死の支配者と王種の竜人の異世界冒険譚   作:Mr. KG

4 / 8
結局日曜日までに投稿は出来ませんでした。執筆って難しいですね。
緑ですが評価バーに色がつきました。お気に入りも79に増えてプレッシャーも増しましたが、頑張っていきます。

今回は時間軸が結構飛びます。

活動報告でも書きましたが、前話の後書きでのオリキャラの設定をどこで出すかについて特に意見が無かったので後書きで一人ずつ出すことにしました。


2話 準備と月下の語らい

「冒険者をやってみたい?」

 

ユグドラシルのサービス終了時の異変から約一日半が経過した。

アルベドとデミウルゴス主導の下、ナザリック地下大墳墓の新たな警備態勢が構築されていく中、アルベドにより選抜された品位と実力を兼ね備えたシモベ達が警備する第九階層のモモンガの自室。

そこでザッハークの不思議そうな声が響いた。

 

何故ザッハークがモモンガの自室にいるのかというと、一時間ほど前のこと。ザッハークが命じた情報収集組織はナザリックの知恵者四人が協力しただけはあり既に結成され、ニグレドにより発見された三つの国へと潜り込んでいた。

そしてザッハークが上がってきた情報をまとめてシズにモモンガへ届けさせると、その数十分後にモモンガに相談したいことがあると呼ばれたのだ。

伝言(メッセージ)〉越しのモモンガの声は何時もとあまり変わっていなかったため、まとめた情報に不備があったわけではないだろう。ザッハークが見た限り特に興味を引かれるものはなかったはずだが、他者との価値観の違いなどとうの昔に自覚しているザッハークは自分が興味を惹かれなかったものの中にモモンガが興味を引かれるものがあったのだろうと結論づけ、モモンガの自室へと来たのだ。

フィリアと交代制でザッハークの専属メイドとなったシズはモモンガの自室の前で待機している。

そしてモモンガから開口一番告げられたことにザッハークは冒険者という職業について概要程度は載せていたはずだが、何故そう思ったか分からず不思議そうな声を上げた。

 

「ええ、ちょっと興味を引かれまして」

 

「ふむ。ですが、モモンガさん。確かに冒険者という名前ではありますけど実際はモンスター相手の傭兵みたいなものですし冒険はほとんどしないみたいですよ?」

 

「ええ、それは分かってます。上がってきた情報にも載ってましたし」

 

「それならば何故ですか?」

 

ザッハークの問いにモモンガは気恥ずかしそうに軽く頰をかき、理由を説明する。

 

モモンガの言う理由は三つ。

一つ目はこのまま凄まじい忠誠心を向けられ続ければ精神的疲労が溜まるだろうから、息抜きとして。

二つ目は上位の冒険者となれば回ってくることのある遺跡の調査などの冒険への憧れ。

そして三つ目が現地での情報収集。最もこれはついで程度だそうだ。

 

「それにザッハークさんとまた一緒に冒険したいと思いまして」

 

モモンガの言葉にザッハークは少し眉間にしわを寄せる。それを見てモモンガが不安そうな声で問いかける。

 

「えっと、嫌でしたか?」

 

「ああ、いえ。そういうわけではないんです。ただ私も行くとなるといくつか問題がありまして」

 

「問題ですか?」

 

「はい。現在上がってくる情報をまとめたり吟味したりするのは私がやっているので、私が行くとなると確実に出来ると言える四人がただでさえ仕事量が多いのに負担が増してしまうんです」

 

「なるほど………」

 

ザッハークの説明を聞いてモモンガが難しそうに唸る。現在ナザリックの知恵者四人は警備態勢の構築に奔走しているのだ。それに警備態勢が整ったら新たな任務を任せる予定がある。

情報の整理が出来るのがその四人だけということはないだろうが、いかんせんナザリックのNPCは数が多い。性格などが設定に由来するようなので、設定がほとんど無いセバスや、間違った廓言葉を使っていることからもわかるようにアホの子設定をされたシャルティアなどは除外出来るが、他の全員を情報の整理などが出来るかを調べるとなると手間がかかる。

