彼らの巣立ちを見守るために   作:ふぇいと!

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『だから、また』

 

 

くぁ、と欠伸が漏れる。

 

春の(うら)らかな陽気に当てられて、つい眠ってしまっていたらしい。

 

ゆっくりと伸びをしながら体を起こすと、そこはいつもの『湖』の畔。寝る前のことを思い出してみれば、採集の合間の休憩に来たのだったとわかった。

 

自分が先程まで横になっていた傍らには、木の実や薪などが散らばっている。もしかして寝てる間に盗られたかも、と掻き集めてみたが、少なくとも減ってはいないようでホッとした。

 

春になったおかげか、動物たちも多く見かけるし、木の実や山菜も取りきれないほどに沢山発見できた。

 

暫くは過ごしやすい季節。だからといって、怠けるわけではないが。まぁ、生きやすいというのは有り難いことだろう。

 

それはそれとして、当面の食料は確保できたので、今日は特にすることもない。久方ぶりに()()()()()気がして、ちょっと感慨深いと思った。

 

「………」

 

無言で湖を眺める。動物たちの群がるもう一つの方とは違ってちっぽけなサイズだが、冬でも凍らないし、嵐の後でも澄んでいる、不思議な湖だ。

 

この一帯では、凶暴な肉食動物や危険な毒草などを見かけない。見かけるのは色彩豊かな花々や温厚な小動物達だけで、過ごしやすい。

 

畔で昼寝をしても心配がないなんて場所は──僕が昼寝なんて真似を出来る場所は、世界でここぐらいのものだろう。

 

ぼうっと、空を眺める。蒼々(あおあお)とした遥かな天井に、自分の存在というものがちっぽけに思えて仕方がなかった。

 

この世界は、何処まで続いているのだろう──そんな、()()()()()()()()()()()()()、取り留めのないことを考えた。

 

余裕のある生活は、必死さというのを損なわせる。踏ん張った脚を優しく撫でられ、食いしばった歯を緩めさせてくるような、酷く穏やかな時間。

 

頑張ったね、良くやったね、暫く休もうか。そう言われているようで。

 

生きる意味を持てない身からしてみれば、それはとても危うい誘いであった。

 

──今休んだとして、次立ち上がれる自信が湧いてこない。そう考えて、生きる者として失格だと自嘲する。

 

このまま生きていていいのだろうか、と冗談抜きにそう思うのだ。

 

他の動物達と違って、生きているだけでは()()()()()と感じてしまう自分は、きっと異常なのだろう。

 

生きているだけで幸せ。それがこの世界の共通認識なのに。

 

皆、その為に日々死力を尽くしているのだろうに。

 

「……でも……」

 

それでも、生き残ってしまったから。手前勝手な事情で、今まで殺してきた彼らの命を無駄にしてはいけないから。だから、その義務感だけで生きている。

 

あの日。もう記憶にも残っていない、初めて命を喰らったであろうあの日。

 

自分ではない誰かの命を奪って、自分の命を繋げたあの日。もはや引き返せなくなったあの瞬間に。

 

──こんなふうに虚しく生きるぐらいならば、やめておけ。その日に戻って言ってやりたかった。

 

 

 

 

「さて」

 

ウジウジしていた自分を叱咤するように一声あげる。日も沈んできたので、もう拠点に帰らなくてはならない。いつまでも考えにふけっている時間はなかった。

 

尻についた草を手ではらい、枝や木の実を持って立ち上がる。それから小さな欠伸を一つして、歩き始めた。

 

「──ん、」

 

暫く進めば、茶色い物体が草の上に落ちている。リスか、はたまた木の実か──なんにしろ、確認してみようと屈んでみれば、それは予想を裏切って全く別のものだった。

 

「小鳥?」

 

見たこともない種類だと思った。鳥というのはよく見かける動物の一つだが、少なくともこんな鳥をこの近辺で見かけた事はない。

 

季節3周分ぐらいはここにいるはずなのに、初めて見るというのは珍しいこともあったものだと、その鳥を見ながら思う。

 

草の上で(うずくま)っているのだから、飢えているのか、それともケガをしているのか。

 

なんにせよ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

空駆ける鳥達を撃ち落とすなんて到底不可能で、仕留めたことなどないのだが、目の前の獲物は動く気配がない。つまり、好都合というやつだ。

 

どうやって食おうか、どうやって生活の足しにしようか。

 

自然にスッと手を伸ばして──そして、止まった。

 

「……食料に、余裕はあったよね」

 

