とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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タイトルのセンスが…欲しいです…


八月三十一日 その日少年は

「仕事ってこんなに多かったっけ?」

 

そう悟は呻くように呟いて、キーボードに指を滑らせていた。

と言うのも、夏休み最終日なので色々と発狂する奴らが出てきているからである。風紀委員恒例、『8月31日の呪縛』。きっと他の支部も大体こんな感じなはずだ。そうでなければ怒る。

思考が短気になっていることに気付かずに、悟は通信機に向かって叫ぶ。

 

「その先の十字路を右方向、その先に居ます‼」

『OK‼…オルァ‼』

 

通信機の先から断末魔が響いてくるのを気にも止めず、悟は反対側の耳で警備員に通報する。

 

「風紀委員132支部、座標データ送ります‼」

『了解‼』

「海人先輩次です次‼」

『OK分かったぜクソッタレ‼』

 

海人の声が通常の3割増しで低くなっていることに苦笑しつつ、悟は座標データを送信していく…

 

 

 

 

「は?ビルが倒壊?」

『らしいです。どうもどっかのバカが暴れたらしく…』

 

海人が大体20個ぐらい事件を解決した辺りで、悟からそんな通信が入る。悟も悟でそこそこ口調が悪くなっているのだが、ソレを指摘してくれる人物は今この場にいない。

海人は半目になりながらも、その場所へ飛んで行った。

スドン‼と、おおよそ人が跳躍した際に鳴るようなものではない音がなり、海人は一瞬で悟が送信した座標データの場所に飛んでいった。

 

「っとと…風紀委員だ。誰かいるかー?」

 

着地して声をかけてみても、誰も返事をしない。どうも自然に倒壊したようだ。

科学の都である学園都市に自然倒壊する建物などないと言うことは少し考えれば分かるのだが、生憎と海人は続けざまに事件を解決しているせいで体力的に参っていたし、それは今もそうだ。この付近に監視カメラもないため、悟の解析も使えない。仮に使えたとしても、この天気の中わざわざ数キロを歩く馬鹿はいないだろう。

 

『──海人先輩‼緊急連絡です‼』

「どうした‼」

『学園都市内部に侵入者‼全身黒尽くめの、見るからに怪しい男だそうです‼』

「場所は!?」

『不明です‼気を付けて下さい、ゲート付近を警備する警備員の人達を倒した強敵ですから‼』

「…OK‼」

 

そう言って海人はその場から跳躍し、居なくなる。その跡には何も残っていないのだった。

 

 

 

 

 

「監視カメラにも写ってねえ、か…」

 

そう呟いて、悟は一旦モニターから視線を剃らす。時計を見ると既に午後2時を回っていた。

 

「…昨日のうちに課題を終わらせておいて正解だったなあ…」

 

ポツリ、とそんなことを呟き、もう一度モニターへ視線を向ける。よりにもよって何でこんな日に仕事を増やすのだろうか。もしかして何か巨大な組織が糸を引いているのか?

…無駄に高い演算能力を使い、無駄に思考を加速させていく悟。何時もならこの辺りで海人辺りが止めてくれるのだが、生憎と海人は出払っているし、華や垣根も居ないのである。

 

「お邪魔いたしますのー…」

「つまり、学園都市は滅亡する!?」

「…いきなり何を言っているんですの悟先輩は。」

「ん?ああ白井か。いらっしゃい。先輩なら居ないぞ?」

 

と、そこで救世主が。扉を開けて入ってきたのは悟の後輩、白井黒子である。彼女は悟の事をまるで不審者を見るかのような目で見る。悟は若干虚ろになった目でそちらを見やり、招き入れる。

 

「相変わらずこの支部は人員が少ないんですのね。」

「…そうだな。でも上に要請しても人員が派遣されない不思議。」

「日本語がメチャクチャですわよ…大丈夫ですの?」

「大丈夫だ、問題ない…ちょっと50個位の監視カメラを同時に見てただけだから。」

「普通はそんなことはしませんわよ…相変わらず自らの身を顧みませんのね。」

「『今やっている仕事に全力を注げ』ってな。ぶっ倒れたらその時だ。」

 