ザッハークもNPCの設定を全て把握している訳では無く、調べるとしたら候補は知性を持つモンスターを含めれば百はいるだろう。

 

「それにギルメンのことを相当慕ってるようですからね、私達二人が外に出るとなるとかなり面倒なことになると思います」

 

「確かにそうですね。となるとどうしましょう」

 

「別に私はモモンガさんがどうしてもと言うなら面倒ですが頑張りますよ?」

 

「いえ、ザッハークさんの気持ちは嬉しいですけど私の我が儘で負担を増やす訳にもいきませんから」

 

「…そうですか」

 

ザッハークの声が若干沈むが、直後にそれを打ち消すかのように、よし、と声を上げる。

 

「それじゃ、私はモモンガさんの冒険者デビューを手伝うとしますよ。モモンガさんは冒険者としてどんな職種でいくんですか?」

 

「そうですね、この世界のレベルはかなり低いようなのでどうせなら前衛やってみようかなと思ってます」

 

モモンガの返答にザッハークはなるほど、と相槌を打ち少し考えてでは、と続ける。

 

「では、装備と供回りは私が選んでおくのでモモンガさんは特訓でもしていて下さい。コキュートスとドレイクには私から連絡しておきますので」

 

「え?」

 

「ん?」

 

モモンガの不思議そうな声にザッハークも不思議そうな声で返す。何故そんな声を出したのかわからない様子のザッハークにモモンガが疑問を呈す。

 

「えっと、供回りと特訓はわかりますけど装備ってどういうことですか?」

 

「どういうことって、言葉の通りですよ。鎧やら武器やらその他諸々です。〈完璧なる戦士(パーフェクトウォリアー)〉使えば問題ありませんよね?」

 

「いや、この世界って30Lvで最強クラス何ですよね? だったら〈上位道具創造(グレータークリエイトアイテム)〉で十分だと思いますけど」

 

モモンガの疑問にザッハークは何を言ってるんだと呆れた風に肩をすくめ、口を開く。

 

「いいですか、モモンガさん。確かにこの世界では平均Lvが低くぶっちゃけ私達からすればゴミ同然です。ですが、だからといって装備を(おろそ)かにしてはいけないでしょう? 私達以外にプレイヤーが転移してきていないとは言い切れないんですから」

 

「なるほど、それは確かに」

 

モモンガの反応を見てザッハークはさらに畳み掛ける。

 

「それに、周辺諸国でスレイン法国は人類至上主義を掲げている上にまだ、中枢に潜り込めてない以上、私達にも効く隠し球が無いとは言い切れません」

 

「はぁ……。それもそうですね。備えあれば憂いなしとも言いますし。分かりました、その件に関してはザッハークさんに任せます」

 

「分かっていただけてなによりです。では、時は金なり、(ただ)ちに行動を開始しましょうか」

 

モモンガの諦めたような声の返答にザッハークはにっこりと笑みを浮かべて締めくくる。

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

(まず、モモンガさんの同行者は誰にするべきだろうか)

 

モモンガとの話し合いを終えて自室に戻ってきたザッハークはモモンガのお供の条件を頭の中に浮かべていく。まず、息抜きが目的の一つである以上、一人くらいがいいだろう。

次に、他のプレイヤーが転移してきている可能性がある以上100Lvプレイヤーと戦えなければいけない。職種としては冒険者としてモモンガが前衛をやるのだからバランス的に後衛、そしてプレイヤーとの戦闘になった場合に前衛が出来る魔法戦士や神官戦士が望ましい。

他にも人間との接触が多くなる以上臨機応変に対応できた方が良く、ユグドラシルで主に服飾関係のデザイナーが使っていたグラフィックを変えるアイテムがあるが、100Lv同士の戦いとなれば装備一つが勝敗を分けることは珍しくない上、見破られた際のリスクを考えると素で人間と変わらない姿の方が望ましい。

 

「………」

 

ザッハークは頭の中で候補を選んでいく。まず、強さでいくとルベドや第八階層のあれらが思い浮かぶが、どちらも色々とまずいので却下だ。となると必然的に100LvNPCの中から選ぶことになる。