この時の自分は随分と不思議な判断をしたな、と今でも思うのだ。

 

「………」

 

ほんの気まぐれだ。食料供給に余裕がある季節──それに反して余裕のない精神状態。

 

安穏とした日々を送ることに苦痛を感じ、何かを変えなければならないと不明の焦燥感にかられて、時を過ごす毎日。

 

()()()()()をしてしまうぐらいに、この時の僕は切羽詰っていたのだろうと、そう思う。

 

地面に転がった小さな小さな鳥を、優しく抱き上げる。

 

僕への恐怖からか体調の不良からか、ふるふると小刻みに震えるちっぽけな命が、とても哀れなものに思えて仕方がなかった。

 

手のひらの上にのった茶色い羽根がちょこちょこと動いてくすぐったい。半目にあけられたつぶらな瞳が、こちらをじっと見つめてくるようだ。

 

その姿の、挙動の、一つ一つが、まだ生きる事を望んでいるのだと痛く理解してしまって。

 

その様子を見た手前、殺して腹の足しにするどころか、このまま放置していくのさえ憚られててしまって。

 

とどのつまり──僕は、ほんの気まぐれで、この小鳥を助けたいと思ってしまった。

 

「なんで、こんなこと……」

 

生きるために必要ではないことだ。むしろ、折角の食料を無駄にして、それどころかその命を助けるなど、生きる気が無いとしか思えない。

 

けれどなんとなく、やってしまったことだった。そして、()()()()()()()()と、そう思ってしまった事でもあった。

 

「……帰ろう」

 

歩き出す。

 

手のひらにのった小さな温もりが、少しだけ動いた。

 

 

 

芯から身を凍らせていくような寒さが、ほんの少しだけ和らいだ気がした。

 

 

 

 

 

 

立香たちがカルデアスのあるレイシフト・ルームに行けば、そこではカルデアの職員たちが忙しなく機器を操作していた。

 

スライドドアの音がしたからか、こちらをチラリと見て、笑顔で会釈をする職員たち。立香とマシュ、そしてアダムもそれに返した。

 

部屋のど真ん中、赤いカルデアスの前ではロマンとダヴィンチが話し込んでいる。立香達が近づくと、気づいた二人は「おはよう」と笑顔を浮かべた。

 

「よく来てくれた。こんなことを言うのもアレだが、調子はどうかな?」

 

「大丈夫。ちゃんと眠れたし、コンディションもばっちし」

 

「私も、先輩のデミ・サーヴァントとして、戦う準備は万端です」

 

「うーん、二人とも頼もしいことだ」

 

全人類の未来を背負っておきながら、よくぞそこまで──と声には出さない。

 

そんな事を口に出せば、自分の中で未だに燻っている臆病なロマニ・アーキマンという存在が起き上がってきそうだったからだ。

 

立香のように、マシュのように、()()()()()()()。そんな諦観とある種の劣等感が首をもたげる。

 

自分より幼い少女達に頼りきりとは、かつては魔術王などと呼ばれていながら、情けない。そうして、ロマンは自分を責める。

 

しかし、そんな様子を傍らから見ているダヴィンチやアダムからしてみれば、そんな考えは酷い見当違いに他ならない。

 

二人は、ロマンが臆病者でありながら誰よりも強くあろうとしていることを知っているし、そもそもそれは立香やマシュも同じだということも分かっている。

 

他人を救い、失敗しないように、大切なものを守れるように、強くあろうとするただの()()()。それが三人の強さ──に見える何かの正体だ。

 

そういう意味では、ロマニという人間と少女二人との間に、何か違いがあるわけでもないのだから。

 

「……ロマニ、これから行く特異点は、一体どういう所なんだい?」

 

ロマンが『何かくだらない事を考えていそうだ』と、アダムは話題の転換を図る。ロマンはハッとしたように顔を上げると、一つ咳払いをして話し始めた。

 

「そうだ、悠長に話している時間も無かったね。では、最終特異点、『冠位時間神殿ソロモン』について説明しよう。加えて、今回のレイシフトの作戦内容も、ね」

 

 

 

 

 

 

遡ること1週間ほど前、ちょうどアダムが召喚されて数日経った頃。

 

カルデア内で最も広い大会議室では、カルデアのスタッフや識者のサーヴァントたちが集まり、最終特異点攻略に当たっての作戦を考えていた。

 

この時はまだ時間神殿の座標を特定できておらず、ただただカルデアが其処に向かって引っ張られていくだけの状態だったので、当然敵の戦力すらわかっていない。

 

