投稿が遅くなりましたこと、重ねてお詫びします。何とか話が繋がりました……
まずは、出撃前のタバサからです。
何で風邪をひいていたか説明するため、少し時間軸が前に戻って退屈かもしれません。
後半は元の時間軸に戻ります。
ルイズがデルフリンガーを手に入れる、少し前の事になる。
タバサは悩んでいた。
使い魔の視覚共有とライトニング・クラウドの応用で長距離攻撃を成功させたのは良いが……これを基本的戦法として繰り返し練習する気になれなかったのだ。
極めて効率的だが、使い魔に比べて主人たるメイジが、余りにも安全圏に留まり過ぎている。こんな事を繰り返す様な主人に、誰が忠誠を誓えるだろうか。
人杖一体たるメイジとして、杖との信頼関係が大切だと再認識したばかりなのだ。是非にも、使い魔とも良好な関係を築きたい。
そうして悩んだ挙句、納得いく答えに辿り着いた。
三位一体。
タバサの辿り着いた答えは、これである。
メイジと杖と使い魔。三者が力を合わせれば、天地に恐るるもの無しである。
「カッコイイ……」
タバサはボソリと呟き、使い魔の韻竜と共に駆ける空に思いを馳せた。
味方の窮地に天空から颯爽と駆けつけ、
強力無比な魔法を直上から叩き込み、
窮地を救う、戦場の天使。
非正規戦ばかりやっている自分がそんな華々しい役目を負わされる事はないと思うが……いや、そんな事もないか。敵勢力圏内で重囲された部隊の援護に向かえ、とかの自殺任務としてやらされる事はありそうだ。
しかしこうした現実性より何よりも、平面に囚われない三次元での戦闘というものにタバサは、強い憧れを抱いた。
元よりドラゴンと言えばアレだ。天空の覇者、自由の象徴である。
それを駆るメイジともなれば、アルビオン竜騎士に象徴される様に、自由と正義の使者だ。いや、そんな有り触れた存在に留まるつもりはない。
「ドラゴンマジックナイト・タバサ……悪くない。」
タバサは自らの思いつきを口にして、その響きに深く頷いた。キュルケから究極的にダサいと指摘されるまで、ノリノリになった。
これだ。
これしかないだろう。
『天は、自ら助くる者を助く』という言葉が、あると聞く。
始祖ブリミルが、イーヴァルディの勇者が、シャルロットを見放したと言うならば。
タバサこそが、地上に見捨てられた哀れな人々の救いたらん。
そうと決まれば、早速練習である。
「……むぅ。」
タバサは悩んだ。
韻竜に飛び乗って、高度3,000メイルから地上目標を攻撃する訓練をしているのだが……思うようにいかなかった。
試しにその高度からでっかいジャベリンを放り投げてみたところ、トンデモナイ事になった。轟音と共に炸裂した氷塊は、遥か上空から眺めても分かるくらい凄じい破壊の爪痕を残した。人里で練習しなくて、何よりだった。
そして、思ったところに命中してくれない。
当てることに関して言えば、ウインディ・アイシクルを連射して何とか、といったところである。
正確に弾着観測して撃ちまくれば、辛うじて一発くらいは当たる。しかし……命中の瞬間に魔法を派生させるところまで、手が回らない。命中させるのに精一杯で、威力が出せない。
これでは帯に短し襷に長し、である。
もっと、命中率を飛躍的に向上させて、一撃必殺な攻撃を行う方法はないものか……
そうして韻竜と相談しながら、四苦八苦して。
ようやく解答に辿り着いた。
水平飛行しながら魔法を撃つからダメなのだ。急降下して直線に近い射撃をした方が、命中し易いと気づいたのである。
降下角度70度という殆ど垂直落下しながらの精密射撃は、クソ度胸の塊みたいなタバサだからこそ可能な芸当と言える。
タバサは大いに喜び、これを成し遂げた韻竜に最大の栄誉を与えようとした。
「貴女には戦場の天使に相応しい、二つ名を授ける。」
これを聞いた韻竜の幼体は、とても嬉しそうにキュイキュイと鳴いた。タバサは心なしか胸を反らせて、自信たっぷりに告げた。
「
「ダサいのね。」
「むぅ。」
タバサは唸った。こうも見事に一刀両断されては、さすがに却下だろう。
何しろこれから自分たちは、ガリア初の三位一体ユニットとして、第一歩を踏み出す事になるのだ。
お互い、納得した名前で呼び合いたいものである。
「……ならば、ユンカース 。」
「嫌なのね。」
「フォッケウルフ。」
「ドラゴンですらなくなったのね!」
「メッサーシュミット。」
「さっきっから何なのね!おねーさまはネーミングセンスが壊滅的なのね!そんな名前で呼ばれても、知らんぷりするのね!」
タバサはショゲ返った。こうまで否定されると、自信をなくす。
そうして、召還した当初に抱いた感想を述べた。
「……シルフィード、風の精霊。」
「キュイ!いきなり響きが良くなったのね!はじめっからそう言えば良いのね!」
こうして。
タバサの使い魔は、何とも風流な名を冠した。
そしてその日から、就寝前の視覚共有が楽しみになった。
人間では到達不可能な、空気の薄い超高々度。雲の上の上、そのまた遥か上。成層圏を自在に飛び回る、自由そのものな視界。韻竜ならではの暗視で視野一面に広がる、幻想的な夜景。
それを、瞼の裏から見つめながら。
ゆっくりと静かに、眠りにつく。
