死の支配者と王種の竜人の異世界冒険譚   作:Mr. KG

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頭の中の妄想を形にしたものです。
拙いものですが楽しんでいただければ幸いです。
オリ主ザッハークの容姿は腕の入れ墨が無い魔術王ソロモン(赤黒いオーラを纏っていない方)でイメージして下さい。


第1章 不死者の王と悪蛇王
プロローグ


DMMORPG≪Dive Massivery Multiplayer Online Role Playing Game≫。

電脳世界へダイブし、専用のコンソールを使うことでまるで現実のように楽しむことのできるRPG。

数多あるその中で、かつて燦然と輝いた一つのタイトルがあった。

「ユグドラシル」。広大なマップと高い自由度から日本国内で爆発的な人気を博していた。

しかし、どんなものにも終わりはある。

技術の進歩による新しいゲームの開発や12年の歳月により発掘され尽くした未知などの理由でプレイヤーはどんどんと減っていった。

それにより、ユグドラシルはとうとう終わりを迎えることとなった。

 

 

かつてユグドラシルにおいて知らぬものはいないほどの知名度を持ったギルド<アインズ・ウール・ゴウン>、その本拠地ナザリック地下大墳墓第九階層「円卓の間」。

その部屋の中央に、黒曜石で作られた巨大な円卓があった。41人分の豪華な席が円卓の周りに置かれていたが、その席にある影はたった一つだった。その影は豪奢な漆黒のローブを纏っているが、人間ではなかった。身体は白骨であり、眼窩には鬼火のような赤い光が揺らめいていた。魔法を極めたリッチの最上位種の死の支配者(オーバーロード)である。

 

「はぁ、ザッハークさん、遅いな。22時ぐらいには戻るって言ってたのに」

 

そのオーバーロード──モモンガがぼそりと呟く。

彼と共にユグドラシルのプレイ人口減少に伴って櫛の歯が抜けるようにギルドメンバーが引退して行く中でギルドを維持し続けた一週間程前からユグドラシルが終わるから、と格安で売りに出されているアイテムの収集に行っているメンバーが22時を30分以上回っているにも関わらず戻ってこないのだ。

とはいっても、モモンガはさほど心配していなかった。これはモモンガが薄情なのではない。そのメンバーは壊れ性能の職業を複数取得している上、本人のプレイヤースキルも高い。世界級アイテムも所持している上、多対一に強いスキルや魔法も持っているのだ。総合的な戦闘力はユグドラシル最強と言える。

おそらく、アイテム集めに熱中しているのだろう。

昔から何かに熱中すると時間を忘れることがよくあったことを思い出し、苦笑する。

と、噂をすれば影といったところか「円卓の間」に一つの人影が転移してきた。白や黒を基調とした豪奢な装いをしたその人物は、新雪のような白銀の髪を編んでおり、十指にはめた指輪や太陽と月をかたどった黄金色のピアスが髪とは逆の褐色の肌に映えていた。首には魔法金属ガルヴォルン製のチョーカーをつけており、穏やかで理知的な印象を受ける顔に掛けられた黒縁眼鏡の奥には紅玉の瞳がある。

 

「おかえりなさい、ザッハークさん。どうでした?」

 

モモンガの問い掛けに人影ーザッハークは自分で組んだプログラムによって表情を微笑みに変え、返答する。

 

「ただいまです、モモンガさん。そうですね、主な収穫は神器級(ゴッズ)が253個、世界級(ワールド)が13個といったところです。これで神器級(ゴッズ)がギルメンの装備を入れれば1200個を超えて、世界級(ワールド)が121になりました」

 

「随分集めましたね。そんなに売りに出されていたんですか?」

 

「いえ、一部はPVPで奪い獲りました。あとは他のギルドとパーティ組んでワールドエネミーに挑んだりですね。違うギルドのメンバーだったので攻撃に気をつけないといけなくて結構苦戦しました。」

 

「はは、相変わらず手段を選びませんね」

 

「当然です。欲しいものは必ず手に入れるのが私ですから。まぁ」

 

もうすぐ全部消えてしまうんですが、という言葉を飲み込む。あれほど入れ込んだユグドラシルが終わるなど、認めたくなかったのだ。

モモンガの方もそれを察して追求はしない。少し沈黙が流れ、気まずくなったザッハークが口を開こうとする。

 

