とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第七話

 補給線を断たれた同盟軍は、各地で敗退を強いられ、撤退しつつあった。同盟軍第三、第七艦隊は全滅し、第五、第八艦隊は三割の損害を出して敗走、第九、第十、第十二艦隊は半数以上の艦を失い、ウランフ中将、ボロディン中将は戦死した。

 そして、ドウェルグ星系では、ジークフリード・キルヒアイス中将の艦隊とルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊がヤン・ウェンリー中将の第十三艦隊と交戦していた・・・

 

 「敵艦隊、U字型の陣形に移行!」

 「閣下。ここは敵を外側から攻撃するのはいかがでしょう」参謀長アルフレート・グリルパルツァー准将が提案してきた。

 僕は頷いた。「自分もそう思っていたところだ。よし、全艦前進!敵を攻撃する!ブラウヒッチ少将を先陣とし、一気に突入しろ!」

 「はっ!」

 ラルフ・オットー・ブラウヒッチ少将は僕の艦隊の副司令官。今は戦艦「グスタフ」に座乗し、三千隻の艦隊を率いている。攻撃に強い勇将だ。彼に先陣を切らせ、一気にヤンを倒す。それが僕の作戦だった。

 

 「新たな敵艦隊、二時方向に出現!」

 「二時だと?」パトリチェフが立ち上がった。

 「閣下、このままでは陣形が外側から攻撃されます!」

 ヤンは頭をかいた。「何て良いタイミングで来るんだ。キルヒアイス中将といいこの艦隊の司令官といい、帝国の司令官は精鋭揃いだな・・・」

 「敵艦隊発砲!」

 ヤンは新たな策を思い付いた。「新たな敵の進路上にいる艦は敵を避けて中にいれてやれ。入ってきたら四方から集中砲火を加えろ」

 

 僕の艦隊は一気に突き進んだ。

 「敵は怯んでいる!この機を逃さず攻撃しろ!」ブラウヒッチ艦隊は本隊よりはやく突撃した。敵は次々と撃沈され、U字陣形に穴を開けつつある。だが、ブラウヒッチは単独で突出し、「ブラウヒッチ艦隊が危険です!」グリルパルツァーが言ってきた。

 「あのままではマズイ!敵中に孤立することになるぞ!戦艦「グスタフ」に繋げ!」僕は命じたが、

 「敵の妨害電波で交信不能!」

 僕は肘掛けを叩きつけた。「くそっ!仕方ない、我が艦隊も突入し、離脱する!」

 猪突猛進でミスるのはビッテンフェルトだけで良いのに、ブラウヒッチ、何しやがる!

 

 「閣下!ブラウヒッチ艦隊が孤立しつつあり。危険です!」ハンス・エドワルド・ベルゲングリューン准将が言った。

 ジークフリードは頷いた。「全艦敵の左翼に砲火を集中。ヒルシュフェルト艦隊の退路を切り開く!」

 そして、ブラウヒッチ艦隊は敵陣を突破し、U字陣形の中に入り込んでしまった。

 

 「敵艦隊、こちらの陣の中に入りました!」

 「閣下!」パトリチェフが期待するように立ち上がる。

 ヤンは手を振り下ろした。「撃て!」

 第十三艦隊は一斉にブラウヒッチ艦隊を砲撃し始めた。砲火の嵐の中で帝国軍の艦艇が次々と沈んでいく。

 「怯むなあ!撃ち返せ!」ブラウヒッチは命じたが、三方を囲まれ、圧倒的数で砲撃されてはブラウヒッチ艦隊に生き延びるすべはなかった。わずか三十分でブラウヒッチ艦隊はその戦力の半数を失った。

 「閣下は?ヒルシュフェルト閣下の本隊はどこにいるのか!?」

 「通信が途絶しており、不明!・・・いや、味方です!本隊が来ました!」

 

 「全艦突撃!敵中に突入し、そのままキルヒアイス艦隊の方向へ一点突破を図る!」僕は命じた。

 艦隊は突撃し、包囲陣の中に入った。

 「閣下!三方から集中砲火を受けています!」

 「構わん!このまま一気に突破する!」

 この戦いぶりで、第十三艦隊は意外なほどの損害を出した。特に僕の艦隊が突破した辺りにいた敵艦隊の損害は大きく、包囲陣形と言ってもその実は半包囲だった。

 

 「閣下。敵が左翼を突破しつつあります。いかがなさいますか?」ムライが聞いた。

 「いいさ。させておくんだ。こちらは離脱する敵艦隊をキルヒアイス中将の艦隊からの盾としつつ離脱する。命令通りアムリッツアに向かおう」ヤンはまさに魔術師だった。

 

 「閣下。敵はヒルシュフェルト艦隊を盾としつつ撤退していきます。しかし、なぜこの有利な状況で撤退していくのでしょう?」ベルゲングリューンは聞いた。

 「おそらく、急な撤退命令でも出たのでしょう」ジークフリードの推察は当たっていた。

 

 「閣下。功を焦って猪突猛進し、無為に兵を死なせ、敵将に名をなさしめました。申し訳ございません」ブラウヒッチは頭を下げた。

 このときの僕にアムリッツアの直後のラインハルトとビッテンフェルトのことは頭になかった。「卿は自分の罪をよく知る。それでよし。だが、今回の罪は無罪放免とはいかない。あの艦隊を指揮するのは魔術師ヤンだ。彼を倒す絶好のタイミングで卿が猪突猛進したがために敗北を招いた。自室にて謹慎せよ。処分は追って伝える」

 「はっ・・・」ブラウヒッチはより深く頭を下げた。

 (ヤン・ウェンリー。次こそは必ず倒す。必ずな・・・!)僕の心は雪辱を味わわされたヤンへの復讐心で一杯になっていた。

 

 「敵はアムリッツア恒星系辺りに集結するようです」

 「そうか。奴らがアムリッツアを墓に選ぶというのなら、その願いを叶えてやろう」

 

 

 次回予告(先にも後にも一回のみ)

 大損害を受けた同盟軍はアムリッツアで再起を図る。しかし、帝国軍もまた、そこに迫っていた。

 ヒルシュフェルトは雪辱を果たすべく、ヤンに再び戦いを挑む。だが、魔術師もただやられるだけではなかった。

 次回、第八話「アムリッツア星域会戦」

 銀河の歴史が、また一ページ。


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