とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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お久しぶりです…今回の話は中々書くのが難しく、遅れてしまいました。申し訳ありません。


九月十四日 表の裏で起こる事件は

 さて、本日九月十四日は、能力測定(システムスキャン)が行われる日である。残暑厳しい日差しのなか、学生達は汗水垂らして必死に能力を測定している訳だが…

 

「…」

 

 その少年…山峰 悟は、薄暗い部屋のなかで何かのフラッシュメモリのような物を見ていた。

 

「『幻想神手』…こりゃまた厄介な物を作ってくれちゃってなあ…」

 

 金色の瞳を光らせ、そう呟いていた。

 

 

 

「──っつー訳で、俺みたいな珍しい能力を持っている場合、基準が分からないから『大体これぐらいじゃね?』といった感じで能力のレベルを決めているという訳です。」

「へー…そうだったんですか。」

 

 風紀委員第132支部。そこでは『能力レベルの決め方』と大きく書かれているホワイトボードの前に立っている悟が、風紀委員第177支部所属の固法 美偉と佐天 涙子に授業を行っていた。

 学園都市の中で一番治安が悪いと言われている第十学区だが、風紀委員の腕章を着けている場合、それは嘘になる。

 何故ならば、『風紀委員に手を出す=海人からの処刑を受ける』という方程式が第十学区の不良たちに刻みつけられているからだ。その為、佐天のような無能力者であろうと第十学区での安全は約束されている。

 

「私の透視能力(クレアボイアンス)も、他に持っている人は少ないもの。空間転移(テレポート)みたいに、『自分の体を転移させることが出来ればレベル4相当』何て言う明確な基準が定められている訳じゃないものね。」

「ま、そう言うことです。それに肉体変化(メタモルフォーゼ)とかになってくると、学園都市に3人しかいませんしね。」

 

 固法の言葉に頷いてホワイトボードにペンを走らせようとする悟。しかし、それを電話の音が遮った。

 

「はい、こちら風紀委員132支部…え?…はぁ、第二十二学区で。了解しました、すぐに向かいます。」

 

 ピッ、と携帯の通話終了ボタンを押して固法達に向き直る悟。

 

「どうやら第二十二学区で盗難事件があったそうです。海人先輩は今学校ですし、固法先輩には海人先輩に連絡をお願いしても宜しいでしょうか?」

「ええ、良いわよ。」

「すみません佐天さん。こんなことになってしまって…」

「い、いえいえ大丈夫です!」

 

 わたわたと手を振る佐天にもう一度頭を下げて、悟は腕章を右腕に装着する。

 

 そして、ドアが開かれると同時に駆け出した。

 

 

 

「ほっ、よっ、はっ。」

 

 軽快な掛け声と共に、学園都市のビルとビルの間を駆けていく悟。金色の目をしている彼は今イヤホンをかけている…すなわち、多量能力を発現することによってビルとビルの間を駆けていた。

 

「ふっ、はっ、せいっ!」

 

 ビッ、ビッ、ビッという空気を切る短い音。加速操作を使いつつ透視能力を使用することで索敵を行い、ふと怪しい集団を見つけた。

 

「(ほーん…何ともテンプレ染みた三下で…)」

 

 彼等は数台の黒いワンボックスカー、その中心に一台の護送車をおいていた。透視能力で中に一人の男がいることが分かっている。

 悟はサングラスと帽子で顔を隠しているためバレる事はないだろうとタカをくくり、演算を組み上げていく。

 

「な、何だお前は!?」

「…」

 

 男達の車の中心にある護送車。そのボンネットの上に転移して、フロントガラスに手を触れ、それを転移させる。

 

「ふっ‼」

「ぐあああっ‼」

 

 運転手の男を気絶させてブレーキを踏む。タイヤのゴムがアスファルトを擦る音とともに、護送車の後ろにあった車を破壊する。

 

「なっ!?」

 

