とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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今回から新章になります。


第三章 虚数学区と五行機関、そして多量能力者に関する報告書
九月一日 証明の始まり


学園都市には、昔から有名な、とある都市伝説がある。

数十年前、たったひとつの研究所から始まったといわれている学園都市。その始まりとなった研究所は一体どこにあるのか。今となっては誰もわからない。地下深くにあるのか、特殊な能力や技術で偽装されていて気付かないのか、あるいはとっくの昔につぶれてしまっているのか………兎に角、いずれも裏付けのとれていない噂話だ。

 

 

「あー、あの噂?あれってやっぱ統括理事会が隠してるよね~~。」

 

「逆逆!研究所の『架空技術』のAIが、裏から理事会操ってんだってば。」

 

「地下深くの『才人工房《クローン・ドリー》』ではボタン一つで『天才』を送り続けているそうだが───

 

「…キョーミ本位で調べてたヤツが、猟犬部隊《ハウンドドッグ》にラチられたってよ…」

 

噂は絶えない。そんな、『確かにあるはずなのに誰も存在に気がつかない、見えない研究所』。学園都市の二十三の学区に当てはまらない『それ』はこう呼ばれている─────

 

 

 

───『虚数学区・五行機関』───

 

 

 

 

「さって…と。」

 

ここは学園都市、第七学区。悟は自らの通うとある高校へと向かっていた。彼は夏休み前までかけていたサングラスや帽子を着けることなく、九月一日の学園都市を歩いていく。階段を登り、廊下を歩いていく所で、彼はふと顔を上げた。

 

「(上条か?)」

 

と、そこで彼は教室のドアを何者かが開けたことに気づく。

その人物が悟の目に表示されない…すなわち、上条であることに気づき、少々驚く悟。自分なら怖くて行けないものだが、何て思いながらその後に続く。上条は宿題を忘れたと勘違いされたのか、クラスの皆が歓声を上げている前に取り残されていた。

 

「毎度ー。」

 

そんな、何時も挨拶をして、クラスの中へと入っていく悟。彼の予定では、ここから何気無い日常が始まる予定であった…

 

さて、ここで悟の容姿について描写させていただこう。身長、凡そ165cm、全体的には黒いものの白髪が所々メッシュのように入った髪、夏休み前まで見せることのなかった銀色の瞳。そして、中性的な顔立ち…

 

「…ん?どーした、人の顔ジロジロ見やがって。」

「「「あの…どちら様でしょうか?」」」

「あ゛?」

 

…故に、サングラスと帽子で隠れていたせいで、今まで見えることのなかった悟を、別人として見るのも致し方ない事なのである。

 

 

 

「女子はまだいいとしてさ。青髪以下男子勢。お前らは俺の顔を見たことあるだろ?」

「いやー、何時も毒を吐きまくっているから、まさか悟が男の娘だなんて思わへんかったなー。」

「…お前の頭を撃ち抜いてやろうか?」

「声がマジのトーンだ!?」

 

と、そこでチャイムがなった。悟は舌打ちしてゴム弾の入った銃をカバンの中にしまい、席につく。青髪以下の男子勢も安堵の息を吐いて席に戻っていった。

 

「はいはーい、席についてくださいよ。始業式までにHR始めちゃいますよー。」

 

と、そこで学園都市一番の年齢詐称(逆方向)人物こと、月詠 小萌が入ってくる。

彼女は教員免許をとっている以上、二十歳は越えているはずなのだが、どう見ても小学生にしか見えないという異常すぎる容姿をしている。彼女はそんな小さい背を精一杯伸ばして言おうとするも、青髪がその前に質問する。

 

「センセー土御門クンは?」

「お休みの連絡は受けてませんねー、もしかしたらお寝坊さんかもしれません。」

 

そして、コホンと可愛らしく咳払いをして、小萌先生は言った。

 

「えー、出欠をとる前にビッグニュースでーす‼何と、ウチのクラスに転校生がやって来まーす!」

 

おおっ、とクラスの男子がどよめく。悟は頬杖をつきながら「どーせロクなヤツじゃないんだろーなー」何て思いつつも、次の言葉を待った。

 

「しかも、女の子でーす!」

 

おおー、とクラスの男子の大半から歓声があがる。あげてないのは思考が変な方向に飛んでいっている上条と、そちらをちらりと見やり「ああ、また上条の関係者か。」何て思ってこのクラスに春が訪れないことを知ってしまった悟ぐらいなものである。

 

「では、転校生ちゃーん、入ってきてくださーい!」

「あー、とうまだー!」

「い、インデックスぅ!?」

 

入ってきたのは、銀髪の白い修道服に身を包んだシスターさんであった。悟はその人物が夏の『御使墜し』事件の際に知り合った人物であることに気づき、少し驚く。

彼女の名はインデックス。上条の家に現在居候中のシスターである。悟は現在進行形で騒ぎを起こしているシスターや上条から意識して視線を外し、ぼーっとしていた。青髪辺りが上条に楽しいお話(威圧的に)しているのが聞こえてくるが知ったことではない。

何時も通り過ぎるなこのクラスは、と思いつつも悟はぼーっとしている。

 

 

 

「ん?」

 

と、そこで悟の携帯がピリリ、と音をたてる。ディスプレイには『メールが届いています』の文字が。一体誰からだろう、と思いつつ悟は携帯を操作していく。

 

『緊急連絡。学園都市に侵入者だ。直ぐに詰め所に来てくれ。 凪川 海人』

「…え?」

 

