とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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最終回パート2

 僕の旗艦レーヴェは速力的には通常の戦艦に比べて高速で動くことができる。とは言え単独で艦隊戦に乗り込むわけにはいかず、指揮下の一万三千の艦隊を叱咤して戦場へと急ぐしかなかった。

 だが文字通りの強行軍のお陰で配下の艦隊が次々と脱落していった。

 「戦艦ミュンヘン、融合炉に重大な損害。脱落します」

 「戦艦ラーテ、第二エンジンの出力低下した模様。脱落します」

 当然ながら脱落した艦には敵の襲撃を(あるとは思えないが)防ぐためと、もし自力航行が不可能な場合に曳航できるようにするため護衛の戦艦を配置する必要がある。こうして僕の配下の部隊は一隻また一隻と脱落するのだった。

 「光学探知による反応あり!十五光秒です!」

 その反応がもたらされたとき、僕の艦隊は当初の半分程度、七千隻まで減少していた。

 「強行軍のツケが回ったな」

 「とは言え、全体の戦力としては我が方が優勢です。この際は速度の方が優先かと」参謀長グリルパルツァー中将が助言してくれた。

 原作においては色々とやらかしたあげくに散々な目に遭った悲劇の提督である。僕の手元においておけばそのような自体は未然に終わるだろうと言う期待で参謀長に任命した男だが、なかなか大して有能なのだ。

 「今の戦況は分かるか?」

 まずは情報収集。次に作戦だ。

 「同盟軍が総攻撃をかけている模様。我が方は後退を続けています」

 となれば前進する同盟軍の斜め後ろから斬り込んでやるか。そのまま分断してみよう。アッシュビー戦術を試してみようじゃないか。

 「グリューネマンを呼び出せ」

 すぐに通信スクリーンに現れたのは副司令官のグリューネマン中将だった。原作ではそれほど登場しなかったが流石にラインハルトに取り立てられるだけあって有能な男である。攻防に比較的バランスの取れた指揮官だった。とは言え大軍の指揮ができる器量は持っているとは思えないが。

 「貴官の持つ兵力はどれくらいだ?」

 「はっ。脱落艦が多数出ており、現在は二千隻を残すのみです」無念、と言いたげにグリューネマンは答えた。

 当然、大艦隊戦において砲火を交えるために作られ、訓練された軍隊がいざその場において脱落を重ねるなど残念としか言いようがない。とは言えここは生の戦場。物語やゲームの世界とは違うのだ。

 「二千隻で十分だ。貴官の部隊は我が艦隊の前衛を成せ。一気に突撃し、敵艦隊左翼後方から斜めに切り込むぞ」

 「!!それは、アッシュビーの…」

 僕は頷いた。「特許使用料は同盟軍の血で払うとしよう。ここで同盟軍を全滅させる!」

 

 戦場が近づくと激しい砲火を交える両軍が望遠スクリーンに写るようになった。

 「ミッターマイヤー、ジークフリードの二人か。まさに名城ここに集えり、と言ったところだな」

 まさにその場に立ち会っているのだから、それくらい言わせてくれて良いだろう。他の銀河英雄伝説読者の諸君、僕はこれから歴史の限界を越えれるか試してみるよ。

 「突撃隊列、配置完了しました」艦長ローザ・フォン・ラウエ中佐が報告した。そう言えば彼女は一貫して艦長の職を務めてくれているのか。この戦いが終わったら、礼くらいは言うべきかな。

