彼らの巣立ちを見守るために   作:ふぇいと!

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『そうして、最も古き人類は、貴方を見守るのです』

 

 

さぁ、戦いを始めよう。

 

狂ったように強がって、強がり続けて疲れ果て、疲れ果てても諦めず──

 

そうして戦い続けた()()()()()()()の、最期の試練を見届けよう。

 

彼女の通った航跡が手にした未来、繋いだ希望、結んだ絆──その全てが見届け人。

 

拙くとも、愚かしくとも、それでも懸命に走った彼女の軌跡。それに引き寄せられた数多の英雄たちが彼女の剣となり、盾となる。

 

時代を作り上げた一廉(ひとかど)の英雄たち、その全てが彼女を見守っている。

 

──その英傑たちの中では、()()()()()()すらもその姿を見ているだろう。

 

そこに()()()()()()()()()()()()()()()()()、そこに()()()()()()()()()()()()──

 

それでも、彼は彼女を見守る権利を与えられたのだから。

 

 

 

彼女の作り上げた物語、そのほんの一端。一つの戦いの結びという、小さな断片。

 

ちっぽけで、しかし綺羅星(きらぼし)の如く輝くその瞬間が、彼に何か素晴らしいものを見せてくれたとしたら。

 

 

 

──彼は()()()、人を信じる(あいする)ことができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

──醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い醜い──

 

 

──見ていられない、救えない、救われない、愚かだ!──

 

 

──我らが王はなぜ彼らを救わない、なぜ対処しないのだ!──

 

 

──聞くに堪えない声、見るに堪えない光景、そんなものはもううんざりだ──

 

 

──救っても救っても、彼らはその身を貶める。何度も同じ過ちを繰り返す──

 

──ならば、救済はただ一つ。許された方法は一つだけ──

 

 

──再生ではなく、()()を。何よりも幸福な、新しい世界の創造を──

 

 

──例え、今の人理の全てを焼き尽くそうとも──

 

 

──()()には、それを成すべき使命がある──

 

 

 

 

 

アダムは一人、そんな夢の中を漂っていた。

 

強烈なイメージ、身を裂くかのような怨嗟と嘆きが広がる。

 

立香とマシュ、エミヤたちもきっと同じものを見せられているに違いない、とアダムは考えた。

 

時間神殿──魔神たちの集結する旅の終着点。その中に満ちるほどの想いの塊。自分たちはそれに当てられているのだ。

 

これは、悲願だ。

 

魔術王ソロモン──あるいはゲ■■■■が抱いてきた、救いようのないものへの絶望と、それでも()()()()という願いの結晶だ。

 

「──知っているとも」

 

人間は醜い、人間は愚かだ。

 

この身この全ては、世界を救うためにあり、人類を救うため()()に存在する──だからこそ知っている。

 

人間というものが繰り返してきた凄惨で救いようのない歴史を。多くの人々が今際の際に抱いてきた絶望を。叶わなかった願いを。届かなかった愛情を。

 

──()は、全て知っている。

 

どうしようもなく助けたくて、しかし何度助けても改めない人間。そんな愚かな生き物たちの物語を、ずっと見守ってきた彼は知っているのだ。

 

「それは──」

 

きっと、狂おしい程に彼は、■■ティ■は。

 

人間という存在を諦めながら、それでも、救いたいと()()()のだろう。

 

「それは──とても、悲しいことだね」

 

その気持ちはわからない──しかし、理解はできたアダム()はそう呟く。

 

自分は、数えきれない程の物語(じんせい)を読み続けて、多くの絶望(ひげき)、多くの幸福(きげき)と出会ってきた。

 

観測とも呼べない、うたた寝の最中の儚い夢を見るように、人の生の残痕を覗いて。すべての人が幸福になる未来など無いと知ったのだ。

 

だからこそ。

 

「理解はできないけれど──けれど、()()()()()()()()。きっとね」

 

そういって、苦笑する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──そんなアダム(じぶん)と比べて、ゲ■ティ■のなんと強きことかと、そう思った。

 

 

 

世界から与えられた役割(ロール)に酔いしれて、分不相応な威厳と能力に持ち上げられて、初めて歩き出せる。それが自分という存在だ。

 

