とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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4日目

「ガッデム…マジガッデム…」

 

 次の日、無理を推してやって来た悟はパソコンの前で呻き声をあげていた。何故ならば、朝から大量の情報整理に追われていたからである。

 

 

 

 

 明朝に132支部にやって来た彼を出迎えたのは1つの書き置きだった。

 

『お前が固法に渡したプログラムから幻想御手の犯人がわかった。今からそいつのとこに行ってくる。』

「…ええ…」

 

 いつも思うがジャッジメントのこの捜査スピードはなんなのだろうか。この無駄に洗練された無駄のない連携をいつも出来ないだろうか、何て思いながらパソコンを立ち上げて、テレビをつける。

 

『緊急ニュースです‼怪物が現れ…

 

 消す。頼むから違っていてくれ、と祈るように電話をかける。

 

『もしもし?』

「先輩…まさか怪物と戦っていたりしませんよね?」

『なに言ってんだお前。』

「ほっ…」

『俺はサポートしてるだけだぞ?』

「デスヨネー…」

 

 頭痛を押さえるようにして頭に手を置き、呻くように呟く悟。どうしてウチの支部は厄介事が向かってくるのだろうか、何て事を考えていると、海人が電話を渡す音が聞こえてくる。

 

『聞こえるじゃん少年?』

「黄泉川先生!?…はい、聞こえてますけど…」

『よく聞くじゃん少年。今から君のパソコンに幻想御手の治療プログラムを送るじゃん。それを学園都市にあるすべての放送回線に流すじゃんよ。』

「what!?」

 

 それをとったのは警備員の黄泉川であった。彼女は緊迫した、真剣な声で悟に頼み事をする。悟は困惑したような声をあげるも、パソコンに送られてきたプログラムを見て目の色を変える。

 

「これは…いいんですね?」

『責任は私がとる、さっさと流すじゃんよ‼』

「…だーっ!分かった、分かりましたよ‼…1分待ってください。」

 

 プツッ、と電話を切り、うでまくりをして、サングラスを外す。そして肩をグルグルと回し銀色の目をパソコンのディスプレイに向けて、宣言した。

 

「さーって、と…行きますかね‼」

 

 

 

 

 学園都市には、2人の超人ハッカーがいる。

 1人は『守護神(ゴールキーパー)』。書庫を守り、時には逆ハックも行う、驚異のハッカー。

そしてもう1人は『軍神(センターフォワード)』と呼ばれる人物である。防衛能力こそ守護神に劣るものの、潜入能力は軽く守護神を凌ぎ、かつては『オメガシークレット』すらも数秒で解いた、と言う伝説がある程の人物。この軍神、と呼ばれている人物こそ、悟であった。呻き声をあげながらも、彼はモニターを解析していく。

 

「(えーっと、残り20%か…)」

 

 彼の能力、天地解析の能力で解析した情報は、まず『回答』から記憶される。そしてその後、『過程』、そして『定義』と言った順番で記憶されていく。

 つまり、今彼がやっている事を一言で言うとカンニングのようなものだ。…最も、それであっても学園都市の放送回線すべてを乗っとり続けている彼は凄いのかもしれないが。

 

「(えーと、ここの暗号は…っと)」

 

凄まじい勢いでブラインドタッチをし続ける彼。

 

 

 

 

 

 ──ツライ。

 

「ッ!?」

 

 唐突に、頭の中に声が響く。囁くような、それでいて呻くような、それでいて縋るような。そんな歪な声が悟の頭の中に響き渡った。

 

「(まさか…これが、副作用!?)」

 

 悟には、そんな電波を関知する手掛かり等ない。だが、現に声は悟の頭を蝕んでいる。悟は、それがかの幻想御手(レベルアッパー)であると直ぐに看破した。

 

 ──クルシイ。

 

「がっ…はあっ‼」

 

 頭を抑えてうずくまる悟。彼の頭は、今内側から避けるかのような痛みを発している。

 能力の特性上、他人よりかなり演算能力が優れている悟だったが、流石に10000人分の演算を肩代わり出来るほど優れている訳ではないのだ。

 

「…(『リプロダクション』作動。五対目以降の任意逆流を開始。)」

 

 悟が囁くようにそう言ったかと思うと、急激に彼の体がビクン、と跳ねた。

 

「よっし…戻ったぁ‼行くぞこんちきしょー‼」

 

 ()()()()()()()悟は、再びパソコンのキーボードに指を滑らせる。そして、

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあっ‼」

 

 その時、海人は思わずガッツポーズをしていた。何せ、自分の後輩があの化け物…もとい、AIMバーストを封じ込めるプログラムを流すことに成功したからだ。

 

