ソードアート・オンライン 黒と紫の剣舞 作:grasshopper
キリトside
ディアベルが死んだ瞬間はボス部屋とは思えない静けさだった。その直後、ソードスキル使用の硬直が治り、暴れ出すイルファング。
「何でや…………。ディアベルはん、リーダーのあんたが、何で最初に」
ボスのLAを取ろうとしたからだ。
しかし、口からその言葉が出ず、代わりに俺はキバオウの左肩を掴んだ。
「へたってる場合か!」
「な、なんやと?」
「E隊リーダーのあんたが腑抜けてたら、仲間が死ぬぞ!これからきっと湧くセンチネルの処理はあんたがするんだ!」
「なら、ジブンは1人逃げようちゃうんか⁉︎」
「そんな訳あるかーー
ーーボスのLA取りに行くんだよ」
「そう言うと思ったよ」
ユウキがボソッと呟く。
「行くぞ、ユージオ」
「ああ、わかってる」
すると、
「ボクも行く!キリトの今のパートナーはボクだからね」
「わたしも行く。パーティーメンバーだから」
俺は説得するのが無理だとわかっている。それに今はそんな時間はない。
「わかった。頼む」
俺達は広間の奥に向かって走り出す。しかし、まずは今はこの場を鎮めなければならない。何か短く、強力なひと言はないだろうか。
するとユウキの隣を走っているアスナが、邪魔だったのかフード付きのローブを体から引き剥がした。
艶やかなロングヘアをなびかせるアスナの美しさに眼を奪われ、沈黙した。俺はすかさず叫ぶ。
ハルトside
「全員、出口方向に10歩下がれ!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」
ディアベルから聞いたキリトというプレイヤーが叫ぶ。しかし今はそんなことはどうでもいいと思っている。俺は見とれていた。
そのキリトというプレイヤーのパーティーメンバーのローブを着ていた女性に。しかし彼らが攻撃を食らう。キリトとユージオが吹っ飛ばされる。もう1人の可愛らしい女の子が2人のもとに駆けつける。しかし、ローブを脱いだプレイヤーはイルファングに向かっている。
危ない。
今まで黙って見ていた俺の足が自然に動く。もう1人走ってる人がいる。名はエギル。昨日キバオウを論破した人だ。
「おい、あんた!パリィしてくれ!そしたら俺が腹を斬る!」
「OK!」
エギルに話しかけ、スムーズに作戦をたてる。
案の定、栗色の髪のプレイヤーは一撃で死ぬ攻撃を受けそうになっていた。
「オラァ!」
エギルがそう言いながら、斧を振るう。
「スイッチ!」
そう言われて俺はソードスキルを食らわし、相手を若干退けさせた。
キリトside
2人が俺達を助けた。エギルという巨漢はともかく、もう1人はディアベルのパーティーメンバーじゃないか。だが、今はどうでもいい。
俺はPotを飲みながら、エギル達の隊に指示を出す。
「僕が先陣を切る!3人はそれに続いて!」
「ああ!」
「わかった!」
「わかったわ!」
上からユージオ、俺、ユウキ、アスナだ。
雑な作戦をたて、ポーションを飲み終わった俺達は走り出す。
ユージオが1番手で《ホリゾンタル・アーク》を切り込む。硬直に襲われるがイルファングの野太刀を喰らう前に治り、パリィする。
アスナが流星のごとく《リニアー》をきめる。
「ユウキ!最後、一緒に頼む‼︎」
「了解‼︎」
ユウキが少し早く斬り込んだ。俺達はV字の軌道を描く片手剣二連撃《バーチカル・アーク》を使い、ダメージを削る。
後1ドット。
そうして二連撃目を食らわす。
イルファングは後方へよろめき、体に無数のヒビが入る。
《イルファング・ザ・コボルドロード》は硝子片となり、四散する。
「お疲れ様」
ユウキが俺にそう言った。終わったのだ。
「見事な指揮だった。そしてそれ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのもんだ」
