とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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番外編 御使墜しの解析

「くっそ…マジくっそ…」

 

 その日、悟は朝から腹がよじれかねない思いに囚われていた。何故なら…

 

「お姉さまー♪」

「ちょっと、離れなさいよ‼」

 

 白井(見た目初春)が御坂(見た目白井)に抱きついていたり、

 

「始末書がっ…始末書がっ…‼」

「いや何やらかしたのよ海人…」

 

 始末書を前に頭を抱える海人(見た目一方通行)を華(見た目麦野)が呆れたような目で見ていたり、

 

「…遊びに来たぜェ。」

「よっす…一方通行、ゆっくりしてくれ…ふくくっ」

 

 一方通行(見た目土御門)が風紀委員132支部に遊びに来ていたからである。

 

 

 

 

「…と言うことがあったんだ。」

『…そうか、俺もだ…』

 

 その夜、悟は上条に電話をかけていた。と言うのも、どうやら悟以外は入れ替わりに気付いていなかったからである。

 …まあ悟も解析でようやく気が付いた程度なのだが。

 上条なら何か知っていると思い電話をかけると案の定あの右手はこの入れ替わりも消してしまっているらしい。上条は重い息を吐いて言った。

 

『こっちは従姉妹が御坂だったり、母さんがインデックスだったり、インデックスが青髪だったりしてるんだぜ?』

「インデックスぅ?誰だソレ」

『ああっ‼いや、その…居候だ、居候‼』

 

 インデックス、と言う人物に心当たりがないため、誰何の声をあげると、上条は焦ったように否定を返してくる。悟もそこまで深く聞くことはなく、『ああ、また上条がフラグをたてたのか』と思う程度であったために、次の話題に移る。

 

「で?上条、原因は分かるのかよ?」

『それは…『俺っちから説明させて貰うぜい。』

「土御門?オマエもそこにいんのか?」

 

 言い淀んだ上条であったが、突如電話が取られる音がして、胡散臭いパツキンアロハこと土御門 元春が電話口に出てきた。土御門は軽い調子で言う。

 

『どーやらこれは魔術によるものらしくてにゃー。ソレを食い止めるために俺達が来たと言う訳ですたい。』

「ほーん?魔術って言うとアレか?ほら、『樹形図の設計者』をぶっ壊したって言う。」

 

 何の気なしに悟が尋ねたその言葉に、電話の向きに向こうが一気に騒がしくなる。そして、土御門が真剣な声で尋ねてきた。

 

『オイ悟。ソレをどこで知った?』

「…あっ。」

 

 やらかした、と思う暇もなく、電話の向こうから怒鳴り声が聞こえてくる。顔を青ざめさせ、悟は電話を切った。

 

「…Oh,my god.」

 

 ピリリリ、と響く電話の音を意識して聞かないようにして、頭を抱える悟。

 二時間程そうしていただろうか、『あ、アレイスターに丸投げすればいいじゃん。』と考え、名案だと言わんばかりに指を鳴らす。そうと決まれば今日はもう寝よう、そう思って布団を引っ張り出してくるも…

 

 ピンポーン。と、チャイムが鳴った。悟は先日注文した『虚数暗号』の最新版か、とアタりをつけ、「はーい。」と言ってハンコを持ち、ドアを開ける。すると…

 

「…」

「…誰?」

 

 ソコには、赤髪の神父がいた。左目のしたにあるバーコードのような縦線。黒い、赤の線が入った服。二メートルを越える身長を持つその男は鋭い目でこちらを見下ろし、口を開く。

 

「…山峰 悟さんですね?」

「は、はい。そうですが…」

「私の仲間から召集です。そうですね…『土御門 元春』といえばわかりますか?」

「…え?」

 

 こうして、全てを見通す少年は、『御使墜し』事件へと巻き込まれることと相成った。ソコで彼の目は、何を見通すのか。それは誰にもわからない。ただひとつ、言えることとすれば…

 

 

 

「さあ、キリキリ吐いて貰うぞ悟‼」

「…オー、ワタシ、ニホンゴワカラナイネー」

「ふざけてないでさっさと吐けこの野郎‼」

 

 …悟には、休息は訪れないだろう、と言うことぐらいである。

 

 

 

 

『ふふっ…』

 

