シャドウサーヴァントから始まる人理救済   作:ドリーム

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傲慢とは

諦めない…

 

諦めてたまるか…

 

まだ…

 

何回だってやり直してやる…!

 

だって…

 

 

 

 

 

『———先輩…』

 

 

生きるって…生きたいって…それがどんなに尊いことか…知っているからッッ!!!

 

 

 

 

 

ー《F/GO》ー

 

 

〜ぐだ視点〜

 

 

第5の具現を突破し、第6の扉への道が解放された。

第6の扉をくぐり、現れる具現をなぎ倒す。

第7の扉が見える。

————不思議と、さっきまでの戦いが記憶にない。

 

無論それは厳しい戦いだったと思う。予想外にも息切れが激しい。

でもこれが…戦いによるものだけではないというのが…なんとなく…わかってしまう…

 

 

 

違和感はあったのだ。

 

第四特異点…ロンドンで、僕はなぜか聖杯を回収した部分の記憶が飛んでいた。

人間は致命的な記憶の欠如には、それはその人間にとって最も嫌な記憶に蓋をして、思い出してショックが起こらないように、と自己防衛が働く…って前に聞いたことがある。

まさにこの記憶の途絶えは、その自己防衛がなすことだった。

 

 

『わるいな…』

 

 

いやでも鮮明に思い出せた。

 

そうだ。

 

僕は…

 

ここに来る前…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「魔術王…グランドキャスター…」

 

 

ソロモン。それがこの事件…『人理焼却』の黒幕にして、アイツを殺した張本人。

72の魔神を従える、古代イスラエルの王。

聡明な完璧の王と言われる、10の指輪の持ち主。

 

「————」

 

口の中が鉄の味で満たされる。無意識に唇を噛んでいたようだ…血が溢れてくる。

静かな、それでいて染みる痛みが全身を駆け巡る…

 

…でもそのお陰で少し冷静になれた。

 

要は、倒すべき敵は定まった…ということだ。あとは残りの特異点を制覇し、奴の元にたどり着くだけだ。

 

「行こう、アヴェンジャー、メルセデス。あと1つだ」

「……」

「は、はい…」

 

 

第7の扉を開く。

あいも変わらずだだっ広い空間が広がり、窓のないこの空間には壁についたいくつものろうそくがユラユラと蠢いている。

 

「…いない…」

 

だが、ここは今までの6つの間と違い、主人である具現がいない。

しかし、その理由はわかっている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここには罪の具現しか来れない。

 

僕は魔術王にここに閉じ込められたイレギュラーだが、ここには僕以外に…二人。

 

アヴェンジャー…そして…

 

 

 

 

「あ…あああ…私は…私は、私は!!」

 

 

「そうだ。ここにいるのは罪を重ねた罪人のみ。お前はとっくにわかっていたようだが…こいつがこの空間の大罪の具現」

 

見るも気弱そうな借りてきた猫のように静けさを持つ彼女が変貌していく。

僕が記憶を取り戻したように、彼女も()()()()()()()()()()()()()()

 

「………私は全ての…害あるものを許せない。

全ての人間を救う!!あなた方も救う!

 

 

 

 

たとえ、貴方達を殺してでも!!私は!貴方達を助けるッッ!!」

 

目つきが変わる。

 

現れたのは全ての人間を救うという『傲慢』を背負う女。

傲慢の具現。それが彼女。メルセデスだ。

 

 

 

 

 

ー《F/GO》ー

 

 

 

「殺菌!!!」

 

その手は、的確に僕の腕を掴みにやって来る。いや、掴むというよりこれは…

——掴まれたら終わる。直感に従い、回避に入ろうとするが…

 

ガキッ

 

「ガァッッ!?…蹴り…!」

 

どこの体術なのかは知らないが、手とともに迫っていた蹴りに回避が間に合わず、もろに肩に当たる。

今の感じ…多分(肩が)外れた。

しかし、相手(メルセデス)は止まらない。

 

次の攻撃が迫る!!

 

「くっ…無茶苦茶な…」

 

アヴェンジャーはただじっと僕と彼女の攻防を傍観している。

それにどんな意図があるかはわからないが、正直なところそっちに回す脳の容量が……

 

…ないッ

 

「これは…治療です!!」

「そんな治療があるか!!」

 

回避とともに床を転げ回る。その際、外れた肩に衝撃が走る!!