そこにあったのは風紀委員としての『正式な』召集を依頼する文面であり、悟にとっては非日常への片道切符であった。

 

 

 

 

「ちわー、悟ですけどー。」

「おう悟。よく来てくれたな。」

 

ここは風紀委員132支部。そこには二人の人物がいた。一人は、件の少年山峰 悟。もう一人は、悟の先輩こと凪川 海人である。

彼は昨日、複数のスキルアウトを相手に互角以上の戦闘を繰り広げていたものの、少し傷を負ってしまった為に、身体のあちらこちらに絆創膏が見てとれる。悟の何時も通りの挨拶に何時ものように返答し、二人でサムズアップする。そして、海人は話し出した。

 

「侵入者は1名。門を突破する際に地面を隆起させて攻撃していたから、土を操る系統の能力者だと思われる。」

「服装は?」

「黒のゴスロリに褐色の肌。金髪の外国人さんなんだそうだ。」

「…よく騒ぎになりませんね。」

「学園都市じゃ珍しくもない…いや、ないのか?」

 

そう言ってうーん、と首を捻る二人。数分して、海人は「とにかく、だ。」と前置きして話し出しす。

 

「ソイツを見つけ出して捕まえる。悟は監視カメラで初春さんと一緒に177支部と132支部のサポートを行ってくれ。」

「…分かりました。行ってらっしゃい。」

「おう。行ってくるわ。」

 

右手をひらひらと振り、そう言って扉を開けて外に出る海人。悟は頭をかいてパソコンを機動。モニターに監視カメラの映像を写していくのだった…

 

 

 

 

「あー、居た居た。白井に座標データ送っとくぞー?」

『分かりましたー。ありがとうございます。』

 

それから凡そ数分後。悟は177支部に所属する少女、初春 飾利と共に学園都市の監視カメラの映像をしらみ潰しに漁り、ようやく侵入者のゴスロリの女性を発見した。同じく風紀委員177支部に所属する少女、白井 黒子へ座標データを送り、椅子にもたれる悟。と、そこで初春が話しかけてきた。

 

『そー言えば悟先輩?』

「何だ?」

『白井さんから依頼を受けたあの件なんですが…』

「…『謎の多重能力者』だろう?聞いてるが、どうした?」

 

昨日の今日で確認してくるか、と若干身構える悟。ただでさえ昨日、一方通行の応急措置の為に多量能力者になったばかりである、尋問されてもすっとぼけられるような対話力は持っていると思いたいが…

 

『その多重能力者何ですが、夜8時過ぎに、第9学区のビルの合間を飛び移っている姿を、複数の人が目撃しています。』

 

見られてたか、と内心で舌打ちしつつ悟はキーボードをカタカタとやる。そして、ため息を吐いた。

 

「だーめだ、第9学区のその時間の監視カメラ、全滅してる。ノイズどころか映像自体が抜き取られてやがんぜ。」

『…そうですか。』

「ああ。これじゃ手詰まりだな…都市伝説のスレッドとか漁ってみるか?」

『ハイ、よろしくお願いします。』

「じゃー、そういう風に。」

 

そう言ってモニターに目を移す悟。どうやら件の侵入者は白井から逃げおおせたらしく、初春への通信や怨み言が聞こえてくる。

悟はくつり、と一つ笑みを浮かべて多重能力者がどの程度まで知られているかを調べ始める。

 

「(ふーん…割かし知られているっぽいな。)」

 

どうやら悟が夜中に不良を撃退したりしているのが多くの人々に目撃されているらしく、スレッドには『多重能力者は何者何だ?』とか、『どうしたら会えるんだ?』何て言葉が並んでいて、悟は若干驚きながらもスクロールを進めていく。

 

「(お、何だコレ。『幻想神手《AIMインクレス》』?まるで幻想御手みたいだな…)」

 

と、そこで妙な物を見つける。AIMインクレスという名をもったそれはまるで夏休み始めに悟が見つけた幻想御手ことレベルアッパーに状況が非常に酷似している気がするのだ。

悟はやはり音楽データであったソレを、レベルアッパーをダウンロードしたのと同じ携帯にコードを繋ぎ、ダウンロードを開始する。

 

「…やっぱりか。」

 

やはりというべきか、ダウンロードはアッサリと、それこそ拍子抜けしてしまうほどに。これは初春辺りには報告するべきではなかろうかと思い、悟は通信を開始する。

 

「初春さーん?今都市伝説のスレッド調べたら、幻想神手なる物を見つけたんだが。」

『本当ですか!?』

「ああ、この前みたいに一万人近く、って訳では無さそうだが、既に数百人はダウンロード済みっぽいな。…どうする?」

 

悟はなるべく真剣な声で問いかける。出来れば多重能力者からこっちに捜査対象を移してくれないかなあ、何て淡い期待を込めて。

 

『…サイトのURLを送ってくれませんか?』

「おう。構わんぞ。」

 

悟は軽い気持ちで承諾して、URLを初春のパソコンに電子メールで送る。初春は静かな声で、若干の怒りを滲ませていった。

 

『絶対に許しません…この多重能力者は‼』

「お、おう…頑張れ?」

 

どうしてそう言う思考になってしまうんだコイツらは、とつい言いそうになってしまったがソレを抑え込み、悟は捜査の対象がずれるどころか何かそろそろロックオンが済みそうな段階まで来かけていることに絶望しつつ、死んだような目で、投げやりにそう呟くのだった。


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