とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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「ええい‼こいつとは何もねーって言ってんだろうがクソッタレがァ‼」

 悟は自らの沸点を完全に突破させたらしく、彼は病院でうがー!と叫び声を上げていた。

「…ンだァ?アイツ。」

 第一位が冷めた目でそれを見つめる中、

「んみゅう…」
「あわわ、病院で病人以外が寝ちゃいけないよってミサカはミサカは厳重注意!」

 彼の後ろには打ち止めことラストオーダー。そして、黒髪のお団子を左右に揃え、ミニスカートに黒いストッキング、そしてサマーセーターを着た少女が、静かに寝息をたてようとしていた。


閑話 次の事件へのプロローグ

「君にお客様だね?」

 

 そう、始まりは数時間前。全身打撲と足の筋肉がぶっ壊れかけていること、全身が筋肉痛となっている悟は入院と相成っていた。

 

「俺にですか?」

 

 そう言ってリンゴを飲み込む少年こと悟は病人の着るであろう服に身を包み、若干混じった白髪をポリポリとかいていた。

 

「海人の野郎ォか?」

 

 読んでいた本から目を離し、気だるそうな言葉を吐いたのは悟と同じ病室である一方通行と呼ばれる少年だ。学園都市第一位という称号を持つ彼は病室のベッドの上に靴を履いたまま寝転がるという何とも行儀の悪い事をしながらブラックのコーヒーを飲んでいる。

 カエル顔の医者…冥土返しというあだ名を頂戴している彼はいや、と首を降った。

 

「何でも『周期お兄ちゃんのお見舞いに来ました』と言っているようだけれど…心当たりはあるかい?」

「帰らせてもらっても?」

「帰らせるも何ももう部屋の前に来て、そして飲み物を買いに行ってしまったんだね?」

 

 マズイ。

 全身から変な汗を流しつつ、悟はそんなことを思った。正直な話心当たりがありすぎて困るのだが、ここで彼女と鉢合わせると面倒くさいことになること請け合いである。

 

「周期だァ?人違いなンじゃねェか?」

 

 一方通行は怪訝な目でそう言う。今この場所にいるのは悟、一方通行、冥土返し、そして打ち止めの4人である。周期という名を持つ人物など存在していないのであった。

 

 コンコン。

 と、そこで控えめなノックが響く。悟はビクゥッ‼と体を跳ねさせ、全身から謎の汗を流していた。

 

「おや?来たみたいだね?」

「おい待て逃げようとしてンじゃねェよお前。」

 

 窓を開けて飛び出そうとした悟を一方通行が襟首を掴んで引き留める。ぐえっ、というカエルが潰れたかのような声を出す彼であったが、それであってもジタバタともがいている。

 

「…打ち止め。」

「りょうかーい、ってミサカはミサカはアイコンタクトで得たことを実行してみる!」

「げぶ!?」

 

 一方通行が視線を送ると学園都市第三位『超電磁砲(レールガン)』にそっくりであるものの見た目十歳位の少女が悟に微弱な電気を流して気絶させた。彼女の名前は打ち止めといい、超電磁砲のクローン、妹達と呼ばれる存在の最終ナンバーである。

 

「な、何をするだァーッ‼」

 

 一瞬で復活すると一方通行と打ち止めに詰め寄る悟。対して二人はニヤニヤ笑うと、

 

「いやー、テメェをこンなに焦らせるヤツがどンなヤツか見てみたくなってなァ」

「私も!って、ミサカはミサカは右手を上げて同意!」

「お前らマジふざけん────

 

 悟の言葉が続いたのはそこまでだった。ガラガラ、という控えめな音とともに、病室に飛び込んでくる一人の影が。電気ビリビリによって何時もより反応速度が落ちている悟は避けきることもできずその体当たりを喰らってしまう。

 

「ぐほっ!?」

 