 ここは『窓のないビル』。ソコに浮かんでいる一人の『人間』ことアレイスターは、何時かと同じような、それでいて狂喜の混じった笑みを浮かべていた。その対象はもちろん、彼の少年、山峰 悟である。

 

『それで、ちゃちゃっと説明してくれると助かるというものなのだが?』

 

 ふと、その空間に声が響く。『ダンディ』と形容できる声色をしているその人物は、少し怒りを滲ませ問い詰めるように言う。アレイスターは口を歪ませ、言葉を紡ぐ。

 

『彼の目なら、私にも分からないよ。ただ、本当に全てを解析する、と言うことぐらいしかね。』

『それは私にも分からないさ。けれど、今聞きたいのはソコではない、分かっているよな?』

『…眼を持つ者(メタトロン)のことかい?』

 

アレイスターは、相も変わらず口を歪ませ返答する。その目は、どこも見ていないようで、全てを見通しているのかもしれない。

 

『そうだ。普通、『科学』側の人間が『魔術』の領域に入ることはあり得ない。魔術を能力者が使えば死んでしまうはずだ。何故彼は天使の力を引き出しておきながら死ぬことがないんだろうな?』

『…樹形図の設計者。』

『それがどうかしたのか?』

『アレのキャッチコピーは『この先25年間追い抜かれることのない演算力』。実は、その25年間、と言うのは『コンピューターなら』と言う前置きをつけなくてはならなくてね。その原因が、彼と言う訳だ。彼の演算能力は、樹形図の設計者と同等、もしくそれ以上だからね。そうでもなければ、『回路の違う領域のモノ』を強引に動かすことなんて不可能だ。』

『…冗談だろ?いくら何でも、個人がそんな能力を持つことなんてあり得ない。』

 

 バッサリと、否定の言葉を返すその人物。しかしアレイスターは当然のように言う。

 

『そう、そこで彼の『性質』が働いた。幻想殺したる上条当麻のように、彼には何かしらの『性質』があるのだろうね。』

 

 そう言い、さらに口を歪ませ、愉悦の表情を浮かべるアレイスター。今は『プラン』に縛られている身ではあるものの、それさえなければ土御門と同等の扱いを与えたものを。

 

『…ところで、その少年。君のお気に入りの英雄の所に行ったみたいだが?』

『ああ、()()()()()。』

『…そうか、ならいいんだ。』

『ああ。』

 

 そして、アレイスターは誰も見えなくなった空間で笑う。プランに必要なく、それでいて最大の興味を持つに至った、全てを見通す少年を思って。

 

 

 

 

 

 

「は、初めまして…上条のクラスメートの、山峰 悟と言います…」

「オイ当麻‼こんな可愛い娘、どこで捕まえてきたんだ!?」

「と、父さん。悟は男だって…」

「馬鹿言え‼こんなに可愛い娘が男の子のわけ無いだろ…ッ‼」

「あらあら~、刀夜さんたら、また可愛い女の子を口説くおつもりですか~?」

「ち、違うんだ母さん…」

 

 右手を頭の後ろに当てて、自己紹介をする悟と、それに沸き立つ面々。悟は内心で冷や汗をかきつつ、今の自らの姿を思い出していた。

 

 

 

「…悟か?」

「人違いです。」

「本物だな、うん。」

 

 あの後、神父に抱き抱えられ、超高速でこの場所にやって来た悟。海だー、何てふざけたことを言っている暇もなく、彼は土御門(見た目は一一一(ひとついはじめ)の前に正座させられ、詰問される。

 

「で?何故お前は樹形図の設計者がぶっ壊された原因が魔術だと知っているんだ?」

「え~と、それはですね…」

「さっさと答えてくれないか。こっちはあとがつかえてるんだ。」

 

 上条含め、約四人から疑惑の視線を向けられる悟。お得意のポーカーフェイスもこの状況では意味もなく、悟は口を開いた。

 

「ほら…7月の終わりごろにさ。何かビームが出てた日があったじゃん?」

「…その時間にお前は起きてたのか?」

「幻想御手の件で始末書が大量に溜まっててな…」

「ちなみに何をしたんだ?」

「学園都市中の放送回線を乗っ取って、治療用プログラムを流しました…」

「何やってんのお前!?」

 

