弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
ハロー。つい最近まで王宮で暮らしてたイノリです。しかし今は野宿。ホームレスへの転落はあっという間だった。
実のところ、天の声・・・アヌ神から叱られたのだ。何でもギルを諫める補佐的な役割として派遣したのに一緒にのんびり過ごしているとは何事か!みたいな。え、悪いことなんて何もしてないし、平和だし、王座に関してだってギルはちゃんとやり繰りしてるし不満なんて何もないはず・・・と思ってたんだけど違った。神様方的には諫めるというよりギルを自分たち好みの王様に仕立て上げるために導く存在として私を呼んだらしい。
そんなのあんまりだ。どこのRPGの黒幕だよ。ギルは半分以上神様かもしれないけどそれでも人間だ。人の事をからかいながらも一生懸命に生きる命を好む変なところが人間くさい人。贅沢が大好きで黄金が似合う、この上ない王様。私の初恋で大好きなひと。
アヌ神は私の廃棄を思案しているようだった。いや、なんかかなり汗かきまくってるし眉間に何重もシワを寄せてる。それで私とギルは思った。————あれ、ひょっとして私(イノリ)のこと本当は殺したくないの?
もういつもの偉そうな口調も外れて「ちょっと働いてくれたら考え直してやらないこともないんだけどな~」とか言いながらチラチラこっちを見てくる。やめてくれ、威厳を保とうとしていい年こいたオッサン姿で現れてんだから。フツメンだろうがイケメンだろうがオッサンはオッサン。見てて気分のいいものではない。
しかし確かに私にとっても自分の死は見過ごせるものではない。まだ生きていたい。せめてギルの生き様を見てから死にたい。こう、主役じゃなくていいから最後まで生き残るモブとか語り部みたいな立ち位置にいたい。
「わかりました。具体的にはどうすれば?」
「そうか!やってくれるか!」
立ち直り早すぎだろ神様。
****
そうして神様から出された課題「白き魔獣を倒せ」なのだが・・・
真っ白でツヤツヤな毛並みにヒゲ、何より特徴的な長い耳。
「どうみても・・・ウサギじゃん!!」
「Garrrrrr!!」
狂暴化して目が血走ってて体は高層マンションくらいあるような巨体だけど、うん。どこからどうみてもうさぎです。普通に考えてここは普通ドラゴンじゃないんですか。
なんて思ってみたけどこの子結構強い。一撃がシャレにならない破壊力。だって拳を受けたところにクレーターができるし、何よりその威力で地震が起きるんだよ!?
「ええい、いい加減におとなしく、しなさい!」
ドスッ
イエーイ、決まった!クリティカルヒット
「Gi・・・」
私の盾が当たったウサギは呻き声を上げ力なく倒れた。そしてピクリとも動かない。
え。
「呆気なさすぎる気が・・・」
そう言ってウサギに触れると同時にボンッという音と煙。トラップ?!いや変身?!私何もしてないんだけど!そして残ったのは大きな毛皮。あれ中身は?そう思ってると毛皮の一部が動いた。そのままこちらに向かってくる。
「ムー・・・ウ!!」
「へ?」
出てきたのはさっき倒したウサギによく似た子ウサギでした・・・・。
「まさか、いままで大きくなってたのって君?」
「ム!」
元気良く鳴くとすり寄ってきた。あれ、これってデジャヴュ?
仲間が一匹増えました。
残念なことに竜じゃなくてウサギ。今回主人公は倒しただけで殺してませんがどうしても殺さなきゃならない局面では殺せる子です。次は女神様の回になります。