「モ≪ヘロヘロさんがログインしました≫お?」

 

ちょうど口を開いたタイミングでアイコンが表示され、一つの人影が円卓の間に現れた。その人影はコールタールのように黒くドロドロした粘体だ。強力な酸で武装を破壊してくる嫌われ者のモンスターの古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)である。

その古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)ーヘロヘロが触腕を持ち上げ、ぺこりと頭らしき部分を軽く下げる。

 

「「お久しぶりです!ヘロヘロさん!」」

 

「はは、おひさーです。モモンガさん、ザッハークさん」

 

ヘロヘロは二人の嬉しそうな声に軽く笑いながら挨拶を返す。

それに微笑みだった表情を笑顔に変えたザッハークを見てヘロヘロが軽く呻く。

 

「うわ、相変わらずすごいですね。そのプログラム。表情今何個あるんですか?」

 

「いや、それほどでもありませんよ。多分あと2、3年すれば普通に使われるようになりますって。それに表情の数もまだ喜怒哀楽に+αで17個しかありませんし」

 

「いやいや、一般に普及するまで2、3年はかかるプログラムを今使ってるって時点で十分すごいですよ。表情もかなり自然ですし」

 

「そうですかね?っと、すみませんモモンガさん置いてけぼりにしてしまって」

 

プログラマー二人の会話に入れず、傍観者になっていたモモンガに気付き申し訳ないという表情に変え謝罪するザッハークに、モモンガはひらひらと肉のない骸骨の手を振って気にしなくていいと示し、話題を変える。

 

「本当にお久しぶりです、ヘロヘロさん。転職して以来ですから大体2年ぶりぐらいですかね」

 

「うわ、そんなに時間がたっちゃってるんだ。やばいなぁ、最近時間の感覚が曖昧になっちゃってる。実を言うと今もデスマーチ中なんですよ」

 

「それって、大丈夫なんですか?」

 

「体ですか?ちょーボロボロですよ」

 

心配の表情に変えて問い掛けたザッハークに触腕をひらひらと振って見せるヘロヘロだが、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。

その後も色々なことを話した。

ユグドラシルの思い出や近況報告、仕事の愚痴など、ヘロヘロからは仕事の愚痴がほとんどだったが、モモンガとザッハークは久しぶりのお互い以外との会話に終始楽しげだった。

 

「と、もうこんな時間ですか。本当は最後まで付き合いたいんですけど、ちょっと眠すぎて」

 

「あー、まぁ仕方ないですよね。今の話聞く限り相当ブラックみたいですし」

 

「あの、お疲れなのはわかりますが、折角ですしユグドラシルの最後を一緒に迎えませんか?」

 

「あー、それもいいですけど、さすがに寝落ちで強制ログアウトになりそうなので………」

 

「まぁ、そう、ですよね。我儘言っちゃってすみません」

 

ザッハークが心中で少し葛藤して提案するが、ヘロヘロは申し訳なさそうに触腕を振りやんわりと断る。

 

「いえいえ、お気になさらず。モモンガさん達は最後まで残るんですね」

 

「ええ、私はギルドマスターですし。それに誰か来るかもしれませんから」

 

「私もモモンガさんと一緒にいようかと」

 

「そうですか。……今までありがとうございました、モモンガさん。きっとこのゲームを楽しめたのはあなたがギルドマスターだったおかげです」

 

モモンガは気恥ずかしそうに大袈裟なジェスチャーで応える。

 

「いえいえ、私なんか雑務をやってただけです。皆さんがいてくれたからこそですよ」

 

「いえ、私もそう思いますよ。モモンガさんがいてくれたからこそです」

 

「ええ、モモンガさんは本当によくギルドをまとめてくれたと思います。今まで、本当にありがとうございました。また、どこかでお会いしましょう。次に会う時はユグドラシルIIとかだったらいいですね」

 

「ええ、私もそう思います。また会いましょうヘロヘロさん」

 

「私も次会う時を楽しみにしていますよ」

 

「ええ、それじゃお疲れさまでした」

 

≪ヘロヘロさんがログアウトしました≫

 

