名探偵コナン〜新一の妹〜   作:桂ヒナギク

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2.レストラン

 杯戸町のとあるバイク屋。

 聡美が店に並んでるバイクを眺めている。

 ホンダのVTR1000F・Fire stormを見つけ、目を止める聡美。

「すいません、これ買います」

 聡美はクレジットカードでFire stormを購入した。

「さ、帰ろう」

 聡美はビートルに乗り、阿笠と共に米花町に向かう。

ギュルルルル──お腹が鳴る聡美。

「お腹空いたのか?」

「うん」

「じゃ、レストランにでも寄るかのう」

 阿笠がファミレスにビートルを止める。

 二人は車を降り、中へと入った。

「いらっしゃいませ。二名さまでよろしいですか?」

「はい」

「ご案内します」

 ウェイトレスが二人を空席に案内した。

「お決まりましたらお呼び下さい」

 ウェイトレスが去って行くとほぼ同時に、二人はテーブルに置かれたメニューを開いた。

「きゃあああああ!」

 突如聞こえてくる女性の悲鳴に、駆けつけて確認したくなる聡美だが。

「なんじゃろう?」

「どうせ店員がBB見たんじゃないの?」

「BBって何じゃ?」

「Black beetle、つまりゴキブリ」

(見に行きたい)

「行きたいんじゃろ。行ってこい」

「そう? じゃ、失礼して」

 聡美は悲鳴の元へ駆けつけた。

「どうしました?」

 女性が男女共同トイレの前で腰を抜かしてわなわなと震えている。

「ひ、人が……!」

 聡美は女性が指差す先を見た。そこには。

「……!?」

 血だらけの男性が便器に座った状態で背中を壁にもたれさせて死んでいた。

「一体何の騒ぎ……って、うわ!」

 ウェイターがやって来て、トイレの中を見て驚く。

「店員さん、申し訳ないんだけど、店内の出入りを封鎖して、警察を呼んでもらえますか?」

「あ、はい!」

 店員が店の出入りを封鎖し、警察を呼んでいる間、聡美は洗面器下部のダストボックスを開けた。そこには血だらけの包丁が捨ててあった。

(なるほど、これが凶器か)

 次に遺体を調べ、死亡推定時刻を算出した。

 体の温かさと硬直具合から亡くなって間もないことがわかる。

 その時、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 サイレンは段々と近付いてきて、店の前で止まった。

(何だ、この(かす)かに甘い香りは?)