「流石『軍神』じゃん。こんなに早い仕事が出来るなんて、いい意味で予想外じゃんよ」

 

 安堵からか気絶してしまった風紀委員の少女…初春を抱えつつ、そう呟く黄泉川。海人はサムズアップをして、軽快に言う。

 

「当たり前だろ?俺の後輩だぜ、アイツ。」

「…くははっ、そうみたいじゃん。」

 

 2人の間にある強固な信頼。それを感じ取り、黄泉川は笑う。彼らの前では、先程まで苦戦していた筈の怪物がその体の核らしき三角柱の物体を常盤台のエースこ  『超電磁砲(レールガン)』御坂 美琴の代名詞であるレールガンに撃ち抜かれ、崩壊していくのが見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

こうして、世間を騒がせた『幻想御手』事件は終幕となった。風紀委員177支部や132支部は大量の始末書に追われ、夏休みの貴重な一週間を失うことと相成った。悟は顔をひきつらせて、海人は「何で俺も…」何て死んだ魚のような目をして呟きつつそれを大量にさばいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「これでいいのか?」

 

 ここは学園都市のどこかにあると言われている、通称『窓のないビル』。学園都市の統括理事長がいると噂されている場所である。そこにいる少年…土御門 元春は厳しい目をしてビーカーらしきものを睨んでいた。

 

 そこにいたのは『人間』である。しかし、まるで病人のような服装、男か女かわからないような顔に体つきをしていた。もし悟辺りがいたなら性別は解るのかも知れないが、あいにくと今彼は書類を超スピードで書いている。

 その『人間』…学園都市統括理事長、アレイスターは口を開いた。

 

『ああ、とても素晴らしい結果だ。彼の眼についてまた1つ、知識を増やすことが出来る。』

「上やんならいざ知らず、お前がアイツに興味を持つなんてなアレイスター。」

 

 恍惚とした雰囲気を漂わせてそう言ったアレイスターに、土御門は噛みつく。もし彼が悟に何かしようとしているのなら…

 

『安心したまえ。彼にどうこうしようという気もない。』

 

 読まれてたか、と舌打ちをする土御門。アレイスターは笑みを浮かべて言った。

 

『彼の眼はこれまで、見てはいけないモノも見ている筈だ。例えば…虚数学区や五行機関の()()、魔術と科学を相容れさせる方法など、かな?』

「!?」

 

 土御門の顔に動揺が走る。それが本当であるとするならば、世界中の全ての勢力が悟の身柄を確保しに来てもおかしくはない筈だ。何故?そんな思考を読み取ったのか、アレイスターはさらに笑みを深める。

 

『おかしいことではあるまい?君のように、彼も私と取引をしていたとしたら?』

「…このビルは、案内人が居なければ入れない筈だが?」

『普通なら、だがな。』

 

 ククク、と笑みを浮かべて言うアレイスター。土御門はそれを見て、チッ、ともう一度舌打ちをする。

 

「(アイツ…悟は、何者だ?)」

 

 そして、その疑問は、まるでビーカーの中の水に溶けていくかのように、消えていくのだった…

 

 

 

 

 

「…おーまいがっど。」

 

 7月の終わり際。怪我が完治した悟はうだるような暑さのなか、安売りスーパーへと歩いていた。

 彼は、通っている高校の中では能力のレベルは高い方なので多少の奨学金はある。しかし、雷のせいで一部の電化製品を買い換える羽目になったため、今月の財布はいつもより少し軽くなっている。

 

「…まあ上条に比べればマシなんだろうけど、さ。」

 

 体育で体育着に着替えようとして、スボンを畳み、ポケットから滑り落ちた携帯にたまたま外から飛んできたボールが直撃して携帯がお陀仏、というまるでギャグ漫画のようなことを現実に起こしている某フラグメーカーを思い、ため息をつく。彼と比べるとどんな不運も幸運に見えるから不思議に思えてくる。

 

「ん?噂をすれば…おーい上条ー?」

 

 そして、悟は件のクラスメート、上条当麻を見つけ、そちらへと歩いていくのだった…

 

 

 

 

 上条当麻。彼には、7月28日以前の記憶がない。どこぞのカエル医者の話では記憶喪失、それも思い出を司るエピソード記憶のみが消えている、とのことだった。そんな自分だが、今絶賛大ピンチになっている。

 

「どーした上条?まるで不審者を見るような目でこっちを見やがって…いや不審者ルックなのは認めっけどよー」

 

 今、自分の隣に帽子にサングラスという格好をした不審者がいるからだった。

 彼は背を丸めながら自分にとりとめもない話…と言うか愚痴を言ってきている。『昔』の自分の知り合いだったのだろうか?この不審者が?

