弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」   作:紗代

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想像以上に長くなってしまった遠坂お宅訪問の回。長いので分けます。
シリアスです。
先に謝らせてください。遠坂夫婦ファンの方ごめんなさい。


突撃!巷で噂の遠坂家お宅訪問

遠坂邸に着くとギルと別れ、家の門の前に雁夜さんと桜ちゃんがいた。

 

「あれ、二人とも中に入ってないんですか?」

「時臣のやつ、魔術を捨てた俺が本当にここに来ると思ってなかったみたいでな。使用人も殆ど暇を出した・・・というか休暇でいないらしくて今てんやわんやなんだ。何もなければいいけど、あいつ肝心なところでドジだからな・・・」

「でもたしか文面には《奥方も》って入れたから葵さんも来てると思うよ」

「!」

「そうだな・・・大丈夫だよ桜ちゃん。いざとなったら俺の使い魔かシールダーと遊んでおいで」

「・・・うん」

 

両親、特にこの間のことが尾を引いているのか桜ちゃんが反応した。本当は連れてくるべきじゃないんだろうけど、あの家に一人にしておくなんて出来ない。でも、雁夜さんが頭を撫でて微笑むとコクリとうなずいてほんの少し笑顔になった。ここの空間だけ別世界だ・・・。

そんなふうに思っているとカソック姿で体格のいい人が出てきた。

 

「間桐の使者、少々遅れてしまったが準備が整った。さあ中へ、師と奥方が待っている」

 

言われるがままについていくと応接間のようなところに通され、そこには既に赤いスーツを着て貴族然とした男性―――――おそらく時臣さんがいた。

 

「ようこそ。色々あって大したもてなしは出来ないが、寛いで行くといい。ああ、綺礼。葵を呼んできてくれ」

「は、只今」

 

そういうとさっきの体格のいい人が部屋を出ていく。そして今のうちに私も聞いておく。

 

「桜ちゃん、これから私たち話し合いをするんだけど、もしこれ以上ここにいたくないなら別のお部屋借りる?」

「ううん、大丈夫。だって、先生もおじさんもいるから、私、頑張る」

「・・・そっか。でも無理なときは無理って言うのよ?」

「・・・・うん」

 

桜ちゃんは私の服の裾をぎゅっと掴みながらもその場から一歩も引こうとはしなかった。

それからしばらくすると案内されて葵さんが応接間に入ってくる。この間の公園の時のように優雅な足取りで夫の斜め後ろまで歩いていく、しかし雰囲気は前とは打って変わって硬く張り詰めている。

 

「さて、書面にあった人物は全員揃った。私も時間がないからね、さっそく始めようじゃないか」

「・・・・そうだな。じゃあまず一番聞かなきゃいけない質問。なぜよりによって間桐に桜ちゃんを養子に出したんだ。」

「何を聞くかと思えばそんなことか、魔術は一子相伝。遠坂は凛にしか継がせられないが、それでも桜には凛と同等の才能があった。それを潰してしまうより、生かしてやるのが親というものだ」

 

その言葉に私・桜ちゃんそして葵さんが反応した。

 

「・・・うちに養子として送り込んだのはなぜだ?時計塔に縁のあるお前ならもっと名門の家との交流もあったはずだ」

「・・・・これは桜の才能にもかかわってくることだ。いい機会だし話しておこう。桜は凛並の魔術回路に架空元素・虚数という稀有な属性をもっている。この属性はその名の通り元の五大元素とは全くの別物であり、もちろん血縁だからと言って受け継がれていく可能性も限りなく薄い。協会に見つかれば間違いなく「封印指定」を受け生涯幽閉された挙句検体として標本化される。そのようなものを扱う人間を持つ家など私のもとにはいなくてね、正直言って、私も持て余していた。そんな時、声をかけてきてくださったのが間桐のご老体だ。桜の処遇に困り果てていた私に養子の話を切り出してくれた。思わず天啓だと思ってしまったくらいだ」

 

やっぱり何かしらの事情があったんだ。なるほど、この人はこの人で桜ちゃんを守ろうとしていた、ということになるのだろうか。

 

