ソードアート・オンライン 黒と紫の剣舞 作:grasshopper
キリトside
俺が気絶したのは夜だった。
今、俺は目を覚まして、辺りを見渡すとどうやら夜明けのようだ。
ん?目を覚ました?
フレンド欄を確認すると俺が生きているとわかるはずなので、ユウキはまだ村でおとなしく待っているはずだ。ただ一晩帰ってこないとなると不安はあるだろう。
ん?生きている?
そう俺は生きていた。フィールドのど真ん中で数時間寝ていたというのに。
俺は気絶する前にコペルの死んだところを見る。そこに俺が墓標変わりに置いた胚珠がなくなっている。耐久値が尽きたのだろう。
次に敵を確認するために《索敵》を使う。見てみると俺の近くに来た敵がプレイヤーによって倒されていく。
「なるほど。ガードしてもらってたってわけか。……礼を言いに行くか」
俺は引き続き《索敵》を使ってそのプレイヤーの場所まで歩き始めた。
数十秒歩くとそのプレイヤーも俺の方に来た。恐らくそいつも《索敵》を取得しているのだろう。
そして俺は立ち止まる。向こうが木々から出てくればご対面だ。
だが出てくる前に声がする。
「まったく、君はどこでも寝られるんだね」
俺はこの声に聞き覚えがあった。
昨日のチュートリアルで声も現実世界のものに戻っているこの状況で声を知っている理由は一つしかない。《現実での知り合い》ということだ。
この声は毎日俺の隣から聞こえてくる。俺を安心させる声。今も安心させられる。
「お前だったのか。ありがとなーー
ーーユージオ」
現実世界では幼馴染で親友で、ソードアート・オンライン クローズドβテストでは相棒のユージオだった。
俺が一番信頼を寄せる人物。
「そういえばキリトは胚珠をゲットしたのか?」
「いや、まだだけど」
「じゃあ僕二つ持ってるんだけど、あげようか?」
普段だと自分の手でクエストをクリアしたいというのがネットゲーマーというものだが、この森から出たいし、ちゃんとしたところで寝たいし、何より早くユウキを安心させたい。なのでありがたく貰うことにした。
「じゃあクエスト終わらせに行こうぜ!」
俺達は歩き始めた。
「そういえばキリトもソロなの?」
「いや、コンビを組んでるよ」
「へー、てことはその子を助けてるってことなんだ」
「そんな大層なもんじゃねーよ」
「いや、キリトは偉いよ。それに対して僕は一人で街を出て」
ユージオは儚げな笑顔でそう言った。
ホルンカ。
俺達はクエストを始めた場所と同じ民家に行った。
ドアを開けるとーー
「キリト‼︎」
ユウキが抱きついてきた。
「バカバカバカバカ!キリトのバカ!心配したんだからね!」
「ごめんな、心配させて」
俺はユウキを安心させるために優しげな声で言ったが、今気付く。ユージオがスッゲー困った顔してる。
俺も親友が泣いてる女の子に乗っかられてる光景を見たら、固まってしまう。
「ユウキ、そろそろ離れてくれないか?連れがいるんだけど」
「えっ…………」
そう言うとユージオの存在に気付く。ユージオはユウキに自己紹介する。
「どっ、どうも。ユージオです。……よ、宜しく」
ユウキは人に見られたのを恥ずかしがって、咄嗟に俺から離れた。
「ゆっ、ユウキです。よ、宜しく」
二人は軽い会釈をした。ユウキの赤面がなおる前にユージオが爆弾発言する。
「二人は付き合ってるの?」
「つ、付き合ってねぇよ!」
「つ、付き合ってないよ!」
俺とユウキは焦った上にハモらせる。こうなると余計にあやしい。
「ハハハ、冗談だって」
俺もユウキのように赤くなったのを感じる。
「じゃあ俺はクエスト終わらせてくるよ」
俺は一刻も早く、その場から逃げたかったので、クエストを終わらせに行く。
クエストのキーアイテム《リトルネペントの胚珠》からできた薬はこの民家の子供の病気を治すためだ。
俺は報酬の《アニールブレード》を貰ってもすぐにはユウキ達のところに戻らず、少しその子を見ようと思った。
そのNPCの子供を見ると不意に小さい頃、妹ーー直葉の看病をしたことを思い出した。
スグに、母さんに、親父に会いたい。
俺は泣いてしまう。
NPCの子が「どうしたの」と言い、俺の頭を撫で始めた。
数分たち、俺は部屋を出る際に「じゃあね」と言った。
二人のいるところに戻るとユウキから何やら怒りのオーラが出ている。
ユージオ君何を言ったのかな。
「キリト!フィールドのど真ん中で倒れたってどういうこと⁉︎」
ユージオのバカヤロー!
心の中で叫ぶ。
「いや〜、あれは倒れたわけじゃなくて寝て……」
そこで言葉を中断する。
しまった!
心の中で再び叫ぶ。
「じゃあ僕はクエストを終わらせてくるね。どうぞごゆっくり」
「おい!ユージオ!待てこのヤロー!」
俺はユージオを追いかけようと振り向き、小走りするが、ユウキに裾を掴まれる。
「キリト、寝てたんだね」
「いやっ、それは」
言葉につまる。
「寝てたんだね」
ユウキがもう一度聞いてきた。
「…………………はい。寝てました」
白状する。
このあと泣きながら怒られたのは言うまでもない。
とりあえずユージオを再会させました。どうやってユージオを出そうか迷ったけど、書きたい内容がかけました。あとは私の語彙力の問題ですね。
では、次回予告をどうぞ。
ダンジョン内で流星のごとく素早く、鋭く、美しいソードスキル。
次回「星なき夜のアリア」