弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
海魔編はこれで終了。おそらくこのあとはオリジナル展開になっていきます。
キャスターが巨大な海魔で未遠川を占領する。
海魔がただのキャスターの使い魔であったのならただ倒すだけで良かったのかもしれない。だけど、キャスターの工房だった水路の見た後の私はそうは思えなかった。
ほんの少し傷付けると再生し、伸びる触手を両断すればそこからまた海魔が増えていく。これじゃまるでキリがない。
そして思う。きっとこの海魔はこれだけでは終わらない。だってあの血の臭いに満ちた工房を作っていた者の召喚した海魔なのだ。人を害する危険性は充分にある。
なんとかなりそうなうちに手を打たなくては。
「セイバー、頼まれてくれる?」
「何か策があるのですか?シールダー」
「うん。そのためにはマスターの安全を確保したいの。だからあなたとランサーでここにいるマスター全員を守ってほしい。お願いできる?」
「構わないが・・・・・ランサー、いいか?」
「ああ、俺も構わない」
おお、ランサーの人は意外といい人だった。シールダーに対する評価も改めてくれたみたい(だってこの前の事を気にしてなのかこっちにチラチラ視線送ってくるし)だし協力してくれるのなら心強いことこの上ない!
「その、だな。シールダー、この前はすまなかった。だが、俺はお前の盾を侮っていたわけではない。それだけはどうか心の片隅に置いておいてはくれないか?」
「いえいえ、あの時はマスターのこともあって私もピリピリしてましたし、お互い様ですよ。それに、協力してくれるのでしょう?ならもうあとは運命共同体ということでそういうのは言いっこなしですよ!」
「!ああ!!」
お互いに二ッと笑って話していると突如上から何かが降ってきて私とランサーの間に刺さった。よく見てみるとあら不思議、見慣れた旦那さんのコレクションの剣でした。
見上げるとヴィマーナに乗ったギルが不機嫌そうにこっちを見ている。ああ、いつ見ても様になってるなぁ・・・
「アーチャーカッコいー!!でも浮気なんかこれっぽっちもしてないよ!!」
すると嬉しかったのか結構スレスレな凄まじいドライビング(?)テクでこっちに向かってくる。
「イノリ!」
「もう隠してさえくれないのね・・・まあいっか。ねえ、私を海魔の上に連れてくことってできる?」
「・・・・おまえが無事に戻ってくると約束するのならばいいだろう」
「さすがね、でも大丈夫。勝算も戻ってくる算段も付いてるから。それに、信じてるもの」
にっこりとギルを見るとギルは察したいや、視えたのか一息溜息を吐くと目を細め薄く笑った。
「まったく、お前は死んでもそのまま変わらぬか・・・・よかろう、この我が直々に送り届けてやろうではないか!!」
ああ、なんていうかもう・・・
「シ、シールダー?」
ライダーのマスターに話しかけられてるんだけどね、今なんて言えばいいのかな、もうそのままいっちゃっていいの?
