男性転生者だらけのインフィニット・ストラトス   作:鋳型鉄男

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クラス対抗戦の対戦表を見た転生者たちの話です。
口調、人称の使い分けで区別したつもりですが、長々とした誰が話しているか分かりにくいシーンがあります。ご容赦ください。


想定外

「ヤベェ」

「ヤバいな」

「ヤバいのか?」

「死人が出かねないよ」

「ヤバいじゃん」

「ヤベェんだよ」

 

 北条、南路、幸島、マリアーノのいつもの五人から織斑一夏を除いたメンバーは、遂に牙をむき始めた原作乖離に作戦立案を余儀無くされていた。

 発端は今朝のランニング中、クラス対抗戦(リーグマッチ)日程表が明らかになった事である。

 簡単に言えば対抗戦の初戦の相手が凰鈴音ではなかったのだ。頬に紅葉を付けた一夏は仲違いをしたばかりの鈴音と初戦でぶつからない事に安堵していたが、思い至ってしまったマリアーノ、次いで北条・南路の顔色がマズイ事になった。

 急遽掲示板前を脱しマリアーノが語った懸念が以下である。

 

「……対抗戦初戦の相手はロミー・ベンサム。専用機持ちのオルコットさんでも凰さんでもなく、代表候補生の更識さんでもなく、だよ。考えうる最悪のクラス対抗戦では一夏が訓練機の、言い方は悪いけど、素人モブ女子を護衛しながら刀一本で殺意満点のゴーレムを相手する事になる。ゴーレム襲来の切っ掛けが一夏の対抗戦『初戦』ではなく『vs凰さん』である事を祈るばかりだ」

 

 懸念を語られイメージが付いた幸島の顔色も悪くなる。自分の現在のパイロットスキルから鈴音に代替可能かと考え、真っ先に荷電粒子で融ける様を想像する。ほぼ縁のない相手とは言え、同学年の女子が辿る結末と言われて気持ちの良いものでは無い。

 対抗して彼らに出来る事は少なく、懸念が的中するとも限らない。だが無視するには想定される結末が悪すぎる。()()()()()原作再現を望んだ彼らはまた、良心に従い原作乖離に対処するほかないのである。

 

 

 

 

  ◇原作乖離 / 羽ばたく蝶多過ぎ

 

 と言うわけで放課後のストラトスフィア(男子寮(仮))談話室である。例の四人が声を掛けて集まったのは彼らに加えアメリカコンビの自称頭脳(他称爆破魔)デリック、五組で最も学園女子に詳しいクルス、生徒会に拉致られぎみのニコライに転校生の檜山、(ミン)、デクスターの4+6人だ。

 不在の白旗&レイモンド(開発室)スレイマン(新聞部)ダレル&レイ(AC乗り)は各自やる事があると抜け出し、リチャードは非転生者(一夏)を模擬戦で拘束し寮から遠ざける役を負ってもらっている。

 

「改めて集まってくれてありがとう。皆知っているとは思うけど、今回話し合いたいのはクラス対抗戦について、正しくは予想される改変版原作イベントについてだ」

 

 発起人のマリアーノ司会で話し合いが始まる。集まったメンバー間では危機感の共有が済んでいるためか、全員が神妙な顔付きで聞いてる。

 

「まずこのイベントの主要人物、関係者について確認したい。この中に篠ノ之博士と直接関係している人、ゴーレム襲撃について正確に前知できる人は居るかい?」

 

 挙手は無い。これは想定内なので流す、と言うか居たら焦る所だ。一応ここに居ない一人がかなり怪しい気もするが、こういう時に協力的でないので後回しとする。

 

「次は更識さんかな。対戦表はアニメみたいに八組のトーナメント形式ではなかったのは置いておくとして、対戦順がクラス毎から少しズレ、四組の更識さんが居なくて三組対五組が第二回戦だった。これに心当たりある人は」

「あ~それは生徒会にと言うか、楯無様の近くに居ると聞こえるぞ」

 

 ここで生徒会に拉致されるニコライが手を挙げる。なるほど、更識楯無(シスコン)の側であれば妹の動向が聞けるのも納得か。

 

