とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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閑話 事件への誘い

「いつつ…」

 

第七学区のとある場所。そこを悟は肩の辺りを抑えながら歩いていた。

理由は言わずもがな、昨日の絹旗とか言う中学生との追いかけっこである。

音が聴こえなくなったのは『解析』を使えばおおよそのカバーは可能だが、この筋肉痛はどうにもならない。

何せ悟はまともな教育機関に通ったのは高校生になってからなのだから。

町を歩けば『目』が勝手に相手の知識を解析し取り込んでくれる。わざわざもう理解したことを習いにいく必要など感じられない、と悟は思っていた。

しかし、どこぞのカエル医者曰く「15歳になってるのに高校に通っていないのはおかしい」との事なので、近い高校に入学することになった。

…その高校が真っ黒スパイにブレインカチューシャがいる場所だと知っていれば全力で拒否しただろうが、今となってはもう遅い。

兎に角、悟はその高校に通っており、成績はもちろん学年一位。むしろ一位じゃなかったら発現してから何十回、何百回とキャパオーバーを起こしたのが無駄になってしまう。

カエル医者の作った機械の強化をしていたせいで頭のおかしい科学者集団とも知り合いになってしまったし、ブレインカチューシャにも目を付けられる事になってしまった。

こうして改めてみてみると自分の人生って平凡に程遠いんじゃねぇの何て思う悟。

 

「…この高校って転校できたっけ?」

 

呟き、自らの通う高校を見上げる。そんな彼の肩を叩く人物が一人。

 

「よお悟!」

「上条か…おっす。」

 

それは上条当麻だった。悟は首を傾げて言う。

 

「土御門の奴はどうした?」

「土御門なら朝からいないんだが…先に学校に行ったんじゃないか?」

「さいで。」

 

そんな何時も通りの会話をしつつ、教室へと入っていく悟。

 

「やっほい上やん!悟っちも!」

「おっす青髪…そのあだ名はなんだ?場合によってはゴム銃の使用をしなければいけないんだが。」

 

青髪の挨拶にカバンからノータイムでゴム銃を取りだし、まるで菩薩のように口元を歪める悟。但し目は一切笑っていない。

青髪は何時も通りに糸目を少し曲げ、

 

「いやー、悟っちも何だか夏休みが終わってから親しみやすい見た目になってもうたやん?」

「あの帽子とサングラスのことか?あれらは不可抗力だって言ったはずだが…」

「それだから、や!それに貴重な男の娘の属性を持っている悟っちともっと親しくしたいんや‼」

「よしお前そこになおれ‼」

 

青髪の弁解する気すらない言葉にキレたのか悟はゴム銃のセーフティを解除、青髪の手前に発砲した。

その後の騒ぎは、担任教師である小萌が入ってくるまで続く。そして、青髪と悟は校庭の草むしり係に任命されたのだった。

 

 

 

 

そんなこんなで昼休み。

悟は騒がしくなった廊下を尻目に教室でパンを食べていた。

 

「なあ悟?」

「んー?」

 

そんな悟に声をかけてきた土御門。彼は自らの頭に手をのせて言った。

 

「ちょっち聞きたいことがあるんだにゃー。」

「?何だよ?」

「…悟は『温度操作《サーモコントロール》』って能力を知っているかにゃー?」

「ああ。知っているぜ。確か学園都市最初のレベル5だったか?」

 

そう言ってパンをかじる悟。温度操作と言うのは能力の区分の最高峰、レベル5に学園都市で初めて到達した能力者の事である。

現在でさえ一方通行や垣根、御坂等のようなレベル5は七人いるが、当時はその人物以外レベル5が居なかったらしい。

しかも、当時のデータによると現在のレベル5序列でも上位に食い込む程の実力を持っていたとかなんとか。

 

「その通りですたい。最近、どうやらその温度操作が復活したんじゃないかって言う噂がたってるんだにゃー。」

「…マジで?」

 

悟は驚愕を露にする。温度操作は五年程前に死んだと言うことになっているからであった。

仮に能力を発現したところで初春のような温度を保つといった程度の能力しか発現していないのがここ最近の温度操作系統の能力者の立場である。

 

「だから、都市伝説大好きな悟ならなにかしら情報を貰えるかなーと思ってたけど…どうやらその様子だと知らないみたいだにゃー?」

「ああ…初めて知った。」

 

