帝丹高校。
蘭が幸せそうな顔で登校してきた。
「どうしたの?」
園子が訊くと、蘭は新一と電話で話をしたという。
(それ私なんだよね)
内心で暴露する聡美。
「新一くん、いまどこにいるの?」
「昨日、坂宮 泉が亡くなった現場にいたみたい。殺人事件だったらしいよ」
「坂宮 泉って、病院の非常階段から落ちて亡くなったあの!?」
「うん」
「そうなんだ」
チャイムが鳴り、教師が入ってきてホームルームが始まる。
……。
…………。
………………。
お昼休み、聡美は食堂に来ていた。
「すみません、焼きそばパン一個」
「ごめんねー。焼きそばパンは今売り切れちゃったよ。焼うどんパンで我慢して」
「焼うどん……?」
「今月から出してる新商品よ。美味しいんだから」
食堂スタッフが焼うどんパンを出す。
本当にうまいのか、と訊こうと思った聡美だが、面倒なためやめた。
お金を払い、焼うどんパンをもらう。
「まいどありー!」
聡美は席に座り、焼うどんパンを食べてみる。
「あ、美味しい」
向かい側に、見覚えのない男子生徒が座る。
(えっと……誰?)
「うん? 俺の顔になんかついてる?」
「いや、別に」
「あそ。ああ、俺は
「工藤 聡美」
「工藤? 工藤 新一の親戚か?」
「うん」
「そうか」
……………………。
無言が続いたが、柴山が口を開いた。
「君さ、彼氏いる?」
「え?」
(なんだこいつ?)
「いや、いませんが……」
「フリでいいから、俺の彼女になって?」
「……は?」
「だから、ウソカノになってよ」
「ウソカノって、あなた……」
「ダメ……?」
「ダメに決まってるでしょ。私には加村って……」
言いかけて止まる。
(あれ? なんで今、加村くんの名前?)
「加村? 加村って、あの加村?」
「え?」
「だから、三年A組の加村だよ。精悍な顔立ちはしてるけど、中身はヤバヤバの不良だって噂さ。
その時だ。
「なんで焼きそばパンねえんだよ!?」
精悍な顔立ちをした男子生徒が叫んだ。
「あいつだよ、加村って」
「ああ? 何見てんだてめえ?」
加村が柴山に歩み寄ってくる。
聡美が加村を遮る。
「か、加村くんってあなた?」
「そうだけど、あんたは?」
「工藤 聡美」
「ほう」
品定めをするようにまじまじと見つめてくる加村。
「あんたが工藤 聡美か。可愛いじゃねえか」
「あ、ありがとうございます」
「うん、決めた。お前、俺と付き合え」
「いや、それは……」
「なんだお前? 俺が嫌なのか?」
「そう言うわけでは。精悍な顔立ちなのは評価します。ただ、お互いのことよく知らないし。だから、まずはお友達からってことでお願いします」
「そうかよ」
加村は聡美に手にある焼うどんパンを見た。
「あ、お前それ焼きそばパン」
「え?」
聡美は焼うどんパンを加村に奪われ、食われた。
「って、うどんかよ!」
「あ、私の……」
「ああ、すまん」
加村は100円を渡して去って行った。
「いや、あの、足りない……」
だが、加村には聞こえていなかった。