そう、今回も同じように。

 

 

 

──()()()()()。そう考えて、『彼』はあの日、英霊の座から一歩を踏み出した。

 

世界から賜った役職(ロール)は『アダム』そして『イヴ』。

 

原初の人間らしく威厳に満ち溢れた男──母性に満ち溢れた女性で、二人は『人』を愛してやまない夫婦だった。

 

それが、後世の人々によって創られたアダム・イヴ夫妻の設定(イメージ)であったからだ。

 

『人』を見るたびに嬉しくなった。『人』を見るたびに愛しくて仕方がなくなった。傍からみればそうは思えなかったかもしれないが。

 

ただ、()()は自分たちの体質が──洗脳にまで匹敵する親としての魅力が、子供たちには毒になると知っていたから、必要以上に子供たちに近づかなかっただけで、常にそう思っていたのだ。

 

 

 

翻って()()は──さて、どうだっただろうか。

 

本当の原初の人類が、あの夫妻のようであったなら──それならば、彼らもきっと胸を張って誇れただろうに。

 

自分のような紛い物如きが祖先(アンセスター)などと。笑ってしまいそうだ。

 

そうやって自嘲しながら、彼は彼らを()()()()()()()()()()()()()に、今日も世界に規定された道を歩き続ける。

 

不誠実にも、不遜にも。

 

完璧な親の象徴、『アダム』と『イヴ』の仮面を貼り付けて。ただただ、歩みを止めず。

 

 

 

──はて、そういえば。

 

不思議なことに、気まぐれに、以前鳥を助けた時のように。

 

カルデアの廊下で()()()()()()()()()()、思わず死地に赴く彼女たちの頭を撫でてしまったのは──

 

一体、何故だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「──っ、今のは!?。今までにない干渉──強烈な、イメージを……」

 

「ウルクで見たのと同じ……なのかな」

 

アダムが目を覚ましてみれば、そこには戸惑う立香とマシュがいた。

 

顔色を伺えば、自分と同じように()()()()()の『想い』を見せられたらしいとわかる。予想通りだった。

 

「ふむ……救われなかった人々を嘆く、怨嗟の声……か」

 

「酷く、悲しい想いです。これ程の強い思念は、一体──」

 

立香たちの傍らでは、エミヤとアルトリアの二人が叩きつけられたイメージに真剣な表情を見せていた。

 

正義の味方を目指したエミヤと理想の国を追い求めたアルトリア──二人にとってはある種()()()()()想いだったのだろう。何処か寂しげにも見えた。

 

「けっ、生き死にを他人が嘆いて何になるんだ……」

 

一人、『くだらねぇ』と一蹴するのはクーフーリン。戦場に生き戦場に死んだ彼にとって、人の悲惨な死を嘆くということ自体がお門違いだったのかもしれない。

 

ただ、口でそう言ってはいても、その想いを完全に否定することは出来ないようで。彼は、それ以上はなにも言わず、不機嫌そうに舌打ちを一つ鳴らすだけだった。

 

 

 

『──よかった! 繋がった!』

 

彼の舌打ちの音が風に掻き消えたあたりで、カルデアからの通信が届く。血相を変えたロマンの声が響いた。

 

「ドクター、なにか変です。ここは、この空間は──何かが」

 

そんなロマンに向かって、マシュは怯えたように言う。この空間に降り立ってから感じる薄ら寒さに、その身が震えてしまいそうになった程、この場所が異質だったのだ。

 

『──そうだ。そこは間違いなく最終特異点、冠位時間神殿に違いない。ただ、こちらの機器で観測した結果、其処は全て、』

 

()()()()()、だね、コレは。この空間全てが魔神柱だ」

 

ダヴィンチが信じられないものを見たかのようにつっかえつっかえ告げると、アダムがこの空間の真実を明かす。

 

すなわち──この場すべてが人類を滅ぼすための機構、災厄の獣(ビースト)そのものであると。

 

一同が、驚愕に目を剥いた──その時。

 

 

 

「そう、その通り──随分と鼻が利くようになったな、カルデア」

 

 

 

「──っ、この声は、」

 

「レフ・ライノール!」

 

