どうぞよろしくお願いします。
6/20 書き進めて行った先で詰まってしまいましたので、再度後半部分を変更致しました。三度目の正直になる事を願っています…
ルイズは今、アルヴィーズの食堂の裏にある厨房を訪れていた。
まさか今朝方に引き続き、こんな短時間のうちにこうも縁があるとは思わなかった。きっかけは勿論、気絶から復活したパチュリーの一言である。
「食べ物を錬金してみましょう。」
これ以上驚く事はないと思っていたが、やはりパチュリーはパチュリーだった。常に想像の上を行ってくれる。
「あのねぇ……言うほど簡単じゃないと思うわよ?第一、私ろくに料理なんてしたことがないもの。そもそも、錬金出来ないし。」
「何を言っているの、私がやるのよ。」
ルイズはホウ、と感心した。どうやら先程のことで、色々と吹っ切れたようだ。嫌な予感しかしないが、チャレンジ精神に目覚めたのは歓迎すべきことである。
「何するつもりなの?」
「貴女の捨食の術を、まずは片方だけでも成功させてみようと思ってね。食事を絶って貰いましょう。」
「だからそれは、少しずつやっていく事に決めたじゃない。いきなりそんな事したら、動けなくなっちゃうわよ。マルトーさんも言ってたじゃない。」
ルイズはさすがに餓死させられることはないだろうと信用していたが、餓死寸前の半死半生の状態に陥るのも嫌だった。
苦行に過ぎる。
「だからこそ貴女には、魔力を喰むことを覚えて欲しいのよ。」
「た、食べれるの、コレ?!……いやいや、魔力は食材じゃなくて、魔法の素でしょうが。何をトチ狂ったことを……」
「私の身体は魔力により維持されているから、実質的には食べているようなものよ。」
「……人間離れし過ぎでしょうに。それで、貴女が魔力を食べ物に錬金するから、それを食べてみろと?いやよそんなの。折角なんだから、私も錬金を習得したいわ。」
ルイズは今更な感想を口にしながら、ここぞとばかりに練習を始めようとして……パチュリーに引き止められた。
先ほどの授業で、ルイズには系統魔法が不向きだと判断したそうだ。極めて近い魔力を持つ二人のうち、パチュリーだけが錬金に成功してルイズが失敗した事実は、そもそもの素地に問題があると。
先程もう少し練習すれば出来そうな気がしたルイズは、眉を顰めた。酷い言い方をされたものである。
すると、トンデモ理論が襲い掛かってきた。
恐らくは、と前置かれたが衝撃的すぎて気休めにもならない。
「私が精霊魔法の使い手として生まれた様に……貴女は虚無魔法の使い手として生まれたのよ。きっと、禁書レベルに強力な魔法なのでしょうね。だからこそ必要な時が来るまで、貴女には先天的な封印が掛けられているのよ。一種の呪いだと思えばいいわ。」
このように考えると、ルイズが他の生徒達とは比較にならない魔力を秘めていることや、これまで爆発だらけの失敗を繰り返していたことにも説明がつくのだと言う。
おいおい、ミセス・シュブルーズの説明で出てきたからって、早速便利なブラックボックスとして使ってくれるなよ、とルイズは苦笑いした。
「さすがにソレはチョット……信じてあげられないわよ。その理屈でいくと私は、今使えるコモンマジックしか出来ないことになっちゃうもの。それに、私と近い魔力を持つ筈なのに、貴女だけ系統魔法が使えるなんてズルじゃない。」
「だから、先天的なものだと言ったでしょうに。利き腕を急に変えろと言われても、すぐには無理でしょう?……それが故に、時間を掛ければ矯正も可能よ。慣れればすぐだもの。」
「……さすがに年季の違いを感じるわね。しっかし呪いだなんて……虚無の魔法なんて、今となっては口伝すら現存していないのよ?私にとっては、有り難迷惑なだけなんだけど。」
「だからこそ私が、精霊魔法を教えるんじゃない。今はその大切な準備期間だから、余計なことはしちゃダメよ。」
「……は〜い。……そうする……納得いかないけど。」
パチュリーは渋々と頷くルイズに言い聞かせるように、虚無魔法も捨てたもんじゃない筈だと語った。
その口ぶりからすると、どうやら概要は見えているらしい。何故かと聞くと、ミセス・シュブルーズの持論を発展させただけだという。
系統魔法は、最も生活に根ざしたドットの魔法から出発した。その後のスクエアに至るまでの道のりは、より強力な力を発揮するとともに生活との距離が開く方向で発展している。これの極限をとると、最強だが生活と無縁な魔法となる。恐らく……それが虚無魔法の概略だろうと。