「簪様が棄権した。理由は過労。倉持技研の全人員を白式の()()に持って行かれたのはキツイね。お肌が荒れ始めた簪様が設計に合うパーツを睡眠時間削って選んでは発注してる。設計の不備を見つけたって言って徹夜で設計図書き直す様は楯無様でなくても止めに入るあるさま」

「訓練機……学園の現行打鉄で出る選択肢は?」

「授業レベルならともかく本格的な戦闘は無理。やったが最後ISを降りた瞬間に気絶すると断言できる」

「誰も止めねぇのか?」

「床に就いたと思ったら目を離した隙に設計図を睨めつけていた。もう修羅場を駆け抜けて貰うのが早いと判断されたわ」

 

 それで良いのかIS学園。仮にもヒロインにそんな重労働を課して。

 

「と言うか開発室の二人は手を出してない?意外」

「奴らはレイモンドの機体に掛り切りか、行方不明のどちらか。行方不明の間に簪様と会っている訳では無いのは確認済み。気にしてはいるらしいが手出しは皆無だ」

「あいつらも謎だよなぁ……話して悪人じゃぁねぇのは分かんだがよぉ」

「だからこそ工作員説が…これ以上は話が逸れるね。更識さんの事情は分かったから、次はロミーさんについてだ。彼女について知っている人は?」

 

 逸れていく話題を元に戻すべく議題を移す。次は初戦の対戦相手、三組代表のロミー・ベンサムについてだ。現在までに三組と関わる機会はほぼ無かったため、彼女について知っている事は少ない。

 

「ハイハイ!それで俺が呼ばれたんでしょ?彼女とも話した事あるから任せな~」

「流石女子との遭遇率No.1。こういう時は役に立つ」

「でしょう。友達は多いに越した事は無いぜ~?」

 

 だが期待通り交友関係の広さに定評のあるクルスが情報を上げる。

 

「三組代表ロミー・ベンサムちゃん15歳。代表になった経緯は自薦で、選ばれたのは4人出た候補の中で一番入試の成績が良かったからだぜ。やる気旺盛な自信家で他のクラス代表が代表候補生ばかりだからって諦める気は無し!」

「ISの搭乗時間は多分15時間弱、一回戦ってみたけど基本動作は問題無しで射撃向きの適正かな。実力は一対一なら俺達男子訓練機組に判定勝ちするけど専用機組には善戦できる程度。原作リンちゃんの代わりにって考えるならもう一人同レベルのパイロットが必要かな~」

 

 要するに戦力圏内、弱くは無いが特記できるほど強くもない様だ。足手纏いになる可能性は低くなったのは良い事だろう。最悪援護射撃に徹して貰えば時間は稼げる。

 

「ありがとう。最後に明、原作とこの世界で凰さんに違いはある?」

「実物も最高に可愛いね」

「そういうコントじゃなくて」

「適性が見つかってからずっと一緒に居るけど、人間関係に僕が加わった以外ないんじゃない?家族関係も監理官が怖いのも専用機(甲龍)も変わりないし、怒り易くて反応が過激なのもね。好きな娘に殴られると気持ちいいって今世で初めて知った」

「アホの性癖はどうでも良いが、鈴音周りの舞台設定も収束したか」

 

 ちなみに箒、セシリア、織斑姉弟の周りも原作と一致している。これらを含めて一夏の適正発覚時点で転生者が手を出していない所は全て原作に収束するという見解で一致している。

 

「このイベントの主要登場人物については揃ったかな。それじゃ、各自の立場を示そうか」

「……リチャードと俺の二人は襲撃のタイミングを問わず、ゴーレムの突入に応じそれが開けられた穴から突入する手筈になっている」

「案の定ガッツリ介入すんのなアメリカ(介入組)

「リチャードは入学前から全イベントに介入するつもりだったからな。俺も俺達の二機があれば戦闘能力も申し分ないと判断している」

 

 デリックが積極的な介入案を提示する。彼らは元からリチャードを中心として原作介入を行うつもりでいるため、武力介入で解決できる事柄には積極的に介入すると宣言している。今回もその一環と言う事だ。

 

「他に当日現場に突入するつもりの人は居るかい?」

「俺も一夏の援護に出るつもりで居るんだが……どうやら複雑な立ち位置になるな、これは」

 

