聡美は開放された屋上に上がった。
転落現場をくまなく調べる。
「なんか見つかったか?」
と、声をかけてくる世良。
「いや。そっちは?」
「こっちもだよ」
「コンタクトとか落ちてないか見たけど全然だね」
鑑識のトメが訊ねる。
「君たち、コンタクトを探しているのかい?」
「いや、別にそう言うわけじゃ……」
「コンタクトなら遺体の服のポケットから見つかったって報告があったよ」
疑問符を浮かべる聡美と世良。
「コンタクトから指紋は?」
「微量だが採取できたらしい」
「犯人は決まり、だな」
世良はそう言いながら、聡美を見る。
「行こう」
二人は地上に降りた。
「目暮警部、山崎さんはどちらに?」
聡美と世良は山崎がいないことに気づく。
「アリバイがあったんで帰ったよ」
「吉原さんは?」
「空き巣の常習犯ってことで捜査三課に預けたよ。近隣で起きた空き巣事件に関与がないか調べてもらってる」
そこへ高木刑事がやってくる。
「警部!」
「うん?」
「屋上への扉なんですけど、マンションの住人に伺ったら、普段から錠前はされていなかったそうです」
「なに? ということは、犯人がかけたのか?」
「そういうことになるでしょうか」
聡美が二人の話に割って入る。
「犯人ですけど、山崎さんじゃないでしょうか」
「どういうことだね、聡美くん?」
「遺体の所持品の中にコンタクトレンズがあったそうです。山崎さんはコンタクトを無くされています。彼の持ち物だったのではないでしょうか」
「高木、大至急山崎を連れ戻せ!」
「はい!」
高木が駆けていく。そして……。
「なんだよ、疑いは晴れたんじゃないのか?」
と、山崎。
「遺体のポケットからコンタクトレンズが発見されました」
「それが俺のだっていう証拠は?」
「指紋が出たそうです。あなたの指紋が出れば、れっきとした証拠になります」
「出ないと思うけどね。俺は屋上には上がってないんだから」
鑑識が報告する、
「警部、遺体から発見されたコンタクトですが、被害者のものだということが判明しました」
「なに!?」
感嘆符を浮かべる目暮。
「そらみろ。俺のじゃなかっただろ?」
「疑って申し訳ありません」
そこへ聡美が割って入る。
「山崎さん、逃がしはしませんよ」
「え?」
「犯人はあなたです」
「ちょっ、俺じゃねえって」
「被害者を落としたのは、です。あなたが行ったのは、殺人事件への偽装工作です」
「どういうことだ?」
「被害者……いえ、檜佐木さんは自殺だったんじゃありませんか?」
「なに?」
「ですが、自殺だと保険金が下りない。そこで山崎さん、あなたは殺人事件に偽装したんです。檜佐木さんのご家族に保険金を受け取らせるために」
目暮は問う。
「実はさっき、遺体を確認したときに見てしまったんですよ。檜佐木さんの自殺の手順が書かれたメモ帳を」
「それならチラッとだけど、ボクも見たよ」
と、世良。
「なんだと?」
「これがそのメモ帳です」
聡美は目暮にメモ帳を渡した。
「君、遺留品を勝手に抜いたのかね? ダメじゃないか」
まあまあ、と世良が
「そのメモ帳によると、保険金の受取人は山崎さん、あなたになっています。ということはつまり、あなたは檜佐木さんと親しいものとみられる」
「……………………」
「では、なぜ檜佐木さんは自殺をしなくてはならなかったか。それは、あなたを助けるためです」
「俺を?」
「はい。先ほど、マネージャールームで日誌を見つけました。あなたが詐欺に遭い、貯金していたお金を全て詐取されたことが書かれていました」
「お、俺が詐欺? 俺はそんなのに遭ってないぞ?」
「いえ、遭ってるんですよ。結婚詐欺に」
そうですよね、と聡美は目撃者の女性に伺う。
「え?」
落下してきた檜佐木を目撃した女性が疑問符を浮かべる。
「日誌の他にもありましたよ。マネージャールームにあなたの写真が。それだけでなく、私立探偵の調査報告書もありました。
「ど、どういうことよ?」
「ちょっと待って。この女性が四方田さん?」
「ええ」
疑問符を浮かべる山崎。
「山崎さんと四方田さんの関係ですが、ネット上でのご関係で、お互いの顔も知らなかったんじゃないんですか?」
「ああ、そうだ」
と、山崎。
四方田は無言になる。
「四方田さん、あなたはネット上で山崎さんに近づき、結婚を申し込み、金品を要求した」
聡美はそう言って、山崎を見る。
「山崎さん、四方田さんに金品を要求されましたよね?」
「ええ。だけど、あれは四方田さんが俺と結婚するために必要なお金だと」
「いいえ。四方田さんはあなたを騙していたんです。そのことを檜佐木さんから聞かされたあなたは、檜佐木さんの申し出に乗った」
「申し出?」
「檜佐木さんはガンを患っていました。部屋に薬がありましたよ。余命いくばくもない檜佐木さんは、自らの命を絶とうとしていました。相談を受けたあなたは、四方田さんを罠にはめることにしました。ちょうど四方田さんがこのマンションの住人だったので、落下を目撃させ、後に四方田さんの部屋に殺人の証拠となるようなものを、偽装するつもりだったんでしょう? 山崎……いや、檜佐木 昭雄さん」
「ちょっと待ってくれ。俺が檜佐木?」
「ええ。日誌にありましたよ、息子だと」
「な……!」
「山崎さん、あなたは檜佐木さんと母親が離婚し、母親の姓になり、母親の元で育ったのでしょう?」
「……そうだよ。俺は檜佐木だった」
山崎は膝をついた。
「親父に全て聞かされ、俺は四方田を殺人犯に仕立てようと思ったんだ。親父のコンタクトも、四方田の家にこっそり置いてくる予定だった。だけどなんでだろうな。受け取ったはずの片方だけのコンタクトが、なぜか見つからず、もしかしたらしまおうとしたときに屋上から落としたかと思って、探して回ってたけど、結局見つからなくて」
「四方田さん?」
聡美が四方田を見る。
「何よ?」
目暮が四方田に近づいた。
「四方田さん、結婚詐欺について話がしたいので、ご同行願えますかな?」
それから、と目暮は山崎に言う。「あなたにも現場偽装の件でお話がありますので」
四方田と山崎はパトカーに乗り、警視庁まで運ばれていった。