とある科学の解析者《アナライザー》   作:山葵印

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一応時系列は8月30日になっています。


少年はダークヒーローのヒロインと邂逅する

「先輩‼」

「何だ‼」

「宿題が終わりません‼」

「知らん‼」

 

そう何時ものような軽口を叩き合い、悟はひーこら言いながら宿題を消化していく。

普通、風紀委員はそこまでブラックではなく、この支部も例外ではない。しかし、非日常に関わりすぎた悟にそんな時間があるはずもなく、悟は全力で原稿用紙に万年筆を走らせていく。

 

「垣根ェ‼手伝ってマジで‼」

「断る。俺今将棋やってんだ。」

「お前もか垣根ェ‼」

 

結構マジなトーンで頼むも断った彼…垣根 帝督は将棋盤から目をそらすことなく応じる。悟はガシガシと頭をかいて、叫ぶように言った。

 

「クソッタレェェェ‼」

 

ここは風紀委員第132支部、通称『オカルト支部』である。学園都市の中で一番治安が悪いと言われている第十学区にあると言うそこには、スキルアウト相手には過剰戦力と言える面子が揃っている。

 

「はっはっは‼俺の左美濃は難攻不落‼落とせるもんなら落としてみろ‼」

「甘い…俺に常識は通用しねえ‼」

 

第二位、垣根とまるで魔王のような会話をする人物は凪川 海人。悟の先輩にしてレベル4の『加速操作』を持つ能力者である。

 

「ふんふふんふふーん♪」

 

鼻唄を歌いながらコーヒーを入れていくのは凪川 華。海人の義理の妹にして、同じくレベル4の『融点操作』を持つ能力者である。

彼女は垣根と同じくこの支部の人員ではないのだが、それも今更であろう。というより、彼女に逆らってもメリットがない。海人への歪んだ愛情を除けば彼女は面倒見のいい近所のお姉さん、といった具合なので、海人は周りに迷惑をかけないことを固く命じた上で、この支部への入場を許可している。そんな華は垣根や悟、海人達の前にコーヒーを置いていく。

 

「はい、どーぞ♪」

「…悟。」

「微量の睡眠薬を検出。ソレを飲んだが最後、人生転落コースまっ逆さまでーす。」

「やっぱりか‼」

「あ~ん♪」

「やめんかバカタレ‼」

 

やいのやいの、と言った騒々しい支部ではあるが、仕事だけは真面目にやることに定評のある海人と悟は、割りと全支部の中でも高い評価を受けていたりする。

 

「…相変わらず騒々しいな、この支部は。」

「むしろ騒がしくない時なんて無いがな‼」

 

ちくしょう、とでも言いたげに机を叩く悟。彼に話しかけた少年…誉望 万化はポリポリと頬をかいて、麦茶を悟に差し出した。

 

「飲むか?」

「…くれ。」

 

ソレを受け取り、悟は一気に飲み干す。ぷぱっ、と息を吐き、万化に礼を言って再び万年筆を走らせていく。

 

「因みになにやっているんだ?」

「読書感想文。後テキストが残ってるな。」

「よりによってその二つか…」

「心配すんな、やらかした自覚はある。」

 

そう言って、某太陽が落ちるまで走れとコールがかかる鬼畜作の感想文を書いていく悟。何となくだが、今日中に終わる気がしないでもない。

 

「答え忘れた!?」

「普通にやんのか?」

「そうするわ…ん?」

 

と、そこで電話がかかってくる。悟は電話を耳に置き、それに応じた。

 

「はい、こちら風紀委員132支部…何ですって!?…分かりました‼直ぐに向かわせます‼」

 

そう言って電話を切る悟。そして海人の方に向き直り、口を開いた。

 

「海人先輩…仕事の時間ですよ?」

「暗部か?」

「ウチ、風紀委員何だけど?」

 

海人にそう言って帰ってきた垣根の返事に真剣な顔で突っ込む悟。

垣根や誉望は『スクール』と言う名前の暗部組織に所属しており、風紀委員である悟とは基本的に相容れない存在である。しかしこの支部、132支部は警備員や他の暗部組織、果ては他の風紀委員やスキルアウトとも交流があり、今さらこの程度の繋がりを意識するまでもない。

 

「状況は?」

「女子生徒二人、スキルアウト複数。サックリやって戻ってきて下さい。サポートもやるんで。」

「オッケー任せろ。サクッとやっといてやる。」

 

そう言って扉から消える海人。悟は耳に通信機を当ててパソコンを起動し、右手でペンを持って左手でキーボードを叩き出す。

 

「あー、マイクテスマイクテス。聞こえますかー?」

『おう、問題ないな。で?どこにいる?』

 