しかし、今までのレイシフトから考えて、敵の戦力の推測はできる。その為のカルデア、その為のサーヴァントなのだから。

 

「当然だが、敵の戦力は『魔術王』に加え『72の魔神』だ。いや、最低でもソレってだけで、まだ増える可能性も──対抗する為には、どう考えても6人のサーヴァントだけでは足りない、わかるだろう?」

 

第七の特異点、『絶対魔獣前線バビロニア』において立香と縁を結んだ魔術師(キャスター)のサーヴァント、アーサー王伝説に名高い()()()()はそう告げる。

 

言っている内容とは裏腹のニコニコと人を食ったような笑みが腹立たしいが、半魔である彼に人間の感覚と同じものを求めても仕方ない。

 

カルデアのスタッフたちと一部の英霊は、『何がそんなにおかしい』と言いたくなる口を塞いだ。

 

「はぁ……まあ、そうね。それこそ、このカルデアの全サーヴァント──どころか、更に必要とすら思えるけど」

 

そんなマーリンに呆れたと溜息をつきながらも、同じく魔術師(キャスター)であるメディアは肯定的な意見を告げる。

 

『6人のサーヴァント』。藤丸立香というマスターの許容量とカルデアの電力、その2つから考えて、同時運用できるサーヴァントは最大6人まで、というのが今までのレイシフトの通例だった。

 

立香の成長やカルデアの復旧もあり、聖杯探索(グランド・オーダー)開始当初よりは運用性能も上がった方なのだが、それでも高次元の英霊(☆5サーヴァント)強力な効果の礼装(☆5概念礼装)を使おうものなら、途端にキャパオーバーを起こしてしまう。

 

先ほどの6()()()()というのも、最大人数というだけで、編成によってはそれ以下になってしまうこともざらにある。

 

一人はマシュとして残りの枠はたったの5人とすると、とても決戦を勝ち抜ける戦力とは言えなかった。

 

「ふむ……つまりは、マスターとの回路(パス)にもカルデアの電力にも頼らず、最終特異点で現界する術を見つけなくてはならない、ということだな」

 

「それは……可能なのでしょうか。サーヴァントというのは、そこに居るだけで世界からの排斥を受けます。とても現界を維持できるとは……」

 

ロード・エルメロイ2世が要点を纏めれば、ジャンヌ・ダルクがそう疑問を口にする。その場にいる全員が、「確かに」と顔を見合わせた。

 

 

「できるさ」

 

 

ざわりと、その一言に会議室が騒がしくなる。

 

意外な人物が発言した、という動揺が広がったのかもしれない。

 

発言者は()()()。この頃はまだ新参──今でも十分そうだが──であったために、あまり他者との親交も持っていなかった(そもそもアダム自身が交流を避けていた)ので、戸惑う者が多かったのだ。

 

「──面白い。話してみるといい、原初の人間とやら」

 

にわかに騒がしくなった会議室を宥めるようにして、最古の王ギルガメッシュ──賢王・キャスタークラスの方──が先を促す。

 

ギルガメッシュの持つ高ランクのカリスマの効果か、途端静かになった部屋に、アダムは少しだけ気恥ずかしそうにしながらも口を開いた。

 

「英霊召喚、そして現界の維持。それらに必要な条件は主に3つと言っていい」

 

白い指を3本立てて、アダムは話を続ける。

 

「一つ、決まった英霊を呼ぶための『(えにし)』。これは、立香と君たちが結んだ友誼によって──あるいはそれで足りないなら、それぞれの特異点で因縁深い魔神や聖杯を触媒にすれば、クリアできると思う」

 

アダムは指を折る。

 

「二つ、英霊召喚自体の成功率を上げる『儀式礼装』。これも、マシュが持っている盾があれば概ね大丈夫と言っていい。『英霊が集う』という性質は得難いものだ、ギャラハッドが彼女に宿ってくれて感謝だね」

 

運が良かった──と呟き一息ついて、アダムは最後の指を折る。

 

「そして三つ、現界維持の為の大量の『魔力』。これが一番悩ましい所で、今現在、僕達が唯一手にできていない物だ」

 

カルデアに居る者達だけで100を越えるサーヴァント。未だに召喚が出来ていない英霊を合わせれば、もっと増えるだろう。

 

それを、いかに通常時間軸を外れた特異点内であっても1日現界させ続けるというのには、途方もない魔力を必要とする。

 