他二つの条件の内、職種と姿では神官戦士のミカエラとグレーゾーンだがシャルティア、魔法戦士のフィリアとルシフェル、戦士では無いが、マーレも一応候補に残る。

そして残りの条件を満たさないシャルティアとルシフェル、ミカエラ兄妹も除外出来るが、そうすると残りはフィリアとマーレになる。

マーレは見た目は最高位冒険者"蒼の薔薇"にイビルアイという同じ程度の体格の持ち主がいるという報告を考えればそこまで問題にはならないだろうが、広域殲滅型のため前衛としては少々頼りない上、対人能力に不安がある。

フィリアはパーフェクトメイドとしてキャラデザインしているため臨機応変な対応は出来るだろうが、メイドとして戦闘に関わらない職業を幾つか取っている関係で純粋な魔法戦士と比べると戦闘力は劣る。

 

「さて、誰にしたものか」

 

天秤自体はフィリアに傾いているのだが、非常時の戦闘力の面で不安がある。ルシフェル、ミカエラ兄妹ならば問題は無いのだが、息抜きのお供としては性格に少し難がある。

 

(…………待てよ、あいつなら)

 

ザッハークは頭に浮かんだ者について考える。

戦闘力───問題無し

姿───問題無し

性格───問題無し

息抜きに関してもあまり問題はないだろう。

 

(よし、奴ならば問題は無いな)

 

結論を出したザッハークは部屋の隅に待機しているシズに行き先を告げ、転移した。

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

「ふぅ…………」

 

モモンガは軽く息を吐いた。アンデッドであるため疲労はしないのだが、人間の残滓とでもいうべきモノが疲れを訴えていた。

現在モモンガがいるのは第六階層のアンフィテアトルム。ザッハークが話を通していたコキュートスとドレイクと共に剣の鍛錬のために来ていた。

ナザリックの転移から60時間ほど経っており、モモンガはアンデッドの特性によりほとんど休まず鍛錬をしていた。

剣の腕が上達していくのを感じるのは楽しいが、2mを超す蟲王(ヴァーミンロード)竜人(ドラゴノイド)と至近距離で斬り合うというのは中々のプレッシャーだったため適当な理由をつけて少し休憩に入ったモモンガは、魔法で創っていたグレートソードを消し、闘技場の中心へ視線を向ける。

モモンガが視線を向けた先ではライトブルーの蟲王(ヴァーミンロード)と黒い鎧を纏った赤鱗の竜人(ドラゴノイド)がモモンガの目では捉えられないほどの速さで斬り合っていた。

別に殺し合っているわけではなく、モモンガが休憩に入る際模擬戦の許可を与えたためだ。

ドレイクは両手で、コキュートスは四本の腕全てでダメージが入らないように用意した低位の武器を持っており、単純に考えて手数は四倍違うだろうが、専業戦士と魔法戦士の差か互角に渡り合っていた。

 

「ん?」

 

二人の模擬戦を観戦していると〈不死の祝福〉により闘技場の入り口にアンデッドの反応を探知したモモンガはそちらへ視線を向ける。

やって来たのは何冊かの本を乗せたカートを押してきたメイドだ。黒と白の由緒正しいメイド服に身を包んでおり、その上からでも分かる女性らしい起伏に富んだ体つきに、氷で出来た一輪の花を思わせる美貌、第六階層の天蓋の明かりを受けて煌めく銀髪を後ろで一度折って黒地に竜をかたどった精緻な銀細工が施されたバレッタで留めている。

そのメイドはフィリア・ファルシオン。ザッハークが最初に作製したNPCでナザリックのメイド長補佐である。

 

「失礼いたします、モモンガ様」

 

「フィリアか、何の用だ?」」

 

「はい、ザッハーク様からこちらをモモンガ様へ届けるように、と」

 

そう言ってフィリアが持っていた何冊かの本をモモンガへ差し出す。タイトルを見るに武術の指南書のようだ。

 

「これをザッハークさんが?」

 

「はい、ザッハーク様曰く『実践が一番だが、理論を知っておいて損は無い』とのことです」

 

「なるほど………」

 

モモンガは確かにその通りだ、と考え、一番上の本を開く。

 