「おまえは、間桐の魔術の酷さを知ったうえで桜ちゃんを手放したのか?」

「間桐と言えば使い魔の扱いに長けた魔術を使うと聞いている。それに家の秘伝は極秘事項だ、むやみに詮索することは許されない。それを魔術の酷さ?魔術を修めるにあたって多少の苦痛は付き物だ。魔術から逃げた落伍者の君に語ってほしくはないね」

 

そこで葵さんも時臣さんに続く。

 

「そうよ、雁夜くん。正直言って私も桜を送り出すのはつらかったし、納得いかないところもあったけれど、それが魔道に生まれたものの宿命。出ていったあなたには関係のないことよ」

「っ・・・葵さん」

「雁夜くん、私は言ったはずよ。この人の妻になるとき覚悟を決めたの。今の話でこれしか桜が幸せに生きられる道がないことも分かったわ。だからもう、このことで私たちに関わるのはやめて頂戴」

「でも、それが桜ちゃんの幸せに本当に繋がるとは」

「しつこいわ、桜の事を頼みはしたけどそれはあくまで間桐の話。遠坂の決定とは別の話よ」

 

平行線になりそうだし、なんだかイライラしてきたので発言させてもらおう。

 

「マスター、発言の許可を」

「シールダー・・・わかった、いいぞ」

「ありがとうございます。ではまず、葵さん。あなたから」

「・・・・私が何か?」

「《魔道に生まれたものの宿命》っていいますけど、葵さんは魔術師の家系なんですか?」

「いいえ、私の生家は数世代前まではそれでしたが、今は普通の名家です。だから魔術師の使命や重圧は理解しているつもりですわ」

 

だからこの人から普通の人間程度の魔力(生命力)しか感じなかったのか。あれ、でも魔術師は利益優先にする人が多いって話・・・ただ貴族の妻として最適な何も言わない人なら他の魔術の名家でも家を継げない子に処世術として躾けているなんて話はザラにある。なのにどうして魔術回路を持たない、ともすれば凡俗とも蔑まれそうな人を時臣さんは妻に・・・・?ちょっと待てよ、いくら時臣さんが優秀な人だと言っても桜ちゃんの方が見たところ魔力に溢れているうえに虚数なんてレア属性な奇跡みたいな子が生まれるか?前に会ったツインテールの子も一目見ただけだが桜ちゃん並に才能に溢れた子に見えた。そんな奇跡の連続が起きるなん、て。

 

「葵さん、あなたの実家で、特異体質の方はいますか・・・?」

「?いいえ。超能力などの目に見えた力を持ったものはだれもいません」

「そう、ですか」

 

私の質問に反応したのは時臣さんだった。葵さんはそれに気づかず私に返事を返す。即答したところと反応の薄さ、時臣さんの反応。おそらく葵さんは自分が知らないだけで特異体質。父親の個体を超える個体を生み出すとかそういうものの。そして、反応を見るに時臣さんは知っていたのだろう。

 

「少し、話がずれました。答えていただきありがとうございます。それで、葵さん。あなたは魔道に生まれたものの宿命と言いました。それが桜ちゃんにとっての幸せだと。ならなぜその魔術から遠退いた雁夜さんに「頼む」なんて無責任なことが言えるんです?それも悲痛な表情で。「桜ちゃんはもう間桐の方で幸せになっている」そう思っている、覚悟を決めて割り切った人ならそんな顔しません。しかもそう打ち明けた雁夜さんには前置きに「あなたには関わりのないこと」なんて釘まで刺しているのに頼むだなんて友人に対して取っていい態度ではありませんし、彼がもし理性的な人物じゃなくて「あそこまで言われてなんで頼みなんて聞かなきゃならないんだ?よし、腹いせに桜ちゃんをボロボロにしてやろう。だっていいよね、頼まれたんだし」なんてクズだったらどうするんです?」

