とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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第一章 幻想御手についてのレポート
1日目+2日目


「ちわー…」

 

 ここは風紀委員132支部。この少年、山峰 悟が所属する支部である。彼の格好は、風紀委員という治安維持組織には相応しくない、と言っても過言ではないものであった。

 

 白いワイシャツ、黒のノリの効いたズボン。それならいいが、いかんせんそれにサングラスとキャップ帽が追加されているせいでよく言ってチャラ男、悪く言えば不審者の2通りにしか見えなくなっている。

 

「おーう、悟おはよー」

「先輩…また貴方はソファーで寝ていたんですか?」

 

 それに声を返す人物が1人。彼の名前は凪川 海人。この132支部に所属する1人にして、悟の先輩である。彼はヒラヒラと右手を振り、言った。

 

「大丈夫か?昨日、スキルアウトにやられたって固法から聞いたんだが」

「大丈夫ですよ。」

「本当かあ?」

 

 訝しげな視線を送る海人。肩をすくめ、それに答えて見せる悟。海人は重苦しいため息を吐くと、立ち上がって言った。

 

「『幻想御手(レベルアッパー)』の件はどうなっている?」

「一応実在するみたいですが、現物を見ていないので何とも。昨日の騒ぎも、それが原因ですし。」

 

 ふーん、と半目で悟を見やりつつ、机の上にあった緑色の腕章を取り、外へ歩き出す。

 

「パトロールに行ってくる。その間、調べておいてくれ。」

「わかりました。サポートも頑張りますので…」

「おーう、よろしく頼む。」

 

 右手をヒラヒラと振り、扉から出ていく海人。ガチャ、という音をたてて扉が閉まった後、悟はパソコンを立ち上げ、調べものを再開するのだった。

 

 

 

『幻想御手』。それは都市伝説の一種であり、使うだけでレベルが上がる、というものである。今日から夏休みということもあり、こういった都市伝説を真に受けて、信じてしまう人も増えるだろう。素早くスクロールしつつ、悟は頬杖をつきながらネットサーフィンを進めていく。

 

「…ん?これは…」

 

そして、あるスレッドに辿り着いた。そこには『幻想御手入手方‼』というタイトルがついており、どうやら件のレベルアッパーを配布しているらしい。しかも無料。

 

「オイオイマジかよ…」

 

ここまで来ると最早一周回って信じそうになってしまうから不思議だ。どうしてこんなものがあるのだろうか?

 

「…害は無さそうだし、インストールしてみるか?」

 

もしこれが本当にレベルアッパーだと言うなら、現物は持っておいた方がいいかも知れない。

というのも、最近の学園都市では『書庫(バンク)』と呼ばれる超巨大サーバーにある個人情報と能力のレベルが噛み合わない、という事件が増えてきている。もしそれがレベルアッパーの仕業であるというなら、こんな少し検索しただけで出てくるようなサイトはすぐに閉鎖されてしまうだろう。自分で閉鎖する、というのも手だが、もしかしたら都市伝説にかこつけた偽物かもしれない。

 

「…やるか。」

 

カチリ、とマウスをクリックする。どうやら件のレベルアッパーは音楽であるようで、悟の携帯に繋いでそれのダウンロードをしていく。

 

「…こんなアッサリ出来るもんなんかね?」

 

直ぐにダウンロードは終了した。アッサリと、拍子抜けしてしまうほどアッサリと。取り敢えず先輩が帰ってきてから使ってみるか、と考えたところで、電話がなった。

 

「はい、こちらジャッジメント132支部です。」

『悟か?俺だ、海人だ。』

「先輩?どうされたんですか?」

 

電話を掛けてきたのは海人であった。真剣な声をしている彼からただならぬ気配を感じ取ったのか、悟の声が若干固くなる。

 

『『虚空爆破事件』の犯人が…倒れた。』

「ッ‼」

『ついては、風紀委員の中で一番そっち方面に詳しいお前を病院に向かわせることになった。行ってくれるか?』

「…りょーかいです。」

 

