とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第十八話

 帝国の内戦はオフレッサー陣営の敗北に終わった。

 貴族連合軍の残党も完全に崩壊し、ここにリップシュタット戦役は完全に終結した。

 そして、ついにこの時が来た。ゴールデンバウム王朝の崩壊の時が。

 宇宙歴797年、帝国歴488年8月6日、ラインハルト・フォン・ローエングラムはある宣言を発した。

 「全帝国市民に告げる。今回の反乱をけしかけたのは、帝国宰相リヒテンラーデである。奴はブラウンシュヴァイクやリッテンハイムといった大貴族を自分の手先として利用し、我らを倒すべく反乱を起こさせた。

 それが失敗すると、オフレッサー上級大将に反乱を起こさせた。また、貴族どもに反旗を翻したヴェスターラントの勇気ある帝国市民に核を落とし、惑星ヴェスターラントを皆もみたような惑星に変えてしまった。

 これまで、ゴールデンバウム王朝に忠誠を誓っておきながら、裏で裏切りを画策し、反逆して多くの市民を殺害したリヒテンラーデは許しておくわけにはいかない。また、そのもとで甘い汁をすった貴族どもも同様に、正義の鉄槌を下されるだろう!」

 この時点ですでにワーレン、ルッツ両提督の艦隊がオーディンに向かっており、本隊も帝都に向かって進撃しつつあった。

 これに対してリヒテンラーデが持っている兵力は近衛師団のみだった。すでに貴族の持っていた艦隊はアムリッツア方面軍に編入されており、彼らに救援を求めても間に合わないだろう。

 そして、ワーレン、ルッツ艦隊はオーディンを制圧し、リヒテンラーデは自害した。ワーレンは宰相府で国爾を奪取した。

 こうしてゴールデンバウム王朝は事実上滅亡し、そのもとで安楽を貪った貴族も、ほとんどがこれまでと逆の境遇に置かれることとなった。また、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥は帝国軍最高司令官の職はそのままに、帝国宰相となった。

 「キルヒアイス、ヒルシュフェルト。俺たちはここまで来たんだ。ついに、ここまで来たんだ」惑星オーディンを「ブリュンヒルト」艦橋から見て、ラインハルトは言った。

 「はい」その言葉に100倍する想いをこめ、僕は頷いた。

 ジークフリードは生きている。これほどの朗報があろうか。そして今頃、あの方は・・・

 

 

 「ブリュンヒルト」はオーディンの宇宙港に着底した。

 タラップがスルスルと降り、そこから三人の提督が降りてきた。

 下は多くの兵士と市民でごった返している。新たな解放者を見ようと、多くの人が集まっていた。

 まず、ラインハルトはワーレン、ルッツに歩み寄った。「よくやってくれた。卿らも大将に昇進だ」

 ワーレンは頭を下げた。「もったいないお言葉でございます。今後も、我らをお見捨てなきよう」

 

 僕らは車にのりシュワルツェンの館へと向かった。

 「久しぶりに姉上に会える。キルヒアイス、ヒルシュフェルト。やっと姉上を完全にお救いしたぞ」ラインハルトは水晶を透過して初夏の陽光がきらめきわたるような笑顔で言った。

 「そうですね。ラインハルト様」ジークフリードが言う。

 僕は頷いた。「10年以上、臥薪嘗胆を積み重ねた甲斐がありました」

 「そうだ。これからはゴールデンバウム王朝の飼い犬どもの時代ではない。俺たちの時代。俺とお前たちの時代だ」

 ラインハルトの言葉は派手でこそあれ、決して誇張ではなかった。

 ゴールデンバウム王朝は形ばかりは存続しているが、その権力は1年前の1000分の1未満まで縮まり、その権力は新宰相ラインハルト・フォン・ローエングラムの受け継ぐところとなっていた。

 ラインハルトは首を伸ばし、車の行く先を見た。「キルヒアイス、ヒルシュフェルト。見ろ。姉上がいらっしゃる」

 二人もラインハルトが見る方向に顔を向けた。

 シュワルツェンの館の前で、一人の女性が待っている。

 黄金の髪、青玉の瞳、白磁の肌。

 アンネローゼ・フォン・グリューネワルトが彼らの帰宅を待っていた。

 車は止まり、ドアが開いた。

 まずラインハルトが出た。「姉上。ただいま戻りました」

 アンネローゼはラインハルトを抱き締めた。「お帰り。ラインハルト」

 「姉上。やっと本当の意味で姉上を解放いたしました。もう姉上が恐れられるものは何もありません」

 アンネローゼのアイスブルーの瞳からダイヤモンドのような液体が流れ落ちた。「ラインハルト・・・ありがとう・・・」

 「アンネローゼ様。長い間、お待たせいたしました」ジークフリードが声をかけた。

 「ジーク・・・」アンネローゼはジークフリードに歩み寄ると、その唇に自らの唇をつけた。

 ジークフリードは驚くほど柔らかなアンネローゼの唇の感触を感じた。いつの間にか、ジークフリードもそれに対応するように唇をつけていた。

 ラインハルトはそれを見たことがないほど優しげな笑顔で見守っていた。

 僕は嫉妬の気持ちが混じった祝福の心で二人を見つめた。

 5秒して、アンネローゼは顔を赤くして顔をジークフリードから離した。その唇には、確かにキスの余韻が残っていた。

 「ルート。お帰りなさい」アンネローゼは僕にもキスをした。ただし頬に。

 キスの位置が違うことの意味を僕は知っていたが、別に怒ったりするつもりはない。本心では、アンネローゼとジークフリードが結ばれることを望んでいた。

 「アンネローゼ様。戻りました」

 その一言が、ゴールデンバウム王朝からアンネローゼを救い出そうとした12年間の終わりを告げた。

 

 

 帝国宰相に任じられたラインハルトは、続いて二人の提督を帝国元帥に任じた。

 ジークフリード・キルヒアイス元帥と、ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥である。二人は、元帥杖とマントを授かった。

 ジークフリードは両面赤のマント、ヒルシュフェルトは両面が深緑のマントである。

 この二人は敵味方を問わず、「帝国の双剣」と呼ばれることとなる。

 

 ラインハルト・フォン・ローエングラムは一人で銀河を二分する勢力の支配権を手にいれた。

 だが、彼は誰にそう言われても、必ずこう答えた。

 ・・・余一人ではない。余と、二人の友とでだ。・・・

 

 宇宙歴797年、帝国歴488年8月。銀河は、変わらずその時を歩み続ける・・・

 

 あとがき

 はい。これで実質的に一章は終わりです。読んでくださった方、ありがとうございました。これからも、よろしくお願い致します。


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