「ふむ………なるほど………」

 

読んでいくと思わず声が出てしまう。数十冊以上あった中でザッハークが選んだだけあり分かりやすい上に引き込まれる。

いつの間にか読み終わっており、鍛錬により剣の腕が上達していくのを感じる楽しさもあって試してみたくなったモモンガは本を傍に置きグレートソードを創り出して既に引き分けで終わっていたコキュートス達の方へ向かう。

 

「さて、特訓再開だ」

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

ナザリックの転移から約三日。ザッハークは恐怖公の眷属やシャドウデーモン等により集められた情報に目を通していた。

既に王国と帝国の中枢まで潜入している情報部隊よりもたらされる情報は結構な量となっている。

未だ法国の中枢へは潜入出来ていないが、二つの国からの情報だけでもこの世界の情勢についてはそれなりに把握出来る。

今はナザリックの新たな防衛態勢の構築が完了していないため後になるが、その内潜入だけでは入手出来ない情報を得るために適当な帝国の貴族等を使ってワーカーへ偽の依頼を出して誘い出したり、野盗などの犯罪者を捕らえたり他の国へ情報部隊を送る準備も必要になるだろう。

そういったことを考えつつ、ザッハークは同時に別のことも考えていた。

 

(さて、モモンガさんの装備をどうしたものか………)

 

既に九割ほどは決まっているのだが、残りの一割で悩んでいた。

アンデッドの姿は全身鎧で隠せるが、人間の街で過ごすとなるとずっとそうしているわけにもいかない。しかし、グラフィックを変えるアイテムを使うと装備箇所が一箇所潰れる上に姿こそ変わるが、それだけだ。メリットがほぼ無い。かといって一時的に人間種になるアイテムでは種族レベルの分がなくなってしまう。

ちょうどナザリックの近く──およそ10kmは離れているが──で冒険者になる前準備として()()()()()()()()が起こっている以上、早く決めたいのだが、モモンガの姿をどうするかで一部装備が変わってしまうのだ。このまま良案が浮かばなければ前者にするが、やる以上は最善を求めて考え尽くす必要がある。

ザッハークが書類に目を通す作業に一段落つけて、装備をどうするかを考えているのに専念していると〈伝言(メッセージ)〉が飛んで来た。

 

『ザッハークさん、今空いてますか?』

 

「ええ、ちょうど一段落ついたところですけど、どうしました?」

 

伝言(メッセージ)〉を飛ばして来たのはモモンガだった。ザッハークがモモンガに質問の意図を聞くとこれから少し外に出てみるから一緒にどうかというお誘いだった。

ザッハークは了承し、ついでにもしもの事態に備えるためNPCを連れて行くこととリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが一つしかないため歩いて行くことを告げる。

それに対するモモンガの返答は了承だった。声音に諦めの色が混じっていたような気がしたが、ザッハークは気のせいだろうと判断し、指輪で転移出来る中で、入り口に最も近い中央霊廟の広間に到着したら〈伝言(メッセージ)〉で連絡することを伝える。

 

『分かりました。それではなるべく早めにお願いします』

 

モモンガの返事とともに〈伝言(メッセージ)〉が切れる。

ザッハークはデスクの上に広がっていた書類をまとめて椅子から立ち上がり、部屋の隅で待機しているシズに声をかける。

 

「シズ、私はモモンガさんと少し出る。護衛として来い」

 

「………了解」

 

シズが礼とともに了解を返す。ザッハークはデスクの対面にある扉の方へ歩きながらもう一人の護衛まで〈伝言(メッセージ)〉を飛ばしこれから向かうことを告げる。

了解を受けたザッハークは〈伝言(メッセージ)〉を切り、シズの肩と膝の裏に腕を回して抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこというものだ。

 

「………博士?」

 

抱き上げられたシズはいつもと変わらない無表情だが声に困惑などの感情が混じっていた。

 

「しっかり掴まっていろ」

 