悟は頷くとカバンからノートパソコンを取り出す。それの電源をつけ、悟は都市伝説サイトを漁っていくのだった…

 

 

 

 

「いでででで‼」

「ホラ、動かない動かない!海人の傷は重傷なんだから‼」

「だからってこんな理不尽な話があるかってんだ畜生め‼」

 

ここは学園都市にあるとある病院。そこには腕をギプスで吊った海人とそれを甲斐甲斐しく世話する華がいた。

あの後、華の能力によって石像を丸ごと『溶かす』事で証拠の隠滅を図った華と海人。

だが、シャッターをぶち抜いた始末書を書かなければならず、海人は呻きながらも始末書の山を病室で片付けていた。

と言うのもあの後何か腕に違和感を感じるなと思って病院に行ったところどうやら複雑骨折しかけているらしく、緊急入院と相成ったのである。

故に海人は、利き手ではない方の手で始末書を書き続けていた。

 

「ねえ海人?」

「何だよ?」

「依頼の事なんだけど。」

「…ああ。」

 

ちょっと待っててね、と言って華はどこから取り出したのかパソコンを開いて操作し始める。

 

「『多重能力者の亜種の種類』を調べてほしい、ってことだったわよね?」

「ああ。」

「まずは多才能力、これは夏休みに海人や御坂さん達が関わっていた案件ね。大量の能力者の演算回路を特定の脳波でリンクさせることで、何千種類の能力を同時に扱うことのできる、まさに多才の名を持つのにふさわしいものよ。」

「…それで?」

「もう一個あったのが『多量能力』。」

「多量能力ぅ?」

 

不思議そうな顔をした海人に、華は何枚かの書類をこれまたどこかから取り出す。

 

「こっちは他の能力者の演算を解析、複製して自らの脳で演算を行い、他人の能力をトレースすることに特化している。一度能力を使っているところを見れば大体レベル0からレベル1の能力を発現できて、何回も見ていくごとにレベルも上昇していくわ。」

「解析…成程、悟の『目』か。」

「正解。多分悟君がやけに多重能力者に関する知識を持っていたのはこれが原因ね、特力研にいたのならばそんな知識を持っててもおかしくない。」

 

始末書を書く手を止め、顎に手を置く海人。しばらくして、彼は口を開いた。

 

「特力研って警備員に制圧されたんじゃなかったか?」

「ええ、そのはず。何かしらの理由で悟君は生き残ったんでしょうけど…」

 

そう言って真剣な表情になって考え込む華。

海人も既に始末書を書く手は完全に止まり、思考を加速させていた。

 

「悟…お前は、一体何者何だ?」

 

その疑問を、確かめるため。

 

 

 

 

「…つったって、俺が何かする訳無いだろ?それがテメエとの『取引』なんだからさ。」

 

その日の夜、悟の家。この学園都市で最も情報の漏洩が少ないと言う謎の称号を得ているそこに、悟の声が響いた。しかし、モニターに『no image』と言う画像しか写し出されていないその人物は冷静に返してくる。

 

『しかし、この学園都市に多重能力者等君以外に存在しないだろう?』

「俺のは『多量能力』だ、多重能力とは訳が違いすぎる。」

『だが多才能力ではない。その気になれば虚数暗号なんか使わなくても多量能力を使うことも可能だろう?』

「…何が目的だ『犬畜生』、テメエにやった研究成果は『アレ』で十分だろ?」

『『相反演算式』のことか?確かにあれは凄い。君が『木原』であればいいと何度思ったことか。』

「あんなイカれたマッド集団に入りたくなんてねえよバカにしてんのか。」

 

半目になりながらも『犬畜生』と言う名の人物へと返答する悟。

 

『…唯一君は比較的まともだろ?』

「あの集団での比較的が一般常識だと変人なんだよ…アンタに至ってはそもそも人じゃねえし」

 

頭をガシガシとかいてそんな事を言う悟に『犬畜生』は若干態度を和らげたのか、『本題に入ろう』と前置きして言った。

 

『君は『幻想神手』と言うものについて嗅ぎまわっていたな?』

「おう。」

『それなんだが、あの天井 亜雄が関わっていたものらしい。』

「ハァ?天井っつったらあの時警備員に拘束されたはずじゃねえのかよ?」

 