 ここで日本人の転校生である檜山が手を挙げる。なんでも彼の師匠(詳細不明)の教えによりISパイロットは助け合いらしい。ただ、教えを優先して同じ国の仲間に隔意を抱かれるのに抵抗を覚えはすると言う実に日本人的な感性も持っている事が分かる。

 

「安心しろ檜山、俺達も立場の違いだけで対立するほど幼稚ではない。そういう派閥として織斑一人でゴーレムを倒せるほど強ければ何も問題無いと考えはするが、現実は厳しいのも知っている」

「ちなみに俺ら、織斑の愉快な仲間達は当日はアドバイスと避難誘導に徹するぜ。それまでは一夏と対ゴーレムに役立ちそうな訓練を課してみるなりするがねぇ……」

 

 介入するつもりの人間が増えた事に対し、元々介入に消極的な、或いは一夏中心での解決を推すメンバーは僅かに落胆を覚える。自称する通りそれで対人関係を崩すほど若い精神年齢でもないが。

 

「僕も介入しないよ。リンちゃん関係無いし」

「ちなみにゴーレムの狙いが凰さんだったら?」

「万難を排しその場に現れたゴーレムを塵殺する」

「うわ目付き変わった…」

 

 そしてやらかした転校生の片割れ、既にして鈴音キチ○イ(ファン)と認識される明が続く。こちらについては動機が異なる事もあり非介入に加わってもあまり嬉しくない。

 

「あ、僕は出来れば自分の機体で学園の周りを監視するつもりだよ」

「デクスター君の機体?そういえば君の機体についてまだ知らないな。教えて貰っても良いかい?」

 

 最後にフランスからの転校生、昨日は白旗やスレイマンと居たためあまり話せなかったデクスターが新しい立場として名乗りを上げる。

 

「改めて紹介するけど、僕の専用機は欧州宇宙機関が開発している()()()()()だ。学園で使う以上はハイパーセンサーの制限があるけど、それでも並みの狙撃機より遥かに眼が良い。対空監視に回せば空気の流れからでも接近を察知してみせるよ」

 

 おお、と集まったメンバーがどよめく。確かに原作では不意打ちの襲撃であったが前もって感知できるならそれに越した事は無い。その後の隔壁閉鎖で何もできないより遥かに有効な援護・介入が出来るし、少なくとも避難誘導を早める事が出来る。

 

「そもそも戦闘が目的の機体じゃないからね。必要ならば天文サークルを建てて部活動だと言い張って通す」

「頼もしいな。……これでここに居る全員の立ち位置は明らかになったかな。他に確認したい事が無ければ一旦お開きとしようか。最終的に当日どう動くかは別としても、悪い結果にならないよう、皆で協力する事。これだけは守る様に頼む」

「……では、解散だ。また後で会おう」

 

 

◆◇◆

 

 

「って感じの話してるっぽいな。他の男子」

「なるほど。なら私も動かないと今後空気になりそうだね。当日は少しくらい動くつもりで居ようかな」

 

 同時刻の整備室。開発室とまとめて呼ばれるコンビで実体化させたユートピアに昨夜解析したデータを反映させながら、対抗戦のイベントについて話していた。

 

「俺今回は手出し無し。織斑と凰の仲違いも俺が出る意味無いし、イベントもう何があっても戦力過多確定だし、あと誰かさんが扱き使うせいで白旗さんはお疲れだ」

「冷たいね。数少ない同じ境遇の仲間の為にもうひと頑張りする気は」

「しても変わらん」

「セシリアの時は動いていたじゃないか」

「ありゃ緊急措置。今回だと痴話喧嘩の八つ当たりの的or何故か訓練機の側で待機している不審者じゃねぇか」

「それもそうか」

 

 寝不足のストレスか、いつもより機嫌が悪い白旗はざっくりとイベントノータッチを宣言する。流石に解析を任せ過ぎたと反省しよう。

 学校で最も彼と接している人間として予想すると、彼が手を回すだけで人命に関わる状況が三つ程度解決すると思うのだが、決断されてしまったなら仕方ない。彼にだって選ぶ権利があるのだ。

 

「ところで他の三人、ミグラント(ダレル)リンクス(レイ)、それにスレイマン君はどう動くと思う」

 

 白旗君の動きを聞いたついでに、根拠は無いが答えを知っている気がする質問を投げてみる。彼らもまたクラスの中心から外れて動いており、極僅かだが時間つぶしの話題として丁度良いのだ。