 心拍音が響くのを感じる。この戦いは最終決戦、これからの僕の采配が、全ての勝敗を決める。

 僕は手を振り上げた。僕が仕えてきた、彼と同じ仕草。

 「全部隊…」

 思いっきり振り下ろす。

 「突撃!」

 全艦隊が一斉に速力を上げた。今度こそ出せる限りの最大速力だ。

 「撃ち方始め!」

 七千隻の部隊が次々と主砲を撃ち放った。中性子ビームの壁が同盟軍の隊列を左斜め後ろから刺し貫き、次々と爆発させる。

 「一点に砲火を集中させろ!開いた穴に突入する!」

 これはまさに今戦っているヤン・ウェンリー提督からお借りした。こちらにも特許使用料を払わなければ。

 一点に集約されたビームの火線は、まるでそれ自体が一つの光の束のようにも見えた。射線に重なった敵艦が次々と爆発炎上し、周りの艦艇は慌ててそれを回避する。

 ようやくここで一部の敵がこちらを向き、ビームを浴びせてきた。周囲を掠めるビームの光。その一発にでも当たればそこで命は消えるかもしれない。

 だが怖いと言う気持ちはない。もうこれまでの長い長い戦いの日々は、僕を満足させていたのかも知れなかった。

 「突入します!」先陣を突っ走るグリューネマン提督が言った。彼の部隊が真っ先に砲撃で形成された「穴」に突入する。

 ここを突破して敵艦隊を分断すれば、そして同時に正面のジークフリードたちが動いてくれれば。通信妨害のせいで会話はできないが、彼らなら分かってくれるだろう。

 「ぎゃああああ!」突如として叫び声が響き渡り、スクリーンに写し出されていたグリューネマン提督が消えた。

 「どうした!」

 「戦艦リンデン轟沈!グリューネマン中将戦死の模様!」

 「な…」思わず口が開いてしまった。

 「閣下!」グリルパルツァーが大声を上げた。「全方位から砲撃を受けています!」

 「穴」に飛び込んだ僕たち。だがそれは客観的に見れば自ら同盟軍が手ぐすねひいて待ち構えていた罠に飛び込んだのと同義だったのだ。

 後ろから接近する七千隻の艦艇に気づかないはずがない。そう、彼らは気づいた上で準備していたのだ。

 我々が意図的に形成した「穴」に飛び込んでくれることを。

 四方八方からビームの暴風雨が駆け巡る。レーヴェの床も激しく振動し、僕は思わず転倒した。目まぐるしく変わる景色の中で周囲を突き進む味方の艦艇が次々と爆発炎上し、轟沈していく。

 原作において多くの名将が「勝てる!」と思い込んだ瞬間に、ヤン・ウェンリーの奇術に嵌まっていた。アッシュビーの再現と言いながら、結局僕は自分たちの血で特許使用料を払わねばならないらしい。

 このまま死ぬのか。転生し、十年以上をラインハルトやジークフリードと共に戦って生きてきた。それは充実した日々。それまでの「過去の世界」では味わえない最高の時だった。

 そう思えば、死ぬことそのものには恐怖は感じない。一度死んだような身だ。次はどの世界に行くか分からないが、それはまたその時にでも考えよう。

 今は…ここでできることをやってから死のうじゃないか。

 「全艦隊、各個の判断で敵陣を突破、友軍の戦線へと合流せよ!」

 とたんにレーヴェは再び激しい振動に見舞われた。今度は艦橋に爆発の煙が吹き込み、破片が飛び回る。

 その一片は僕の左肩をざっくりと切り裂いた。痛みが広がり、鮮血が飛び散る。だがもうそれも、気にすることはないだろう。

 グリルパルツァーは床に倒れている。心臓を破片に貫通されたようだ。もし生きているとしても、助かる見込みはない。

 だが原作を考えれば、まだマシな死に方だっただろう。少なくとも反逆者の汚名を着て牢獄の中で自害する羽目にはならなかったのだから。

 ラウエ中佐の姿も見えない。爆風に吹き飛ばされたか、どこかで倒れているか。とにかく、彼女も命を落としたに違いない。

 操舵手の席は空いていた。本当の操舵手は席の横に横たわっている。僕は無心で席に座ると、目の前の操舵桿を握った。

 左腕に力が入らない。放っておけば壊死するだろうが、それも考えなくて良いだろう。

 ペダルを踏み、速力を上げる。驚くべきことに、レーヴェはまだまだ元気に動くようだ。

 かろうじて操舵手用のスクリーンは生きている。外では生き残った味方たちが次々と敵の艦隊にぶつかり、突破を試みている。レーヴェの主砲は未だに数門が息をして青白い光の矢を放ち続けていた。

