弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」   作:紗代

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ランサー陣営の悩み解消編とフラグです。


恋せよ乙女/潜む人狼

あの後、ランサーの拠点に行くのはさすがにまずい(工房なので相手側は秘伝の漏洩を防ぎたい、こっちは工房に仕掛けられた罠があった場合雁夜さんの安全が心配)とのことで、元々中立という事もあって教会に直接来てもらうことになった。もう既に停戦になったしキャスターもいないのでとりあえずは大丈夫だろう。ただもう今日はみんなショックを受けていたこともあって早々に引き上げていったので私たちも日を改めて・・・・と思ったけど、ケイネスさんが私がチャームを解除できるという事を話した途端上機嫌になり「ならすぐにでも!」とのことでランサーを引き連れすっ飛んで帰り、ランサーをダシに使って婚約者を連れてきた。

連れてこられた婚約者――――ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリさんは燃えるような鮮やかな赤毛と、ランサーに話しかけているとき以外に輝きを見せない氷のような目が特徴的な美女だった。

病院での問診票を書く時のような質問をしてそれらに同意してもらう。解呪するうえで相手に納得してもらうのは当然のことだし、ランサーさえ関わらなければ正常な判断ができる人のようなので質問はスムーズに進み残すところあと一つになった。

 

「これで最後です。これより貴方に掛けられているチャームを解除します。よろしいですか?」

「待って頂戴。チャームを解除した場合、私はどうなるの?」

「元の状態に戻ります。チャームを受ける前ですね。それで今回のことで耐性が付いているのでおそらくもうランサーのチャームに掛かることはないかと「嫌!」・・・」

 

説明の途中でソラウさんが顔色を変え勢いよく席を立ち、叫ぶようにして拒絶した。

 

「嫌よ、これは私のよ、他の誰でもない私だけの恋心なの。今までの人生の中で一番欲しいと思った人なの、唯一私が生み出した私だけの心なのよ!!なのに、これを失ってしまったら・・・私はただの空っぽな人形じゃない!」

 

既に泣きながら、それでも大きな声で話し続けるソラウさんとそれを見て呆然とするケイネスさんとランサー。

 

「貴族らしく在れと言われ続けてずっとその通りにしてきたわ。いずれ兄か私が家督を継ぐからと、でも結局継いだのは兄で予備の私は宙に浮いたまま!!挙句政略結婚の道具扱い!!回路の本数も質も殆ど差はないのになぜなのよ!・・・ケイネスに不満があったわけじゃないわ、でも一度でいいから自由になってみたかった。だからランサーのチャームを拒まなかったの・・・たとえ呪いのせいだとしても、私にも激しい感情を感じることができたから。今まで押さえつけられていたものを許されたように感じたのよ。でもなぜみんな私からランサーを奪おうとするの!?なぜやっと見つけた「私」を否定しようとするのよ!!ならなんで今更私の前に現れたの!?このまま何もなければ私は「人形」のままでいられたのに!攫うことも救うこともしてくれないならなんで・・・なんで・・・っ」

 

泣きじゃくるソラウさんを抱きしめる。

 

「そうですよね、小さいころからそうやって育ってきて、当たり前のことがある日突然覆ったらそりゃあ誰だってそうなりますよね。貴方は何も間違っちゃいなかった。ただ間が悪かっただけで、本当はもっと幼い時に体験するはずだったことを体験できずに今になって来てしまったから、どうしようもなくてそのまま「呪いであっても恋をしている自分」を受け入れたんでしょう?大丈夫、女の子はみんな通る道です。特にあなたは今まで家に押さえつけられていたから、より一層でしょう。でも、これで終わりじゃありません。また一から始めるんです」

「いちから、はじめる?」

「そう、今度はチャームとかに頼らず相手のいいところ、悪いところを見て段々好きになっていくんです。それって普通の人の付き合い方と一緒でしょう?だから、今度はちゃんと見てあげてください。ランサーのことも、ケイネスさんのことも。一目惚れから始まる恋も運命的で綺麗だと思いますけど、それと同じくらい理解ある恋も素敵だと思います」

 

ポンポンとあやすように優しく背中を叩き間をおいてソラウさんから離れるとソラウさんも落ち着いたのかコクリとうなずいてほんの少し微笑んだ。

 

「そうね、私は自分の気持ちばかりで、思えば周りにいてくれた二人を理解しようとすらしていなかった・・・・これからはもっと相手を見て自分なりに考えてちゃんと歩みよってみるわ。」

「はい」

 

これでソラウさん、ひいてはランサー陣営はもう大丈夫だろう。そしてソラウさんの同意の下、無事にチャームは解除された。

 

「はい、これでチャームの解除は完了です。お疲れ様でした」

「待って、最後に貴方の名前を教えて頂戴。ここまでやってもらったのにちゃんとお礼を言わせてほしいの」

 

真摯なソラウさんの態度に他意はないのは分かる。でも言ってしまっていいのだろうか?私としてはもう停戦したしいいと思うんだけど――――と雁夜さんを見るとこちらの思っていることを既に理解しているようで深くため息を吐くと降参と言わんばかりに肩をすくめて手を振った。

 

「じゃあマスターからのお許しが出ましたし、もう停戦してますからいいですよ。私の名前は――――――」

 

*****

 

「イノリ、だと?」

 

聖杯戦争の停戦の話を聞いた衛宮切嗣はその知らせを聞いたその時、絶望の淵にいた。

ここまで準備してきた時間、自分の愛する者たち、それら全てを犠牲にしてでも叶えようと、叶えなければならないと思っていたものがこれで遠退いた、いやもうほぼ叶うことはなくなった。そんなことを受け入れられず、試しに大聖杯の下にカメラ付き使い魔を送ってみたがそれは更に現実を突きつけた。

自分はいったい何のためにここまで来たのだろう。これから一体どうすればいい―――――そう塞ぎ込んでいた矢先の助手の一人からの報告だった。

 

「そう、ギルガメシュ叙事詩に出てくる落陽の女神。シールダーの正体はおそらくそれよ」

「待ってくれ、いくら何でも神霊を呼び出すなんて不可能だ」

「けれどそうしないと辻褄が合わないのよ、アーチャーとの関係も宝具を防ぎ切る盾もあの絶大な浄化の力も」

「・・・・・」

「根拠ならあるわ、海魔の戦い。シールダーのマスターは令呪で「本来の力を取り戻せ」と命じた。これって普段のあの力は全力ではないということでしょう?実際あの令呪をかけられたときの彼女は力も容姿も全くの別物だったのだし、これでもまだ信じられないの?」

「・・・いいや、それなら確かに――――しかしなぜ今になってその報告を」

「あなたと一緒で確証がなかったのよ、余計なことを言って混乱することはなんとしても避けたかったのだけれど、どうもそれどころではないし、何よりこれは好機だと思って――――――ひょっとしたら願望器が使えるようになるかもしれないの」

「!・・・・・いいだろう、話してくれ恵麻(エマ)」

「ええ」

 

エマと呼ばれたその助手は美しい顔を強張らせながら切嗣に己の考えた作戦をとつとつと語り始めた。――――――――――口元に浮かんだ笑みがばれないように気を遣いながら。

 




次はセイバー陣営始動・・・・かな?まだ決めてません。
人狼っていうのでお分かりの人もいると思いますがこの人狼は人狼ゲームからくる「村人に紛れ込んだ人狼」を意味しています。ちなみにアンリは関係ないです。

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