どこかの偉大な先人の言葉を借り、くつりと笑みを浮かべる悟。白井は半目で悟に視線を向けるも、直ぐに表情を変えて悟に言った。

 

「最近、『謎の多重能力者』と言う噂があるのはご存じですか?」

 

 

 

「…ああ、知っている。最近都市伝説のサイトに載ってるアレだろ?」

 

得意のポーカーフェイスで動揺を隠し、悟はさも当然のように返答する。白井は真剣な表情で言った。

 

「私は、その多重能力者が彼の木山 春生の『多才能力』のような物であると考えています。」

「『多才能力』ってアレだろ?幻想御手を使用した奴らのAIM拡散力場をネットワークにして、擬似的な多重能力者になるって言う。」

「お詳しいんですのね?」

「初春の奴が教えてくれたんだよ…得意気にどや顔も含めてな。」

 

誰が治療用プログラムを流したと思ってるんだ、とボヤく悟。初春も初春で放送回線の位置を特定、悟のPCへ送信し続けていたのでどっちもどっちではあるのだが、大怪我を推してまでやったこっちの方が仕事したんじゃね?と密かに思わないでもない悟ではある。

しかし、ソレを口にだす必要もないのだ。白井は「知っているなら話は早いですわ。」と言って話し出す。

 

「もし幻想御手のような事件に発展した場合、前回よりは酷いことにはならないとは思いますが…『多重能力者』がホイホイと産み出されては学園都市のパワーバランスが傾いてしまいますの。」

 

いや俺みたいな変態クラスの演算能力持ってなきゃ無理だからね?そんな言葉を、ペットボトルの麦茶を口に含んで抑える悟。

彼としては風紀委員が本腰いれて捜査してもバレない自信はあるのだが、自らの身を守る手札が少なくなるのは避けたい。そのため、少しからかってみることにした。

 

「ウチみたいなオカルト支部ならまだしも、お前らは結構真面目な方な支部だろう?都市伝説1つごときに躍起になってて良いのか?」

「ええ、大丈夫ですわ。『お姉様』や初春、佐天さんも手伝ってくださっていますの。」

「ぶはっ」

 

悟から変な息が出た。お姉様と言うのは言わずもがな、あの『超電磁砲』御坂 美琴のことであろうか。

その中に真相知ってるかも知れない人いるんですけど、何て言う焦りを抑え込んで、悟は言った。

 

「お姉様って確か『超電磁砲』だろ?そこまで重要な案件かコレ。」

「勿論ですわ。何せ多才能力者は、お姉様をあともう少しのところまで追い詰めたんですもの。」

 

へー、何て気のない声をあげつつも、「あれ、コレ本気で捜査されるタイプか?」何て焦りを募らせる悟。白井は、「とにかく。」と前置きする。

 

「悟先輩にも調べて欲しいんですの、その都市伝説について。」

「…OK、了解。」

「ですので、このように…」

 

 

その後、海人のサポートを行いつつ、白井と具体的にどんな情報が欲しいか、どんな風に送ればいいかなどを詰めていった悟。一時間程話し合った後、白井は「では失礼いたしましたわ。」と言って扉を開けて去っていく。

悟は「まさか、俺が犯人とは思わんよなー…」何て考えつつも、通信機に耳を傾け始める。

 

「んー、やっぱりオレンジだからか人が少ねえな…」

 

そう呟いて、パソコンのマウスを操作していく悟。カチカチ、といろんな場所のカメラへと視点を移していくも、先程の侵入者の影響で学園都市に現在コードオレンジ、すなわちかなり危険な警報が発令されており、そのせいかほとんどの人が家にこもっている。

そのため、人がいない所を重点的に見ていくことにする。

 

『悟ー?』

「何でしょうか?」

『多重能力者の目処はついているのか?』

「いえ…全く。そういったのは特力研とかの畑でしょうしね。」

 

海人の言葉に、そう言ってキーボードをカシャカシャと打っていく悟。彼としては風紀委員に捜査されると割かし困るので、捜査はそこそこにするつもりだった。先程も言ったように、自分の手札が使えなくなるのは避けたいからである。

 

カシャカシャ、カチカチといった機械的な音を耳に納めつつ悟はかなりのスピードで海人との雑談を交えつつ監視カメラへの視線を変えていく。一時間程そうしていただろうか。

不意に、監視カメラの一台が、何かを捉えた。

 