「!、そ、そんなこと雁夜くんはしないわ」

「この養子の件を聞いたときに雁夜さんもあなたと同じことを言ってました。でも人間なんて多面的で不確定の塊みたいな存在なのになぜ一面だけで判断できるんです?」

「あ・・・」

「それに、養子に出したなら出したなりに節度を持って対応すべきです。もう桜ちゃんは「遠坂」ではなく「間桐」なのでしょう?なら前のように呼び捨てではなく「桜ちゃん」で通すべきです。それこそ凛ちゃんのお友達に接するように。・・・桜ちゃんは分かりませんが、子供に無責任な希望を持たせるの、やめたほうがいいですよその分絶望も深いですから。養子に出した以上元には戻れない、そう覚悟していたのでしょう?」

「うるさい!!」

「葵さん!」

「葵やめなさい!!」

 

耐えきれなくなったのか震えていた葵さんは般若のような形相になって私に掴みかかった。

 

「あんたに、子供を産んだこともないようなあんたに何が分かるのよ!子供を取られた親の気持ちが!私だって本当は他所になんてやりたくなかった!!でも仕方がないって言い聞かせて必死に飲み込んでただ幸せを願ったわ!それが親の務めでしょう!?」

「ほら、それが本音なのでしょう?」

「!!」

「雁夜さんから聞きました。あなたは女性として完璧な人だって、魔術師の夫に対してもあなたは同じように三歩下がってついていくような、妻の鏡のような人物。だからいままでの時臣さんの決定には何も言わなかった。桜ちゃんの時も。でもだからこそ、養子の話を言われたときあなたは時臣さんに抗議すべきだった。もしかしたらいつもと違って必死に抵抗するあなたを見て、ある程度意見を変えることだってあったかもしれない。・・・人間も神様もみんな口に出して言わないと分からない。そうでしょう?きっと時臣さんもあなたの本音を聞いたのはこれが初めてだったのでは?」

「あ、私、私は・・・」

 

よろめく葵さんから目を離し次と言わんばかりに時臣さんを見る。時臣さんも葵さんの豹変も本音を聞くことも初めてだったらしく驚いていたようだけど、容赦するつもりはない。

 

「では、時臣さん。あなたは桜ちゃんを守ろうと、幸せになってほしいがゆえに間桐へ養子に出した。そういうことで合ってますか?」

「あ、ああ。合っている」

「その点は親としてちゃんと責務を果たした、とみるべきなのでしょう。でもよく考えてみてください。今までほぼ没交渉気味だったはずの同じ地に根付くライバルがなんの打算もなく名門の当主であるあなたに近づくでしょうか?」

「その点に関しては了承している。そこの落伍者・・・いや失礼。貴方のマスターである雁夜が魔術を忌避し出奔したことで間桐には跡継ぎがいなくなってしまった。間桐のご老体は何としても家を途絶えさせるわけにはいかなかったのだろう。桜を次期当主にすえることで家の庇護によって桜を守ると約束してくれた。それに我々魔術師に課された命題・・・根源到達の悲願はどの家でも同じこと。凛も桜もそれができる可能性を十二分に秘めている。だから私にはどちらの才能も、そうした輝かしい未来も潰すことはしたくなかった」

「それが凛ちゃんと桜ちゃん、もしくはその後継者たちが血で血を洗うような殺し合いになったとしても?」

「無論。将来根源を求めて姉妹で相い争うこととなり、どちらが勝者となっても、娘たちとその末裔は幸福であると私は確信している」

「・・・魔術師としては正しいのでしょうけど、それはあなたの理想であって二人が、少なくとも桜ちゃんが言ったことではありませんよね」

「しかしこれは魔道の家系に生まれた者なら誰しも思うことだ。最も、凡俗と魔術師では価値観に差異があることは分かっている。だから無理に理解してもらおうとは思わない」

「・・・まあそうですね。私も魔術は使いますけど根源を目指そうと思ったことはないし、魔術師ではありませんから・・・なら分かりました。さっそく答え合わせといきましょうか」

「答え合わせ?」

「はい。どうやら私たちとあなた方の間には価値観以前に認識や情報の食い違いがあるようですから、お互いに埋め合ってなるべくこの件に関して隠し事をなくそうと思いまして。マスターいいですか?」