マシュがハッとしたのも束の間、滅多に出さない荒げた声で、立香は突如響いた声の主へと振り向いた。

 

果たしてそこにあったのは──濃緑色のスーツとハット、そして人の良さそうな顔立ちをした男の姿。

 

かつて立香たちの目の前でオルガマリー所長を殺し、そして第二特異点で死んだ筈の、レフ・ライノールその人であった。

 

「よくぞここまで、とまずは褒めておこう。いやはや、まさかたどり着くとは夢にも思わなかった」

 

「レフ教授、貴方は……」

 

「本当に、なんという生き汚さだ。どうしてこう、お利口に死ぬなんて簡単なことすら出来ないのかね」

 

マシュがレフに語りかけようとするが、そんなマシュの言葉に構うつもりはないのか、淡々と罵倒だけを並べるレフ。

 

そんな彼は、ハァと呆れたように溜息をつくと、忌々しげに立香を睨んだ。

 

「それもこれも、君のせいだよ、藤丸立香。そして──」

 

視線をスライドさせ、彼は次に禍々しい空気の揺蕩う空を見上げる。

 

「君もだ、ロマニ・アーキマン」

 

ロマンの姿はここにはないからか、レフが見たのは虚空だった──いや、あるいはその方向にカルデアがあるのかもしれない。

 

聞こえていなかったのか、あるいは思うところがあったのか。返事をしなかったロマンに、ちっ、と舌打ちして、レフは再度立香に向き直った。

 

「──私の失態、だったのだろうか。いや、そうではない」

 

独白するようにしてただ一人喋り出すレフに、立香たちは薄気味悪いものを感じた。

 

レフという男が、化け物じみた──実際、魔神柱という怪物だが──禍々しい雰囲気に包まれているように見えて、仕方がない。

 

「本性を隠していた同僚。私の善意の見逃しを蹴り、自ら死地に赴いた愚かな48人目。聖杯を託してもろくに仕事をしない無能ども──ああ、本当に、『人』とは愚かだ。反吐が出る」

「ふん! 慢心してたあんたが悪いんだ、バーカバーカ!」

 

「コイツ……っ!」

 

苛立ちを押し込められなかったのか、レフに向かって罵倒を飛ばす立香。とても幼稚な煽りだったが、レフの怒りは簡単にメーターを振り切ったようだった。

 

「無意味な旅を()()続けただけの、愚者が! 低俗な人間如きがいい気になるな!」

 

「──は、俺にゃ、お前のほうがよっぽど低俗に見えるがねぇ」

 

「奴に同意するのは甚だ遺憾ではあるが、ランサーの言うとおりだな。マスターは神殺しまで成し遂げたのだ、拙い旅路であろうとも、非難されるいわれは無い」

 

激昂するレフに、クーフーリンとエミヤは滑稽だと笑う。そんな余裕の英霊たちに、レフは益々気を悪くしたのか、息を荒くした。

 

けれど。

 

 

 

「──まあ、いい。余裕ぶっていられるのも今のうち──いくら君たちが頑張ったところで、この先の玉座には()()()辿()()()()()()のだから」

 

いきなり冷静になったようにして、レフは呟く。

 

彼の体からボトリ、ボトリと皮膚が剥がれ落ち、体内からぎょろりと赤い目玉が覗いた。

 

「魔神柱へと変性しています! マスター、指示を! ヤツの首を速く取らなくては!」

 

「アルトリア、速攻! ()()()()()()()()()!」

 

「いや、立香。もうちょっと言葉を選んで──まぁ、仕方ないか」

 

アルトリアに向かって物騒な指示を出す立香を、喜べばいいのか諫めればいいのかわからないと言ったふうに、アダムは苦笑する。

 

結局、今回に限ってはレフが因縁の相手であるということで、大目に見ることにした。

 

「──ハァァああああっ!」

 

そうしている間にも、最優たるセイバークラスの中でも五指には数えられるであろう騎士王アーサーは、目にも止まらぬ速度でレフに肉薄する。

 

瞬きの間に、冴え渡る聖剣の一撃はマスターの指示通りにレフの首へと到達し──

 

そして、空気が揺れた

 

