その朝、聡美は自宅のリビングで朝食を食べながらニュースを見ていた。
ニュースでは先日亡くなったプロレスラーの
局の取材した内容によると、本村は自宅のベッドの上で遺体となって発見され、リビングには手書きの遺書があったことなどから自殺と断定されていた。また、現場の部屋からは、硫化水素を発生させた薬剤の容器が見つかっていた。
「本村が自殺ねえ……」
ピンポン、とインターホンが鳴る。
聡美は玄関に移動し、扉を開けた。
「娘の死の真相を調べて下さい!」
見知らぬ中年の女性が聡美にしがみつく。
「どうしたんですか?」
女性は聡美から離れる。
「ああ、私、
「本村さん?」
「自殺した花の母です。花が自殺するとは思えないんです。調べてくれますか?」
「毛利探偵ではなく、どうして私に?」
「聞いてますよ。最近、名を馳せてる女子高生探偵の工藤 聡美さん。工藤 新一の妹さんなんですってね」
聡美は困ったような表情をする。
「お願いです。調べて下さい」
「警察には?」
「お願いしましたが、すでに自殺として処理されているとしか……」
「うーん……、わかりました。やってみます」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
本村はそう言って去っていく。
聡美は携帯を取り出すと、警視庁の捜査一課に電話をかけた。
「捜査一課の目暮だが?」
「工藤です」
「おお、聡美くんか!」
「目暮警部に折り入って相談があるのですが」
「なんだね? 君にはいつも助けてもらってばかりだからな。わしらにできることならなんでもするぞ」
「最近亡くなったプロレスラーの本村 花について話が聞きたいのですが」
「本村 花だと?」
「はい。今し方、ご遺族がお見えになって、何者かに殺されたんじゃないかって」
「おお、そうか。実はわしらの方でも硫化水素の入手経路を洗ったんだがね、特定できていないんだ。だが、捜査本部は遺書の存在から自殺と判断してね、それ以上の捜査はされてないんだ」
「警部、いったんそちらへお伺いします」
「待っておるよ」
聡美は電話を切ったあと、警視庁へ向かった。
捜査一課に入る聡美。
「聡美くん、待っておったよ」
と、目暮が出迎える。
「これが本村 花の捜査資料だ。捜査本部の江東警察署から取り寄せたんだ」
「拝見します」
聡美は本村 花の捜査資料を読み込む。
捜査資料によると、三日前の未明に、連絡が取れないことを不審に思った母親の洋子が江東区の自宅マンションに訪ねたところ、ベッドに心肺停止の状態で倒れているのを発見。午前三時過ぎに病院へ救急搬送されたが、死亡が確認された。自宅リビングに手書きの遺書と見られるものが見つかったことや硫化水素を発生させたとみられる薬剤の容器が見つかったことから自殺を図ったと見られているとのことだった。
以前から本村が出演する番組での言動などをめぐりSNS上で誹謗中傷を受けていたとされており、批判が激化していた。またプロレス関係者によると最近では精神状態が不安定でリストカットを繰り返していたとされ、自身のSNSに「愛されたかった人生でした」の言葉とともにリストカットした血だらけの腕の写真も添えていたこともあったが、その後に削除されていた。
(状況的に自殺としか思えないんだけどなあ)
「目暮警部、本村さんのご自宅にパソコンは?」
「パソコンはなかったよ」
「Wi-Fiはあったかしら?」
「ワイ?」
「ああ、インターネット環境のことですよ」
「どうもワシにはインフラのことは……」
「目暮警部、通信会社を調べてもらえますか?」
「そうか、インターネットを使って硫化水素を手に入れたんじゃな!」
目暮が高木と佐藤を呼び出した。
「お前たち、江東区であった本村の捜査を命じる」
「お言葉ですが目暮警部、その捜査は自殺でケリがついたはずですが?」
と、高木。
「聡美くんが不審に思っておってな」
「そうですか」
「行くわよ、高木くん」
「はい」
二人の刑事が通信会社を調べに出かけた。