 気絶した後ろの車の運転手と護送車の運転手を掴みつつ、近くのビルへと向かう。

 後ろから断続的な発砲音が聞こえてくるが、それらが悟に当たることはない。

 

「ッ…あっぶねえ‼」

 

 『偏光能力(トリックアート)』で位置をずらしていたもの、マシンピストルのフルオート射撃はギリギリだった。

 

「オルァッ‼」

「がっ!?」

 

 他人の位置情報を元に自らの体を転移させる位置を逆算。演算をなるべく楽に行えるようにしつつ、マシンピストルを撃ち続けていた男に後ろからドロップキックをかます。

 

 そのままマシンピストルを奪い取り、先程運転手を投げ捨てたのと反対の方向へと素早く投げ捨てる。

 後の二人は即座に逃走を図ったのか二台の車がいなくなっていた。

 

「(仕留め損ねたか…)」

 

 舌打ちしながらそんなことを思って、護送車の後ろのドアを開け放つ。

 

 中は薄暗く、太陽が照りつけているこの時間であっても普通の人間ならば目をならすのに若干時間がかかっただろう。

 

「おいおい…嘘だろ?」

 

 しかし、悟の意識は既に別のところに向かっていた。

 

「…何故おまえがいる」

「こっちの台詞だよソレは…

 

 

…天井 亜雄さん?」

 

 

 

 

 

「んーっ…ああ」

 

 非常にいい笑顔でそう言い放った少年というより青年…海人は今、風紀委員の定期パトロールに来ていた。

 と言うのも、彼はこの作業を非常に嫌っている。何が悲しくてこんな暑い中野郎一人でパトロールをしなくてはならないのだろうか。

 因みにこの事を口に出すと華がどこからともなく表れる上に何をしてくるのかがわからないので絶対に言う気は無い。前は急速に意識を失った上にいつの間にか華が隣で寝ており、戸惑う海人に一言。

 

『昨夜はとっても楽しかったね♪』

 

 かなり恐怖を感じた。

 

「すみません」

「ほいほい、何でございましょう?」

 

 と、そこで海人は何者かに呼び止められる。そちらの方を向くと、そこには一人の少女が。

 

「第十学区というのはここで合っているのでしょうか、とミサカは辺りを見回しながら質問します。」

 

 その少女は、常盤台の制服に身を包み、焦点の合っていない目をしている少女だった。

 

「(『超電磁砲(レールガン)』…?何でこんなところに?)そうだけど…こんなところに何か用なのか?」

「ええ。そうです。内容についてはミサカ妹達のネットワーク間で満場一致で機密にすることが決定付けられている為にお話しすることはできませんが、とミサカは釘を刺しておきます。」

「(ネットワークって何?)ま、まあ気をつけてな。アンタなら心配はないと思うけれど…」

 

 そう言ってその場を離れた海人。

 彼は知るよしもない。その少女が、学園都市第三位『超電磁砲』のクローンとして生まれた少女であることに。一方通行が犯した罪、それを償う相手であることに。とあるツンツン頭の少年に、生きる意味を与えてもらった存在であることに。

 

 

 

 

 かくして、事件は始まりを告げる。そこにあるのは、各々の目的、信念、想い…そんな『感情』であった。

 いつも通りにツンツン頭の少年はそれに巻き込まれ、全てを見通す少年はその事件の裏側で活躍しているに過ぎない。

 

 たとえそうであったとしても、これより語られるのは『裏側』の事件、その全てであることに変わりは無いのだから。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 お気楽な様子で扉を開け放った一人の少年、山峰 悟は靴を素早く脱ぐと部屋のなかに入っていく。

 

「ん?どうした?さっさと入ってこいよ。」

「…いや、なぜお前の家に上がる必要があるんだ?」

 

 眉をひそめてそう言ったのは、天井 亜雄という名前を持つ研究者だ。彼は薄汚れた白衣を若干はためかせながら、悟に呆れたような目を向けている。悟はひらひらと手を振って言った。

 

