ソードアート・オンライン 黒と紫の剣舞 作:grasshopper
キリトside
クラインがログアウトボタンがなくなっていると言ってきた。
「そんなはずないだろ」
俺はそう言いながら自分のメニューを開き、ログアウトボタンがあるか確認する。ユウキも同様に。
「無い」
「なくなってる」
俺とユウキは呟いた。
「な、ねぇだろ」
「GMコールはしたのか?」
「したさ。正式サービス初日からこれじゃあ、運営は半泣きだな」
「なんでそんな冷静なの。ピザ冷めるよ」
「あっ!そうだった!キリト、他にログアウトする方法ってないのか?」
俺はマニュアルを思い出す。
「いや無いよ。現実側で誰かがナーヴギアを外してくれないかぎりな」
「オレ一人暮らしなんだぜ。オメェらは?」
リアルのことを言うのは駄目だが、この際正直に言う。
「俺は母さんと妹の三人」
「ボクは両親に姉ちゃんと兄ちゃんの五人だよ」
「えっ!キリトの妹さんとユウキちゃんのお姉さん幾つ⁉︎」
こんな状況でそんなこと聞くなんて余裕だな。しかし俺もユウキもスルーする。
「なぁ、変だと思わないか。ログアウトできないなんて今後の運営に関わってくる大問題だぞ。クラインみたいにピザのような金銭トラブルもあるだろうし」
「ねえキリト、《アーガス》ってユーザー一番!みたいな会社なんでしょ。なのにこの状況は会社側もちょっと……いや、かなりまずいと思うんだけど」
ユウキの言ったことは正しい。確かにそうだ。
ーーリンゴーン、リンゴーン。
と、不意に鐘の音がし、俺達は光に包まれた。
「なんだ⁉︎」
クラインが言う。
この瞬間にSAOは永遠に世界のありようを変える。
始まりの街。広場。
俺達はどうやらここに転移(テレポート)したようだ。周りには大勢のプレイヤー。様々な声が聞こえる。
すると上空が真紅に染まる。市松模様の中に【Warning】、【System Announcement】と書いてある。
更に二十メートルほどのフードを被った人が現れた。
いや、人は入っていない。フードの中は空洞となっている。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
ゲームマスターが今更何当たり前のことを言っている。
『私の名前は茅場 晶彦。唯一この世界をコントロールできる者だ』
「何……」
その人物はSAOの開発者で、ナーヴギアの基礎設計者である。つまり若き天才ゲームデザイナー兼量子物理学者。
彼のおかげでアーガスが最大手になったと言っても過言でない。
俺は茅場に憧れていた。
『プレイヤー諸君はもうログアウトボタンがなくなっていることに気づいているだろう。しかしこれは、《ソードアート・オンライン》本来の使用だ。プレイヤー諸君は自発的ログアウトはできない。…………また、外部からのナーヴギアの停止及び解除を試みた場合ーー』
少し間があく。
『ーーナーヴギアが諸君の脳を破壊する』
つまり殺すということだ。
ざわめきが起こる。
「キ、キリト……そんなの……嘘だよね。できないよね。…………で、できるはずないよね?」
ユウキは不安と恐怖に駆られた声で言った。
「ああ、ハッタリに決まってる。…………大容量バッテリが内蔵してない限りは……………………」
俺は思い出す。ナーヴギアの重さの三割はバッテリだと。そこで再び茅場の声が響く。
『残念なことに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッドと現実世界の両方から、永遠退場している。……現在、あらゆるメディアでこの情報が流れているなので外部からの干渉による死亡はないだろう。それに諸君はこれから厳重な介護態勢に置かれるだろう。…………諸君には安心してゲームを攻略してほしい』
「何を言ってるんだ⁉︎ゲーム攻略⁉︎そんな呑気に遊べるかよ‼︎こんなのゲームじゃないだろ‼︎」
俺は思わず叫ぶ。
『しかし、諸君にとってはゲームではない。このゲームに蘇生手段はないし、ヒットポイントがゼロになるとアバターは消滅しーー』
『ナーヴギアによる脳破壊が行われる』
デスゲームというわけか。
誰がフィールドに出るんだ。
しかし。
『諸君がゲームから解放されるにはこの城を極めることだ。第百層のボスを倒せた場合は……生き残ったプレイヤーが解放されることを保証する』
周囲がどよめく。
『それと諸君にはプレゼントを用意した。ストレージを確認してみたまえ』
ーー《手鏡》。
それを手に取ると光に包まれる。他のプレイヤーも同じようだ。
光がなくなり、周囲を見回す。
「おいっ、ユウキ!クライン!」
そう言うと。
「おめぇ、誰だ?」
「お前こそ、誰?」
俺は手にある鏡を見る。
そこにはコンプレックスな現実世界の女顔の自分がいた。
「俺じゃん!………てことはお前がクラインか⁉︎」
「おめぇキリトか!」
「ユウキ!」
そして俺はユウキの方を見る。
「な、何?……誰?」
声は震えていた。
そしてその姿はとてつもなく美少女だった。アバターよりも可愛い気がした。しかしそんなことを考える場合ではない。
「俺だ!キリトだ!」
「えっ!キリトなの!じゃあ、あっちのおじさんがクライン?」
クラインがショックを受けた。
「ああ」
俺達を現実の体にしたのはこのデスゲームを現実だと認識させるためだろう。
「でもなんで、こんなことを」
ユウキが不安そうに聞いてきた。
「どうせ答えるさ」
『諸君は何故?と思っているはずだ。しかし私に目的はない。今、この瞬間が最終目的なんだから。……………………これで、チュートリアルを終了する。健闘を祈る』
ローブは消え、空も普通に戻る。
次の瞬間、周囲から叫び声が一斉に飛んだ。
「ユウキ、クライン、来い」
俺達は街路の一本に入る。
「いいか。俺は今すぐ次の村に行く。お前らも来い」
「で、でもよ、さっきも言ったがダチがいるんだ。置いて行かねえ。それにこれ以上世話になるわけにいかねえよ」
そして俺は二年間俺を苦しめる言葉を選んだ。
「そっか。…………ユウキは?」
「ボクは……ボクはついて行くよ」
「わかった。……じゃあクラインとはここでお別れだな。困ったらマッサージ送ってくれ」
そうして俺は歩きだす。ユウキもついてくる。
「キリト!お前結構可愛い顔してんな!ユウキちゃんに至ってはかなり可愛いな!二人共俺好みだぜ!」
俺達は振り返る。
「お前こそ、その野武士面の方が似合ってるぜ!」
「サムライみたいでいいと思うよ!」
そして俺達は走る。少しして振り返っても誰もいない。
「キリト、大丈夫?」
「……ああ」
多分ユウキは俺のこそを気遣ってくれたのだろう。
俺達はフィールドに出ても走り続けた。
そして俺は心に誓う。
ユウキ、君だけは絶対に守ってみせる!
ユウキside
ボクはあることを予想していた。いや、確信していた。
さっきの広場で、この世界で死ねば、現実でも本当に死ぬことを聞いたとき、大きな不安と恐怖に駆られた。
そう、ボクはあの瞬間に発病した。
ユウキにお兄さんがいる設定にしました。後々名前を出したいデス。それでは次回予告をどうぞ。
二人が走って目指した先にある村はーー《ホルンカ》。
次回4話『始まりの日』