 50センチメートル程吹っ飛び、仰向けに倒れる悟。頭はギリギリで守ることに成功したものの、逃げるのに失敗した彼はゆっくりと体を起こす。

 

 

 

 

 そこにいたのは、一人の少女であった。黒い髪をお団子にし、黒のストッキングにミニスカート、そして白と青のボーダーのあるサマーセーターを着ている。

 

「お、おーい『円周』さーん?」

 

 悟が、おそるおそるといった様子で声をかける。円周と呼ばれた少女はゆっくりと顔を上げ、

 

「…周期お兄ちゃん」

 

 少し感情の起伏がないような瞳で、しかししっかりと悟の目を見据えて。そう、言ったのだ。

 

「俺は周期じゃねーっての」

 

 呆れたようにそう言って、でこぴんを一つ。

 

「あう」

「早よどけ…見舞いに来たんだろ?」

「うん」

 

 円周と呼ばれた少女は、そう言って立ち上がる。悟は彼女が離れた後に気だるげに立ち上がり、ベッドに腰かけた。

 

「おーい悟っちーっ‼」

「!?マズイヤツが来た‼」

 

 ガラガラ‼という先程の円周が開けたときよりも若干大きな音が鳴った瞬間、悟はものすごいスピードでカーテンを閉める。

 中から一方通行の抗議の声と打ち止めの驚いた声が聞こえてくるがそれらをつとめて意識の外に追いやり、悟はベッドに寝転がった。この間僅か0.01秒。神業である。

 

「やっほい!このオレがお見舞いに来てやったんだぜい‼」

「帰れ。家じゃなく土に還れッ‼」

 

 指を突き立ててそう言った悟。しかし相手…土御門 元春はにゃははー、と笑うだけで相手にしない。

 悟としては円周の存在がバレると非っっ常に面倒くさい事になることは確定的に明らかなので、願わくばこのまま円周には隠れていて欲しい所である。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ちょっ、おまっ、出てくんな…」

 

 しかしそこはちょっとばかり常識が抜けている円周である、すぐにカーテンの下から出てきてしまった。悟は慌てて押し戻そうとするも、時すでに遅し。

 土御門はぷるぷると震えたかと思うと、ズビシ‼という音とともに円周を指差した。

 

「おいテメエこの娘はどういうことだ‼」

「知り合いの娘さんだコンチクショー‼見舞いに来てもらってるんですぅー‼」

 

 鋭く視線を送る土御門に全力で否定を返す悟。

 

「妹、しかも義理ときたか‼キサマ、生きて帰れると思わないで欲しいにゃーッ‼」

「…(ピーーーーーーー)野郎」

 

 思い付く限りの罵倒を並べた悟は素早く立ち上がり、土御門を排除すべく動き出す…

 

 

 

 

 

「クソッタレ…アヤツのどこにあんな力が…」

 

 そして、今に至る。

 土御門を排除することに失敗した悟は荒い息を吐きながらベッドに寝転がっていた。体を無理して動かしたために怪我が悪化したのである。ちなみにあの後円周はふらっと帰ってしまった。

 

「『再現開始』…つっ。」

 

 肉体再生(オートリバース)の演算を組み上げようとするも、唐突に頭痛がする。天使の力(テレズマ)を展開した影響だろうか。悟はベッドに寝転がると、思考を開始した…

 

 

 

 

 

 学舎の園。第七学区にあるというそこは学園都市の中でもトップクラスのお嬢様学校の集まる町である。そんな町であるからこそ、セキュリティも厳重になっている。

 

 

「ふわああ…」

 

 しかし、『彼女』は明らかに学舎の園の人間ではない。ボーダーのシャツにホットパンツというラフな格好をしている『彼女』は大きな欠伸をひとつして、歩いていく。その行動はこの学舎の園において異質とさえ言える行動であるが、回りの人間は一切彼女に気がついていない。

 彼女の名前は凪川 華。悟の先輩である海人の正真正銘義理の妹である。彼女は今、ある事情からこの学舎の園に侵入しているのだ。

 