「・・・・ああ、本当は葵さんに見せたくないけど・・・納得してもらうにはこれしかないなら・・・桜ちゃん、おじさんたちちょっと難しいお話するからおじさんの使い魔とシールダーのリオと一緒に隣の部屋に行っててくれるかい?」

「うん、わかった。いこ、リオ」

 

促す桜ちゃんにリオは了解したように一鳴きすると付いていった。桜ちゃんとリオの足音が遠のいたのを確認し、話を戻す。

 

「まず前提から崩していきましょうか。時臣さん、間桐のご当主が望んだのは「将来有望な後継者」などではありません「自分好みの木偶人形」です。そもそも後継者のことで必死になっているならいくら才能が劣っていようと出奔した雁夜さんを野放しになんてしないでしょう。本当に雁夜さんに呆れていてもそれなら間桐と相性の良さそうな伴侶をあてがえばいい。そうすれば何も聖杯戦争で争う家に借りなんて作らずに済みますし、普通に魔術を扱える程度の才能を持った子が生まれることだって可能性はゼロじゃない。けれどそれをせずに、むしろもっと効率のいい方法があった。それが、桜ちゃんを養子に迎えること」

「まあ、そういうことは他の家でもやっていることだ。しかし間桐のご老体をそこまで言うとは、あなたも雁夜に絆されたのでは?」

「いいえ、こういうことには私は独自に動きますから、マスターはあまり関係ないです。と、話を戻しましょう。桜ちゃんは魔術の才能を見込まれて養子に行ったのではありません。ある特異体質の可能性を見込まれて間桐に引き入れられたんです」

 

そこで時臣さんの表情が少し強張った。

 

「まさか、いやしかし・・・」

「・・・私が召喚されて桜ちゃんを見た時、あの子の身体はマスターほどではありませんが相当ボロボロでした。おそらく長期にわたる蟲たちによる蹂躙でもうほとんどの魔力を食われ、心身ともに傷ついて。あなたが言う稀有な属性の虚数もそのせいで間桐の水の属性に塗りつぶされ、それどころか魔術の基礎、魔術の知識さえ教えられてなかったんです」

「そんな、それではまるで桜は・・・」

「はい。おそらくあなたの想像通り、あの子は間桐の血を繋げより優秀な子を産む胎盤扱いだったのではないのでしょうか」

「馬鹿な・・・っ」

「これでも雁夜さんが帰ってきて彼が桜ちゃんを庇って蟲に蹂躙されるようになってからは身体の負担が軽減されたためかマシになったらしいんですが・・・心の方の傷はなんとも」

 

ショックで何も言えない時臣さんと泣きながら震える葵さん。おそらくこの二人は理解してしまったのだろう。自分たちの理想と桜ちゃんの現実の落差を。特に葵さんは名家の淑女として貞操の重さを理解しているはずなのでなおさらだろう。

 

「雁夜くん、なぜあなたはあの時間桐から出ていったの・・・?あなたさえいてくれれば桜だってこんなことにはならなかったはず、そうでしょう?」

「あ、葵さん・・・?」

「それにあの子だってその時いた当事者でもないのに・・・やっぱり桜を返して頂戴。その環境においたのが間違いだというならまたやり直せばいいのよ」

 

そういう葵さんの目は泣いているのにどこか怒りに染まった色をしていて口元には薄く笑みを浮かべていた。雁夜さんはまさか葵さんにそんなことを言われて詰め寄られるなんて思ってもいないことだったのか反応が遅れてしまい葵さんの手が自分に迫っているのに動けない―――――――そんなとき床から見覚えのある赤と黒の帯のような影が現れ葵さんを拘束した。

開いたドアに目を向けるとそこにいたのは――――

 

「ほう、騒がしいと思ってきてみれば、なかなか面白いことになっているではないか」

「・・・・」

 

ギルと桜ちゃんだった。




次回はギルが出てきちゃったので真実(主に葵さんの)と桜ちゃんの本音大暴露回にするつもりです。次も色々シリアス多いかも。

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