そんなのは戦争の道具じゃないかとルイズが眉をひそめると、パチュリーは、だからでしょうね、と頷いた。
始祖ブリミルが何故、自身の虚無魔法ではなく系統魔法を広めたのか。恐らく今のルイズと同じく、悲しい感想を抱いたからだろう。
血生臭い魔法など、必要ない。棒切れ一本でも、人は殺せるんだ。そんな事に、魔法を使ってくれるな。
「要するに、たった一人で四大説に基づいた魔法を生み出した魔法使いが、恐れた力なのよ。それを手に入れさえすれば、私たちは無限のパワーを……」
「……手に入れて、貴女はまた本だけ読み続けるのでしょう?私は怖くて使わないでしょうし。宝の持ち腐れじゃない、そんなの。」
ルイズには、何度聞いても納得できそうにない話だった。
これ以上虚無魔法の話をしても、文字通りに空虚な気分を味わうだけになりそうだ。そこで話を元に戻して、せっかくならプロの腕前を見てから料理を錬金してよ、という流れに至ったのである。
こうして、厨房を訪れた訳であるが……
一言で言って、戦場みたいなことになっていた。
強烈な火が上がるわ、刃物が高速で動くわ、次々と料理皿があちこちを行き交うわで、とてもではないが近寄れない。
誰もが目の前の工程に集中しきっており、気軽に声をかけられる余地など全くなかった。邪魔をしないように勝手口からコッソリ入ってきたのが、せめてもの救いか。
「ちょっと……コレは魅入っちゃうわよね。」
ルイズが零すと、パチュリーも珍しく黙って頷いていた。
彼女にしてみれば目の前の光景は究極的に無駄な作業なのだろうが、それでも目を惹き付けるものがあるのだろう。無駄を削ぎ落とした動作で各人が別々に、それでも全体としては有機的な機能を果たしていく様は、一種の芸術である。
時折マルトーの怒鳴り声が上がるが、それはあくまで微調整を行っているに過ぎない。それほどこの厨房は、一体となって動いていた。
壁に張り付いた状態でルイズは、料理がどのように出来上がっていくのかを具に観察していた。食材がどのように洗浄され、切り刻まれ、調理されていくのかを。
錬金で料理をするのはまだまだ先のことになるが……やがてはこうしたちゃんとしたものを作るときのために、今から学習しておくのだ。
こんな風に壁の花と化していた二人だが、山場を越えたマルトーがこちらに気がついて、声をかけてきた。
「おう!どうした、ハラが減ったか?!わざわざここまで来るたあ、よっぽどだな!オマエの分はこれから作るとこだから、ちょっと待っててくれよ!」
「その事で今回はチョット、試してみたいことがあるのよ。出来れば、専門家のアドバイスを貰いたいと思ったの。」
ルイズは堂々と胸を張って、マルトーに近づいた。
そうしてパチュリーが、これから料理を魔法で作り出すのだと説明した。
「バカ言ってんじゃね〜よ。コイツ、メシ食ったことないんだろう?おっソロしいゲテモノを食わされるのがオチだよ。」
「……そりゃあそうよね。」
「丁度良いや!ソイツの流動食も作っといてやるから、大人しく席についてろって!さあ、邪魔だ邪魔だ、素人は出てけ!厨房に立とうなんて、100年早いぜ!」
この人いい加減、口調を改めた方が良いのではないか?
しかしどうやら……ルイズはマルトーファミリーの一員と見なされてしまっているようだ。でなければ、本来貴族の分しか用意されていない筈の座席が、パチュリーの分まで用意されている筈がない。ルイズは頼んでもいないのに。
まぁ……貴族の客人に対する礼儀といえば、ギリギリセーフなラインだろうか。
ルイズは複雑な気分になりながら、食堂の座席についた。
周りの生徒の食事は用意されているのに、自分の分だけ提供されていないのは、随分とひもじい気分である。
オマケにこれから提供されるのは、周囲と比べて見劣りするのは間違いなしである。特別扱いしてもらうかわりに、周りにはお得感が齎されるので皆が満足なのだが……美味しそうに食べ始める周囲を見ていると、なんだか損した気分になってくる。
「そんな顔しないでよ、私がイジメてるみたいじゃない。」
「そんなのとっくに超えてるわよ?これは。」
「……仕方ないわね、はい、コレ。」
ルイズの目の前には今、一皿の料理が用意されていた。周囲の生徒たちの料理と全く同じ見栄えのものである。
パチュリーが錬金したのである。流石に見事な腕前である。プロ顔負けの仕上がりだ。
ルイズのお腹がグウと鳴り……
「せっかくだから、皿まで残さず食べてね。」
……一気に食う気が失せた。
冗談では無い。そんな得体の知れないものが食えるか!