通話を終了させ、携帯を掴んで急いで病院に向かう悟。その時点で彼の頭の中からは幻想御手のことは抜け落ちていたのだった…

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

とある病院。そこには先日学園都市を騒がせた『虚空爆破事件』、通称グラビトンの犯人である人物がいた。悟は海人の電話が来てから直ぐに支部を飛び出してタクシーに乗り、ここにやって来たという次第だ。

 

「仕事熱心なのはいいけど、患者が増えられると困るね?」

「す、すいません、急いで、いた、もので…」

 

息も絶え絶えに医者の先生…へ返答する悟。医者は呆れを顔に出すも、直ぐに話始める。

 

「結論から言うと、原因は不明です。普通、昏倒したときには何かしらの原因があるはずなんだけど、それが見当たらなかったんです。…一応、大学の方から専門家を呼んで頂いてますが。」

「成る程…」

 

先程まで息も絶え絶えだったが、話が始まった瞬間にメモを取り出した目の前の風紀委員に苦笑しつつ、「彼を見てみますか?」と問いかける医者。それに悟は頷くと、二人は連れだって歩き出す。

 

「ここですか。」

「そうだね?」

 

そうして、二人はその病室へと入っていく。中は真っ暗で、1人の少年が様々な機械に繋がれている。ピッ、ピッ、という無機質な音を聞きつつ、彼はサングラスをとった。

 

「…『解析』」

 

そう呟くと、少年と悟の目の間を大量の数字が行き来し始める。

 

 『天地解析(オールアナライズ)』。

 学園都市の機械がレベル3を弾き出したそれは、使用者…悟の視界に入ったものを何でも解析してしまうという能力だ。正確に言うと五感すべてを使用して解析しているので、何でも解析してしまうがために殆ど毎日演算をし続けていることと、そのせいで情報量が途方もない量になり、たまにキャパオーバーする、という欠点を除けば悟のようなサポーターにはうってつけの能力である。

 

「(…本当に異常が見られないな…ん?)」

 

 突如、ガタン、という音をたてて悟が立ち上がった。

 

「どうしました?」

「…先生。例えばですが、脳のキャパシティを越えて、能力の演算をさせることは可能ですか?」

「可能だね。でもそうすると昔の君のように昏倒してしまうものですが…もしかして、そういうことかもしれないね?」

「ええ…そういうことかもしれません。」

 

 二人以外には意味のわからないその会話。悟は難しい顔をして考え込んでいる。その銀色の眼はここではないどこかを見つめているかのように、忙しなくぐるぐると回転しているのだった。

 

 

 

「何だと?『虚空爆破事件』の裏には脳科学者が関わっている?」

『ええ…正確に言うと、虚空爆破の裏に幻想御手、その裏に脳科学者、といった具合ですが。』

 

 海人は、パトロール中に悟からそう電話を受けた。悟は事実を隠すことはあっても、嘘をつくことはない。「100%が120%になったときにしか話せません、自信がないので。」と常日頃いっている彼がここまで確信をもって話している、と言うことは事実に近いのだろう。海人は信頼をもって答える。

 

「分かった。俺から177支部に連絡をいれておく。」

『…よろしくお願いします。』

「ああ。」

 

 悟から連絡してもいいのだが、彼はいかんせん信用されない見た目をしているので、177支部の先輩の1人と個人的な繋がりがある自分に連絡してほしいのだろう。

申し訳なさそうな悟の言葉に苦笑を浮かべ、通話を終了させる。

 

「あ、もしもし固法か?俺だ、海人だ…」

 

 そして、海人は信頼のおける人物、固法 美偉に連絡をとるのだった…

 

 

 

「そんなんで本当にレベルが上がるのか?」

「だから使って確かめるんですよ。」

 

 その日の夕方、132支部の二人はファミリーレストランにいた。というのも、風紀委員の活動時間が終わりかけていた時に悟が呟いた一言が原因である。

 

『あっ、そう言えば俺レベルアッパーの現物持ってたんだった。』

『…ちょっとこっちこい悟。』

 