 

 

「──ぐ、うっ」

 

「先輩!」

 

発生した突風に身体が浮き上がりそうになる立香を、マシュが繋ぎ止める。

 

その風の発生源であるレフの目と鼻の先にいたアルトリアは、咄嗟に魔力放出を発動したものの、数メートルほど弾き返されてしまった。

 

「──ちぃ、すみません、マスター。仕留め損ねました」

 

「警戒しろ、変性したぞ!」

 

エミヤが陰陽の双剣を投影させながら叫ぶ。クーフーリン、アダムも言わずもがなと戦闘態勢をとった。

 

『我は、ソロモン七十二の魔神が一柱、フラウロス! 情報を司るもの!』

 

ノイズが走ったような奇怪な声が、その場に響く。

 

風に煽られて閉じていた目を立香が開けば、そこには異形がそびえ立っていた。

 

黒く流動する触手のような胴体、そこにいくつも貼り付けられた赤い目玉。

 

立香たちが初めて戦った魔神柱──フラウロスの顕現だった。

 

『さぁ、絶望しろ、泣き叫べ、愚かなカルデアのマスター、最後の希望よ!』

 

立香たちをまるで嘲笑うようにして、フラウロスは口上をたれる。

 

『君たちが玉座に辿り着くことは()()()()()! なぜなら、君たちはここで死ぬからだ!』

 

確信したように告げるフラウロスに、立香はしかしその真っ直ぐな瞳で睨み返す。

 

地面が躍動し、煙が吹き上がる。サーヴァントたちは各々自身の獲物を強く握り、あるいはその身の魔力を高めた。

 

そして、次の瞬間。

 

人類を救うための戦い──その決戦の幕は上がった。

 

 

 

 

 

 

『何故、何故だ、何故、お前らは()()()()()!』

 

数分の打ち合いの果て、焦ったようにしてフラウロスは叫んだ。

 

この数分の間に、フラウロスは何度も()()()

 

フラウロス自身も、自身が魔神柱という神秘の塊ではあるが、戦闘力という面においてサーヴァントより劣るということはわかっていた。

 

自身は武を誇る存在ではないのだ。生前戦場を駆けまわり、あるいは神秘殺しを成してきた英霊たちよりも戦闘が得意だとは、冷静に判断してまず言えるはずがない。

 

しかしそれを、()()()()()()と一笑できるのがフラウロス──いや、ソロモン七十二柱の魔神である。

 

彼らは、()()()()()()()()()()()()という事実をもって、その身を何度でも顕現させることができる。一柱二柱を殺したところで、他の魔神柱が生き残っている限り彼らは消滅しないのだ。

 

ゆえに、彼らは負けるはずがないと考えた。

 

論理的に考えて、いかなるサーヴァントを呼ぼうとも、七十二の魔神を全部同時に殺しきることなど不可能であったからだ。

 

しかし、どうだ。今の状況は。

 

死んだフラウロスの代わりに新しいフラウロスが顕現する──その無限機構は正常に機能している。魔神柱の状態は、時間神殿に存在している以上万全。すでに5体は顕現し、そのたびに攻撃を放ってきた。

 

──それなのに、目の前で戦うサーヴァントたちは、一切の()()()()()()()()

 

これでは、負けることはなくとも、勝つこともできない

 

「一体、どうなっている! 貴様ら、何をしたぁぁ!」

 

 

 

「さて、何をしたのだろうね。けれど確かなことは──」

 

──僕の目の前で、『人』を傷つけるのは許さないってことだけさ。

 

両手に出した炎でフラウロスの出す魔弾を迎撃しながらも、アダムは何処か気取ったようにしてそう告げた。

 

「アダムぅ! さすが、頼りになるぅ!」

 

「一体何をしたのかはわからんが、ああ、いい支援だ、アダム」

 

両手を上げて興奮する立香とそれに苦笑しながら剣を振るうエミヤ。

 

サーヴァントたちは怪我を気にしなくてよい分、より積極的に責め始めていた。

 

『貴、様──まて、()()()()()()()()()!』

 

「え──」

 

『ありえん、私は情報を司るフラウロスだぞ!? たとえ気配遮断のスキルがあっても、見逃すなどということがあるはずが──』

 

