では、どうぞ!
2話 彼女の訪問
今日、僕のクラスに転校してきた彼女は、僕が十年前に別れた幼なじみ、白沢 琥珀だった。彼女は、身体的には成長していたが、中身は昔と変わらず、僕を振り回す存在だった。
そして今、彼女は先生の気遣いにより、僕の隣の席に座って、授業を受けている。そして、彼女は先生の授業をしっかりと聞いているように見えるが、実は見えるだけで、本当は何も聞いていないのだ。
言い忘れたが、彼女は頭が良い。推理小説などを読んでいても、真相がすぐに分かってしまう。
結果は全てが当たっていた。なので、授業などはほとんど聞かなくても、成績はいつも上位、そして運動も出来るという、正に超人である。
そして、そんな彼女に対して僕は、成績は努力して、何とか平均点、運動は人並み以下、そして、一人暮らしはしているが、食べ物は基本インスタントの食品ばかりの、何とも残念な奴である。
そんな才能に満ち
友達がいない僕には、それが理解出来ない。誰にも迷惑を掛けずに生きていけるならば、僕はそうしたい。そうすれば、自分が無理に人に合わせる努力などはしなくて済むのだから。
(全く……僕には、君の事が理解出来そうにないな、今も昔も……)
そんな事を考えていたら、いつの間にか、授業が終わっていたようだ。クラス全員で立ち上がり、先生に挨拶をする。
そして昼休みになると、彼女の周りには沢山の人が集まってきた。僕だったら、こんな人数を前にしたら、面倒過ぎてそっと立ち去るだろうが、彼女は一人一人としっかり向き合って会話をした。
「白沢さん、前の学校はどこだったんだ?」
「アメリカの学校だよ。家族からの勧めもあったし、私も興味があったから行ってたの」
「白沢さん、どうやったら、そんな綺麗な髪になれるの~?教えて~」
「別に皆と変わらないよ~、
「白沢さん、アドレス教えて下さい!」
「う~ん……ごめんなさい」
「嘘ぉぉぉぉ!?」
「ほら、お前じゃ無理なんだよ!」
「ちくしょー!!!」
彼女の周りに集まった人達は、転校生に必ず聞く質問をしていく。彼女は思った事は基本曲げずに言ってしまい、時々、相手に失礼な事を言ってしまう。
しかし、彼女自身の人柄の良さで、トラブルになる事は
僕は正直、人の多さに耐えられなかったので、図書館に向かった。彼女が、そんな僕の後ろ姿を見ていた気もするが、恐らく気のせいだろう。
図書館に着くと、僕は一つ、大きな溜め息をして、平常心を取り戻した。
「ふぅ~……人気者が側にいると、大変そうで見ていられないや……」
僕は、彼女のように、人と話す事は得意じゃない。なので、出来る事なら会話をしたくないし、どうしてもと言う時でも、最低限の会話で済ませたい。
こんな事を考えながら、僕は本棚にあった、一冊のファンタジー小説を取り出した。うん、今日はこれにしよう。
僕は椅子に座り、本を開いて、その世界へと入っていった。本の世界は楽しい。自分とは違う、他の誰かの考えに触れる事が出来るからだ。
集中して読んでいたようで、次に聞こえた音は、次の時間の予鈴だった。
「もうこんな時間か、早く戻らないと……」
そう思った僕は、本棚に本を戻し、急いで教室まで戻っていった。
教室に戻ると、既にクラスメイト達は全員着席しており、先生が来るのを待っていた。そして、この授業も、彼女は先生の話を聞く振りをし、僕は、ノートを取りつつ、早く、家に帰る事を望んでいた。
やっと、終鈴が鳴り響き、この日の全ての授業が終わりを告げた。今日は先生方の都合で、清掃は免除され、僕は一人、ゆっくりと我が家へ向けて歩いていた。
家に着くと、僕は一度風呂に入り、私服に着替えてから、自分の部屋に向かった。
(はぁ~……全く、彼女が帰って来るなんて……正直、予想外の事態だ……)
僕は一刻も早く頭を休めようと、自分の部屋の扉を開けた。扉を開けると、そこには大きな二つの本棚と、一台のテレビが、ベッドから見やすい位置に配置しておいてある。
そして、今日の疲れを
「よう!随分長いお風呂だったね!」
「どうして君がいるの……?」