「…ん?この男…ッ‼先輩‼」

『どうした!?』

「第七学区にあるファミレスの一部が、学園都市への侵入者によって吹っ飛びました‼」

『何!?』

 

悟が見たのは、全身黒尽くめの、まるで葬儀屋のような服装をした人物であった。

その男が不意に右腕にあった何かを構え、ファミレスの内部へ向けたかと思うとガラスが吹き飛ぶ。ソレを見た悟は大急ぎで海人に報告。海人は直ぐにその場所に向かったのだが…

 

『風紀委員だ‼大人しく…っていない!?』

「先輩、後ろです‼」

『なっ…ぐはあっ‼』

「先輩‼」

 

海人が着いたとき、侵入者は居なくなっていた。海人が驚きと共に辺りを見渡し、悟は警戒の声をあげる。海人はその言葉に従い後ろを向く。しかし、何かの衝撃を受け吹っ飛んでしまう。悟は焦ったような声をあげるも、海人は軽症、擦り傷のみだったようである。安堵するも、直ぐに追跡を開始する悟。

解析を使ってもいいのだが、生憎と今の時間帯は最終下校時刻に近く、悟が解析を発動させても侵入者の発見より先にキャパオーバーで倒れてしまうだろう。そう考えた悟はパソコンのモニターに先程より2割り増し程の監視カメラの映像を出現させ、侵入者の追跡を開始する。

 

「(居ない…『外』にも偏光能力者が居たってのか!?)」

 

早く見つけないと次の犠牲者が出てしまうかも知れない。焦りと共にモニターへ視線を通しつつ、海人との通信を再開する。

 

「くっそお…どこにいるんだ‼」

『落ち着け悟。クールになるんだ。』

「…はい。」

 

叫ぶようにそう言うも海人から注意を受け、悟は冷静になる。そして、悟の携帯が鳴った。

 

「チッ、こんな時に…‼はい、こちら山峰‼」

『…悟かァ?』

「一方通行!?こんな時に何の用だ‼」

 

電話口に出たのは学園都市の第一位事一方通行、その人であった。悟は苛立ちをぶつけるようにそう言うも、一方通行はいたって平静に状況を伝える。

 

『…ガキが誘拐された。』

「は?ガキって昨日のアイツか?」

『何だ、一方通行の奴子供がいたのか?』

『オイ、何で海人のヤツがいンだよォ?』

『仕事だ仕事。で?ガキの誘拐犯の捜索か?』

『…ああ、そォだ。』

『OK了解。悟、指示をくれ。』

「…いいんですか?今俺達は…」

『いいんだよ。多分アレは『俺達』が関わっていい問題じゃないと思う。』

「何故そう言えるので?」

『さっき、俺至近距離で攻撃を食らっただろ?でも、そこまでのケガは負わなかった。きっと手加減したんだろう。そんなんが出来るのは、少なくとも学園都市では知らない。つまり…』

「…別サイドの人間であると?」

『ザッツライト。まあ只の勘だし、もうすぐ最終下校時刻になりそうだから早く終わりそうなこっちを選んだってのもあるがね。』

「…分かりました。指示を出します。」

 

海人の言い分に納得したのか、悟はモニターの種類を切り替える。そして数分後に、その男を見つける。

 

「ビンゴ。」

『見つかったか‼』

「第七学区、量子力学研究所。そこに不審な白塗りの車を発見。恐らく件の人物でしょう。」

『…助かったぜェ、待たな。』

「オイ一方通行、何をするつもりだ…切りやがったあの野郎。」

『応援に行くか?…チッ‼』

「どうしました!?」

『スキルアウトだ、こんな時に‼クソッ‼』

「先輩!?」

 

ピッ、と言う音と共に通信が切断される。悟は第七学区、量子力学研究所の近くにある監視カメラへと目を向ける。そこには既に一部分を除いてひしゃげた車、そしてその前に立つ一人の少年が。

 

「一方通行…クソッ‼」

 

そう毒づき、悟は携帯を引っ付かんで駆け出すのだった…




次回、ようやく打ち止め編が終了します。どうやって収集をつけようか、まだ考え中ですが、次回もお楽しみに。

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