 

 

 

 

 

『そこから百メートル先、右の裏路地の突き当たりを更に右です。』

「うーい。」

 

耳元からペンのカリカリと言う音と共に聞こえてくる悟の声にヤル気無さげに返答する海人。彼はそこそこの早さで、その路地へと迫る。そして、何時もの癖でパンパンと拍手をする。

 

「そこまでだぜ、スキルアウトさん?」

 

仰々しく両手を広げ、接近する海人。見ると、服が半分ほど引きちぎられている少女と、その後ろにも一人の少女が。海人は額に青筋を浮かべ、低い声で言う。

 

「風紀委員だ。少女暴行未遂と…まあその他なんやかんやで拘束させてもらうぜ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、海人の元に炎が飛んでくる。ボガン‼と言う音を立てて海人のいた場所が爆散する。海人はソレを自らを『素早く』することで回避を行う。そして、胸ポケットから、1本の針を取りだし、投げつけた。

 

ヒュカッ‼と言う音と共に、スキルアウトの一人が壁に縫い止められる。海人の能力、『加速操作』によるものだ。

スキルアウトの一人が電流を放つ。舌打ちしながらソレを回避し、今度は複数本の針を投擲する。彼の能力と『電撃使い』の相性が悪いのは、長点上機の授業で折り込み済みである。今度は針を投げるのではなく自ら接近し、拳を打ち放つ。吹っ飛んでいくスキルアウト。これで全てか、と残心しつつ、海人は最初に縫い止められたスキルアウトを手錠で拘束し、警備員に通報する。

 

「ふぅ…大丈夫だったかい?」

 

一息ついて、海人は少女達に向き直った。そこにいたのは、茶髪の、恐らくサマーセーターであろう制服を引きちぎられている少女と、涙目になってこちらを見る、長い黒髪の少女であった。

 

「(あー、こりゃ怖がらせちゃったかな?)」

 

さっきまで男共に襲われていたのだ、無理は無いだろう。そう考え、海人は同性である華へと電話をかけようとする。

 

「あ、あの…」

「ん?どうしたの?」

 

声をかけてきたのは一人の、服が引きちぎられていないほうの少女。彼女は震えながらも海人に頭を下げた。

 

「助けてくれて…ありがとうございます。」

「んにゃ、別にどーってことないさ。一応俺レベル4だしね。」

 

大きく頭を下げるその少女に、海人は肩をすくめてそう言う。彼の座右の銘は『仕事は真面目にやる』であり、自らの力を役立てる為に風紀委員となって学園都市を駆け回っている、と言う訳である。

プライドの高いことに定評のある長点上機の生徒は自分さえよければ、と言う考えを持つものが多く、海人のような考え方は異端とさえ言えるが実際に海人に勝てるなど、それこそレベル5ぐらいの人材でなければ不可能だろう。

海人は自らの上着のスウェットを脱ぎ、少女の方に投げてやる。

 

「とりあえずソレを着てくれ…目のやり場に困るから。」

 

心配するような海人の声に何かを感じ取ったのか、もぞもぞとソレを着だす少女。海人は壁にもたれて悟に通信を開始する。

 

「増援は?」

『いないみたいです…あ、駒場さんはいますね。』

「おーまいがっど?」

『いーえ、どうやら別件のようです。』

「助かった…駒場はマジでヤバイ。」

 

そう言って安堵の息を吐く海人。

件の人物、駒場 利徳はスキルアウトではあるのだが風紀委員である海人や悟と協力して事件を解決することもある。戦闘能力が高く、海人ですら苦戦するかもしれない程の実力者であり、スキルアウトを複数束ねている圧倒的リーダーセンスを持つ人物でもある。

 

「あ、あの…名前を聞かせてもらっても…」

「ん?ああ、そうだったそうだった。風紀委員第132支部所属、凪川 海人。海人とでも呼んでくれ。」

 

そう言って、なるべく怖がらせることが無いように微笑みかける海人。何故か二人の少女は顔を赤らめ、頷いた。

 

『あー華先輩落ち着いてくださーい』

『海人に悪い虫が付いてる気がする‼』

『黙れ変態通報すんぞ』

『何時もより悟君が辛辣だ!?』

 

悟が結構真面目な声でそう言う為、困惑した声をだす華。海人はそれに苦笑しつつ警備員を待つ。

 

「あ、ありがとうございます。」

「礼ならいいよ。風紀委員として当然のことだ。」

 

茶髪の少女はそう答え、まあ世の中には風紀委員より勇気のある奴もいるからね、と言って苦笑する海人。

彼の脳裏にはあのツンツン頭の学生が浮かんでいた。彼は今どうしているだろうか何て考えるも、警備員の到着を待ち続ける。

 