 彼女はふと携帯を取りだし、操作を始める。

 

「…えへへっ。」

 

 にへら、と笑う彼女の見ている画面にはベッドに寝転がる顔立ちの整った少年…凪川 海人が。

 実は彼女、悟程ではないがかなりの情報処理能力を持ち、この町にある『滞空回線(アンダーライン)』というナノデバイスをある程度掌握しているのだ。───使い道が海人の動向の監視、という時点でちょっとどころかかなり残念な少女である華だが、それには気づかず町を歩いていく。

 

「───っと。ごめんなさいね。」

「いえ…おや?」

 

 携帯電話の画面を見ながら歩いていたためか、華は人とぶつかってしまう。

 そのツインテールの少女は華を見て怪訝な目をした。どうやら学舎の園の住人でない華を警戒しているようだ。

 

「何か?」

「すみませんが私、風紀委員の白井 黒子と申しますの。…もし差し支えなければお名前の方お伺いしても宜しいでしょうか?」

 

 華は内心で納得した。風紀委員は学園都市の、それも能力者専門で治安維持を行う組織だ。彼女の愛しの海人も所属している組織である。

 

「凪川 華。霧ヶ丘女学院の1年生よ。ここに来たのは…まあ友人からの招待、って所かしら?」

 

 嘘は言っていない。例え悟のクラスメートである吹寄 制理より立派なモノをお持ちであろうと、ちょっとどころじゃ済まされないほどのヤンデレであろうと、華は紛うこと無き高校1年生である。白井ははあ、と生返事をして言葉を続ける。

 

「ではそのご学友の方は?」

「門の方で待っててくれるはずだったんだけど…急にメールが入っちゃってね。寮の方で待ち合わせすることになったの。メール見る?」

「ああいえ。大丈夫ですわ。お引き止めして申し訳ありません。」

 

 白井は華に頭を下げてその場から立ち去っていく。華はそれを見送ると、再び人混みに消えていくのだった…

 

 

 

 

『────さて、と。君を呼んだのは他でもない。』

 

 学園都市のとある場所にあると言われている『窓の無いビル』。そこには二つの存在があった。

 一つは、緑色の手術着を纏った『人間』アレイスター・クロウリー。男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見える彼は、ここではないどこかを見つめていた。

 

「『歯車』なら、君の想定内の成長を遂げているよ。…ストロビラにもいずれ気付くだろうね。」

『それなんだが──仮想敵に『歯車』を加えて欲しい。』

「何だと?」

 

 もう一つの存在…ダンディーな声を持ち、葉巻をふかすソレは、アレイスターの言葉に眉をひそめる。元々、彼はイレギュラーな存在に対する安全弁となっている。

 例えば死なない魔術師であるレディリー=ダングルロード、このビルの地下に封印されているフロイライン=クロイトゥーネ、そしてコードネーム『ドラゴン』。有り体に言ってしまえば化け物達の集まりである。そんな中に、たかが歯車を放り込むと?

 

『疑問に思うかもしれない。』

 

 それを知ってか知らずか、アレイスターは自嘲じみた笑みを浮かべた。

 

『だが、彼の性質が些か裏目に出たようだ。』

「…確か、『収束点』だったかな?イレギュラーを一つに纏めることで観測しやすくしてしまおうという。」

 

 そうだ、とアレイスターは頷いた。

 

『彼の強さの本質は魔術にある。より正確に言うならば、ありとあらゆるものを解析できてしまう、という一点に尽きるだろうね。()()()()()()()()()君をぶつけておけば例えストロビラに気付こうと倒すことは可能だろう。…だが、彼は幸か不幸か魔術に触れてしまった。』

「『歯車』が魔術を使うと?それこそあり得ないだろう。アレにだってリスクとリターンをかける天秤ぐらい備わっているはずだろう?」

『そこではない。問題は魔術サイドに彼がありとあらゆるものを解析する能力を持っている事がバレたということだ。』

 