人理を救うという戦い故に()()()()()()()が後押しする可能性があるにはあるが、それでも足りないかも知れない。

 

「……で? そなた、『できる』と言うからには、当然その解決手段もあるのであろうな?」

 

わかりきった事を繰り返しただけのアダムに、華のローマ皇帝ネロ・クラウディウスは怪訝な顔をする。他何人かからも、本当に大丈夫なのかと不安そうな雰囲気が漂った。

 

しかし、彼は『アダム』。いくら女男のような緩い顔立ちをしていても、間違いなく彼は原初の人間。一級の英霊の一人である。

 

その彼が「できる」と断言したのだ。叡智と技巧の化物たるアダムがその判断を見誤るはずが無い──そう、『起源』のスキルの詳細を知っている一部の英霊は、愚問だと黙して見守り、そして耳を傾ける。

 

「そりゃあ、そうじゃなかったら、出来るなんて無責任なこと言わないよ」

 

苦笑して、アダムはピンと指を立てた。いいかい──とそう前置きする。

 

()()()()()()()()()()()()。こう言うと言葉は悪いが、今は()()()()人類が滅んでいるんだから」

 

「???」

 

「いやなに、また誤解を招く口下手で悪いけどね、つまりはだ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──と、アダムは悲しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

「以上が、作戦の概要だ。立香ちゃん、何か質問は?」

 

ロマンの言葉に、立香はただ口をつぐんだままだった。反応できなかったとも言う。

 

立香が直接率いる英霊は5騎。

 

唯一無二の相棒たるマシュ・キリエライトを始めとして、贋作者エミヤシロウ、蒼の槍兵クー・フーリン、騎士王アーサーことアルトリア・ペンドラゴン、そして原初の人間アダム。

 

それ以外のカルデアメンバーは、一度ここで現界を解き──そして、決戦の中空で再召喚される。

 

立香と共に歩むメンバーの選出理由は、単純に『縁』による召喚に不安が残ったからだ。

 

アダム以外は第一の特異点から共に歩んできたサーヴァント達のため、立香との絆の面ではピカイチなのだが、なにせ特異点原産の英霊と比べると、どうしても『魔人柱』や『聖杯』との結びつきが弱いのだ。

 

つまり、土壇場で召喚に失敗する可能性が一番高い英霊たちである。故にスターティングメンバーとして、立香を支えることと相成った。

 

「……それは、いいとして」

 

そう、別にそのメンバーについて何か不満があるわけでもない。問題は一つ。

 

「アダムはそれで大丈夫なの? 100人のサーヴァントのマスター代わりとか、正気?」

 

「問題無いよ。普通なら無理だけど、今は人理焼却中だからね。魔力はほぼ無限にあると言っていいから」

 

それこそ聖杯よりもね──と、アダムは何でもない風に言うが、マスター業には一家言がある立香にしてみれば、本当に狂気の沙汰としか思えない。

 

長時間のサーヴァント維持に相当慣れた立香であっても、ギルガメッシュ・マーリン・スカサハ・山の翁なんて馬鹿げた編成をした日には意識が5分も保たない自信がある。

 

彼我の魔力量に差があるというのは当たり前のことだが、それでも心配してしまうのは仕方のないことだった。

 

「アダムさん……」

 

「……とにかく、悪いがこれは決定事項だ。立香ちゃんもマシュも、理解してくれると嬉しい」

 

「ドクター……わかった、そうだね。アダムは()()もん、きっと大丈夫だよね」

 

ドクターの言葉に立香はそれ以上の追及をやめる。四の五の言っていても、始まらない。アダムに頼らなければ人類は滅んでしまうのだ。

 

「ああ、任せてくれていいよ。どうせ戦えない身だ、他で役に立てるのなら望むところってやつだね」

 

胸を張ってそこに拳をドンと当てるアダム。芝居じみたオーバーな返しに、立香とマシュは、少しだけ笑ってしまった。

 

すると、和んだ空気を切り替えるようにして、ダヴィンチが一つ手を鳴らす。ゴツゴツとしたガントレットのせいか、ガツン!と大きな音がした。

 

「はいはい、そこまで。作戦を理解したなら、さっさと始めるよ。もう準備は万端、スターティングメンバーたちも集まった。あとはロマニのゴーサインが出るだけなんだけど」

 

「ああ、すまないレオナルド。つい、ね」

 

ロマンはダヴィンチの言葉に「それじゃあ、()()」と立香たちに手を振ると、レイシフト用の機器へと駆け出して行く。立香たちも「()()」と返した。

 