「本当に見事だった。俺はカイト。よろしくな。それでLAボーナスはなんだよ」
エギルとディアベルのパーティーメンバーが言ってきた。
俺は「いやぁ……」とでも呟き、拳を合わせようとした。
その瞬間。
「なんでだよ!なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ」
ディアベルの仲間が言う。
「おい!やめろ!」
カイトが止める。
「見殺し?」
俺は奴の言葉の意味がわからない。
「そうだろ!あんたはボスの技を知ってた!その情報があれば、ディアベルさんは死ななかった!」
周りが嫌な雰囲気になる。
すると誰かが。
「こいつ、元ベータテスターだ!だから攻撃パターンとか全部知ってんだ!」
「じゃあ、あの攻略本も嘘だったんだ!アルゴって情報屋が嘘を売りつけだんだ!」
まずい。このままでは、元テスター達が危うい。どうすればいい。
刹那。
俺はアイデアを思いつく。他のテスター達に敵意は向けられないが、俺は闇討ちされるかもしれない。でも、それで、ユージオ達を助けることができるのなら。
「おい、お前……」「お前……」「あなたね……」
エギル、カイト、アスナが口を開きかける。ユウキは俺の隣にいるまま黙っている。俺は前に出て行き。
「元テスターだって、俺をあんな素人共と一緒にするな。俺はベータテストの時に誰も到達できなかった層に1人で登った」
これでいいんだ。そう思った瞬間。
「冷たいこと言うなよ、キリト。僕達2人で登った、だろ」
ユージオはそう言いながら近づいた。
「なんで出てきた」
俺は小さく言う。
「もし、逆の立場だったら君もこうしただろ」
ユージオが小さく言う。俺は言い返せない。
「……ありがとう」
すると周りが「そんなのチートだろ」「チーターだ!チーター!」「ベータのチーターで《ビーター》だ!」等々の声がする。
「いいなそれ、今度から俺達は《ビーター》だ。これからは元テスター如きと一緒にしないでくれ」
俺はLAボーナスの1つをユージオに送った。
俺は《コート・オブ・ミッドナイト》を、ユージオは《コート・オブ・スカイブルー》というアイテムを設定した。
「転移門は俺達がアクティベートしといてやる」
そうして俺達は階段を登り始めた。
俺とユージオは螺旋階段を登りきり、第2層への扉を開ける。
不意に背後から。
「待って!キリト!」
「…………ユウキ」
ユウキは真っ直ぐに俺の目を見据えて言う。
「言っちゃうんだね」
「ああ、ついてくるな」
俺の一言で一瞬の沈黙が生まれる。
「それは……ボクの為……なの?」
「……ああ」
「なら、キリトにはついていかない」
意外にもキッパリ言われた。
「あっ!伝言預かってたんだ」
急に話題変えたな。
「キリト、ユージオ。エギルさんが『また一緒に攻略しよう』だってさ。キバオウさんもなんか言ってたけど忘れちゃった。あとカイトが『いつかデュエルしようぜ』だって」
キバオウ忘れられたのかよ。ドンマイ。
「あとはアスナが『目指す場所にいけるように強くなるから』だってさ」
皆色んな事を考えているんだな。
「それとボクからだけどさ」
「ん?」
「またいつかコンビ、組もうね」
ユウキは微笑みを浮かべながら言った。俺はこの一言に救われた様に思えた。
そしてユウキは階段を戻って行った。
今のを黙って見ていたユージオが口を開いた。
「キリト……今すぐユウキとコンビ組んでもいいんだよ」
「…………いや、……俺と組むと迷惑かけるから」
「キリトはそうやって逃げるんだね」
「はぁ?」
「好きなんでしょ、ユウキの事」
「はぁ⁉︎」
俺は顔を真っ赤にした。俺達は言い合いをしながら、ゲートまで向かった。
すみません!大分駆け足です!
次回 第9話「月夜」