 もう一つの存在が、息を呑む。つまり、アレイスターの言いたいこととは…

 

「───操られた『歯車』を倒すための、か。」

対魔術式駆動鎧(A,A,A)さえあれば可能なはずだが、念には念を入れておくべきだ。もし彼が魔神の領域に至ってしまえば、ソレだけで私達は彼を滅ぼさなければならなくなる。』

 

 というより、歯車はこれまで魔神になるチャンスなどいくらでもあった。今までそれはストロビラを使用して防ぐことができていたが、これからストロビラに気付かれて魔神の領域に突っ込んでしまった場合…

 

『そう言えば、彼を歯車へと推薦したのは君だったな。』

 

 ポツリ、とアレイスターが呟いた。彼は思い出す。この都市では珍しい、解析系統の能力を持つ少年。彼の眼にはなにも写っていなかった事を。

 

「彼の眼は、存在しているだけで他人の過去を観測し続ける。それは善悪で言えば悪に当たることだが、改善しようと努力しているのは好悪で言えば好ましい。世界中の現在を観測し続ける事は、善悪の判別はつかないがね。」

 

 ふぅーっ、とその存在は葉巻をふかす。どうしようもなく狂っている都市で、唯一その精神を壊されることなく、外の常識で物事を判別し続ける存在。…ソレゆえの歯車。

 

『彼が己を確立したとき、果たして彼はどの方向に転ぶのだろうね?』

「さあな。ただ言えるとすれば──

 

 そして、化け物達の話し合いが終わったとき──

 

 

『「───彼がどうしようもなく狂ったとき、だな。」』

 

 ───次の物語が始まる。




 オリジナルキャラ紹介

 名前:山峰 悟(やまみね さとる)

 能力:天地解析(LEVEL3)

 学園都市に通う学生。全体的には黒いものの白髪がメッシュのように混じった中性的な顔立ちの少年。
 第七学区、一方通行のお隣さんとして暮らしており、第十学区の風紀委員第132支部に所属。

《天地解析》
 一言で言うと『五感の知覚可能な範囲に入ったものを全て無条件で解析する』能力。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚だけでなく第六感等でも(精度は落ちるが)解析自体は可能。

《眼を持つもの》
 悟の天地解析の動力源になっていた天使の力。アレイスター曰く属性は『解析』らしい。
 使用するとエメラルドグリーンの翼が生える。攻撃方法は今のところ天使の力そのものを飛ばす事のみ。

《多量能力》

 悟の扱う多重能力モドキ。能力者に見られる演算そのものを解析してコピーすることによって、一時的に能力をコピーするというもの。その性質上、悟一人で何百通りもの演算を組み上げる必要があり、デバイスによる補助を受けなければ三種類ぐらいの能力を発現すると頭痛が凄いことになる。





 名前:凪川 海人(なぎかわ かいと)

 能力:加速操作(LEVEL4)

 悟と同じく学園都市に暮らす学生。長点上機学園の高校3年生。茶色の髪に青い瞳、整った顔立ちをしている。(悟曰く「全ての男の敵」。)
 風紀委員第132支部に所属し、主に実動隊の仕事を引き受けている。

《加速操作》
 ありとあらゆる物体の加速率を操作する能力。ただし、効果範囲は自らの触れたものか自分のみ。しかも自分に使うと結構な負担が来るので、常に竹串をポケットの中にいれている。





 名前:凪川 華(なぎかわ はな)

 能力:融点操作(レベル4)

 学園都市に暮らす女学生。霧ヶ丘女学院に所属しているものの、海人の周囲に華の単位が不安になる程度には出没する。
 いわゆるヤンデレというやつで、今日も海人の胃を痛める原因になっているが、本人にその自覚はない。

《融点操作》
 自分を中心とした半径20メートルの物体の温度を-20度から1500度程度まで操れる。結構繊細な操作も可能。

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