聡美は黒羽家にいた。
「なんだよ、用事って?」
快斗が聡美に訊く。
「変装用のマスクが欲しいの」
「誰に変装するんだ?」
「この人」
聡美は快斗に男の写真を見せた。
「こいつは?」
「エルキュール・ポワロ役な俳優よ」
「なんでまた?」
「知らなくていい。あなたは私に協力するだけでいいわ」
「へいへい」
快斗が変装マスクを用意した。
「ありがとう」
聡美は快斗からマスクを受け取った。
「それじゃ」
聡美は黒羽の家を出た。
「さて」
聡美はバイクを駆り、イギリス料理店に行き、マスクを被って入店する。
聡美は面会相手であるジンとウォッカに接触した。
「お前がクリストファー・チャールズか」
「私を組織の仲間にして欲しい」
「我々のことをどこで知った?」
「その調査力は企業秘密だ」
「フッ。我々に近づけるんだ。相当の手練れだろうからな。諜報員にしてやってもいいが。銃の撃ち方は大丈夫か?」
「うん、まあ」
「貴様の目的は何だ?」
ジンが訊く。
「金」
「得意分野はなんだ?」
「プログラミングだ」
「いいだろう。プログラマーになれ」
「兄貴、いいんですかい?」
「使えれば使う。ダメなら消えてもらうまでだ」
ジンはそう言うと、今度は聡美に向かって開口する。
「クリストファー、今後はコードネームで呼ぶことにする。そうだな……」
ジンは考え込む。
「……サワーだ」
センスねえな。
「私はなにを?」
「国が管理する個人情報を操作できるシステムを開発してほしい」
「ハッカーになれ、と?」
「できるか? できなければ……」
ジンが懐からピストルのグリップを出す。
(銃刀法じゃん)
「任せてくれ。開発しよう」
取引は成立した。
「じゃ」
聡美は席を立つ。
(組織はデータ改竄システムなんか作って何をしようとしてるのかしら?)
「待て、クリストファー」
ジンが紙袋を渡す。
「お前のだ。持っとけ」
中を見ると本物の拳銃が入っている。
(後で警察に渡しておこう)
聡美は紙袋を手に店を出る。
「さて」
マスクを外し、バイクを警視庁まで駆る。
「すみません」
受付。聡美は職員に訊ねる。
「組対にこれを見つけたから持ってきたって渡してほしいんですが」
「確認させてもらっていいですか?」
「ええ」
職員は中を確認して驚いた。
「え!? 本物、ですか?」
「ちゃんと見たわけではないけど、だと思いますよ」
「わかりました」
職員は内戦で組織犯罪対策課の刑事を呼んだ。
「拳銃拾ったのは君?」
「はい」
「これか?」
刑事が拳銃を確認する。
「M85か」
「麻取の拳銃?」
「確かにそうだが……麻取の落し物か? まあ、なんにせよ、届けてくれてありがとう。調べとくよ」
刑事はそう言うと、聡美の連絡先を聞いて去っていった。
聡美は警視庁を出ると、バイクに跨る。
(さて、どうしたものか)
聡美は思考を巡らせながらバイクを駆る。
気がつくと、家に着いていた。
敷地に内にバイクを止め、家に入る。
「聡美さん、お帰りなさい」
「昴さん、ただいま。組織の情報ありがとうね」
「お願いだから、無茶だけはするなよ」
「うん。わかってる」
聡美は自室へと移動する。
携帯が鳴った。
「もしもし?」
応答する聡美。
「警視庁組織犯罪対策課の本田と申しますが、工藤さんの携帯ですか?」
「そうです」
「先ほど受け取った拳銃の件なんですが、各道府県警察に協力してもらって麻取を調べても落とし主が判明しなかったんですよ。それでですね、詳しく話を聞きたいので、任意で聴取できませんか?」
「そしたら、公安通してもらっていいですか?」
「公安?」
「実は公安警察が関わってる事件の関係なので」
「どういうことですか?」
「公安に止められてて詳しいことは言えないです」
「わかりました。では公安に確認してみますので、どのような事件か差し支えないところだけ教えてもらえますか?」
「とある犯罪組織が壮大なスケールの事件を起こそうとしてるみたいなんですよ」
「なるほど。それで?」
「それで、公安とFBI連邦捜査局が動いてるんですよ。詳しい話が聞きたければ、毛利探偵事務所のとこのポアロで安室さんって人に訊けばいいですよ。訊くときは、古谷さんって言ってね」
「古谷? 古谷って零のことですか? 実は私、学校の同期なんですよね」
「そうなんですね」
「零とは今もたまに会ってるから聞いてみるよ。しかし、あいつが公安になってたとは。それじゃ」
電話が切れる。
「聡美さん、お昼ご飯食べますか?」
ドアが開け放たれ、昴が訊く。
「昴さん、ドアはノックしてから開けてね。お昼は食べる」
「それじゃ支度しますね」
昴はキッチンへ向かっていった。