「──いよいよ、ですね先輩」

 

「うん、頑張ろう」

 

立香たちも決意を改めて固める。胸に手を当てて深呼吸──激しく胸が鼓動しているが、少なくとも目覚めた時よりは落ち着いているとわかった。

 

アダムが守ると言ってくれた。ドクターがまた会おうと約束してくれた。

 

一人で戦うわけではない。ひ弱な自分でも支えてくれるものがあるなら、頑張れる。そう思った。

 

 

 

「──と、その前に他のサーヴァント達との挨拶はいらないかな? 再召喚の成功率はほぼ100%まで押し上げたケド、何事にも完璧はない。いくら天才()の仕事でもね──もしかしたら、最後の別れかもしれないよ?」

 

傍らでロマンの後ろ姿をどことなく悲しげに見つめていたダヴィンチが、そう立香に聞く。

 

万能の天才を自称するダヴィンチにしては珍しく、自身の仕事を貶めるかのような発言であったが、そこに立香はダヴィンチらしい誠実さを感じた。

 

「そう、だね」

 

挨拶ぐらいは──と、そう言おうとして、立香は思い直して首を振る。

 

「いや、大丈夫。きっとまた会えるから。皆──来てくれないわけがないから」

 

様々な時代、様々な世界を渡った。いろんな英雄たちと出会って──そして、縁を結んだ。

 

強がりの自分として接していても、それでも、彼らと結んだ絆は本物だから、きっと確率なんかに負けるようなやわなものではないと思った。

 

だから、だから。

 

 

 

立香はマシュの手を引いて、コフィンへと歩く。アダムたちスターティングメンバーも後に続いた。

 

スタッフたち一人ひとりの顔を見る。必死に機器に目を通す者、祈りを捧げる者、落ち着かないように目を彷徨わせる者──色々居るけれど、だれも諦めている者など居なかった。

 

マシュと共にコフィンに横たわる。

 

アダムに微笑み、ロマンに最後に手を振って、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

──アンサモンプログラム スタート──

 

 

 

「──だから、()()

 

 

 

──霊子変換 を 開始します──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終特異点:『冠位時間神殿・ソロモン』

 

 

 

 




・原始回帰 EX 【クラススキル】
起源者(アンセスター)に与えられるクラススキル。原始への回帰の象徴。
起源者(アンセスター)というクラスを与えられるに至った要因──アダムの場合は『全ての人類の祖先である』という事象を元としている。
スキル保有者が後世に残したとされる()()、それが破壊された時、その存在を全て自分へと回帰させる。
今回のケースでは、アダムが残したものは『人間』という存在そのものだとされているので、すなわちアダムの言葉通りに、『人』が死ねば死ぬほどアダムは強くなる──正確には、その保有魔力が増えていく。
人類全てが滅んでいる現状においては、アダムという存在が持つ魔力は、量だけで言えば第七特異点で戦ったティアマトに匹敵する。故に、たかが数百程度のサーヴァントの現界維持など造作もない。

ランクは堂々のEX。残したものの数、あるいは格などでランクは変動するが、人理の始点たるアダムであるならば、EXは寧ろ当然の結果である。

更に言うなら、このスキルには裏ワザが存在し──スキルを持つ者がアダムである限り使えない裏ワザだが──このスキルの効果は、スキル保有者、つまり起源者(アンセスター)のサーヴァント自身が対象を壊す(殺す)事でも発動する。

簡単には召喚できないエクストラクラスの起源者(アンセスター)ではあるが、もし『彼』以外を呼んでしまっていたなら──あるいは、そのアダムが何らかの理由で()()()()()()()()()()()()()、人理を救うどころか、最悪の結果すらあったかもしれない。




【一言(一言とは言っていない)】
すまんなぁすまんなぁ、レイシフトまでしか行けなかったんや。
アダム視点が相変わらず少ないのはご愛嬌。時間神殿ではアダム視点増えます多分。
読者さんも流石に進まなすぎてダレてきてると思うので、連休中にあと一話ぐらい進めて、特魔人柱殺すぞヒャッハーフィーバーぐらい書きたいですが。
……期待はしないように。

あと途中で再召喚云々とかスターティングメンバーの選出条件とかごちゃごちゃ言ってますが、言ってしまえばゲームシナリオの再現の為のこじつけでしかありません。
スターティングメンバーはお察しの通り、時間神殿シナリオで登場がなかったメンバーを選びました。図らずもステナ勢──え、メドゥーサ? 知らんな。

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