「いや、学園都市の中じゃ()()()()()()()()()だからな。秘密の話し合いをするなら、この場所が丁度良いわけだ。」

 

 かつて悟は、その目をもって彼の部屋に存在する『滞空回線』を全て排除したことがある。それ以降、いろんなものを使って滞空回線等の諜報機械類を全て排除しているので、結果的に学園都市で一番安全な部屋、という称号を得てしまった訳である。

 

「…そんなものなのか?」

「そんなもんだ。ちゃちゃっとかけてくれ。」

 

 顎でしゃくって座布団を示し、台所にお茶を入れにいく悟。多少戸惑っていたものの、天井は直ぐに腰を下ろした。

 

「ほい…どうかしたか?」

「いや、あのグローブのような物に若干見覚えがあってな…」

 

 そう言って天井が指さしたのは悟のパソコンの横に置かれている金属製のグローブのようなものだった。人差し指と中指にはガラスで出来た長い爪のようなものがついていて、そのガラスの爪の中に、さらに細い金属の杭のようなパーツが収まっている。また、手の甲から手首の部分にはスマートフォンのモニタのようなモノがついている。

 

「ああこれ?何年か前に作ったんだけど。電子をつまむ為の機械なんだけどさー、不具合が多くて…今修理してるんだけど、それがどうかした?」

「…いや、何でもない。」

 

 まるで頭痛を堪えているかのような天井の行動に首をかしげる悟だったが、お茶を自分と天井の前に置いて、

 

「さて…じゃあ、どういう事か説明してくれ。」

「ああ。といっても、どこから話せばいいか…妹達(シスターズ)を作り出した実験を知っているか?」

「超電磁砲のクローンを量産するっつー計画だろ?そんぐらい知ってる。」

 

 なら話は早い、と言って天井は話し出した。

 

「その計画の副産物として、ミサカネットワークというものがあってな。20000人の妹達を繋ぐネットワークなんだが…どうやら、ソレを利用して私に何かをさせようとしていたらしい。」

「何か、ってーのは分かるのか?」

 

 いや、と言って天井は首を振った。悟の入れたお茶を飲み、再び話し出す。

 

「私は絶対能力者進化計画のような裏の奥深くにある事件を多くを担当している。それに、連中は『幻想神手』とかいうものにも手を付けているらしい。」

「『幻想神手』つったら、幻想御手の強化版とかいう噂が流れてるヤツだろう?」

 

 九月の始めに悟が見つけた幻想神手なのだが、調べていく内に色々な事が分かった。

 

────曰く、幻想御手を使ったときよりも大きくレベルが上昇する。

 

 実際、海人が最近能力者達のレベルが上がってきた気がする、とボヤいていたのを悟は覚えていた。まるで夏の幻想御手の時のようである、とも。

 

────曰く、気を失うという副作用を持たない。

 

 これは幻想御手と大きく違う点であると言えるだろう。かつての幻想御手では、能力者自身の演算キャパシティを越えるレベルの演算をしてしまうため、二日から三日程度で昏倒してしまうのだ。それはないということは、好きなだけレベルの上がった能力を使用することができる、という事になるのだろう。

 

「(…もっとも、副作用がない訳じゃないんだがな。)」

 

 と、内心で舌打ちをする悟。彼がここ一週間で調べて分かった事だが、一見完璧に見える幻想神手にも副作用がある。

 

 と言うのも、副作用というのは驚異的な依存性の他複数あり、幻想神手をめぐった事件が多発している。特に悟の担当している第十学区にその被害は集中しており、海人のパトロールの頻度が増えているのもこれが原因である。

 

「続けても構わないか?」

「ああ、大丈夫だ。」

「そうか…ここからは仮説になってしまうが、連中は何かを盗み出そうとしているのではないだろうか?」

「?どういう事だ?」

「知っての通り、学園都市は外からのセキュリティは頑丈でも、内からのセキュリティは脆弱だ。内部から何かを持ち出そうとするのは簡単だろう。そして、それが例えば小さなものであるなら尚更だ」