見た所、どこも破壊された形跡はなかったけど?と僕が言おうとすると、彼女はそれを
「君の家の鍵を見つける事なんて、私には朝飯前なのだよ、ワトソン君?」
と、自慢気に言った。疲れのあまり、彼女の頭の良さの事は、僕の頭の中から抜け落ちていた。彼女の推理力は普通じゃないとも思うけれど。
「ワトソンじゃないし……それに、君に掛かったら沢山の作家さんが大泣きするよ、折角、考えに考えを重ねたトリックとかを、君はすぐに見破っちゃうんだからさ」
そう僕が彼女に言い返すと、彼女はそんな事には、もう興味がないように、僕の部屋を見渡し、こう言った。
「本当に本とテレビとベッドしかないね、相変わらず」
余計なお世話だ。趣味は人それぞれだろうに……僕が、そんな事を考えているのも知らずに、彼女は、
「ゲームしようぜ!」
と、言って、僕を自分の隣に座らせた。やっぱりこうなるのか……彼女がいた時点で、ある程度は予想が付いていたので、驚きはしない。昔の僕も、彼女も一緒にいると、必ず読書の時間がゲームに使われたものだ。
「それで?何をするの?」
一応話を聞いて、面倒臭そうだったら逃げようと思いながら、とりあえず話を聞いてみた。すると、彼女は
「これだー!!!」
彼女の言い
「え~……こういうゲームは苦手なんだけど……」
「私がやりたいんだ!さあ、つべこべ言わずに、やるぜー!!!」
(……完全に彼女のペースだ。これはもう、逃げるのは無理か)
僕は観念して、彼女と格闘ゲームに興じる事にした。思いの外、上手くキャラクターを動かす事は出来たが、彼女のセンスの前には勝ち目がなかった。
「で?今度はどこに住んでるの?」
「ここからそんなに遠くないマンションだぜ~、来るかい~?」
ゲームに飽きた頃、彼女が僕のベッドに座りながら聞いてみた。僕がこういう事を聞くと、彼女はいつもこうやって
(本当にこいつは……
流石に彼女がいくら超人でも、美少女には変わりはないのだから、危険があれば困る。外には色々な価値観の人がいるのだから。
「ほら、送っていくよ」
「えっ?あ、ああ、うん……」
こうして僕は、彼女を家まで送りとどけるために外出した。彼女が僕の横を通ると、彼女の白い髪から、少しだけ、女子特有の甘い香りがした。
◆
(いやー、正直予想外だなぁ……あの彼が、私を家まで送ってくれるなんて……やっぱり、この十年間で、何かが変わったのかな?)
私が、そんな事を考えていると、二つの分かれ道に出た。彼は、
「ここからは?」
と、道順を聞いてくる。まあ、身体はそんなに昔と変わった所はなかったから、外にはそんなに出ないんだろうという事が分かった。
「左。そっちの方向だぜ!」
「はいはい……」
彼は面倒臭そうだったけれど、私を気遣う気持ちは何とかあったらしい。私の案内で、彼は少しずつ、私の家に近づいていく。少しだけ、自分の鼓動が早くなった。理由は分からないけど……
「ここで良いよ、ありがとうな~!楽しかったぜ~!」
「それは良かったね、じゃあ、また明日」
「おう!」
そう言って、彼が私に背を向けて歩いていく。その姿を見て、少しだけ、胸の辺りに痛みを感じたようだったけれど、すぐに収まったため、不思議に思った。
「私……どうしたんだろう?」
(まあ、細かい事は気にしても仕方ないか!明日はどうやってあいつをからかってやろうかな~?)
そう思った私は、さっきの痛みの事なんか、すっかり忘れて、家の中に入っていった。
◆
「……へぇ~、あの子、俺好みだなぁ……」
俺は、さっきまで外にいた少女を見て、そう思った。あのレベルの可愛さの女子は、この辺でも中々いない。
「確かあいつは、転校生だったよな……これからは、面白くなりそうじゃんか……」
そう独り言を言いながら、夜の街灯に照らされつつ、俺は自分の家に帰っていった……
行き当たりばったりなので、そのうち内容が前後するかも知れないのでご了承下さい。
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