ヘロヘロがログアウトし、円卓の間にはモモンガと無表情に戻ったザッハークの二人だけになる。二人とも若干俯いており、暗めの雰囲気が漂っていた。

そんな中で思い出すのはヘロヘロが言っていた言葉

 

「『また、どこかでお会いしましょう。』か…」

 

「…………」

 

モモンガの呟きにザッハークは無言で応える。ザッハークもその言葉に何も思わない訳ではないのだ。

 

「ふざけるな‼︎」

「みんなで作り上げたナザリック地下大墳墓じゃないか!どうして、そんな簡単に捨てられるんだ!!!」

 

モモンガが円卓に拳を叩きつけ、慟哭する。それと同時に自動でダメージ計算がされ、0damageというアイコンが表示される。ザッハークも同じ気持ちだった。ザッハークにとってもギルドメンバー皆で作り上げたここ、ナザリック地下大墳墓は何物にも代えられない思い出が詰まっているのだ。モモンガは仕方ないと自分に言い聞かせているが気持ちを抑えられないのだろう、円卓に置かれた拳が震えている。

実際仕方ないのだろう。アインズ・ウール・ゴウンの加入条件は二つ、異形種であること、もう一つが社会人であることなのだ。

引退していったメンバー達にも社会人である以上どうしようもない事情があったのだろう。

ザッハークは、そんなモモンガに近づき握り締められた拳にそっと両手を重ねる。

 

「ザッハークさん…。すみません、ちょっと取り乱しちゃって」

 

ザッハークはハッとしたようにこちらを見て申し訳なさそうに謝罪のアイコンを出すモモンガに微笑みかけ、口を開く。

 

「大丈夫ですよ、モモンガさん。私も同じ気持ちです」

 

「ザッハークさんもですか」

 

「ええ、最終日なのに2人しか来てくれなかったんです。誰だってそう思うでしょう。だから、気にすることはありませんよ。愚痴、聞きますから。どうせならここで全部吐き出してサービス終了をスッキリ迎えましょうよ。幸いにも終了まであと30分ほどありますから」

 

「…よろしいんですか?」

 

「構いません。モモンガさんがギルドの維持の為どれだけ頑張って来たか、私は知ってますから」

 

なんせ、一緒にログインしてたんですからね。そう言って笑った友人を見てモモンガも軽く笑う。本人は否定しているが、ずっとログインして楽しめたのはこの友人の存在が大きい。その悪名から、効率の悪く人気のない狩場でギルドの維持資金を稼がなければいけない時一緒に稼いでくれたり、他のギルドがいない時間を調べてダンジョンに連れ出してくれたりと、ザッハークには感謝の念に尽きない。

 

「ありがとうございます。それならご厚意に甘えさせていただきますね」

 

「ええ、どうぞ甘えちゃってください。私もモモンガさんに随分助けられましたからね、少しでも恩返しが出来たら幸いです」

 

相変わらずの謙虚さに苦笑しつつ席に戻った友人へ口を開く。

最初こそ愚痴をこぼしていたが、途中から思い出話になっていってることにどちらも気づいていたが気にしない。やはり、最後なら湿っぽいより明るい方が良いのだから。

 

「と、もう50分になっちゃってますね。そろそろ玉座の間に行きましょうか」

 

「もうですか。もうちょっと話していたかったですね」

 

モモンガはまだ話したそうなザッハークを「仕方ないですよ」と諌め、椅子から立ち上がるとザッハークも苦笑しつつ立ち上がる。モモンガがそのまま玉座の間に向かおうとするとザッハークに止められる。

 

「どうしました、ザッハークさん。何か忘れ物でも?」

 

「ええ、忘れ物です。ほら、あれ」

 

ザッハークが指さした先にあるのは一本の杖だ。

ケーリュケイオンをモチーフにした七匹の蛇が絡み合ったデザインで、七匹の蛇はそれぞれ違う宝玉を咥えている。

アインズ・ウール・ゴウンのギルド武器である≪スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン≫だ。

 

「いいんでしょうか? 勝手に持ち出して」

 

アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重んじたギルドだ。それ故にモモンガはいくらギルドマスターとはいえ勝手に持ち出していいのか悩む。輝かしい思い出の結晶を残骸のような今に落としていいのかという思いもあった。