 

 

「───例えば、樹系図の設計者の『残骸(レムナント)』のようなものってところか?」

 

 

 

 

 

「さーてさてさて…久し振りのフル装備だ。」

 

 コキリ、と首を鳴らす悟。今の彼はサングラス、帽子、リネンシャツ、さらに右腕に修理した電子をつまむ為の機械を、背中にはリュックサックを背負っていた。

 リュックサックの中には銃火器等が入っており、彼の様相はまるで学園都市に喧嘩を売りにいくかのようである。

 一応言っておくと、彼がもし学園都市に喧嘩を売りにいくとするならば家の自室に引きこもってパソコンをいじるだけで事足りる。彼がこんな武装をしているのはあくまでも残骸を破壊するためであって、多量能力と銃火器を駆使して徹底的に残骸を盗んだ犯人を追い詰める腹積もりである。

 

「…(さて、と。)」

 

 ビルの上から辺りを見回して、残骸を盗んだ犯人がどこにいるかを確かめようとする悟。しかし…

 

───彼の右肩に、針が一本突き刺さった。

 

「ッ…」

「あら、咄嗟にズラすだなんて。流石は噂の『多重能力者』ってところかしら?」

 

 振り返ると、そこには一人の少女が。その少女は、頭の後ろで髪を束ね、キャリーケースを右手に持っている。

 

「(『案内人』か…こりゃあ大当りだ、コイツが恐らく残骸を盗んだんだろうな)」

 

 スッ、と悟は右肩に刺さった針を引き抜いた。空間転移系統の能力者は複数いるが、その中でも、数多の能力を扱う悟に気づかれることなく物体を転移させる能力者等一人しかいない。

 

「結標 淡希…まさか下手人が案内人だとは思わなかったぞ。」

「あら、もしかして上は多重能力者の開発に成功したのかしら?」

 

 シニカルな笑みと共に首を傾げた少女の名前は結標 淡希。学園都市の中心、『窓のないビル』への案内人である。

 彼女はキャリーケースを持っていた手と反対の手に持っていた軍用ライトを悟へと向けてきた。

 

「────ッ‼」

 

 即座に右に飛ぶ。先程まで自分が立っていた場所に数本の針が突き刺さっていることに軽くゾッとしつつも反撃しようとする。

 

 しかし、結標はすでにそこには居なかった。

 

「チッ…」

 

 舌打ちをして、悟はこめかみに人差し指を押し当てる。

 

「コードナンバー36。『空間転移』」

 

 そう呟くと、悟は右手の機械のモニタを操作し始める。

 

「ヘイヘイ天井さん、お相手のバックは分かったかにゃーん?」

『まだ調べ中だ…というか、その口調はなんだ?』

「今ちょっと色んな所から情報仕入れてるから頭の処理力が追い付いてないっぽい?」

『何故疑問形なんだ?』

「コレ、完全ランダムなンだよなァ。結局、こンな口調で会話するしかないって訳なンで。どうぞ『諦めて』くれ」

 

 そう言いながらも、彼はビルの階段を下るべく歩き出すのであった…

 

 

 

 

 

 

「盗まれた?」

『ハイ、申し訳ございません。急に渋滞が発生して…』

「ケースにGPSはついてる?」

『勿論です。』

「じゃあ位置コードを送りなさい。私がアレを破壊してくるわ。」

『…承知しました。』

 

 どこかの部屋の中。そこには二つの影があった。片方の影が無線機を仕舞うと同時、もう一つの影が蠢く。

 

「と、言うわけでちょっと壊してくる。」

「『破壊』じゃなくて『回収』じゃなかったかしらあ?」

「『回収』より『破壊』の方が確実性があるもの。」

 

 冷ややかに、吐き捨てるようにそう言う影。ソレはゆったりとした足取りで、どこかへと消えていくのであった…




次回も遅れるかもしれませんが、これからもどうぞ本作をよろしくお願い致します。

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