。

 零落白夜による短期決戦、大火力射撃兵装の集中運用、技量のある近接機での妨害。最高とは言えないだろうが、現状で建てられる最善の戦術になるはずだ。

 

 襲撃の被害がどこまで抑えられるか、それは彼らがこの短期間でどれだけ成長したか、そして何を理解し、何のつもりで飛び出したかにかかっている。

 

 

◆◇◆

 

 

 分厚い遮断シールドの向こうで、クラスメイトたちが戦っているのを眺める。

 彼らはある意味よく知った、そして今世で初めて見た驚異に数機がかりで追いすがり、しかし決定的な一撃を避けられている。

 これについて俺は情けないと言う立場ではないどころか、そもそも追いすがることができる彼らとの場数の差、訓練の密度差を噛みしめるしかない。

 

 スタートは同じである筈なのに「幸島、呆けている場合では無い。訓練機組(こっち)でやることはまだ終わってないぞ」

「スマン、って言っても他に出来る事ってある?」

 

 南路に注意され意識をシールドの内側に戻す。

 目の前では白旗がどこぞのエンジニアの如くドアにハッキング(物理)を仕掛けており、北条とニコライは他クラスの女生徒と情報交換を行っている。

 正直手持ち無沙汰なのだから呆けるのも仕方ない。

 

「耳を貸せ……白旗曰くそろそろ開くらしい。移動は体調を崩している女子を優先したい。不味そうな者が居ないか探してきてくれんか」

「OK。パッと見ただけで何人か腰抜かしてるけどそれは?」

「周りの女子に運ばせたいな。騒がないように言ってこっちに誘導してくれ。孤立している様なら引っ張ってこい」

「りょーかい。んじゃ行ってくる」

「俺も動く。あっち側は頼んだ」

 

 やる事を確認したのですぐ動く。

 見回せば扉が早く開かないかそわそわする女子、アリーナ内部を見て流れ弾にビクビクする女子、シールドがあるからと実況・考察を始める女子と様々居るのが分かる。

 …と言うか遮断シールドギリギリまで近付いてる奴居るし。案の定な篠ノ之さん含め10人ほど、いやアリーナ全体を見れば少なくない人数がアリーナの縁に張り付いて応援している。

 彼女らは最初にこのシールドが破られたのを見ていないのだろうか?見ていないから、もしくは現状所属不明機の攻撃がこっちに届いていないから大丈夫だと思ってるんだろうか。

 もし一夏の零落白夜が遮断シールドに当たれば一気に致死圏内になるなど想定すらしていないんだろう。

 一応避難指示が出ているわけだし、一言言っておくぐらいするべきか。

 

「そこの応援団!危ねぇからもっと後ろで応援しろよ!」

「何を言ってんの。ただでさえシールドが厚いんだからちょっとでも前に行かないと声が届かないかもしれないじゃん」

「いや、だからそのシールドは…」

「あっ!そこだ織斑君!!……あぁ、惜しい」

「不甲斐ないぞ一夏!男ならあんな卑怯者ども、一刀で切り伏せてみせろ!」

 

 駄目だ。これは相手にするだけ無駄な、注意しても聞かない奴だ。

 万が一を考えるともっと食い下がるべきなんだろうが、正直IS学園の女子にそこまでしようという気力は湧かないし、今は優先するべき役割がある。

 

 そうして遮断シールドに背を向け、手助けが要る人を改めて探す。

 ……下から見ると思ったよりいるし、少し急いで回らないと。

 

 

 

 

 

 

 

「え、誰も上空(こっち)に上がってきてくれない流れ?流石に死ねるんだけど」




殆どバトルを描写できなかった…

以上。感想・誤字脱字報告・助言・ご意見お待ちしております。
次話対所属不明機戦Ⅱの更新も今回ほど間を開けない予定ですが、しばらくお待ちいただければ幸いです。

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