「ギル・・・カッコイイ―――――」
「いいから早く行け」
冷たいツッコミを背に小走りでギルの元へ行く。と、もう既にギルが玉座に座って待っていた。そして私は横に待機する。
「ごめんね、遅くなって。それじゃあよろし「待てイノリ、お前の場所はそこではなかろう」?じゃあどこに」
するとギルはニヤリと笑って膝を軽く叩いた。
「お前の場所は生前からずっとここだとあれほど言ったはずなのだがなぁ、それともまだ足りぬと?」
それだけで意味を理解する私の経験値はもう天元突破しているに違いない。
「わ、わかってます!だって恥ずかしいんだもん!!」
「ククッ、ならばよい。さあこい」
しぶしぶ、というより恐る恐るギルの膝の上に座る。きっと私は真っ赤になっていることだろう。それに満足したようにふふんと笑うギルが恨めしい。
「ゆくぞ、振り落とされぬようしっかり掴まっておけ」
「うん、っ」
海魔の攻撃を避けながら本体に近づいていく。そしてちょうど真上に来たところでヴィマーナの動きが止まった。
「ゆくがいい、イノリ。言っておくがそのような汚物にお前を手向けるためにここに連れてきたわけではないからな」
「わかってるよ。私はあなたのもの。ちゃんと戻ってくるから待ってて・・・・どうしてもこれに引導を渡したかったから・・・じゃあ、行ってきます!」
そうして私がヴィマーナから海魔にダイブする。すると稼働魔力を求めてなのか私を取り込もうとしてきた。もちろん普段の私ならそれを弾いて外側から干渉するのだろう。けれど今回は内部に入り込み直接浄化する。なんでこんなことをするのか。うん、そのぐらいしないとキャスターの凶行で犠牲になった子たちの苦しみをキャスターは少しも味わうことなくいなくなると思ったから。外側の原因が分かってその分だけしか痛みがないのと内側から原因も分からず細胞レベルで変えられる激痛、といえばわかりやすいかもしれない。
こんなのは自己満足だってわかってるんだけど、私にできるのはこのぐらいのことしかないから。
そう思ってそのまま取り込もうとする海魔に抗うことなく内部に引きずり込まれていった。
さっそく浄化に取り掛かると頭に映像が流れていく。おそらくこれはキャスターの生前の記憶なのだろう。それはかつて敬愛した少女を救えなかった、やがて神を呪い凶行に走る男の記憶だった。
「たしかにあなたはとても可哀想な人。聖処女を救うことが出来ず信じた者に裏切られた哀れな人。けれどそれは自分よりか弱い者たちに向けるべきものではない。故に私が直接あなたを倒します。―――――――さよなら、ジル・ド・レェ、願わくばあなたがいつか彼女とまた笑い合える日が来ることを祈ります」
その言葉が言い終わると同時に浄化され保っていられなくなった体内の崩壊が始まる。私も移動しないとキャスターの消滅に巻き込まれる可能性がある。なのでパスで外にいるであろう雁夜さんに連絡を取る。
『マスター、聞こえますか?』
『シールダー!大丈夫か!?こっちは海魔の攻撃が止んだからとりあえずは大丈夫だ、セイバーもランサーも他のマスターも無事だ。ただ海魔が悲鳴を上げたと思ったら存在そのものが揺らぎ始めてるとかで・・・』
『はい、海魔の内部から直接浄化しましたから、もうそろそろ完全に消滅します。私、まだ海魔の中で間に合うかどうか分からないんです。それで、申し訳ないんですけど、令呪を一画使ってもらえませんか』
『俺はどう言えばいい?』
『いいんですか?』
『ああ、自分ばっかり助かってお前ばかり危険な目に遭ってるのは俺が嫌だ。』
『ふふ・・・あなたがマスターで、ほんとによかった。じゃあ―――――――――――――』
「令呪を持って命じる。本来の力を取り戻し海魔より脱出しろ!」
令呪が消える感覚。そしてそれとともに海魔が光の粒になって消えていくなか一人の女が立っている。
女は自分たちに気が付くとこちらに近づいてくる。その人は美しかった。まさに絶世の美女というにふさわしい容姿にその仕草には気品を感じる。
「ただいま、マスター」
「シールダー、なの、か?」
「はい。脱出するために本来の姿になりましたけど、正真正銘私です」
「~~~~よかった。最後のセリフ!お前、縁起でもないこと言いやがって」
「ええ?!ほんとの事言っただけなのになんで怒られるの?」
「紛らわしいんだよ!!」
そんなふうに安心していた俺たちは気づかなかったのだ。俺たちを観察していた影があったことに。
「ふうん、浄化にイノリ・・・まさか女神様が呼ばれてたなんて・・・・使えるわね、切嗣には後で伝えましょうか」
最後のセリフ言ったのは舞弥さんじゃないです。オリキャラになります。この人がこの場を見ていたことでどんな風になっていくのかは次回から。
少なくとも今のところはろくでもないことになる予定。