 その後、海人から有難い話、もとい説教を受けた彼はファミリーレストランで海人と話し合いをしていたのだった。

 

「何頼むんだ?」

「アジの開き定食です。」

「…お前高1だよな?」

「そうですけど?」

 

 なに当たり前の事を言っているんだコイツ、とでも言いたげに目を向ける悟。海人は何故か重苦しいため息を吐いて、頬杖をついた。

 

「で、大丈夫なのか?」

「副作用とかありそうですよね。」

「…お前が使うんだよな?」

「そうですけど?」

 

 なに当たり前の事を言っているんだコイツ、とでも言いたげに目を向ける悟。海人は何故か重苦しいため息を吐いた。

 

「あれ、何かデジャヴが…」

「気のせいだろ。」

「まあ使うと言ってもこのノーパソで情報を解析するだけなんですがね。」

「そうかい。」

 

運ばれてきたナポリタンをモソモソと口に運んでそれを水で流し込むと、海人は言った。

 

「一応固法に連絡しておいた。あっちもあっちで捜査をしてみるらしい。ただ…」

「ただ?」

「ソースがお前だと言っちまった。」

「…つまり?」

「お前が明日177支部に行くことになった。」

「oh…」

 

 頭を抱え、呻くように声を出す悟。彼はその能力故に女子と話すことをよしとせず、海人に連絡をいれてもらっていたりしていた訳である。…最も、そのせいで177支部の面々からは「先輩を顎で使ういけ好かない奴」という認識になってしまっているが、健全な男子高校生に常時見てはいけないものまで解析出来る何て言う力を持たせてはならない。具体的に言うと見える。色々と。

 

「…何か、すまんな。」

「大丈夫です…ツケが回ってきたんでしょう、きっと。」

 

 遠いところを見るような目をして、HAHAHA、と力なく笑う悟。海人はその肩に手をおき、ポンポンと叩くのだった…

 

「よーし悟さん仕事頑張っちゃうぞー」

「よし、その意気だ‼」

 

 学園都市に大量にある風紀委員の支部のなかでも、構成員がたった二人、しかも思春期の学生二人、という特異な支部こと132支部…『オカルト支部』。その構成員の二人は、そんな風に笑いあっていた…

 

…最も、やけくそ気味ではあったのだが。

 

 

 

 

 

「クソッ、何だって俺らがこんなこと…」

「諦めてください先輩。オカルト支部の好きそうな捜査ではあるでしょう?」

「だからって学生を警備員(アンチスキル)に混ぜるか普通?」

「…この学園都市に普通を求めては行けませんよ、きっと。」

 

 翌日、風紀委員132支部の二人は、明朝に警備員からの電話でたたき起こされ、昨夜起こった不審火についての調査を依頼されていた。

 なんと優しい職場だろうな、と二人で叫んでしまったのも仕方のないことであろう。いっそ清々しいまでの笑みを浮かべ返答する悟。海人は肩をすくめ、調べを進めていく。

 

「どーだ?なにか分かったじゃん?」

「黄泉川先生…焦げあとだけ、というのがやけに引っ掛かりますね…」

「まあパイロは炎の温度操作はできんしな、それ以外…はしらんし。」

 

 学園都市炎を出す能力と言えば発火能力(パイロキネシスト)だ。しかし、一般的にその能力では産み出した炎の温度を下げることは不可能である。とすればコンクリートは溶けているはずなのだがそんなことはなく。温度を操作する能力者、というのもあまり聞いたことはなかった。

 

「でも、心当たりは居ますよね?」

「…」

 

 そっ、と目をそらす海人。恐らく自分と彼は同じ人物を思い浮かべているはずだが、その名前を口にしたとたん彼女が飛んできそうな気がする。そう思ってしまった。

 

「呼ばれてないけどじゃじゃじゃじゃーん‼」

「還れ」

「酷くない!?」

 

 と、唐突に海人の背後に1人の少女が現れる。彼女の名前は凪川 華といい、海人の義理の妹という悟のクラスメートが聞いたら血涙を流して悔しがりそうな境遇をしている。さらに、茶髪に青い眼している海人とは対照的に、長い黒髪にセーラー服といった、清楚な文学少女のような見た目をしている。