「黙るといい、フラウロス。もう君の役目は終わりだ──ここに、役者は揃ったのだから」

 

焦ったようにまくし立てるフラウロスだが、アダムはその言葉を遮ると、安心したようにソラを見上げる。立香も釣られて上空を仰げば、そこには──

 

「あれは、あの、光は──」

 

 

 

 

 

 

──我らこそは、星に碑文を刻む者──

 

「さて、()()共に戦いましょう」

 

──人類の航海図、人理を刻み続ける航海者──

 

「我らはその為に縁を結び、そのために絆を育んだ」

 

──人理存続のための英傑、彼女の旅の救済者──

 

「──貴方を助けたいと、そう願ったのです」

 

──我らこそ、彼女の仲間なのだから──

 

「これは、貴方と私達が共に歩む──()()()()()()()()()()()()なのですから」

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ!」

 

「この旗を再び振るいましょう、救国ではなく、救世の為に──英霊達の御旗となって」

 

歪んたソラに流星が流れる。雨のように降り注ぐ綺羅星(きらぼし)が、薄暗い神殿を明るく照らしていく。

 

『よぉし、成功! さすが私! 天才の仕事に失敗なんてなかった!』

 

『やったぜ、ダヴィンチちゃん! 見ろ、30、40──いや、100! まだ増える!』

 

英雄たちの援軍だ! ダヴィンチとロマンの興奮した声が、鳴り響く。

 

「うんうん、いいね。いい絆だ、惚れ惚れするよ」

 

にこりと満足そうに笑いながら、アダムは頷く。来てくれてよかったと、安堵しながら。

 

「すごい、何条もの流星が流れていくようです──皆さんの声が聞こえます、とても情熱的な、救世への意志が!」

 

嬉しそうにマシュが叫ぶ。空にかける無数の光、その一つ一つが、立香と縁を結び協力を望んだ英霊達だ。

 

カルデアに居たサーヴァント、あるいはそうではなかったサーヴァントでさえも。この場に来てくれた──立香を助ける為に。その道を拓く為に。まるで奇跡のようであった。

 

『──ぐ、う、それが、それがなんになる! たかがサーヴァント何百でいったい何を成せるというのだ!』

 

予想外の事態──しかしそれは無駄な奇跡だとフラウロスは断じる。しょせん人の延長、正真正銘の化物である自分たちと違い、彼らは協力すらおぼつかないただの人間。何かが変わるはずもない──

 

 

 

『西部領域、8割損傷。神経断絶、我、形態維持できず』

 

『東部末梢神経焼却、空域からの離脱を提唱する』

 

『北部、英霊共の勢いがこちらを遥かに上回っている。顕現不可、接続を切り離す』

 

 

 

『馬鹿な、馬鹿な! なぜサーヴァントなぞに押し負ける!』

 

「マスター、道を拓きましょう。貴方のために──貴方達の未来の為に」

 

立香の横に降り立った聖女ジャンヌ・ダルクは、その旗を大きく掲げる。純白の大布が暗いソラに一際綺麗に輝いた。

 

「聞け! この場に集いし一騎当千、万夫不当の英霊たちよ──」

 

生前、最悪の戦況を一手に覆した、士気向上の達人──希望の旗を掲げ、兵を鼓舞し続けたジャンヌの声が、大きく張り上げられる。歪んだ世界が真っ直ぐな声に揺れた。

 

「本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であっても、今は互いに背中を預けよ!」

 

英霊達の鬨の声が響く。走る流星は勢いを増し、光の激突に神殿が揺れる。

 

「さぁ、始めよう。立香、マシュ、()()()()。君たちには彼らが付いている、君たちには僕が付いている!」

 

目を爛々と輝かせて、アダムは興奮しながら叫んだ。その言葉に笑って、立香とマシュはしっかりと前を向く。視線の先──空高くに浮かぶ、魔術王の玉座を睨みつけた。

 

「マスター、ここは私達にお任せを。貴方の道は()()創り出します! さぁ、行きなさい──さあ!」

 

「わかった、ジャンヌ! ありがとう!」

 

力強いジャンヌの声に、立香たちは走りだす。

 

