ソードアート・オンライン 黒と紫の剣舞 作:grasshopper
「俺達の命の恩人キリトさんとユージオさんに乾杯!」
街の酒場で俺達2人にその言葉が向けられた。
俺達は苦笑いした。
なぜこんな状況に陥ったかというと、話は十数分前に遡る。
俺とユージオがとあるアイテムを取りに、下の層に来てダンジョンに潜っていたところに《月夜の黒猫団》というギルドを助けた。そして街に戻り酒場に来たのだ。
「ところでキリトさん、ユージオさん、失礼ですがレベルはお幾つですか?」
「レベルはあんたらと大して変わらないぜ」
俺が続けて言う。
「そのレベルであのダンジョンに潜ってたんですか⁉︎」
「敬語は使わなくていいよ。それにコンビだからあまり効率も良くないよ」
ユージオが言った。
「そ、そうか。なら2人とも僕達のギルドに入ってくれないか?」
「「え?」」
「このギルド、前衛が1人しかいないからさ。それにサチを槍使いから片手剣士にコンバートさせたいんだ。コーチして欲しいんだ」
「なによ人をみそっかすみたいに」
サチが言う。
「うちのギルドなら2人ともすぐに馴染めるとおもうから、どうかな?」
俺達は顔を見合わせた。
「少し待ってくれ」
ユージオが黒猫団の皆に言った。
俺達は一度席を離れ、相談する。
「どうする、キリト?」
「そー言われてもなあ。…………でも、俺はあのギルドの感じ、好きだな」
「じゃあ、入る?」
「お前はどうなんだよ?ユージオ」
「僕もキリトに同意見だけど」
そうして俺達は席に戻り、ギルドに入ることを伝えた。
数週間後。
前衛に俺達が加わると、黒猫団は大きく変わった。
俺達の本当のレベルが何度かバレそうになったが何とかはぐらかした。
そしてある日、俺達はダンジョンの安全圏でご飯を食べていた。食べながら俺はケイタと話していた。
「なぁキリト。俺達と攻略組の差って何だと思う?」
「情報量の差かな。あいつらはいい狩り場とかっていう情報を持ってるからな」
それは俺達のコンビに一番当てはまる。
しかしケイタは。
「……そういうのもあると思うけど、僕は意志力だと思うんだ」
「そう……かもな」
でも俺は心の中では「そんなんじゃない」と思っていた。攻略組は始まりの街にいるプレイヤーより《上に立っている》という優越心に浸っているだけだ。
数日後の夜、サチが消えた。
今思えば彼女には不安や責任感があった。サチは前衛に向いている性格ではない。
俺とユージオは手分けして探した。
ユージオside
僕は《索敵》の上位スキル《追跡》を使った。それを使えば簡単に見つかるだろう。スキルによって見える足跡を追った。
「……サチ」
「ユージオ、どうしてここがわかったの?」
「カン……かな。………………皆心配してる、早く帰ろう」
しかしサチが僕に返した言葉は、
「ユージオ、一緒にどっか逃げよ」
「何から?」
「皆から、モンスターから。SAOから」
「それは心中しようってこと?」
僕は恐る恐る聞く。
「ごめん、嘘だよ。死ぬ勇気なんかないもん。……でも仮に、ユージオは私と心中してくれる勇気はある?」
僕はその質問をされ、即答する。
「死ぬ勇気は僕もないよ。それに皆から逃げるのは嫌だよ」
サチは何も言わないので僕は言葉を続けた。
「君達は同じ高校なんだよね?」
「うん」
「僕とキリトは幼馴染みなんだ」
リアルの事を話すのは禁止だが、自然と口から出た。
「だから、あいつの隣に立っていたいんだ。支えるためじゃなく、競うために。キリトには負け越してるからさ」
そこまで言ってサチが口を開いた。
「私、死ぬのが怖い。なんで茅場って人はこんなことするの?なんの意味があるの?」
「意味なんてないよ。僕らは今も茅場 晶彦の手の内で踊らされてる。この世界は茅場の世界なんだ。だから、僕らにとって意味はないと思うよ」
そして、しばしの沈黙。
次の瞬間、僕はあまりにも酷く、自分のためだけの嘘をついた。
「君は死なないよ」
「赤鼻のトナカイ」の話に入りました。久々に書いた!楽しい!
次回10話「黒猫」