 

「じゃあ…暖まろっか♪」

「やめろッ‼」

 

 しかしその実、海人にたいしてのみ妄念的な執着を見せる、いわゆるヤンデレである。こんな少女が学園都市の誇るレベル5に最も近い人物であるなど誰がわかるだろうか。

 

 彼女の能力…『融点操作(メルトオペレーション)』は物体の沸点、融点を操るという能力であり、彼女の手にかかれば液体窒素すらそこらへんで生成出来ると言うから驚きである。…そんな能力でもレベル5足り得ないのは、レベル5の七人が規格外なのか、それともその性格ゆえか。

 

「きゅ~…」

「華。」

「うう…何よ?」

「これ、お前の仕業か?」

「違うよ?私今週第三学区のネカフェにいたし。」

「…悟?」

「嘘はいってないみたいですよー」

 

 額に青筋を浮かべた海人の手によって瞬く間に鎮圧された華に、海人は通常の3割増しほど低い声で問いかけるも、華はそれに否と答える。

 

「これは本格的に手詰まりみたいですね…」

「だな…」

 

 難しい顔をして考え込む二人。そこに警備員の一人…先程黄泉川と呼ばれていた女性が声をかける。

 

「まあなんだ、今日はありがとう。これから予定がないってんなら、一杯のみにいくじゃん?」

「なーにいってんですか黄泉川先生。そもそも俺はこれから予定、が…」

「ど、どうしたじゃん?」

 

顔を青ざめさせる悟。黄泉川は心配そうに声をかける。

 

「…わ」

「わ?」

「忘れてたああああああああああああああッ‼」

「「!?」」

 

 驚きの表情を見せた華や警備員達に構わず、悟はその場を駆け出していく。

 

「…なあ」

「どーしたんです黄泉川さん。」

「アイツ、何があったじゃんよ?」

「ああ、ちょっと大惨事間違いなしの場所にいくだけですんで。」

「ええ…」

 

 サムズアップをして返答する海人。黄泉川は顔をひきつらせ、悟が向かった方に目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、突然だが皆さんはラッキースケベという言葉をご存知だろうか。ライトノベルや漫画の主人公がよく遭遇する、あれである。ある意味では主人公の特権とも言えるその力。なぜこんな話をしたのか、と言うと…

 

 

 

「それで、レベルアッパーのデータがこのファイルには入っていると言うわけね?」

「ハ、ハイ。ソウイコトデス。」

 

 

…進行形で、悟はそれの罠にかかりかけていたからだ。

 

 

 

 ここは風紀委員177支部、その内部である。

 彼の能力、天地解析には一種の弱点がある。と言うのも、彼は『目』として定義しない部分ならば解析を行うことはできない。最も、心の目という単語に代表されるように案外『目』として定義される場所は多い。

 そのため、今の悟はいつものサングラスに帽子、そして手袋に耳栓、ロングコートを着ていた。勿論、何を言っているかが分からないので、今の彼は読唇術を駆使して言いたいことを理解している、というわけである。

 目の前の彼女…固法美偉はその事情を知っている人に分類されるため、悟の不審者めいた格好になにも言及しない。その後、少しだけ話し合いを行い、悟は帰路に着くのだった…

 

 

 

 

 

「あー、あっづい…ヤベエ、頭くらくらしてきた…」

 

 やはりと言うべきか先程の不審者ルックは夏の炎天下には応えたらしく、悟はまるで千鳥足のような不安定な足取りで歩いていた。既にコート、耳栓、手袋は外している。

 

「──して──‼」

「──かぁ?そんな──」

「ん?どーしたんだありゃ。」

 

 と、そこでたまたま目を向けた先に、口論している男女の姿が。…正確に言うと1人の少年を庇うように立つ1人の少女を3人の男が取り囲んでいた。

 

「…」

 

