ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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段々と、この作品で描きたい2人の様子が書ける様になって来ました。
どうぞよろしくお願いします。


2つ目の魔法

なんでも教えてあげると言われたので、ルイズは喜び勇んで真っ先に思い浮かんだ魔法を口にした。

するとパチュリーは少し眉をひそめ……まぁいいか、という風に質問してきた。

 

「この魔法を教える前に、ひとつ確認しておきたいのだけど。」

 

「何かしら。」

 

「貴女は、核融合についてどのくらい知っているの?」

 

「何それ?知らないわよそんなの。」

 

ルイズは耳慣れぬ単語に、首を傾げた。おかしなものである。代表的なコモンマジックを覚えたいと言った筈が、どうして聞き覚えの無い話になってしまうのか。

 

「ひょっとしてそれについて知らないと、出来ないの?」

 

「まあ、原理くらい知っておいて損は無いわよ。小型とはいえ、太陽を作るんだから。」

 

「ちょっと待って?!一体何の話?というよりも……そんな事も出来るのね。そっちにビックリしたんだけど。」

 

「何を白々しい。そもそも貴女が言い出した事じゃない、『夜を照らす太陽』を作りたいと。」

 

「あのね、比喩をバカ正直に受け取らないでよ。気恥ずかしいじゃない。私は、”ライト”の魔法を覚えたいの。光を作り出したいだけなのよ。」

 

「同じことでしょうに。」

 

「多分私達、全然違うことを話しているわ。」

 

ダメだこれは。話にならない。ルイズはそのように判断して、教科書を置いてある自室へ戻る事にした。ここでトンチンカンな会話を繰り広げているよりは、詳細な術式を見てもらった方が早いだろうと判断したのである。

パチュリーは案の定、ホイホイのって来た。チョロいものである。少し、不安になってしまうレベルである。

 

移動に際してはパチュリーが浮かせてくれようとしたが、それは断っておいた。折角普通のメイジになれる算段がついたのだから、初めての空は自分の魔法で飛びたいと思ったのである。

 

「ところでその、貴女の言ってた太陽を作り出す魔法のことなんだけど。それは、一般的に使う魔法な訳?」

 

「ロイヤルフレアは私が作ったから、一般的ではないでしょうね。私も実際に使った事は無いから、貴女が初使用者になるわ。」

 

「それは光栄なんだけど……貴女、そんな凄そうなの作っておいて死蔵させてたの?信用はしているんだけど、明ら様な失敗作だったりしないわよね?そもそも、私がいきなり使って大丈夫なの?ちょっと不安になるわ。」

 

「数値解析の方が、下手に試すよりも安全なのよ。…いわゆる暗算の類だけど、シナリオ別に2万回は検証してあるから安心して頂戴。」

 

「……要するに、思考実験しかしてない訳ね?……まあ、貴女らしいと言えばらしいから、信用するわよ。2万回って何事よ。それで、使うとどうなるの?」

 

「掌サイズのもので、半径200メイルは文字通り何も無くなるわね。生物は勿論のこと弱装甲の構造物に対しても、その10倍の殺傷半径を持つわ。開拓事業とかにはうってつけでしょう。」

 

「……どうりで話がこんがらがる訳よ。私は照明を灯したいだけだから、そんな物騒な魔法教えないで。……はいはい、私の表現が悪うございましたよ。」

 

因みにルイズは現在、パチュリーへの魔法学院ツアーを兼ねて、徒歩で移動中であった。チョクチョクいやな視線を送ってくる生徒達がいるが、フヨフヨ浮いているパチュリーの姿を目にすると、それ以上は何も言って来なくなる。

 

「こうしていると、物凄く意外な事に、立派に使い魔やってるのよね、貴女。」

 

ルイズは、素直な感想を口にした。

実際の所は、見慣れぬ教員に連行されている様にしか見えないという誤解が、外野を引っ込めているだけなのだが。

 

「またその話?それはもう、済んだでしょうに。」

 

「まぁまぁ、口裏合わせだと思って聞いておきなさいよ。暫くはそれで通すしか無いんだから。使い魔の役割はね、大きく三つあるの。一つ、主人との感覚の共有!」

 

ルイズは、ようやく寮塔へと辿り着き、自室のある階へと螺旋階段を登り始めた。

 

「それならもう、さっき言った通り…」

 

「貴女が出来るだけじゃだめなの。私も出来ないと意味ないの。ハイ、次!魔法媒体や秘薬の採集!これなんか正しく、貴女には不向きよね。面倒くさがって、何もしてくれなさそう。」