そんなモモンガにザッハークは「ええ、構わないでしょう」と肯定し、「それに、」と続ける。

 

「モモンガさんはずっと我儘言わず、ギルドマスターとして頑張ってたじゃないですか。今日ぐらい我儘言ってもいいと思います、ギルメン達だって許してくれます。というより、来なかった方が悪いんですよ。一昔前の裁判でも来なかったら来なかった方が悪いって事で本人居なくてもやってたんですよ? それに私、これ持ったモモンガさん見てみたいです」

 

「確かにそうですね。せっかく作ったのにのにずっと動かさないままっていうのも可哀想ですし」

 

ザッハークに促されサービス終了の日ということもあり迷いを振り払ってギルド武器を手に取る。

すると杖から赤黒い苦悶の表情を浮かべた人の顔のようなオーラが立ち昇っては崩れ、消えていった。モモンガは自分のステータスが上昇するのを確認する。

 

「うわ、作り込み細か過ぎ」

 

モモンガが思わず苦笑混じりで呟いてしまうほどの細かい作り込みにザッハークも苦笑する。

 

「これ作るとき、いろんなことがあったよなぁ…」

 

「そうですね。今となってはいい思い出ですけど、あの時は本当に大変でした」

 

モモンガとザッハークが思わず回顧し苦笑してしまうほどこのギルド武器を作る際はいろいろなことがあった。

チーム分けし、各自競うようにレアな材料を集めた。デザインを決めるために何度も話し合い、皆の案を少しずつまとめていった。馬鹿なお喋りで一日潰れたことがあった。強力なモンスター相手に壊滅しかかったことがあった。仕事で疲れた体に鞭打って来てくれた人がいた。家族サービスより優先して奥さんと大げんかした人がいた。有給を取ったぜ、と笑っていた人がいた。

それら一つ一つがまるで昨日のことのように思い出せる。

 

「それでは、私も」

 

そう言うと身に纏っている装備の肩の部分を掴み、剥ぎ取るような動作と共にコンソールを操作するとザッハークの体が変化していく。褐色の肌は髪と同じ白銀となり、体躯は3mに迫るほどになる。変化が終わるとそこには白銀の体躯を持った竜人が佇んでいた。竜人系の最上位種族、王種の竜人(ロード・ドラゴノイド)に相応しく立派な角を生やし、背には白翼がある。特殊技術(スキル)の効果により、瞬時に換装した見事な純白の鎧を身に纏った姿はまさしく王者であった。

ザッハークがワールドチャンピオン・ニヴルヘイムになった際賞品に選んだその鎧は輪郭こそ同じワールドチャンピオンであるたっち・みーのものに似ているが、色が純白で肩や前腕等、所々に竜を思わせる意匠があり、胸には氷のような透き通った水晶が埋め込まれている。

ザッハークが悪役ロールプレイの一環として身につけた装備変更と変身を同時に行う技である。

 

「久しぶりに見ましたね、その姿」

 

「ステータスが上昇する奥の手ですからね。まぁ、デメリットもありますけどやっぱり悪役が第ニ形態に変身するのは浪漫ですし」

 

「ふふっ。さて、準備は出来たみたいですし、────行こうか、我がギルドの証よ」

 

「玉座の間で待ってます」と書き置きを残してモモンガを先頭とし、その右斜め後ろに騎士のごとく付き従う形で円卓の間を後にする。ナザリックの風景を楽しみつつ歩いて行き、最下層である第十階層へ到着する。九階層と十階層を繋ぐ階段を降りた先は広間になっており、複数の人影が整列していた。

モモンガ達が近づくと軽く礼をする。

モモンガは手前側に居る執事服を着た初老の男性の前で立ち止まるとザッハークも立ち止まり、男性とその横に並ぶ六人の美女達を見る。

 

「えっと確か…」

 

「ナザリックの家令(ランドスチュワート)のセバス・チャンですね。たっちさんが作ったNPCです。その横が戦闘メイドのプレアデスで右からユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、ソリュシャン・イプシロン、シズ・デルタ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータですね。ちなみにシズは略称で正確にはCZ2I28・デルタで、私の作ったNPCです。Lvこそ低いですけど援護に徹すれば十分私やモモンガさんと共に戦えるだけの性能はあると自負しています。