 そんな目線を受けたのか、ソイツ(悟と言う名前らしい)は口を尖らせる。そして、「あー分かった分かった、グラサンは外させてもらうぜー」と言って、サングラスをとった。

 

 そこから現れたのは銀色の瞳だった。珍しいとでも言わんばかりに集中する視線。それを見て、悟は軽く肩をすくめ、

 

「ま、こう言うわけだからな。しゃーねーよ。」

 

 

 

 

 

「助かった…マジ助かった…‼」

「いやマジ泣きされても困るんだが」

 

 スーパーの特売を潜り抜けた2人は、己の戦利品を分かち合っていた。

 本日の上条が食らったコンボはエアロハンドで転倒→テレキネシスで外にボッシュートと言うものであり、彼の十八番である右手で打ち消したときにはもう遅く、自動ドアから丁度外に放り出された。哀れに思った悟は卵(1パック98円)を渡すことにしたらマジ泣きされた、という次第である。

 

「これで上条さん家は二日ほどの延命に成功した次第でございますよ…‼」

「お前んち食事サイクル半端ねえな!?」

 

卵1パックが2日で消える家って何だよ、上条ってそんな大食いだっただろうか。何て馬鹿なことを考えていると上条ははたと思い出したように言った。

 

「スマン、もう帰らないと…」

「おっ、そうか。それじゃーな、補習頑張れよ」

「はは…上条さんも最大限努力させていただく次第でございますことよー」

 

 頑張れよ、と声をかけてその場を立ち去る悟。上条も直ぐに踵を返し、その場を立ち去るのだった…

 

 

 

 

 

 

 

「(やっぱ覚えてなかった、か…)」

 

 そんなことを考えつつ、夜の町を歩いていく悟。基本的に、上条当麻に悟の能力は発動しない。しかし、始末書を書く際にカエル顔の医者の所へ足を運んだ。

 その時に無意識的な能力の発動によって、『上条当麻は記憶喪失になっている』と言う記憶を読み取ってしまったのだった。しかし、エピソード記憶のみを消す能力等あっただろうか?もしそんなものがあったとしても、上条の右手の範囲外、すなわち『異能力』の定義に入らない物にそんなものがあっただろうかと思考を巡らせていたが頭が痛くなってきたので、よす。

 

「(やっぱ、全部分かっても止められないことって、あるんだな、って)」

 

 空を見上げ、そんなセンチなことを思ってしまう悟。分かっていたけれど、実際に見せつけられると来るものがある。

 

「ふああ…」

 

 まあそれはもう終わった事だ、と心を切り替え眠いなあ、何て呟きながら学生寮の階段を上っていく悟。そして、最上階にたどり着いたところで…

 

「うっわあ…ひでえ有様だぜこれは…」

 

 自分の隣の部屋が、ボロボロになっていたのだった。マジックの落書き、へこんだ扉を見て顔をひきつらせる悟だったが、袋を玄関におき、自分の部屋から掃除用具を持ってくる。

 

「アイツも大変だよなー、あんなに強いのに。」

 

 某シスコン軍曹の妹から指導を受けた掃除スキルを最大限駆使して、壁を、床を、キッチンを磨いていく。

 

 

 

 

「…ふう~」

「人ン家で何やってンですかァお前はァ‼」

「何って寛いでるだけだが?」

「そう言うことじゃねえよッ‼」

 

 一時間程後、晩御飯を作りそれにラップをかけて、お茶を自分の部屋から持ってきた湯飲みを使って飲んでいたところで、この家の家主である少年こと学園都市第一位のレベル5、『一方通行(アクセラレータ)』が帰ってきた。

 彼は驚き怒りの混じった声をあげるも、柳に風と言わんばかりに悟は涼しい顔をしている。

 

「よっぽど愉快な死体になりてェみたいだなテメェ‼」

「はっはっは。ワロス」

 

 視線を外してそう吐き捨てる悟。アクセラレータは額に青筋を浮かべ、悟に掴みかかろうとする。しかし悟はアクセラレータの腕に『触れ』て、それを受け流した。

 

「相も変わらず何で触れられるンですかねェ‼」

「そりゃー、演算式を解析して、お前に触れる一瞬だけそれを組み込んで、な?」

「『な?』じゃねえよッ‼テメェさらっとトンデモねえこと言ってんだぞこらァ‼」

 

 

 学園都市最強と言われた第一位が、そこら辺にいそうなレベル3に手玉にとられているこの状況を研究者達が見たらどう思うだろうか、何てどうでもいいことを考えながら、悟はアクセラレータの攻撃を、部屋への被害を最小限にしつつ回避していくのだった。




8/9 加筆修正を行いました。

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