 

「何を愚かな事を。サモン・サーヴァントを改造すれば、何でも取り放題よ。今のところの目標はそれだけだから、悠長に時間をかけるつもりは無いわ。本以外も召喚出来る様にしておけば良いのでしょう?」

 

「それダメ、絶対!貴女、店売りの商品とか問答無用で召喚しそうじゃない。」

 

「露見する可能性が無いから大丈夫よ。」

 

ルイズは思わず、天を仰いだ。その際に思いっきり、階段を一段踏み外してしまった。

ああ、やっぱりこうなった。

 

「ダメよ。バレなきゃ何でもOKなんて、犯罪者の言い分よ。それやったら、本気で怒るからね。…この事は、機会を改めてよく話し合いましょう。最後!私の身を守ること!意外にも貴女、これが出来ているのよ。抑止力みたいな感じで。」

 

「それはもう、殺られる前に殺れって事でいいのよね?」

 

「違うわよ?!一体、何を聞いてたの?!防御よ防御!」

 

「積極的防御よ。貴女こそよく思い出しなさい。貴女の意図せぬ爆撃が、私の不意を突いたのよ?威力次第では、私は死んでいたでしょうね。要するに、魔法戦は第一撃で全て決するのよ。相手にそれを許した時点で、負けね。好きなように蹂躙されてしまうわ。」

 

ああ、どんどん口八丁になって行く。どうしよう?

ルイズは頭を抱えた。階段を登りながらなので、コレはこれで器用な悩み方である。

 

「納得いかない?それならサモン・サーヴァントを送還できるように改造して、敵性国家の首都にロイヤルフレアを放り込みましょう。そうすれば、私の言わんとしている事が分かる筈よ。」

 

「護衛の話が、何で!一方的な虐殺の話にすり変わっちゃうのよ?!先制不使用という言葉を学んで?!……やっぱり思った通りね。貴女は、動かす訳にはいかないわ。研究だけしてくれるくらいで、丁度いいの。はなっから、雑用なんて期待していないし。」

 

「…それはどんな魔法?初耳だわ。オマケにちょっとバカにされた気がする。」

 

「違う!魔法じゃないの!何で、最も出来なさそうな事に食いつくのよ?!掃除とか洗濯の事よ!」

 

「…ああ、いわゆる"浄化"のこと?そういうの、飽きもせずによくやるわよね。貴女達こそ一方的じゃない。」

ルイズはため息をついた。やれやれ、これだから怠け者は困るんだ。

自らの周りを身綺麗にすることまで、面倒臭がってしまうとは。

 

「一方的って、そんなの当たり前でしょう?ゴミや汚れが、人語を解するとでも?欠片も残さず一掃されて、当然なのよ。放っておくと、害虫まで蔓延って大変なんだから、存在悪よね。定期的に徹底的に、が掃除のモットーよ。……まぁ、不向きだと諦めてくれればそれで良いわ。今まで通り、メイドにやって貰うから。」

 

「……そこまで根が深いとは思わなかったわ。まさか、常設の魔法戦部隊まであるとは。」

 

「本当に分かってる?そもそも、メイドはメイジの複数形じゃないんだから、認識を改めてよね。彼等は平民で、魔法が使えないの。それでも、私達の気づかぬ間に仕事を終えてくれるんだから。彼らは掃除のエキスパートよ。ちゃんと敬意を持って接しなきゃダメだからね?」

 

「裏仕事の専門家にチャチャ入れするほど、暇を持て余してはいないわよ。民族浄化なんて、好きなだけやってればいいじゃない。ソッチから手を出して来ない限り、私からも何もしないわ。」

 

「……何か釈然としないんだけど、分かってくれたならそれで良いわ。それにしても、裏仕事って何よ、確かに汚れ仕事かもしれないけど……さあ、着いたわ。」

 

そうこうしている内に、ルイズ達は目的地についてしまった。思えば会話に夢中になって、ろくすっぽ学院のことを説明してあげられなかった気もするが…それはまた別の機会に譲ろう。

それよりも、今は、もっと大切な事があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ルイズは自分に割り当てられた部屋に辿り着くと、鍵を差し込んでその扉を開いた。

この動作も今日限りのものとなるかと思うと、感慨深いものがある。

 