他のプレアデスやセバスだって外装や装備の作製に関わっているんですよ。ほら、このユリの眼鏡とか……っとすみません、モモンガさん。どうもこういう自分の自慢出来るようなものの話だと止まらなくなってしまって」

 

しばらく見ていなかったが故に忘れていたモモンガに説明する。途中から自分が作製に関わっているNPCの説明に熱が入っていき脱線しかけたことに気付き謝罪するが、モモンガは軽く笑って流す。自分にもそういったところはあるし、ザッハークが装備や外装に拘り過ぎて幾人かの製作者が音を上げかけたほど熱中していたのはギルメン全員が知っている。現在宝物殿にいる自分の黒歴史を作る際も「多分、後で後悔しますよ?」と軽く笑いながらドイツ語や軍服の監修を(割とノリノリで)してくれた。

 

「8階層を突破された際の時間稼ぎのためにここに配置されているんです。8階層を突破したプレイヤーは居なかったので結局出番は無かったですね。出番が無い方が良いっていうのはわかってるんですけど、なんか申し訳ない気持ちになります」

 

ザッハークはNPCの作製に本気で打ち込んでいたギルメンの一人だ。別に他のギルメンが本気ではなかったという訳ではないが、1LvNPCのメイド服を作るためにボスキャラに何度も挑むなどユグドラシル全体で見ても1%にも満たない少数派だろう。

そんなザッハークだからこそ一回ぐらいは出番を与えてやりたかったのだろう。もちろんセバスやプレアデスに死んで欲しい訳ではないのだがそれでもずっと配置しっぱなしなのは偲びなかったのだ。

そんなザッハークの心中を察したモモンガが提案する。

 

「それなら、一回ぐらい動かしますか。本来の役割とは違いますけどね」

 

「そうしましょう、作ってからずっとここに配置しっぱなしですからね。私なら音をあげてますよ」

 

「そうですね。では、付き従え」

 

モモンガが発したコマンドを発すると頭を軽く下げ、命令を受諾したことを示したセバスとプレアデスはザッハークの後ろに並ぶ。搭載しているAIには最後尾にいるギルメンの後ろにつくよう組まれているためだ。心なしか少し嬉しそうに見えるセバス達を引き連れ歩いて行くと大広間に到着する。

大広間はドーム型の空間になっていた。天井に西洋風の雰囲気を崩さないようにデザインをアレンジして描かれた五行図には、それぞれの属性に対応した宝玉が中心にある物も含めて6つ埋め込まれており、その四隅では四色のクリスタルが白色光を放っている。

壁には穴が掘られ、72体の悪魔をかたどった彫像が置かれている。

この部屋こそがナザリックの最終防衛ラインソロモンの小さな鍵(レメゲトン)だ。

壁に置かれた彫像は全てが超が付くほど希少な魔法金属で作られたゴーレムだ。製作者のるし★ふぁーが途中で飽きて放り出したために端のゴーレムはザッハークが作ったものであり、そのため、よく見ると造型の仕方に若干の違いがある。

天井の五行図は5属性の根源の精霊+星霊を召喚し、クリスタルは地水火風の上位エレメンタルを召喚するとともに広範囲の魔法爆撃を行うモンスターとなっている。五行図の方は一日一回しか機能しない、が部屋の雰囲気を崩さぬよう皆で話し合ってデザインした思い入れのある代物だ。

広間を横切り、玉座の間への扉の前に立つ。

5m以上ある巨大な扉だが竜人形態のザッハークが前に立つと普通より少し大きいだけに見えてしまう。

扉の右側には女神が、左側には悪魔が細かく彫られている。まるで今にも動き出しそうなほど繊細な造型だ。

そこまで考えたところでモモンガに一つ不安が浮かぶ。

 

(これ、襲いかかって来ないよな?)