 今ここで、少女を見捨てる事は簡単だ。しかし、今の悟にそんな選択肢は存在しなかった。不自然なほどに明瞭な頭を働かせ、悟は路地裏へと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

「はーい、そこまで…風紀委員だ。何してたかキリキリと吐いてもらうぞ。」

 

 右腕の腕章を見せつけるように立ち、悟は少女と男達の前に立つ。スキルアウトは顔を見合わせるようにして、不意にガハハハと汚ならしい笑い声を上げた。

 

「誰かと思えば風紀委員かぁ?ヒーローでも気取りやがって。ふざけてんのか?」

「ほら、やらない善よりやる偽善って言うじゃん?それだよそれ。」

 

 どーでもよさげに悟は言い返す。スキルアウト達は少しだけ顔を歪め、1人が言った。

 

「おい…ちょっとコイツで試して見ようぜ?」

「そうだな。」

 

 そう言って悟へと手を向ける。そして…悟が吹き飛んだ。

 

「がっ!?」

 

もんどりうって転がるも、直ぐに体勢を立て直してゴム弾を打ち放つ悟。しかし、それはどれにも当たらない。

 

「(『偏光能力(トリックアート)』か‼)」

 

 偏光能力とは、自らの周りにある光を歪めることで姿を隠し、相手の攻撃をそらしたりできる能力のことである。悟は直ぐに解析を始め、どこにスキルアウトが居るかを特定しようとするも…

 

「ガハッ‼」

「気に入らねえな…実に気に入らねえ。」

 

 腹を蹴られた。そう知覚したときには既に数メートル吹き飛ばされていた。痛みでゴム弾の入った銃を手放してしまう。

 

「(しまっ…!)」

 

 そして、一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 

「もうやめて…もうやめてよ‼」

 

 気が付けば、少女…佐天 涙子はそう声を上げていた。

 風紀委員の少年の名前が何か、佐天は知らない。だが、それであっても。殴られ殴られ殴られ。蹴られ蹴られ蹴られ。殴られ蹴られ殴られ殴られ蹴られ殴られ蹴られ蹴られ蹴られ殴られ…

 

「がっ…はっ…」

 

 いつしか、彼は。ボロボロでズタズタで、ぼろ切れのようにされていた。ピクリとも動かない、それであっても無理矢理に体を動かそうとする彼に、思わず声が出てしまった。

 

「さーて…じゃあ次はテメエだなぁ?」

「ひっ…」

 

 嗜虐的な笑みと共にこちらを向いたスキルアウトに、佐天の喉がひきつる。思わず後退りして、後ろに庇っていた少年のように震えていた。

 

「……い…ぶだ…」

「ああん?」

 

 しかし、そうであったとしても。ぼろ切れのようにされたとしても。どんなに惨めな結末を迎えようと。

 

「だい、じょうぶ、だ」

 

 右手が握り締められる。

 足に力が入る。

 左手を地面に叩きつけた。

 膝を曲げ、地面に拳を打ち付ける。

 目に光が灯る。

 少年は、立ち上がった。

 

「大、丈夫だ…大丈夫だから‼」

 

 先ずは右足。そして左足。引きずるようにして彼はスキルアウトへと進んでいく。

 

「大丈夫なんだ…大丈夫だってことだ‼」

「な、何をしていますの!?」

 

 後ろから足音が聞こえてくるのを悟は知覚した。しかし、もう()()()()()()に思考を割いている暇などない。

 

「大丈夫に決まってる…きっと大丈夫なはずだから‼お前らも、諦め、てんじゃ…」

 

 ドサリ。風紀委員の少年は地面に倒れ込んだ。体はピクピクと痙攣し、出血多量で顔が心なしか青い。

 

「悟先輩‼」

 

 足音の主…白井 黒子は、風紀委員の少年…山峰 悟に駆け寄る。スキルアウト達に、既に戦意など欠片も見られなかった。

 

 ──おやすみなさい、『──』!──

 

 今はもう聞くことのない、そんな言葉が聞こえた気がして。悟は意識を手放すのだった…




ヒロインは決まってないです。
8/7 加筆修正を行いました。

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