 

「AC組は武力介入。完全破壊まで撃っても問題にならない良く動く的なんて滅多に無いからな」

「無人機のデータ収集もやってそうだね」

「箝口令が出る前に高く売るだろ。企業製無人IS(UNAC)フラグだ」

「どう考えても暴走する奴だ。止めないのかい?」

「多少イベントフラグが増えるぐらいでちょうど良いだろこの世界」

「なんという危険思想」

 

 戦力が必要なイベントで専用機が無い白旗君はまず出番が無いからって言いたい放題にしているな。いっそ企業連傘下のイギリス企業に掛け合って彼に専用機を押し付けてやろうかとも思うが、それやると希望皇の研究を手伝って貰えなくなるんだろうな。止めておこう。

 

「スレイマン君は?」

「あいつは新聞部女子の避難誘導だろ。もはや名のあるモブキャラ目指してるまであるからなスレイマン」

 

 もう一方のスレイマン君は白旗君同様に非介入との予想。確かに彼は転生者メンバーと仲良くする傾向が無いと言えそうなほど新聞部に入り浸っている。その流れであれば当日も新聞部として動くのも納得できる。だがそもそも、

 

「スレイマン君も分からないよね。何が気に食わなくてマリアーノ君達を避けてるんだか」

「さぁ。マリアーノが何か無意識に引っかかる事でも言ったんだろうな」

「内容について予想は?」

「俺が口にする事じゃない」

「勿体ぶるね。気になるじゃないか」

「人に聞かずに気付くべき事もあるって奴だ。自発こそが成長を促すのだよレイモンド君」

「仕方ないか。今度マリアーノ君と話す機会が合った時は気にしてみるよ」

 

 こうなった白旗君は追及しすぎると居なくなるので、話題を切る。

 丁度希望皇へのデータ反映が終わったのでタイミングも悪くない。繋いでいた端末を外し、いったん待機状態である皇の鍵に戻す。

 

「さて、昨日のデータ反映も終わったし模擬せ(デュエ)……もう居ない」

 

 多分端末の片付けで目を離した隙に逃げたな。もう学園の七不思議として怪奇!消える研究員の謎!とか言って面白おかしくしてみようか。そうすれば新聞部辺りが解明してくれるだろう。それよりも更識だろうか?

 前世も今世もそういう工作に縁のない人生だったから、その内コツを教えて貰うのも良いかもしれない。

 

 そんなくだらない妄想をしながら一人寂しく作業に使った端末や機械も片付けていると、整備室の扉が開き一人の女性が足を踏み入れる。

 跳ねた水色の髪を揺らし堂々と歩んで来たものの不意に立ち止まり、目当ての人物が既に逃げた後である事を悟り溜め息を吐いている。

 ………はて、前居た世界には架空の暗部組織を上回る工作集団など在っただろうか?

 

 

◆◇◆

 

 

 ちなみに様々な思惑が交錯する談話が行われていた頃、一夏と彼を遠ざける役目を受けたリチャードはと言うと…

 

『ハハハハハ!今回は俺の勝ちだ、織斑!』

『チックショーー!届かなかった!上手い回避方法憶えやがって、次こそそのムカつく面に零落白夜叩き込んでやる!』

『オイ馬鹿やめろ、バリア無効化攻撃を顔面に貰ったら死ぬ。スプラッタな事になって死ぬ』

『それもそうか……じゃ胴だな。サンダーボルトは装甲厚いし、ちょっと深く入っても大丈夫だろ』

『まあそもそも次の時には掠りもしなくなってるかもな。HAHAHAHAHA!』

『ぐぬぬぬぬぬぬ』

 

 かなり呑気に主人公とライバルっぽい事をしていた。多分IS学園で一番それ()()()青春を謳歌しているのは彼らである。

 

 

 




人数が多くて読み手に負担をかけます。もう少し一区切りで話す人数を減らしつつ、多人数分の情報を公開できる表現の研究が必要ですね
ただルビ多用については辞めない予定なのでお付き合い願います

以上。感想・誤字脱字報告・助言・ご意見お待ちしております。
リアルの都合と作者の力量の為次話対抗戦当日(予定)の更新はしばらくお待ちください。

8/18 言い回しを微修正

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