 

「グッ…が」

 

外れた肩を倒れこむ衝撃で無理やりはめ込みながら、下からの下段攻めを仕掛ける…が

 

「殺菌!!」

「クッッなんつう反射速度…」

 

相手は皮被りとはいえサーヴァント(仮)。

僕の小細工は通用せず、それ以上の力技でねじ込まれ、落とされる…

 

「があああッッ……」

「消毒!!」

 

迫り来る攻撃に、防ぐ手段が見当たらず、再び攻撃をモロに受ける。

衝撃が中心から体中に広がり、体がバラバラになりそうな初めての感覚に襲われる。

改めて、生まれついてのこの体の異常性に感謝した。

普通の体だったら本当にバラバラになってたからもしれない。

 

「貴方は治療を受けるべきです!!貴方は止まるべきです!その異常性は!決して生易しいものではありません!!」

 

彼女は何を言っているのか…

 

彼女に僕の何が分かる?

 

彼女は僕の何を知っている?

 

彼女は…

 

僕は…

 

「僕は…なんなんだ?」

 

彼女の言葉から、浮かんできた疑問をぶつけた。

ずっと知りたかったような…でもどこか知りたくなかったような…

 

「貴方は治療を受けなければいけません。貴方は病気です。貴方は異常です。だから…」

 

彼女は鉄のような表情で言い放つ。

 

「貴方を救い(殺し)ます。これは…治療です」

 

その鉄のような顔からは想像もできないほど、優しい声でメルセデスは僕に語りかける。

その声が、その言葉が、ストンッと心に落とされ、彼女の拳が吸い込めれるように…

 

 

 

 

俺の心臓(イノチ)へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————ダメ…!!

 

 

 

「ッッ!!!!!」

 

 

強化。強化。強化強化強化強化強化強化強化ッッッ!!!!!

 

落ちた腕で再び握り拳を作り、迫る(メルセデス)の拳と自身の拳をぶつけさせるッッ!!

 

————ドボォンッッッッ!!!

 

ただの殴り合いならありえない音が、あたりに響く。

衝撃で吹っ飛んだメルセデスは空中で何回転かした後地面にスタッと着地した。

ぶつかった腕は壊れたのか、血が滴り落ちている。

 

「……軽傷」

「…嘘つけ」

 

どう見たって彼女の拳は手首あたりから変な方向に捻じ曲がっている。それは軽傷と呼んでいい怪我ではない。

まあこっちも強化を重ねたとはいえ、あまり調子がいいとは言えない。彼女のように壊れてないのが奇跡だ。

 

「そんなことはありません。関節を外し付け直せば…この通り、動けます」

「オイオイ…プラモデルじゃないんだからさぁ…」

 

もしかして彼女はバーサーカーなのではないのだろうか?いや、多分。うん間違いない。これまでいろんな英雄に会ってきたせいか直感でわかる…彼女はバーサーカーだ。じゃなきゃヤダ。

 

「治療を再開します」

「!」

 

———さっき。ついさっきのことだ。

僕は諦めたのではなく、彼女の治療に一瞬、命を預けようとした。

 

ー眼球を強化し、迫る拳を逸らすー

 

意識が覚醒する寸前、聞こえた誰かの声。はっきりと聞こえた声が今ではぼんやりとしか思い出せなかった。

 

ー回避を繰り返し、感覚を研ぎ澄ませ続けるー

 

けれど…それは無視をしていい声ではなかった。それこそ誰かの必死の声。

それを無視できるほど、僕は人間を捨ててない。

 

ー感覚が研ぎすまされるごとに攻撃の瞬間が増えるー

 

目の前の彼女(メルセデス)を見る。

その鉄の顔は変わらず、僕を治療しよう(殺そう)とする。

何が彼女を駆り立てるのかはわからない、でもこれだけはわかる。

 

ー拳を構える。渾身の力を、その一振りに…ー

 

 

「———ごめん。どいて、メルセデス

 

「!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———助けようとしてくれて…ありがとう」

 

ー瞬間、必殺の拳が彼女の胸部を破壊するー

 

 

彼女は間違いなく、藤丸 立香を救おうとしてくれたのだ———

 

 

 

 

 

 

ー《F/GO》ー

 

 

傲慢とはなにか?

 

全ての人間を救おうとすることは罪か?

 

それは誰かが決めるのではなく、

 

その人物を取り巻く環境が、世界が決めるのだ。

 

その考えで言えば、彼女は傲慢なのだろう。

 

 

 

 

どこかで、全ての人間を本気で救おうとした…看護婦がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傲慢の具現。撃破。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の扉が開いた…

 




次回監獄編最終話。



『183726943回のダレカ』


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