 

 

『お、の、れ──! ()()()が九柱、同胞よ! ここを守れ、私は奴らを追う!』

 

『──承知。我、熔鉱炉を統括するもの、ナベリウス。これよりサーヴァントを殲滅する』

 

荒げた声と共にフラウロスが消滅すると、新たな魔神柱がジャンヌの目の前に現れる。ナベリウス、音を知り歌を編むもの──熔鉱炉と呼ばれる九つの魔神の一柱である。

 

「また別の魔神、ですか」

 

『然り、我らこそは熔鉱炉。小さき聖女よ、()()()()()なんとする。潔く屍を晒すがいい』

 

ナベリウスはジャンヌを嘲るようにして、その不気味な目玉でぎょろりと見下ろす。

 

対してジャンヌは、そんなナベリウスを逆に諭すようにして言った。

 

「いえ、一人などと──それは誤りですよ、ナベリウス。私は先ほど、()()と言いました」

 

『なに──』

 

「ヴィヴ・ラ・フランス!──ってあら? なんだ、彼女たちはもう行っちゃったのね」

 

空から新たな光が降り注ぐ。溌剌とした挨拶と共に着地した人影は、可憐な少女だった。

 

挨拶ぐらいしたかったのに──と、残念そうに呟く彼女は、マリー・アントネット。かつて第一特異点オルレアンにおいて、ジャンヌや立香たちと共に人理修復の道を歩んだ悲劇の王妃である。

 

ジャンヌと違ってカルデアにはいなかったサーヴァントの一人で、立香と会うのを楽しみにしていたらしいが、一足遅かった。

 

「──ええ、彼女たちはもう。ですが、()()()()()()()マリー。彼女たちはこれから人理を救うのです。ゆえに──機会などいつでもありますから」

 

「ええ、ええ、そうよね! いつだって奇跡は信じる者に訪れるの。キラキラ輝く思い出も、素敵な出会いもきっとあるもの、信じてるわ!」

 

そうして笑顔で、マリーはナベリウスへと向き直る。

 

「もうすぐ他の皆も来るわ。アマデウスにサンソン、デオン、竜殺しの彼や聖人の彼も──竜の魔女についていた彼らもね。みんな、彼女のことを助けたいって」

 

「そうですか──ああ、気配を感じます。ジルも来てくれたのですね──」

 

光る星々から、頼りになる仲間たちの存在を感じ取った。

 

あの時代、特異点では敵同士であったかもしれない、互いに刃を交わしたかもしれない。

 

──それでも、立香が繋いだ希望を前にして、協力しない英霊などいない。

 

凡人であっても、ここまで至ったのだ。諦めない心だけで、彼女はここまでたどり着いたのだ。

 

彼女の軌跡はもうすぐ世界を救う──彼女だからこその偉業へと手が届く。

 

それを見届けずに、なにが英雄か。

 

「──では、始めましょうマリー。ここで戦うことが、マスターの力になります」

 

「──ええ、いつだってヴィヴ・ラ・フランス! マスターのためなら笑顔で戦えるわ!」

 

そうして、第Ⅰの座『熔鉱炉』での戦闘は幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

ついに、遠いソラでの戦いは始まった。

 

物語の最終章、一年という短い旅の終わり。

 

いままで築かれた人理──そこに生きた人間の全てが、この戦いを見守っている。

 

 

 

あるいは、『最も古き人類』もまた──

 

彼女の軌跡が引き起こす──取り戻す未来を、期待していた。

 

 

 

 

 




・─── A+++【第四宝具】
気配遮断?

・母なる庇護 A+ 【スキル】
──詳細判明?──
母なる慈愛に満ちた聖なる守り。サーヴァントたちを魔神柱の攻撃からすら無傷で守った。



【一言】
オルレアン組喋らせてあげられなくてすまん。
文量とか、キャラが多すぎると書ききれない力量のなさとか、いろいろあったんですよぉ!(後悔)
サンソン・アマデウス・マリー・デオンの掛け合いぐらい書きたかったケド、無理だったでござる。ヴィヴ・ラ・フランス成分が足りない方は、fgo起動してマテリアルをどうぞ。

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