ザッハークの言葉によりシズの細い手がザッハークの首に回される。それを確認したザッハークはスキルではシズが隠れないため、隠蔽の魔法を3つほど使用し走り出す。

凄まじい速さでの疾走によりナザリックの景色が瞬く間に過ぎて行く。シズが首に回した手に込められた力が強くなるがザッハークには1ダメージも入らないため気にしない。

〈ドラゴニックセンス〉によりシモベを探知して見つからないようにしているため、シズに気を使いつつ時々曲がったりして、第三階層を目指す。

そのまま1、2分ほど走り目的の場所に到着する。

そこは西洋の城の入り口のようになっていたが、そんなものより遥かに目を惹きつける存在がいた。

 

「お待ちしておりました、ザッハーク様」

 

門の前に立っていたのは赤黒いドレスに身を包んだ長身の女性。180センチ後半のザッハークよりさらに5センチほど高い。

生ある者には届かない滑らかな白皙に金糸のごとく煌めく金髪は(もも)まで届き、鮮血の結晶の如き深紅の瞳は引き込まれそうな錯覚を覚えるほどの美麗な輝きを放つ。その肢体は女性らしい豊満な魅力に富み、胸元の開いたドレスや人間味を感じさせないまでの高貴な美貌と相まって妖しげな色香を醸し出していた。

その女性こそカーミラ・エルジェーベト。ザッハークの製作したNPCの一人で始祖(オリジンヴァンパイア)の領域守護者である。

うやうやしい礼をするカーミラが一瞬ザッハークにお姫様抱っこされたシズに視線を向ける。それに気づいたザッハークはシズを下ろし、カーミラに問いかける。

 

「要件は〈伝言(メッセージ)〉で伝えた通りだ、頼めるな?」

 

「お任せください。至高の御方々に傷一つつけることのないよう全力を尽くします」

 

「ああ、期待している」

 

ザッハークの言葉にカーミラの体が一瞬震える。ザッハークはそれに伴って揺れる体の一部分に目を向けないようにして歩き出す。

カーミラとはナザリックが転移してから一度も会話していなかったが他のシモベ達と同じように忠誠心は高いようだ。

誇り高い貴族としてキャラメイクをしたが、いくら貴族だとしてもより家柄が上の貴族や国王にまで平民と同じような態度で接する訳はないのだから、不安になる必要はなかったかもしれない。

ザッハークはそんなことを考えながらシズとカーミラとともに城に踏み入る。

この城はカーミラの守護領域『鮮血城チェイテ』第一階層から第三階層まで続く最大級の守護領域である。トラップの多さと領域の広大さ、迷宮のような複雑な内部構造、隠し通路など数々のギミックはザッハークが自腹で高額な課金アイテムを買い集めることになったりもした程だ。

鮮血城チェイテの中は雰囲気を出す為等の理由で、そこかしこに血に塗れた拷問器具が置いてあり、課金による通常のものより強力な猛毒や負属性のエリアエフェクトに満ちているが、アンデッドのカーミラは言うまでもなくザッハークとシズも装備品などにより意にも介さず黒棺(ブラックカプセル)への転移などの罠無効や罠感知をすり抜けて発動するように作った悪質なトラップを避けつつ第一階層へ進んで行く。

トラップの数は多いが、製作者のザッハークは当然把握しており止まることなく進む。万が一忘れていたとしてもシズはナザリックの、カーミラは鮮血城チェイテのギミックを全て把握しているため問題は無い。

時折幽霊(ゴースト)疫病爆撃種(プレイグボンバー)など時間稼ぎと嫌がらせ用に配置されたアンデッドと遭遇する以外何もなく広間への階段の前に到着する。

 

「む………」

 

階段の前に到着したザッハークは階段の上、中央霊廟の広間の方に顔を向ける。

広間の方からいくつかの強力な気配を感じる。ドラゴニックセンスは鋭敏な感覚によるものだが、探知系スキルのため、ある程度強弱は分かるのだ。

今上がれば見つかるためモモンガに伝えようと

伝言(メッセージ)〉を発動させると見えない糸が探るような感覚がしてモモンガに繋がる。

 

「モモンガさん、今、中央霊廟前の階段何ですけど───」

 

『分かりました。今から行きます』

 

「あ、ちょっと」

 

伝言(メッセージ)〉の途中でモモンガが返答し、直後リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより転移してくる。