 幻想御手事件の際、悟は学園都市中の放送回線を乗っ取って、治療用プログラムを流した。その始末書は山のよう、ではなく実際に山であり、ソレを毎日夜遅くまで書き続けていて、あの日、ようやく8割が終わった所であったのだ。

 

「で、ソレを俺の能力が解析しやがりましてね…」

 

 そして、そのビーム的なサムシングを彼は『見て』しまった。口を大きく開け、空に登っていくソレを見ていたのだが…

 

「その先に樹形図の設計者があってな…『あ、こりゃぶっ壊れましたわー』と思ったと。噂で大破したって言ってたし、こりゃアウトだなー、と。」

 

「…どーだいねーちん?」

「嘘をついているようには見えませんし、大丈夫でしょう。」

 

 土御門の問いかけに答える、ねーちんと呼ばれた赤髪の神父。悟の眼には『神裂 火織』と言う結果が表示されていることから、きっと女性なのだろう、と辺りをつける。土御門は頭をかいて言った。

 

「んー、普通ならこっち側に関わったら何かしらの組織に所属するのが普通なんだがにゃー…悟はちょっと『特殊』なんですたい。」

 

 だから、不干渉と言う姿勢でいくしかないんだにゃー、と呟いて、土御門は溜め息を吐く。悟は知らん顔で、その溜め息を受け流すのだった。

 

 

 

 

「所で、だ。」

「ん?」

 

 そして、土御門達から『御使墜し』と言うモノについての説明を受けた。その後、悟はふと、上条に気になることを聞いてみた。

 

「俺ってどういう風に見えてるんだ?」

「どうってもな…俺には説明しにくい。」

「でもお前以外わかんねーじゃん。」

 

 それもそうか、と言って上条は口を開いた。

 

「長い黒髪、白の華飾り、そして灰色の半袖、ジーパンに黒のリストバンド。」

「…あー、佐天さん?」

「誰だソレ?」

「よくウチの支部に遊びに来る後輩の内の一人だ。」

「そして悟に恋心を抱いてる人でもあるんだにゃー」

「阿呆。そもそもウチには長点の良心がいんだぞ?大概の女子はそっち目当てだろーが。」

 

 土御門の茶化しに、一切慌てることもなくそう返答する悟。実際問題、佐天は悟に恋心、とまではいかずとも尊敬の念は抱いているのだが、ソレは悟が知るよしもないことである。

 

「はぁ…いいよなー、土御門も悟も。上条さんは出会いが少なくて困っているところですよー、っと。」

「「は?」」

「…オイちょっと抑えろ土御門。」

「OK。一発ぶっ込め‼」

「えっ、ちょっ、待っ…」

 

 溜め息を吐いてそんな戯言を呟いた上条を、額に青筋を浮かべた悟が土御門と二人がかりで拘束する。そして、悟の体重をのせたボディーブローが炸裂した。

 

「ごふぅっ…」

 

 おおよそ人間に相応しくない呻き声を上げながら吹っ飛んでいく上条。悟は汗を拭い、いい笑顔でこう言った。

 

「悪は滅んだ!」

「な、何で、だよ…不幸だ」

 

 

 

 

 そんなこんなで、今に至る、と言う訳である。

 

「上条の親ってあんなにテンション高かったんだな…」

「そんなもんじゃないかにゃー?」

 

 旅館のベランダ、その手すりにもたれ掛かってそんなことを呟く悟と、それに同調する土御門。

 悟は今、佐天の姿であるため、先程上条の両親から『可愛い』と表されていると思っている。…ちなみに実際は悟も割りと女顔なだけであるのだが。

 

「で?その『御使墜し』とやらで歪められた中心がここだと?」

「ああ。そう言うことになる。」

 

 真剣な表情で頷く土御門。『御使墜し』は天使が『こちら側』に堕ちてきた際の衝撃で、『見た目』と『中身』の入れ替わりが生じるのだとか。一体誰がこんなことを、何のために行ったかは不明であるのだが、ソレを突き止めるのは悟の仕事ではなく、土御門、引いてはその仲間達の仕事である。

 

「(ま、俺は俺に出来ることをするだけってね…)」

 

 左手でデバイスをもてあそびつつ、悟は次に自分は何をすべきかを考えていくのだった…




《追記》5/12 悟が悩んでいた時間を追加しました。
    6/25 会話を若干修正しました。

    8/15 加筆修正を行いました。

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