 

馬鹿らしいとも思うが、この扉を作ったのはギルメン屈指の問題児だ。強いゴーレムを作ったとモモンガ達に見せに来た時突然そのゴーレムが殴りかかって来たこともあった。

そのことを思い出し扉に手を出すのを躊躇うモモンガだったが、それを察したザッハークが扉に仕掛けはないことを教えたことで扉に手を触れる。シズの製作者であるザッハークはシズと同じくナザリック内のギミックは全て把握しているのだ。

引退しているギルメンが置き土産として内緒で何かを残していった可能性もあるがその時はその時だ。

結果として仕掛けは無く扉は重厚な見た目に相応しいゆっくりとした速度で開いていった。

玉座の間に到着したモモンガがセバスとプレアデスに待機のコマンドを出し階段脇に待機させるとザッハークが何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。

 

「どうしました?ザッハークさん」

 

「モモンガさん、どうせなら私の作った他のNPCも呼んでいいですか?玉座の下にいるのが7人だけだと少し少ないですし」

 

「ええ、構いませんよ。他のNPC呼びに行くのだと間に合いませんからね」

 

ザッハークが左手中指に嵌めているリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは複数人の転移も可能だがサービス終了まであと少ししかない以上数の少ない階層守護者でも全員を集めるとなると慌ただしくなるだろうという判断だ。

モモンガの許可を貰ったザッハークはアイテムボックスから一冊の本を取り出す。

黒い表紙の本で、四隅が金で補強されており表表紙にはユグドラシルのロゴが金糸で描かれている。

ザッハークがその本の目次に当たる部分を開くとウインドウが現れる。その中から集合を選び、タッチするとザッハークの周囲に7人の人影が現れた。

人影はそれぞれ銀髪のメイド姿の美女、紺色の髪をした青みの強い紺の忍び装束を着た青年、黒の全身鎧を纏った赤鱗の竜人、手と首から上以外の肌を覆う和風ドレスを着た膝より下が無い半透明の姫カットの女性、赤黒いドレスを纏った貴族然とした金髪の女性、黒髪のローブにも似たゆったりとした黒地に金刺繍がされた服を着ている中性的な青年、その青年と髪と服の黒と白が反転している以外は瓜二つの中性的な少女と装備や外装にはほとんど共通点が無かった。

集合を確認したザッハークは満足気に頷き、待機のコマンドを発するとセバスとプレアデスとは通路を挟んだ向かい側に整列する。

それを確認したモモンガとザッハークは階段を登り、モモンガは玉座に腰掛けザッハークはモモンガの右斜め後ろに立つ。

 

「そうだ、モモンガさん。どうせならあれ流しましょうよ」

 

「あれですか、いいですね。結局ザッハークさんが作って持ってきてから一回も流してませんし」

 

モモンガの了承を得たザッハークはアイテムボックスを開きスクロールさせていく。ザッハークはアイテムボックス内は使用頻度や五十音で整頓してあるものの、その収集癖のせいで大量に収納されていることと、ナザリックに攻め入るプレイヤーが居なくなった為に目的のアイテムを下の方に収納した事で時間がかかるだろうと判断したモモンガが手持ち無沙汰になったため少し周囲を見回すと、玉座の脇に立っている一人のNPCが目に入る。

 

「確か、アルベドだったっけ。タブラさんが作ったNPCの」

 

そう呟いたモモンガはどんな設定だったか気になりアルベドの設定欄を開くと、そこにはびっしりと書き込まれていた。

 

「ああ、そういえば設定魔だったなタブラさん」

 

設定欄はびっしりと書き込まれて一大叙事詩のようになっており、これを読むとなるとサービス終了の方が早く来てしまうだろう。

そう考えたモモンガはアルベドの設定欄をスクロールし流し読みしていくと最後の文を目にして思わず固まる。

 

『ちなみにビッチである。』

 

(そういえばギャップ萌えでもあったっけ… )

 

モモンガはアルベドの製作者である大錬金術師の性癖を思い出し、げんなりする。とはいえ流石にこれではアルベドが可哀想だ。

それに最終日ということで一回ぐらいギルド長権限を使ってみたい。

本来なら設定の書き換えには専用のコンソールが必要だが、ギルド武器ならコンソール無しでも書き換えられる。

 

(さて、どうしようかな )

 

ビッチ云々は消したが代わりに何か入れた方がいいだろう。上限いっぱいまで書き込まれているため11文字以内で納めなくてはならない。

そこでモモンガにちょっとした悪戯心が湧き上がる。

 

(最終日だしちょっとぐらいふざけても良いんじゃないか…?)