伝言(メッセージ)〉で伝え損なったことを伝えようとそちらの方を見たザッハークは絶句する。その姿というのは───

 

「えっと、モモンガさん、何故そんな格好を?」

 

漆黒の全身鎧だった。

まさか中二病が再発したのだろうかと訝しげな目を向ける。モモンガはそんなザッハークの目に気づいたのか、変装のためです。と少し慌てたように理由を説明する。

ザッハークはその格好では不審人物に見られるのではないかと思ったが、仮にそうなったとしても自分がいる以上大した問題にはならないだろうと考えそのことは言わず、ザッハークは階段上の気配のことをモモンガに伝える。

 

「そういえばモモンガさん、言い忘れてましたがこの階段の上からいくつかの強力な気配を感じます。この感じから察するに恐らくデミウルゴスと配下の魔将ですね。どうします?」

 

ザッハークの問いにモモンガは少しうつむいて顎に手をやり、しばし考える。

三十秒ほど考えて結論が出たようで顎にやっていた手を下ろしてザッハークの方に兜に覆われた顔を向け口を開く。

 

「行きましょう。仕事ぶりの視察も兼ねて、ということで」

 

モモンガの結論にザッハークは、では、そうしますか、と返し歩き出す。隠蔽魔法や全身鎧で姿を隠した状態なら説得力はあるし、外に出るのもマーレの仕事ぶりの視察と誤魔化せる。

モモンガと階段を上り、中央霊廟の広間に出る。そこには予想通り三人の魔将とその他の悪魔達がいた。デミウルゴスの姿が見当たらないが、気配が奥の方にあるのは把握している。

広間に出るとやはり低位階の隠蔽魔法では80Lvを超える高位モンスターには通じないようで、魔将達の視線が向けられるが、既にいることはわかっていたため動じる事無く歩いていく。

途中で悪魔達に指示を出していたデミウルゴスが合流し、5人は地表部に出る。

 

「ほう………」

 

少し前から感じていた草の香りが強くなり、肌に夜の冷えた空気が触れる。そのことにザッハークが思わず声をこぼし、目を細めていると、横でモモンガが空に飛び上がるのを感知し、自分も飛ぶために半竜人形態へ姿を変える。竜人形態の翼と尾が生え、四肢も同様に変化する。

姿が変わったことを確認し、白翼を羽ばたかせモモンガに続いて空に飛び上がる。

後ろでデミウルゴス、カーミラ、シズがそれぞれの方法で飛行して追従してくるのを感知するが、そちらの方に目を向けず空を見上げているモモンガの隣まで上がり、同様に空を見上げる。

 

「………綺麗ですね……」

 

「ええ……これが本当の星空なんですね……」

 

モモンガの感慨深げな言葉にザッハークも同意する。空に広がる満天の星はリアルでは百年ほど前に見られなくなったものだ。

見渡す限りに広がる夜の闇の中で輝く星と満月にザッハークは目を細めて見入る。

 

「ブルー・プラネットさんにも見せてあげたかったですね」

 

「あの人が見たら相当はしゃぐでしょうね。趣味に関しては結構子供っぽい所が有りましたから。そしてはしゃいだ後は星空について色々語ってくれますよ」

 

「違いありませんね」

 

モモンガとザッハークの会話が続く。ふと、モモンガが星空へと手を伸ばす。

 

「どうせなら、ギルメン全員でこの光景を分かち合いたいです」

 

「………なら、世界征服でもしてみますか?この世界に来ても、来ていても、分かるように」

 

ザッハークの提案は笑いが少し混じっている。この世界のレベルからすれば、ナザリックなら容易に思えるが分かっていないことの方が多く、たとえ成功しても統治などの問題がある。

 

「世界征服ですか。それも良いかもしれませんね」

 

モモンガもそれを分かっているのだろう、返答にはザッハーク同様笑いが混じっていた。

ナザリックの支配者二人は夜空を見上げて軽い笑いを交わす。

そして、しばらく星を眺めているとモモンガが口を開く。

 

「さて、そろそろ降りますか」

 