 「…いた」

 後ろ姿を見せている青緑の戦艦。周囲の味方に比べると一回り小さいが、その色のお陰で丸分かりだ。

 戦艦ヒューベリオン。ヤン・ウェンリーの旗艦。

 彼の旗艦を撃沈して、全てを終わらせよう。ラインハルトには悪いが、この世界では僕が彼の首を頂くよ。地球教には流石に…渡せる人じゃない。

 微調整しながらヒューベリオンへと一直線に向かう。

 再びレーヴェが揺れる。だがエンジンではない。

 主砲が全て止まった。ベイオウルフ級戦艦三番艦は結局、何隻の敵を撃沈したのだろうか?

 ヒューベリオンが回避運動を取り始めた。だがもう遅い。

 あの艦長の名前はなんだっけな?マリノ…ではないな。

 あぁ、シャルチマンだっけか。もうそれも、今となってはどうでも良いか。

 鈍い振動。レーヴェそのものが大きく傾いたのだろう、僕は席から投げ出された。視界の中で青緑の船体パーツが舞っているのが見える。

 どうせ出せる限りの速力で突進して、もう轟沈寸前だ。さぁレーヴェよ、早く沈んでくれ。そうすれば彼と共に、ヤン・ウェンリーと共に…

 再び大きな揺れがあった。艦橋に炎が吹きこむ。それが僕を包み込む寸前に写ったもの、それは…

 

 赤い、一隻の戦艦だった。

 

 

 

 

 …続きがあると思われましたか?

 残念ながら、この物語はここで終わりです。

 前回の投稿より一年以上、やっと出た最終話は何とも中途半端に終了。

 中途半端と言えばその通りですが、あるいはこの先に普通はあるはずのエピローグが読者の方の想像を狭めてしまうかもしれません。

 「僕」…ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルトの運命は。ヤン・ウェンリーの運命は。そして、キルヒアイスやミッターマイヤー、ビュコック、彼らには何があったのか…

 全て皆様の想像の中のお話です。

 もしかしたら主人公の「夢オチ」かもしれない。生き残り、ラインハルトと再会したかもしれない。

 結末は読者の皆様の想像の中で続くのです…

 

 

 

 …と、すみませんでした。以上の理由もそれはそうなんですが、本当の理由は「思いつかなかったから」です。どの結末も納得がいかず、もうここで打ちきって皆様のご想像に任せた方が気楽なのではと思い、こうしました。

 なんか自分でも少し歯切れが悪いんですが、これも一つの終わりかたかな…と。

 

 改めてになりますが、ここ最終話まで「とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した」をお読みくださって、誠にありがとうございました。

 2017年の連載開始以来、多くの皆様に応援いただけたこと、またいつの間にか十万PVもいただいたこと、本当にありがとうございます。

 また最終話の投稿まで一年以上をかけたことは誠に申し訳ございませんでした。

 今後もさまざまなジャンルで小説を書いていきますので、良ければお付き合いください。

 では、最後に恒例の宣伝、そして予告を。

 

 

 『銀河叙述史』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054890106580

 カクヨムで投稿しております。複数の国に分かれて戦う銀河の中で台頭する若者たちの物語です。銀河英雄伝説のテイストと似ているので、こちらの小説を楽しんでいただけた方にはお勧めさせていただきます。

 

 『北暦世界;ある傭兵の物語』

 

 これは今後こちらで投稿して参ります。北暦世界とは自分が創作用に作り上げた仮想世界です。

 魔術の出ないファンタジー小説となります。

 https://syosetu.org/novel/200588/

 

 ディスロドリーグループ

 私がリーダーを務めるYouTubeのゲーム実況者グループです。

 マイクラなどを実況しております。私は今受験のため現役を退いておりますが、また復帰しますし、活動は継続しておりますので是非ご覧ください。できればチャンネル登録もお願いします。

 https://t.co/D8j86AoqyY

 

 

 それでは皆様、ここまで読んでいただきありがとうございました。またどこかの作品世界でお会いしましょう。それは小説か、はたまた映像か…

 

 銀河の歴史が、また1ページ。


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