「お?ついに海人も過ちを犯すようになったじゃん?」

「アホか。それはねーよ。」

 

到着したのは黄泉川の部隊であった。茶化すようにそう言ってくる黄泉川に返答し、海人はそう言い返す。

 

「で、あっちで伸びてんのと、ここで手錠に拘束されてんのがスキルアウト。この二人が被害者ね。」

「おー、そっちは常盤台のお嬢様方じゃん、何でこんなとこにいるじゃん?」

「常盤台っつーとあれか、お嬢様学校って言われてる。」

 

そうじゃんよ。と頷いて黄泉川は言った。

 

「常盤台は外出時制服の着用義務があるから直ぐにわかるじゃん。お嬢様だから暴力と数で押せばいけると考えたんだろーじゃん。」

 

ふーん、と頷いて、海人は指をならした。

 

「そうだ‼俺が寮まで送っていってやるよ‼」

「え、でも…」

「事情を説明する奴は必要だろう?白井でもいいんだが、生憎と今アイツは『お姉さま』とデート中らしいしなー…あ、でも野郎と一緒が嫌ってんなら無理してでも…「「お願いいたします‼」」お、おう。」

 

食い気味に肯定の意を返した二人にそこそこ焦りを混ぜながら言う海人。黄泉川達を見送り、海人は携帯を取りだして電話する。

 

「もしもし、常盤台の寮監の方でよろしいでしょうか?」

『…凪川の兄の方か。』

「はい、ご無沙汰しております。」

『それで、用件は?』

「常盤台の生徒二人がスキルアウトに襲われました。俺が通報を受け二人を保護、今そちらに向かいます。」

『…怪我は?』

「俺を誰だと思ってんですか?させてるわけないでしょう。…まあ、少し到着が遅れたために一人制服を引きちぎられてしまいましたが。」

『…そうか。その姿を見られても困るな…』

「俺が連れて行きましょう。風紀委員の腕章を着けている生徒におおっぴらに手を出す馬鹿はいないでしょうから。」

『分かった。待っている。』

「では、失礼しました。」

 

そう言って電話を切る海人。携帯をポケットにしまい、二人へと微笑みかける。

 

「じゃ、行こうか?」

 

 

 

 

 

その日、常盤台中学学生寮は大騒ぎになっていた。何故なら、一年生の泡浮 万彬と湾内 絹保がスキルアウトに襲われていたと言う情報が入ってきたからである。

少女達は彼女達を大丈夫かどうか心配していた。…しかし、彼女達の興味は別の人物に写っていた。

 

「(あの殿方はいったい誰でしょう?)」

 

茶髪に蒼い目、整った顔立ちをしている少年である。彼は右腕に風紀委員の腕章を着けていて、寮監と門の前で真剣な表情で話し込んでいる。

あの寮監とそこそこ対等に話していて、まるでおとぎ話の中から抜け出してきたような少年は一体何者なのだろうか。彼女達の興味は尽きていない。その後数週間、白井が海人についてしつこく聞かれたのは蛇足と言うべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「ごふぅ…ようやく終わった…」

 

夜12時過ぎ。悟は鞄を担いで、夜の第7学区を歩いていた。幻想御手の一件以降、悟は毎日虚数暗号のデバイスを持ち歩いている。そのせいでこの間『謎の多重能力者』とか言う都市伝説になってしまっていたのだが、まあいいだろう。

彼は寮の階段を駆け上がり、悟は廊下を歩いていく。

 

「ん?…また、か。」

 

そして隣の部屋…一方通行のものである…を見て顔をしかめる悟。

そこはボロボロになっており、酷い有り様になっている。彼はやはり自分の部屋からモップと雑巾を持ってきて、部屋を掃除し始める。

 

「…何やってンだァお前は」

「掃除だけど?」

 

と、そこで一方通行が帰ってくる。彼は右腕にビニール袋を提げており、腰辺りから毛が1本ピョコンと生えている。

 

「おいちょっと待て。…ソイツ誰だよ。」

 

そう言って悟が指差したのは一方通行の後ろにいる少女だ。10才弱のような見た目に茶髪、そしてまるで第三位、『超電磁砲』のような顔…

 

「…『妹達』か。」

「よく分かったねーって、ミサカはミサカはどや顔をしてみる!」

「え?」

「…司令塔らしいぜェ、このガキ。」

「…嘘だろ?」

 

こうして、全てを見通す少年と、後にダークヒーローを側で支えることになる少女は、遭遇することと相成った。

そのせいでどんな風に歴史が変わっていくのか。それは誰にも、神にさえわからないことである。

 


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