とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

24 / 41
第二十三話

 イゼルローン侵攻軍は最高戦力たるミュラー艦隊を壊滅させ、8000隻。の艦艇を失っていた。

 ミュラー大将は重傷を負って取り敢えず後方の病院船に収容され、残存艦隊1000隻も再編のために後方へと退いた。

 「してやられたな・・・」僕は報告書を見て呟いた。

 「どうする?このまま戦っていては我が軍の壊滅は目に見えている」統帥本部次長オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将が聞いてきた。

 「そうだな。ロイエンタール上級大将とミッターマイヤー上級大将は直ちに艦艇30000隻を率いて出撃。イゼルローン回廊へと向かってくれ」

 ロイエンタールは席を立った。「了解した。俺の今日の業務はこれで終わりだ。後は頼む」

 

 帝都オーディンを戦艦「ベイオウルフ」「トリスタン」に率いられた31400隻の大艦隊が出撃した。

 「ローエングラム公も戦局の悪化を憂慮しておられた」ミッターマイヤーが通信画面越しにロイエンタールに語りかけた。彼は宇宙艦隊副司令長官なので、ラインハルトとよく接している。

 ロイエンタールは頷いた。「だがこの出兵を決められたのはローエングラム公だ。あの方も今回ばかりは失敗なさったな」

 ミッターマイヤーは目を細めた。ロイエンタールの言葉のなかに尋常ならざるなにかを見いだしたのである。「それは・・・」言葉につまり、話を変える。「過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。大事なのはこれからどうするかだ」

 ヘテロクロミアの青年提督は同意した。「そのとおりだ。いくら俺たちがここで論評しても、何ら建設的な意義はない」

 「とりあえずは急いでイゼルローンに向かおう。一刻も早く到着する必要がありそうだ」

 通信が切れると、ロイエンタールは従卒にコーヒーを運ばせてから彼一人の思いに浸った。

 (ローエングラム公も失敗をされるお方なのだろうか。今回の出兵はシャフトの俗物の提案したことだ。準備をしたのはヒルシュフェルトやキルヒアイスといっても、決断したのはローエングラム公に異ならない。あの方も、オーベルシュタインやシャフトの傀儡に成り下がられるのか。そうなったら目も当てられんな。そのときには・・・)

 ロイエンタールは赤と青の光を漆黒の宇宙に向けて放った。

 

 戦艦「ベイオウルフ」艦橋でコーヒーカップを傾けつつ、ミッターマイヤーは思う。

 先程の会話でのロイエンタールの言葉。何か危険なものがあった。

 言葉自体は問題とはならないだろう。もっとも、あのオーベルシュタインならその言葉を口実にロイエンタールの粛清を行うかもしれんが。

 だが、言った時にロイエンタールは何と思ったのだ?あの目はただローエングラム公を批判していただけではなかった。あいつは俺の知らないところで、何を考えて・・・

 「閣下」ミッターマイヤーの背後から声がした。

 ミッターマイヤーは思考を中断されたことに不満を覚えたが、口にも表情にも表さなかった。「バイエルラインか。どうした?」

 「メルカッツ提督からの報告文が入っております。ご覧になられますか?」カール・エドワルド・バイエルライン中将は言った。

 ミッターマイヤーはこれまでの思考の結晶を頭から追い払った。「見よう。持ってきてくれ」

 

 軍務尚書ジークフリード・キルヒアイス元帥は帝国軍最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の執務室を訪ねた。

 「どうした、キルヒアイス?」ラインハルトは従卒にコーヒーを持ってこさせ、椅子を勧めて聞いた。

 「ラインハルト様。イゼルローン攻略が順調でないとうかがいました」

 ラインハルトは頷いた。「分かっている。だからこそミッターマイヤー、ロイエンタールを送ったのだ」

 「いえ。私が申し上げたいのは、撤退すべきだということです。確かに、成果をあげてはいませんが、このまま戦闘を続けていれば損害は拡大する一方でしょう。それを防ぐためには、一刻も早く撤兵すべきです」

 「だが、俺の今の名声は勝利してきたからこそのものだ。それは知っているだろう、キルヒアイス」

 「存じております。だからこそ、不名誉な敗北を喫する前に撤退すべきなのです」

 ラインハルトはジークフリードの言葉に一理を感じていた。だが、彼のプライドが撤退の決断を下させずにいた。

 ジークフリードは何度も粘り強くラインハルトを説得した。

 「ラインハルト様!」

 「キルヒアイス!何度も言うな!」ラインハルトはキルヒアイスの態度に嫌気が差したようである。だが、明らかにこの態度は帝国元帥にふさわしいものではなかった。彼の純粋な、あるいは傲慢な一面がジークフリードを攻撃したのである。

 ラインハルトはジークフリードに退室を命じようとした。だが、その言葉が咽喉から飛び出す寸前に、新たな客が来た。

 「失礼します!統帥本部総長閣下、おみえであります」

 ラインハルトもジークフリードも、救われた思いだった。彼らの二人目の親友がやって来たのである。

 僕は部屋のなかに入ったとき、事情を50パーセントほど悟った。「ラインハルト様。提案がございます」

 ラインハルトは落ち着きを取り戻し、椅子に座った。「言ってみろ」

 「ただいまミッターマイヤー、ロイエンタール両上級大将が回廊に向かっております。ですが、イゼルローン攻略自体は困難でしょう。まもなく、あのヤン・ウェンリーがイゼルローンに到着します」

 ラインハルトの怒りが再沸騰し始めた。ジークフリードが僕を止めるかのような目で見る。

 「ですが、ここで撤退しても我らに利益はありますまい。なので、両提督の到着後に一度だけ総攻撃をかけることを許可いただきたく存じます」

 ラインハルトは体内の温度が急低下するのを感じた。ジークフリードはほっとため息を着いた。

 「・・・キルヒアイス。どう思う?」

 「それでよろしいと思います」ジークフリードは妥協した。恐らくここで即時撤退を進言しても受け入れられないだろうという判断が含まれていた。

 「わかった。ヒルシュフェルト。お前の作戦を是とする。直ちに準備にかかれ」

 「はっ!」

 僕が退室すると、ラインハルトはジークフリードに言った。「俺は時々自分の短気さをもて余したようだ」

 これがラインハルトの最大限の謝罪だった。ジークフリードか僕でなければこんなことすら言わないだろう。そうと知っていたジークフリードは笑顔を見せた。「お気になさらないでくださいラインハルト様。私がラインハルト様を見捨てることは決してございません」

 それはジークフリードの本心であった。

 「それはそうと、姉上との結婚式の準備は進んでいるのか?」ラインハルトは唐突に聞いた。

 「はい。今年中には」

 「そうか」ラインハルトの一言には、言葉で表せない重さがあった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。