しかし、これを放置するのは申し訳無さすぎる。人としてやってはダメな行為だろう。そこでルイズは、一口だけでも食べようとしてナイフとフォークを手に取り……。
「お、美味しいわ……どうもありがとう。」
ルイズはこの瞬間、貴族たらんという自負心を全力で発揮していた。そう、全力である。
光り輝く様な笑顔を見せているのだが、目元は全然笑っていない。むしろ見ちゃいけないものを見ているように、虚ろな目つきである。
さすがのパチュリーも、その様子を見て真意を悟ったようだ。
「……流石にちょっと、複雑な気分ね。」
「お、お代わりは遠慮しておくから。」
その時の事だった。
「だったらボクが貰おう!」
食欲旺盛な一人の生徒が、それを横取りした。
常ならば、より強力な念力を使って奪い返すところだが……その時のルイズは、内心でごめんなさいと呟いていた。
そうして、"風上"のマリコルヌがパチュリーお手製の錬金料理を大口を開けて頬張り……医務室に運ばれた。
ところで。
マリコルヌが倒れる少し前のこと。
ランチタイムを迎えたアルヴィーズの食堂では、男子諸君が熱心な会話を交わしていた。
「あり得ないね。」
「同感だ。去年ので懲りたよ。」
「そうしておいてくれ。アレは、ミス・タバサより手に負えないよ。」
「……ボクはアリだと思うな。」
最後の一言は、マリコルヌから発せられた。
今年から同じクラスになったギムリ、ヴィリエを含めたギーシュ達三人は、揃いも揃ってギョッとなった。
「正気かキミは?」
「だって、落ち着いていて可愛いじゃないか。礼儀正しいし、頑張り屋さんだし。キミ達こそ何で腰が引けてるんだい?」
「授業中のアレを見ただろう?全く釣り合い取れないぞ?」
「恋愛は引き算じゃないだろう?」
「……初めて君を尊敬した。そんなバカな。」
「大物気取りか。骨は拾っといてやるから、安心して散りたまえ。」
「ヴィリエ、キミはその性格何とかならんのかね?!」
彼等は今、ミセス・シュブルーズの授業中に彗星の様な輝きを見せた二人の女子生徒について語り合っていた。
「ハッ、言われて直せる様なら、苦労はせんだろう?」
「ギーシュは改めたじゃないか。」
「何の冗談だ?寧ろ嫌味だろう、コイツの場合は。見てると腹立ってくる。」
「言葉もないが……キミのヒネクレ具合も相当なモンだよ?」
ギムリは昨年タバサにチョッカイ出してから、親しみ易くなっていた。あくまで比較の問題ではあるが。
ギーシュも時を同じくしてモンモランシーと大喧嘩したのだが……こちらは以降、安定した関係を築き上げている。
「まぁ、それはいいとしてだ。我等がミス・ピンクに票を入れる者はいないのかね?ギムリとか、意外とタイプだったりするんじゃないのか?」
「それはないよ。ミス・ノーレッジが来てから、妙にお姉さんぶっちゃってるからねぇ。以前の出来の悪い妹キャラなら……って、冗談だよ?」
「……おいおい、ビックリさせないでくれ。マリコルヌに引き続き、異常者が現れたのかと思ったぞ?」
「キミ達は器が小さいなぁ!」
「……キミは意外と、本当に化けそうだね。」
そんな、どうでもいい話をしていると。
隣のクラスの、レイナール少年がやって来た。この学年では、タバサと同じく珍しい眼鏡キャラである。存在感は段違いなのだが……それは言わないお約束である。
「やあ。何を話しているんだい?」
「おお、聞いてくれよ。マリコルヌの奴がさ……」
パチュリー・ノーレッジにホの字だと伝えると、レイナールの表情が引きつった。
「マリコルヌ……」
滅多にそんな表情を見せない彼が言葉に詰まると、それだけで少し雰囲気が重くなった。
ギーシュ達は是非ともこの良識人に一言お願いしたいところだったが、この空気は頂けない。どうしようかと顔を見合わせていると。
「……抜け駆けは無しにしようよ?」
次の瞬間には、ギーシュ達三人は文字どおりに顔を青ざめさせた。
「はっ?今なんて言った?」
「クッソ、バカと付き合ってるせいで、耳までおかしくなったじゃないか!」
「大概にしたまえよキミは?!」
ちょっとした恐慌に陥っている三人組をよそに、ゾロゾロと人が集まり始めた。もちろん、男子達だけである。それも皆、レイナールと同じクラスの連中だ。
