「本村が…リザレクトしたって!? それは本当か!!」
勢いよく立ち上がり、椅子が大きな音を立てて倒れる。
「あぁ…あぁ。分かった、すぐ行く!」
携帯を閉じてスーツを羽織り、扉へ駆け出す。
「待って下さい部長!!」
平社員の中田が、その手を掴んだ。
「それはきっと罠です! 本村がどういう奴か、あんたも知ってるはずだ!!」
「うるせぇ!!」
その手を振り払い、中田を思い切りブン殴る。
「グギャアァー!?」
「オレだって…オレだってな、んなこたぁ分かってんだよ!! でも…男にはやらなきゃいけないときがあるんだ!!」
そして、扉を蹴り破る。
―――――待ってろ、桜前線―――――
続く
「首領パッチ君、遊んでないで早くこっちきてよ」
行列に並んでいるビュティの声に、首領パッチと中田が振り返る。
「そろそろファミレス、入れるんだから」
「ハーイ、ママー!」
二人が走り出すと、ビュティがツッコんだ。
「なんか変なの連れてきてるー!!」
「ん」
彼女の声に、ボーボボが後ろをチラリと見やる。
「あ! 中田市在住中田区区民の、中田星人さんだー! サインくださーい!」
嬉しそうな声を上げると、色紙とペンを取り出し、首領パッチの方へ走り出していった。
「ボーボボ! もうそろそろ席空くんだってば!!」
ビュティが大声を上げるが、「マチルダ」と大きく書かれたサインをもらって興奮している彼は、帰ってくる気配がない。
「マチルダって誰だー!? そいつ中田星人なんじゃなかったの!?」
「七名でお待ちのビュティ様ー」
その時、ウェイトレスが声をかけてきた。
「あ…えっと」
事情を説明しようとするビュティだったが、横から出てきた手に制止させられる。見上げると、ピンクのぐるぐる頭が太陽に照らされていた。
「ソフトンさん」
「オレが先に入って、席を確保しておこう」
そう言って、店内へと入っていった。
「あ、ありがとうございます…」
ビュティがお礼を言うと同時に、田楽マンがソフトンの後を追いかけていった。そして振り返り、ニヒルな笑みを浮かべたかと思うと、
「任せときな」
とかっこつけて店内へと走っていく。
「…うん…」
微妙な顔を浮かべて小さい彼を送り出すと、ビュティはボーボボ達の方へ目を向ける。
「祟りじゃー!! 呪いじゃー!!」
そこでは陰陽師の服を着たボーボボが、祭壇に天の助を捧げて盛大な儀式を執り行おうとしていた。
「なんか奉ってるー!! 天の助くん、いつの間にそっちに!?」
「さっきです、どうも。供物ですよ。さあ、献上したまえ」
「されんのアンタだよ!!」
ツッコミを入れていると、空が段々黒い雲で覆われ始めた。
「い、一体何が始まるっていうんだ…」
上を見上げながら、何か胸騒ぎがしたヘッポコ丸は、ビュティの前に立った。
「ビュティさん、下がって。何か来るかもしれない」
「う、うん…」
不安そうな顔を浮かべるビュティ。
少し下がると、背中に何か当たった。ゆっくりと振り返る。
「アタシ、怖いわ! 雷苦手なの!!」
なぜか、中田が怯えて立っていた。
「きゃあああああ!!」
驚いたビュティが叫ぶと、ヘッポコ丸がすかさずオナラ真拳を中田に喰らわせた。
「オナラ真拳奥義、皐月!!」
「ウギャアアアァ!!」
飛んでいく中田。それに目もくれず、ボーボボが叫び始める。
「来たれ! 我が分身ズッキーニよ!! 祝杯だ! 祝杯をあげるのだ!!」
しかし、何も起こらない。
「ズッくん、おやつよ! 降りてらっしゃい! いつまでゲームしてるの、一日一時間って決めてるでしょう!?」
母親のように呼びかけると、大声が上から聞こえてきた。
「うっせーなババァ、あとちょっとでラスボスなんだよ!」
「明日やればいいじゃない! 言うこと聞かないと、ゲーム禁止にするわよ!」
「やあだあ!! 今日やるのー!! うわーん!」
泣きべそが聞こえてきたかと思うと、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。
ビュティとヘッポコ丸は濡れないように、ファミレスへと走りこむ。
「チッ、ビービー泣きやがって」
ボーボボは舌打ちをすると、供物として掲げていた天の助をわしづかんだ。
「な、何をするか! 朕は国家なるぞ!!」
「男の子が泣くんじゃありません!!」
ジタバタともがく天の助を、上に向かって勢いよく放り投げた。
「ぎゃああああぁぁ―――――…」
天の助は泣き叫びながら、黒い雲に吸い込まれるように飛んでいった。
しばらくすると、龍のコスプレをした首領パッチが天の助を咥えながら降りてきた。
「うわあああああああ!! ズッキーニじゃなくて、神龍が降りてきたー!!」
ボーボボが頭を抱える。
「てめー、ババァ!! おやつ投げてくっから、ゲームがバグっちまったじゃねーか!! ファミコンはデリケートだって、何度言えば分かんだよ!!」
「いてえええええええ! 刺さってる刺さってる!! しゃべる度にキバが、ザクザク刺さってるからー!!」
苦しむ天の助だったが、キバが食い込み逃げることができない。
「くっ…オレもここまでか…」
何か覚悟したような顔をすると、フッと笑った。
「ビュティ! オレのことはいいから、早く逃げろ!!」
「ええ!?」
声をかけられたビュティは、困惑したような声を上げた。
「こいつは、怒りで我を忘れちまってる…今の状態じゃ、どうにもできねえ!!」
この言葉に、すぐさま首領パッチが答える。
「私はS(シェンロン)です」
「全然我を忘れてねえー!!」
いつものビュティのツッコミが入っても、首領パッチと天の助はさらに茶番を続けた。
「セ・ボーン」
「ヌ・セ・ボーン」
「デ・ラ・ミュ・ボーン」
中田もちゃっかり参加している。
「ああ、もう訳分からん…」
ビュティが頭を押さえ、ため息をつく。
「さて」
ボーボボが軽く伸びをして、骨を鳴らした。
「腹も減ったし、ファミレス行くか」
「あ、うん…」
ビュティは頷き、彼の後を追った。
ヘッポコ丸も追おうとしたが、クルリと振り返る。
「ほら、二人共早くしろよ」
「うん! パパー!!」
龍から元の姿に戻った首領パッチと、傷だらけの天の助が、楽しそうにヘッポコ丸にしがみついた。
「バ、バカ! 歩きづらいだろ!」
「へっきゅん、どこ行くどこ行く~?」
「ファミレスだろ!!」
中田は一人残され、さびしそうな表情をした。
「楽すれば、道にすぐれた、竹が立つ…ってか」
一句読むと、やれやれと肩をすくめる。
「いいんじゃねえの、こういう終わり方も。嫌いじゃないぜ」
そして、ゆっくりと翼を広げ飛び立っていった。
「アンタ鳥だったんかい!!」
ビュティのツッコミは、夏のすがすがしい空に響いた。
中田は何だったのか、それを知る者は誰もいない。