パチュリーには一番上質な椅子…普段ルイズが使っているものに腰掛けて貰おうとそれを勧めた。しかし、浮くのをやめた事がなく、自重で潰れる可能性があるからと断られた。余りにも酷すぎるその理由に、返す言葉も無い。

 

ルイズは気を取り直して、自慢の杖を振りかざした。

 

「さて!人工太陽なんて物騒な魔法は放っておいて、チャチャッと教えてね?【ライト】の術式は、教科書の35頁から36頁に書いてあるから。ちなみにそれ以外のところは読んじゃダメよ。」

 

「どうして?」

 

「貴女、全部読み終わるまで一言も口きかないつもりでしょう?そんなのダメだからね。」

 

ルイズはパチュリーの顔色を伺って、自分の考えが正しかった事を知った。

やはりか。本を開く前に言っておいて良かった。まさかこんな所で、ツェルプストーから聞かされた”雪風”のタバサに対する愚痴が役立つとは。

 

パチュリーはこれに対して、怒りを覚えたようだった。気のせいも何も、ルイズに対して流れて来る魔力の量が、異常なレベルに達している。ちょっと、シャレにならない。実際に息苦しいのだ。下手すればこのまま爆発させられる気がする。

 

「す、凄んでもダメだからね。広場で、自分から約束してくれたじゃない。どんなものでも教えてくれるって。すぐさま読書に没頭したいのはわかるけど、貴女はもう、一人じゃないの。私とこれから生活していく以上、お互いにした約束は守り合いましょうよ。」

 

「今、私が。どれだけこれを読みたいか、分かってて言ってるの?」

 

「当たり前でしょう?だけど、私もこれだけは譲りたくないの。だからお願いよ。自分で言った事は、ちゃんと守って。勝手に本を読み始めちゃったら、何としてでも妨害するからね。」

 

この一見バカバカしい意地の張り合いは、ルイズの最後の一言が決め手となった。

 

今のパチュリーにとって最も恐ろしい事態は、このなけなしの脅し文句に他ならないからだ。何しろルイズには、魔法の失敗による爆発という具体的な手段と、召喚前の実績がある。よって、読書を大切にするパチュリーにとって、この瞬間に即刻排除すべき脅威となってしまったのである。

 

「杖を捨てなさい。」

 

「…えっ?」

 

「その杖は所謂、魔力の増幅器でしょう?元より大きな魔力を持つ貴女がそんなものを使えば、制御不能に陥るのは当たり前じゃない。すぐに爆発してしまうのは、オーバーフローしてる証拠でしょう。だからそれを使わなければ、失敗できない。必ず成功するわ。」

 

「嘘でしょそんな…エルフじゃあるまいし…」

 

「エルフが何かは知らないけれど、そんなものを信じられて私が信じられないの?何よりも貴女は、魔法的には私と一番近いのだから。私が杖を必要としない以上、貴女もそうなのよ。躊躇う理由は無い筈よ。」

 

「でも、この杖は…」

 

「思い入れがあるようね。出来れば一つ一つ身につけていく中で、自ら気づいて欲しかったのだけど……この本を見て、気が変わったわ。貴女がどれだけ大切に読んで来たか、一目でわかるもの。恐らくその杖も、同じように大切にして来たのでしょう。だからこそこうでもしないと、分かってても気づこうとしない。一生、杖離れできずに終わるのでしょうね。」

 

ルイズはただただ、本能的な拒絶感に包まれていた。

理屈では無いのだ。

杖はマントと共に、貴族の象徴なのである。それを目的のために捨てろと言われても、簡単に決められる事では無かった。

 

恐らく一人きりで同じ命題に直面していたら、決して決断出来なかったであろう。だが、ルイズは自らが言った通り、一人では無いのだった。

 

「こういう場合、どう言ったらいいのかしらね……そうそう、言葉を返すというやつよ。貴女自身が私を召喚する時に、言ってたじゃない。『そのままでも凄い事はたくさん出来ちゃうんでしょうけど、こっちに来ればそれ以上を得られる』って。私は貴女の言葉の通りに、書を捨て、貴女の世界へ来た。貴女も杖を捨て、私の世界に来なさい。」

 

ルイズは呆然と、長年共にあってくれた杖に視線を落とした。

いっそのことパチュリーがデタラメを言ってくれていれば、どれだけ楽なことか。しかしそれは、あり得ないことだ。短い付き合いだが、魔法に関してどれだけ真摯に向き合っているかは分かっているつもりだ。

後は、自分がこの葛藤とどう向き合うかだけだった。

 

いや、それより何よりも。

 