「そうですね、マーレの様子も見に行く予定ですし」

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 

「モ、モモンガ様、ザッハーク様。よ、ようこそおいでいただき──」

 

地表部に降りたモモンガとザッハークを迎えたのはマーレの緊張でガチガチになった声だった。

モモンガはそんなマーレに緊張しなくても良い、となだめ、ナザリック隠蔽の働きへの褒美としてアイテムボックスからリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出し渡す。その際ひどく恐縮したマーレだったが、モモンガの言葉により硬い動きで嬉しそうに()()()()()に指輪を嵌めた。

それを見てザッハークがマーレの設定を思い返していると、後ろの夜空の方から知っている気配と羽音が近づいてくるのを察知する。

少ししてその気配と羽音の持ち主───アルベドが、マーレの問いかけにモモンガが答えるより速く会話に入り込む。

 

 

その後、会話が一段落したところでアルベドがマーレの左薬指を見て凄まじい形相へと変わる

 

「ア、アルベド?」

 

「はい。何でしょう、モモンガ様」

 

が、モモンガの声に一瞬で貞淑な美女の顔に戻る。

 

(……つくづく女という生物は恐ろしいな)

 

ザッハークは高校を中退して出奔するとともに縁を切った実家の本家の当主を思い出す。正直あの女とは二度と関わりたくない。

モモンガにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡されたアルベドは今にも叫び出しそうに震え、翼もパタパタと動いている。

そんなアルベドを見たモモンガはさすがに今は渡さない方が良いと判断し、デミウルゴスに指輪を渡すのは今度ということになった。

 

「それでは、戻りますか。ザッハークさん」

 

「そうしましょう。マーレやデミウルゴスの仕事ぶりも見れましたし。ああ、その前に。シズはデミウルゴスに私が通ったルートを教えておいてほしい。頼めるな?」

 

「………了解」

 

シズは綺麗な礼をして了承する。ザッハークは頼んだ、と一言残し、モモンガとともに自室へと転移した。

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

その刹那、優れた聴覚でアルベドの雄叫びをしっかりと捉え驚きにより自室でしばし呆然とするのだった………。

 

 




地表部に降りた辺りほとんどセリフ無しで駆け足気味でしたね。小説読んで勉強し、執筆を繰り返してるから文体が変わってるような気もしますし。
にしても、書いている間にいくつもの作品案が浮かんできます。具体的には、ブリュンヒルデヒロインで殺伐バカップルな最強系狂人オリ主とか、ナーベラルヒロインでパンドラの上位互換オリ主とか、Tー1000とかアパテーみたいな種族金属生命体のオリ主とかですね。
Fateのヘラクレスの能力持ったオリ主とかもやりたいですし。
二作品同時執筆とか私にはかなりキツいですけど。

それではオリキャラの設定一人目です。

名前:フィリア・ファルシオン【Philia・falchion】
異形種
異名:完璧なる従者
属性:中立(カルマ値:0)
役職:ナザリック地下大墳墓メイド長補佐
住居:ナザリック地下大墳墓第九階層使用人室の一つ
身長:178cm
種族
動死体(ゾンビ)──Lv1
職業
料理人(コック)──Lv7
アーマードメイジ──Lv5
ウォー・ウィザード──Lv10、など

種族レベル1+職業レベル99=100

ザッハークが創ったNPC第1号。パーフェクトメイドとして設定されており、内政はアルベド、軍事はデミウルゴスにやや劣るがあらゆる分野に高い能力を持つ。
カルマ値:0が示す通り主人の命なら善行も悪行もためらわず実行するタイプ。
職種はメイドとしてのものと魔法戦士。コキュートスと同じ戦士に重点を置いた魔法が使える戦士。
種族のゾンビは死んでも主人に仕えるほど忠誠心が高いというキャラ設定とアンデッドの様々な耐性というメリットからで、名前が友愛(フィリア)(ファルシオン)なのはザッハークの趣味。
着用しているメイド服は本装備ではないものの、ザッハークのこだわりによりモモンガの創る鎧を凌駕する防御力を持ち、バレッタは同じくザッハークが一から製作した伝説級装備。

意見、感想、誤字脱字の指摘などお待ちしております。

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