 捜査員たちが店に入ってくる。

「遺体には誰も触れてないでしょうな?」

 ウェイターにそう訊ねるのは、警視庁捜査一課の志村(しむら) 智明(ともあき)刑事だ。

「それが、先ほどから妙な女の子が」

「妙な?」

 志村刑事は連れの赤峰(あかみね) 良夫(よしお)刑事と共に、現場へと向かう。

「これ! 遺体に触れるんじゃない!」

 聡美が振り返り、胸元のバッチを見て捜査一課の刑事だとわかると。

「あ、刑事さんですね」

「君は何だね?」

「工藤 聡美、探偵ですよ。ちなみに死亡推定時刻は二十分ほど前です」

「聞かない名だな」

 そう言って警察手帳を取り出す志村刑事。

「警視庁の志村だ。出て行ってくれ」

 聡美が現場から出ると同時に、鑑識作業が始まる。

「あー、えっと、志村刑事と言いましたね。そこのダストボックスに凶器が入ってますよ」

「何?」

 鑑識がダストボックスを開けると、確かに凶器の包丁が入っていた。

「そして、遺体の第一発見者はこちらの女性です」

 聡美が未だにわなわなと体を震わせて、何とか立っている女性を示す。

 赤峰刑事が女性に手帳を見せた。

「警視庁の赤峰です。お名前を教えていただいてもよろしいですか?」

川村(かわむら) 悦子(えつこ)です」

「では、川村さん、遺体を発見した時、何か見ませんでしたか? 怪しい人物とか、何でも結構です」

「いいえ、何も……」

「そうですか。では、被害者と面識は?」

「ありません」

「そうですか。ありがとうございます」

「赤峰くん、店内に被害者と面識のある人物が居ないか聞き込みだ」

「はい」

 赤峰刑事と志村刑事は聞き込みに向かった。その結果、二人の男性容疑者が浮上した。

「そんな、宮島が亡くなるなんて……」

「誠二、どうして死んじまったんだよ!」

 二人の言葉から被害者の名が、宮島(みやじま) 誠二(せいじ)だと(うかが)える。

「失礼ですが、あなた方のお名前は?」

加山(かやま) 洋次(ようじ)です」

朝風(あさかぜ) 裕貴(ゆうき)です」

「被害者とはどういうご関係で?」

「大学のクラスメイトです」

「ほう」

「俺たち、大学のレポートを書こうと思って、この店にやってきたんです」

「そうでしたか。因に、あなた方は三十分前、何をしてましたか?」

「誠二がトイレに立って、残った二人だけでレポートを書いてました」

「志村さん」

 と、赤峰刑事が志村刑事に声をかける。

「どうした?」

「今、店員から話を聞いたんですが、厨房で使ってる包丁が一つ紛失されているそうです」

「何?」

「赤峰くん、凶器と同一のものか確認を取ってきてくれ」

「はい!」

 赤峰刑事が鑑識から凶器の包丁を借り、厨房へと入っていった。そして。

「志村さん、凶器の包丁はこの店で使われていた包丁だそうです」

「と言うことは、店員の中にも容疑者がいそうだな」

 そう判断した志村刑事が、赤峰刑事と共に厨房へと入っていった。聡美もそれを追う。

 赤峰刑事がコックに訊く。

「貴方、被害者と面識があるんですか?」

「高校の時のクラスメイトですよ」

「そうですか。因みに、今から四十分前、貴方は何を?」

「僕はこの厨房で一人で注文の品を作ってましたよ」

「そうですか」

「他のコックさんが見えませんが、どうして?」

「今、お昼休憩です。他の皆さんが戻ってきたら僕も休憩に入る予定です」

「そうですか」

 赤峰刑事たちは厨房を出ると、ウェイトレスに声をかけた。

「失礼ですがお名前を教えて下さい」

緑川(みどりかわ) 京子(きょうこ)です」

「では緑川さん、被害者の宮島さんと面識は?」

「ええ、まあ……」

「どう言ったご関係で?」

「ストーカーだったんです。初めて会った時に一目惚れされて、以来付け回されるようになって……。でも死んで清々します」

「警察には相談されなかったんですか?」

「相談しましたよ。でも、何もしてくれなくて……」

「それは申し訳ない。では、遺体が発見される二十分前、貴方はどこに居ましたか?」

「ホールで注文を伺ってました」

「そうですか。では」

 赤峰刑事たちは厨房に戻った。

「まだ何か?」

「前川さん、貴方、お付き合いしている女性は居ますか?」

 コックの名は前川(まえかわ) (しげる)という。

「緑川さんと交際してますが、それが事件と何か関係が?」

「と言うことは、宮島さんが緑川さんに何をしていたかご存知ですか?」

「ストーカー行為ですよね。え? もしかして俺、疑われてる?」

「いえ、別にそう言うわけでは……」

「そうですか。よかったー」

「忙しいところ申し訳ありません。では」

 赤峰刑事たちは厨房を出た。

(さて、それじゃあ事件の整理をするか)

 聡美は事件の整理をする。

 被害者の遺体が発見されたのは、聡美と阿笠が入店して直ぐの午後十二時二十分頃。

 被害者の死亡推定時刻は、発見時の二十分前、つまり十二時だ。

 殺害の凶器に使われたのは店の包丁。

 事件について話を聞いた四人の中で殺害の動機があるのは、緑川さんと前川さんだ。

(取り敢えず、このくらいかな。容疑者が二人に絞り込めたな)

「刑事さん、凶器の指紋はどうなってるの?」

「それなら今、鑑識が分析中だよ」

 その時、志村刑事の携帯が鳴った。

「はい、志村。……ああ。……ああ、分かった」

 電話を切って仕舞う志村刑事。

「鑑識からの報告で指紋は全て拭き取られていたそうだ」

「そうなんだ」

 聡美は考えた。

 指紋が出なかったとなると、犯人が誰なのか分からない。例え分かったとしても、証拠不十分である

(くそ、一体誰が犯人なんだ? 前川さんが怪しいと思うが、しかしアリバイが無いってだけで犯人と断定してもいいのだろうか?)

 聡美は思考に思考を巡らせた。

(確認してみるか)

 聡美は厨房に入った。

「コックさん?」

 前川は聡美を見る。

「何かな?」

「白衣を脱いでいただけますか?」

 前川は顔を(しか)めた。

「もしかしてコックさんが事件の犯人ですか?」

「そ、そんなことないだろ。俺は忙しいんだ。出てってくれ」

 聡美は厨房を出た。

「赤峰刑事」

「何だい?」

「犯人は前川コックです」

「それは本当かい?」

「うん。白衣の下に返り血を浴びた服を着てる可能性がありますね」

「そう。じゃあ確かめてくるよ」

 赤峰刑事は厨房に入った。

「前川さん、白衣を脱いでいただけませんか?」

「なぜですか?」

「返り血を浴びてないか確認するためです。ご協力下さい」

 前川は脱兎のごとく逃げ出した。

「待て!」

 後を追う赤峰刑事。

「志村さん、前川さんが犯人です!」

「何!?」

 志村刑事も赤峰刑事と共に前川を追う。

「待つんだ、前川さん!」

 逃げる前川。だが、躓いて転んでしまった。

「確保──っ!」

 赤峰刑事が前川を取り押さえ、手錠をかけた。

「赤峰くん、よくやった」

 赤峰刑事は前川をパトカーに乗せた。

 その後、前川は取り調べで犯行を自供したという。


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