魔法を使いたい。

サモン・サーヴァントの時の様に補助してもらうのでは無く、今度こそ自分だけで。

 

ルイズの頭の中にあるのは、それだけだった。

ルイズは長年の友をそっと机に置き、丁寧に心の中で礼を述べた。

 

「【ライト】」

 

そして、はっきりと声に出した。するとどうだろうか。自分の思い描いた通りの場所に、優しい色をした光源が出来上がっていた。

サモン・サーヴァントを成功させた時の様な感動も無く。ただそこに在った。それだけだ。

 

余りにも呆気ない。

 

感動も、涙も、感謝も、補助してくれた恩人も。全てに置き去りにされた形で。ルイズは今、人生で二つ目の魔法を成功させた。

彼女が妙に冴えた頭の中で静けさに包まれていると、パチュリーがいつも通りに声を掛けてきた。

 

「おめでとう。やってみれば何てことないでしょう?前にも言ったけど、こういうのを…」

 

「コロンブスの卵って言いたいんでしょ?あのね、人が感動している時に諺でまとめようとするのやめてくれない?物凄くどうでもいい気分になるのよ。そもそも何なの、コロンブスってのは。諺の意味すら未だに知らないんだけど。」

 

「まあ、おいおい教えてあげるわよ。話せば長いから。それより私こそ、貴女に聞きたいことがあるのよ。」

 

「何?」

 

「どうしてその魔法なの?貴女はてっきり、空を飛びたいのだと思ったわ。私のこと羨ましそうに見ていたから。どうしてその照明魔法を真っ先に使ったの?」

 

ルイズは一瞬、言葉に詰まった。本音を言ってしまえば、パチュリーから嗤われること間違いなしだからである。

自分達二人は、実力以上に決定的に異なる方向を向いているからだ。だからこそパチュリーにしてみれば、今の疑問が生じて当たり前なのだろう。

しかし。自分に嘘をつく理由など、どこにも無かった。

 

「どうしてってそりゃ、貴女が夜更かししそうなタイプだからじゃない。私がこれを身につければ、私も嬉しいし、貴女も笑顔になるでしょう?」

 

「そんなの使って貰わなくても、私は暗視できるわよ。」

 

ルイズは肩をすくめた。

どうせそんなオチだろうと思ってはいたのである。

 

「分かってるわよ、そんなの。どうせ、私の自己満足なんでしょう?今はまだ、所詮この程度よ。でもそれでいいの。私は、そういうメイジを目指しているんだから。いずれは貴女が微笑んでしまうくらいの、凄いことをしてみせればいい。そういう事でしょう?」

 

ルイズの言葉に、パチュリーはキョトンとしている様だった。

まあ、これはこれで、今の成果としては充分ではないのか。兎にも角にも、魔法の使い方でパチュリーの予想の上を行けたのだから。魔法初心者にしては、上出来だろう。

 

「貴女には長い事待たせちゃった上に、訳わかんないセリフ聞かせて悪かったわね。いいわよ、その本。あげる。私からのプレゼント。」

 

「いいの?」

 

クッソ!コイツ、本当に礼儀を知らないな!

ルイズは思わず地団駄を踏んだ。何だ、この、あからさまに温かい魔力は。私のさっきの言葉には、全く反応しなかったくせに。

 

私より本が大事か!…まあ、聞くだけ野暮だ。

 

「いいわよ。貴女、手元にあるその本以外、向こうに置いて来ちゃったんでしょう?だから、私のをあげるわよ。」

 

「貴女、これが無いと困るんじゃないの?ついさっきまで落ちこぼれてたんだから。」

 

「あのね。私はこれでも、座学ではトップなのよ。その教科書の内容は、全部頭に入ってるわ。」

 

「つまり?」

 

「実技さえ伴ってしまえば、私は完璧ってことじゃない。」

 

そう言い放ったとき、パチュリーの顔がようやくキョトンとしたものからいつも通りのものへと戻ったのだが…。

【念力】を使い始めて歓声を上げるルイズに、その事に気付けよう筈も無かった。

【ライト】で感覚を掴んだためか、いきなりベッドを持ち上げるのに成功している。喜びのあまり取り落としてぶっ壊している所を除けば、パチュリーの目から見てもなかなかにいいセンスをしていると言えた。

 

そして、七曜の魔女はボソリと呟いた。

 

「そう。その調子で……眠る事を忘れて魔法を使いなさい。」

 




パチュリーが新たな目標を立て始めました。

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