弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
あんまり書く気がなかった修行内容がなぜか書いてある不思議。あるえ?
雁夜さんと桜ちゃん両方の修行は良好で、この空間内で3日経つ頃には二人とも並の魔術師よりちょっと強い程度になっていた。普通ならこのくらいで修行を切り上げていい頃合いだけど今回は事情が事情なだけにそうも言ってられない。聖杯戦争に参加する人間をよく分からない以上凄腕の魔術師や傭兵などへの対策も取らなければならないため少なくともそれに一瞬でも対抗できるぐらいの存在になってもらわなければ困る。なので今回のカリキュラムは魔術の基礎から応用、人形相手の実戦にいざというときの護身術をメインに組み込んでいる。正直時間がないため詰め込んで追い込む形にしてしまったのではないのか・・・と内心思っていたのだが
「先生!今日の分終わりました。今日の成果は影15体で人形60体撃破です!」
「俺も終わった。一応迎撃用使い魔で修行の合間にここらの外一帯見てみたけどとりあえず異常はない」
この部屋に入って修行を始めて約一週間(と言っても部屋の外の時間は僅か数分くらいなんだけど)。二人とも生き生きとしています。どうしてこうなった?
どうやらこの二人元々知識欲は旺盛だったようでちゃんとした魔術に触れたことでそれが開花し、間桐のような歪んだものでないせいか物凄いスピードで吸収していった。後の魔術の実践や護身術を加えた実戦には個人差があったもののすっかり環境に適応してしまったようで魔術も実践もほぼクリアしており、気が付けばそんじょそこらの魔術師や傭兵なら裸足で逃げ出すような戦闘能力を持つ鉄人になってしまった。
具体的に言うと二人とも逞しくなった。雁夜さんは元が病人みたいな人だったし、直ってからもそこまで頑丈な身体付きはしておらず典型的日本人みたいなひとだったのに今は程よく筋肉の付いた・・・というかスポーツ選手のような無駄のないキリッとした体形になり、迷いのない顔つきになって益々「戦う者」になった。
一方の桜ちゃん。最も変化があったのはこの子だった。元々卓越した魔術の才能を持っていたこの子は一気に魔術を習得し自分の稀有な属性を理解し完璧に制御できるようになった。そのうえサバイバルのようなこの環境下にいたことで色々吹っ切れたのか「私、ただ何もしないで待つのやめる。自分にできることを全部やってダメだったら助けてもらえるように頑張る」と宣言し、問答無用に人形たちをサクサク倒していく姿に将来性を感じ、「先生」と私を呼び慕い私たちによく笑顔を見せるようになった彼女に私は大きくうなずくが雁夜さんは何故かやや不安そうに見ていた。大丈夫だよもうこれ以上厳しくしないから。そういうと雁夜さんは「違う、そっちじゃない」といって桜ちゃんを見ていた。え、人間の人体の急所を全部教えただけなのになんで?
「というわけで本日(と言っても現実だとものの15分程度だけど)を持ちまして「イノリのパーフェクト魔術教室」終了でーす!これでご褒美ないとかそんなケチなことはしません。とりあえず打ち上げっていうことで事前にハイアットホテルの高級バイキングに予約いれといたから行きましょう!」
「おー!」
「え、でも肝心の金は?」
「マスター、私の黄金律はB+よ」
「マジかよ」
「マジよ」
*****
そうしてハイアットホテルで食事を楽しんで外に出ようと席を立つと走ってきた子供にぶつかった。
「あ」
「大丈夫?僕」
「う、うん!だいじょぶ」
「すみません、うちの子が・・・ほら、お姉さんにごめんなさいは?」
「お姉さんごめんなさい」
「ふふ、次からは気を付けてね」
そのまま去っていく幸せそうな家族。いいなあ。
そんな風に思いながら次はゲームセンターに行くことにした。その道中なにかを感じたのか雁夜さんが口を開いた。
「なあ、シールダーの聖杯にかける願いって何なんだ?」
「何、いきなり」
「聞いてなかったと思って。だめか?」
「いや、そんなことはないよ。ま、聖杯にかけるものはないけど欲はある。私さ、出産と同時に死んだから一度も自分の子供に触れたことないの。だからあの子を抱き上げて「生まれてきてくれてありがとう」って伝えたいの。それだけが未練ね。ただ、これは聖杯に願うことではないわ。聖杯にすがってこの未練を消化したりなんてしたらそれこそ私は自分に失望する。今回の聖杯戦争に来たのはあなたの声を聞いたから。ただそれだけよ」
「・・・そっか」
そうやって話し込んでいるうちにゲームセンターにたどり着き、ぬいぐるみのUFOキャッチャーの元へ行くとなぜかライオンのぬいぐるみがごっそりと無くなっていた。
「あの、あのUFOキャッチャーのライオンがいないんですけど」
「大変申し訳ありません。実は先程いらっしゃられたお客様がすべて持ち帰られてしまいまして・・・」
「持ち帰った?えと、その人の特徴は?」
もしその辺をうろついていたら譲ってもらえないだろうか。私ライオン好きだから欲しかったんだけどなあ。
「は、はい。金髪に赤い目の背が高い男性で外国の方のようでしたが・・・」
え、なんだろう凄く身に覚えのある特徴なんだけど・・・まさか
「ギル・・・?」
しかしこれ以上余計に特徴を言って係員の人を困らせるわけにもいかないのでその謎を抱えたまま打ち上げが終わり帰ることとなった。
というわけで雁夜さんと桜ちゃんは心機一転してかなり強くなりました。それぞれ水・虚数のプロフェッショナル、もしくはその一歩手前くらいになってます。益々じいちゃんの肩身が狭くなる間桐家。どうなることやら。あと話題に上げるの忘れてましたが鶴野さんは今現在病院にて療養中です(この時期は家にいられるよりいろんな目のある病院にいてもらったほうが安全だという判断からイノリちゃんに直してもらえなかった可哀想な人とも言う)。