ギムリはそんな彼等を見回すと、成る程という様に頷いた。
「ははぁ、成る程?レイナールといい実物を知らないと、こうなる訳か。」
「おい、何を余裕な表情してるんだ?!気にくわないな。」
「そうだ、ズルイぞ!何で君達のクラスにだけ可愛い子が集中してるんだよ?!」
「そうだよ、コッチはヴィリエが抜けたこと以外、特に嬉しい事ないのにさ。さあ、噂の真相を聞かせて貰おうじゃあないか!」
「聞いたぞ?!ミス・ヴァリエールが大人になったらしいじゃないか?どのくらいデカくなったんだ?」
「ゼロがイチになったくらいだ、期待するなよ。それよりもその使い魔だろ、今の話題は?!色々聞こえて来るぞ?!」
彼等が騒ぎ立てるのも、無理からぬ事だった。何しろ昨日から現在まで、当事者達の預かり知らぬところでは虚実織り交ぜた噂が飛び交っているのだから。
やれ、凄腕の日雇いメイジと口裏合わせて召喚の儀式を詐称しただの、
実は超カワイイ家庭教師だの、
朝の食堂でレビテーションを自在に使いこなし始めただの、
かと思ったら平民のオッさんに説教喰らってショゲているとは流石は元ゼロだ、などなど。
もちろんミセス・シュブルーズの授業に居合わせた者達は、最早どうでも良い気分になっていた。色々と規格外過ぎて、一気に食傷気味になったのてある。
しかしやはり論より証拠というか、実物を目にしていないレイナールの様な別クラスの者達にとっては、注目の的なのだろう。
その時の事だった。
「おいおい、何だありゃあ?」
ヴィリエがもう勘弁してくれ、と言った具合に声を上げた。
その視線の先では……
パチュリー・ノーレッジが、ルイズに豪勢な料理を振舞っていた。
ギムリとギーシュはそれを見た途端に、思わず厨房のコックさん達に感謝の祈りを捧げていた。授業中の有様を見ていた彼等からすれば、外見通りにその物体を評価する事は不可能であった。
「……料理の心得がある様な子に見えたか?」
「まさか。そんなうまい話がある訳ない。どうせアレ、錬金だろう?」
ギムリとギーシュは、もはや完全に腫れ物扱いしていた。君子危うきに近寄らず、という気分である。
そもそもからして、あのルイズが懐いている様な女の子なのだ。その時点からして何かあると、疑ってかかるべきなのである。
「君達こそ、ヴィリエに毒されてないかい?」
「そうだよ、メチャクチャ女子力高いじゃないか。」
レイナールのクラスメイト達がギーシュ三人衆を嘲って来るが、そんな事を気にする彼等では無かった。
「何とでも言うがいい、ボクは自分が可愛い。」
「ボクにはモンモランシーがいるからね。」
「……今、初めてヴィリエに共感してしまった……」
そうこうしている内に。
とうとう我慢の効かなくなったマリコルヌがその料理に食い付き……殉職した。
そして、事態はいよいよ混迷に向かった。
「な?言った通りだったろ?」
「いいや、だがそれがいい!」
「ああ見えてドジっ子とか、堪らんだろうが?!」
「そもそもアレは、マリコルヌが悪い!」
こうも大声で騒いでいたら、流石に当の本人達も気がつくというものである。そしていよいよ、帰還不能地点を通り過ぎてしまうのであった。
「聞こえているわよ、アンタ達!さっきっから何なのよ!」
5/27 今回は大変失礼致しました。結局、ハードボイルドなタバサは変わりませんでしたが……以前よりは怒りの理由がわかり易くなったかと思います。
ご感想を頂いた皆様、お詫び申し上げると共に改めて御礼申し上げます。
皐月病さん、かさはさん、タバサに関するご指摘ありがとうございました。
ばんだみんぐさん、今後は夜中執筆分は朝読み直して投稿します。
神無月十夜さん、今話ではそこまで進めず、申し訳ありません。
黒白の暗殺者さん、風呂敷広げ過ぎました。あのままだと次に繋がりませんでしま。
ああああ1さん、crotoさん、大変ご迷惑おかけしました、申し訳ありません。
鬼灯@東方愛さん、暖かい励ましを、どうもありがとうございました。今回のパターンと二通り考えていて、結局コッチにする事に致しました。
今後とも、どうぞよろしくお願いします。
6/20 変に真面目な流れを作ろうとして失敗してきたので、少し遊びを設けてみました。