 

とりあえずザッハークを横目でちらりと伺うと目当てのアイテムがまだ見つかってないようでこちらは見ていない。

よし、と声に出さないよう決意しアルベドの設定欄に文字を打ち込んでいく。

 

『モモンガを愛している。』

 

「うわ、恥ずかしい」

 

モモンガが書き換えた設定を見て悶えていると後ろから声を掛けられ、思わず「うおおうっ?!」と声を上げてしまう。

振り返るとザッハークが怪訝そうに首を傾げこちらを見ていた。

 

「どうしました、モモンガさん?」

 

「い、いえ。なんでもありませんよ、はい」

 

「?、そうですか? じゃあ流しますけど、準備出来ました?」

 

「はい、大丈夫です」

 

ザッハークは挙動不審なモモンガに首を傾げながらアイテムボックスから一つのアイテムを取り出す。

ザッハークが取り出したのは赤水晶で出来たサッカーボールのような正五角形と正六角形を組み合わせた多面体だ。中に金のアインズ・ウール・ゴウンの紋章が浮かんでいる。

<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>により作り出した黒曜石で出来た小さな机に赤水晶で出来た多面体を置き、上部の五角形の面を押すとウインドウが浮かび上がる。そのウインドウに一つしかないキーをタッチすると禍々しくも荘厳な音楽が流れ始める。

 

「久しぶりに聞きましたけど、やっぱり良い曲ですね。まさしく最終決戦といった感じです」

 

「ありがとうございます。そう言われると頑張った甲斐がありましたよ」

 

流れている曲の名前は≪魔王降臨〜アインズ・ウール・ゴウン〜≫。

アインズ・ウール・ゴウンが非公式ラスボスと呼ばれているためどうせなら、とザッハークが著作権が切れた昔の曲から作ってきたものだ。

ギルメン全員が認めたアインズ・ウール・ゴウンのテーマ曲である。

玉座の間まで攻め込まれたらこの音楽と共に迎えようと決め、結局流されることは無かったがそれでも大切な思い出だ。

 

(ああ、本当に楽しかった… )

 

モモンガとザッハークは曲を聴きながらこれまでの思い出を振り返っていく。

 

「俺 」

「たっち・みー 」

 

ザッハークは玉座の間の通路に掛かったそれぞれのギルドサインが描かれた旗を指さし名前を上げていくモモンガに少し驚くが、すぐにその意図を察し、モモンガに合わせる。

 

「「死獣天朱雀 」」

 

「「餡ころもっちもち 」」

 

「「ヘロヘロ 」」

 

「「ペロロンチーノ 」」

 

「「ぶくぶく茶釜 」」

 

「「タブラ・スマラグディナ 」」

 

「「武人建御雷 」」

 

「「ばりあぶる・たりすまん 」」

 

「「源次郎 」」

 

「「私/ザッハーク── 」」

 

 

ギルメン全員の名前を言い終わり、モモンガは深く玉座に腰掛ける。

サービス終了まで残り時間はあと少しだ。

 

「モモンガさん、今まで本当にありがとうございました。私、皆に会えて良かったです」

 

「いえ、それはこちらのセリフですよ、ザッハークさん。私こそこのメンバーと一緒にユグドラシルをプレイするの、楽しかったです」

 

お互い感謝の言葉を述べる。短い言葉にこれまでの感謝を込めて。

 

23:59:57

 

23:59:58

 

23:59:59

 

ーーーーーああ、本当に楽しかった…。

 

二人は思い出に浸りながら静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾️◾️◾️◾️◾️

 

00:00:01

 

00:00:02

 

00:00:03

 

 

 

 

「「……………………あれ?」」

 

 

 

 

かくして彼らは異世界へ旅立った。

未知の土地にて死の支配者と王種の竜人の新たな物語が始まる。




とりあえず次回は設定を投稿しようと思っています。
いらねーよという方もいるでしょうが多分(私にとって)結構大事なので。
誤字や脱字、文章がおかしいなどがありましたらオブラートに包んだ上でご指摘下さい。

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