驚きと共にそんな事を言って悟はパソコンの前を離れる。そのままカップ麺を持ってくるとお湯を入れ、次の言葉を待つ。

 

『確かにそうだ。しかし、学園都市と敵対する勢力が天井の身柄を確保したらしくてな。私としては直々に出向きたいところではあるんだが…』

「あのロマン装備で行ったら目立つに決まってんだろバカ野郎。」

『何故だ!?ロマンを追い求める事の何が悪い!?』

「そうじゃなくて相手が目立つ場所を堂々と闊歩してるワケねえだろ阿呆。」

 

コイツ頭大丈夫か、何て思うもそう言えばコイツら頭大丈夫じゃない集団だった、というところまで直ぐに思考がおよび、溜め息をつく悟。

 

『…兎に角、その幻想神手。それと樹系図の設計者、その演算中枢(シリコランダム)の『残骸(レムナント)』を組み合わせて使おうとしているそうだ。』

「…多才能力者を『外』で作ろうって訳かよ、めんどくせえ事になってんなぁ。」

 

『犬畜生』がそう言った事に関して直ぐに思考が働きそう言う悟。

樹系図の設計者。それは学園都市が世界に誇る超高性能なスーパーコンピューターの事である。

しかし普通の人間はそれを聞いてもまだそのコンピューターは宇宙に浮いているはずだ、と反論するはずだ。

だが悟はいつかのトンデモビームを解析したせいで樹系図の設計者が既にぶっ壊れているのを知っている。そのため『犬畜生』の言ったことをすんなりと理解できたのだ。

 

「ん?でも待てよ。じゃあ残骸じゃなくてもよくないか?」

『君なら少し考えれば分かるはずだが?』

「…オイオイ、あの実験は俺が無理だって証明しただろ?」

『『外』の連中が君の論文を見ているわけがないだろ?実際、アレは統括理事会と私達しか見てないのだから。』

「…絶対能力進化実験。あのクソみたいな実験を『外』で繰り返そうとしてるってことか。」

 

低い声でそう言う悟。絶対能力進化実験は、八月半ばに悟が上条と共に中止に追い込んだ実験であり、悟(というか匿名で出した論文を書いた人物)が統括理事会に目を付けられる原因となったものでもある。

彼としては反省も後悔もしていないが、『犬畜生』曰く『木原のバックアッパーと言ってもまだ納得してもらえないレベル』の事を悟はやってのけているらしい。

…正直な話木原の方がもっとヤバイことをやらかしている気がするのだが、それはそれ、これはこれという事なのだとか。

兎に角、演算中枢が生きているなら例え『外』の科学力であっても樹系図の設計者を組み直すことなど容易いことだ。だからこそ、犬畜生は自らにわざわざ頼みに来たのだろう。そこまで思考したのを読み取ったのか、『犬畜生』は葉巻をふかした。

ふかした、というのはあくまでそんな気がしただけである、あのロマンを求めるワンコはどうやら自分に大事な一言を言う際に葉巻をふかす癖があるようなのだ。

 

『ふぅー…それで、君に頼みたいことは、樹系図の設計者の残骸の破壊だ。』

「破壊だと?回収ではなく?」

 

しかし『犬畜生』から放たれたのは予想外の言葉であった。てっきり彼は残骸の回収を依頼すると思っていたのだが。

 

『ああ、破壊だ。これはアレイスターが直々に決めたこと、君の取引にも関わる案件だ。』

「…『プラン』か?また上条か一方通行を関わらせると?」

『そうなるな。』

「マジか。…分かった。なるべく目立たずにやってみる。」

『そうだ、この前新しい起動鎧が出来たんだがな─「グッバイ!」

 

そう言って通信を切断する悟。この前この手の話を聞いたときに通信費が大変なことになったので今回は賢い選択をしたと言える。

あのワンコはいい加減こちらの財布事情も考えてみるべきだ、少なくとも自分はそう思っている。何十回思ったか分からないその考えをしつつ、悟はパソコンを閉じて、一息つく。

 

「…はあ、ちょっと可哀想ではあるんだがなぁ。」

 

愚痴とも言えるそんな呟きは、LED電球の照らす部屋に反して、どこか暗い響きを伴っていた。

そして悟は携帯電話を取り出すと、どこかへ電話をかける。話している相手は───

 

 

──学園都市のレベル5第三位。超電磁砲《レールガン》こと御坂 美琴である。


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