そんな事が、就寝前の細やかな楽しみになった。こうして放課後の訓練に加えて睡眠学習までやり始めたタバサは、飛行技術を飛躍的に向上させていく事になるのである。
そんなある日のこと。
「人がいたのね!」
二日ばかりかけて遠出していたシルフィードが、帰ってくるなりそんな事を言った。
タバサは眉を顰めた。そんな筈はないからだ。
シルフィードが快適な空の旅を楽しむ高度10,000メイルは、人間の立ち入れる領域ではない。タバサも高度6,000メイルくらいまで上昇した事があるが、それ以上は断念した。極寒なうえ、空気が薄くなり、もう少しで意識を失うところだったのである。
「仲良しな竜と人が、四頭と四人いたのね。」
詳しく話を聞くと。
何とシルフィードは、白の国アルビオンの領空を侵犯していた事が分かった。流石にど真ん中に侵入したりはせず、大陸の端っこにあるお城のあたりをウロチョロしていたとか。この城とは、ニューカッスルで間違いないだろう。
そして、超高々度をダイアモンド組んで編隊飛行している、飛行分隊を見たと。
しかも、真夜中に。
タバサはゾクリとした。
間違いない。
精密な空域図に元づいた夜間飛行は、アルビオン王立空軍のお家芸である。
しかもそれをその高度で行うとは、化け物か。
タバサは今の自分で、高度1万メイルに到達できるか検証した。
結論はすぐに出た。
夜間なんて論外で、昼間でも不可能だ。
空気の希薄化と気圧の低下を凌ぐのは、まだ何とかなる。幸いにもタバサは風のトライアングルであり……既にスクェアに近づきつつあるから、可能だろう。しかし、極超低温までは防げない。なぜなら風の魔法と同時に、火の魔法も使う必要があるからだ。系統魔法の並行使用なんて、そうそう出来るメイジはいない。
つまりはアルビオン王立空軍の最精鋭たる竜騎士隊には、トライアングル以上の風と火を並行使用出来る人間が、最低でも4人は居る事になる。
意味が分からない。
レコン・キスタとかいう新興勢力にいい様にされているという噂の弱小王軍に、そんな戦力が温存されているとは。全く理屈に合わないではないか。
まぁ……他国の事情をどうこう言うつもりはない。
問題は、タバサの遥か上をいくツワモノがいるという事である。シルフィードが変な薬草を摘み食いしてラリっていない限り、これは厳然たる事実なのだ。
これはとても、見過ごせない。
……少し冷静になると、それ程の高度で一体何をしようというのか全く意味が分からないのだが………自分よりも技術的に上を行かれて指を咥えているのは、タバサのプライドが許さなかった。
何とかして、高度10,000メイルの頂きに辿り着くべきである。手段に拘るような、悠長な真似はすべきではない。
そんな事を考えて、ああでもないこうでもないと頭を悩ませていた時の事である。
不意に、タバサの自室のドアがアンロックの魔法で抉じ開けられた。
「ねぇ、ちょっと力を貸して!ルイズとミス・ノーレッジが、王都に向けて早駆けしたの!面白そうだから、貴女も一枚噛んで、一緒に尾行しましょうよ!」
ゲルマニア才女のキュルケが、上気した顔つきで乗り込んできたのである。
「……何という僥倖。」
タバサは大きな杖を握りしめると、ゆっくりと席を立った。火系統のトライアングルメイジたるキュルケと協力すれば、防寒対策はバッチリである。単独でないのが残念だが、高度1万メイルも夢ではない。この繊細一隅のチャンスをフイにする理屈は、どこを探しても無いだろう。
タバサは冬用の防寒着をいそいそと着込み、キュルケにも同じことをする様に告げた。
「いつになくノリノリじゃない。一体何をするの?」
「普通の方法で尾行しても気付かれる。だから、やり方を変える。」
「どうするの?」
「予想の上を行く。」
「魔法で?」
タバサはゆっくりと首を振った。
「物理で。」
こうして青と赤の留学生コンビは、トリステイン国内初となる成層圏飛行に成功した訳であるが……。
流石に最後の方で魔力がスッカラカンになり、二人揃って風邪をひいてしまった。
勿論、飛行に精一杯で、尾行どころの騒ぎではなくなっていた。
その翌日、風邪で寝込んでいたタバサを凶報が見舞った。ベッドに篭ってウンウンうなっていたら、階下から恐ろしい会話が漏れ聞こえて来たのである。
ルイズが、6,000年前の亡霊騎士を連れ込んだというのだ。
………なんて事をしてくれるんだ。
タバサはあまりの恐怖に、ガチガチと震え始めた。天上天下、畏るるもの無しを自負するドラゴンマジックナイトとはいえ、どうしようもない存在というものはいる。
当たり前の話だ。
既に死んでいる幽霊は、殺しようがないのである。そんな存在とコトを構えては、一方的に嬲り殺されてしまうだろう。
恐ろしい。
タバサの心は凍て付き、そして風邪をひいてタダでさえ下がっていた体温が、グングン下がっていった。
ちなみにハルケギニアのメイジが風邪をひくと、発熱か低体温症かのどちらかに苛まれる事になる。火と水のどちらに適性があるかという事は、こうした事態からも負の証明が得られるのである。
「あっづ〜〜〜〜〜〜、ちょっとお邪魔するわよ〜〜〜。」
この時、タバサの部屋をアンロックでこじ開けて侵入してくる不逞の輩が現れた。
お察しの通り、キュルケに他ならないのだが……その格好がとんでもない事になっていた。産まれて来たままの状態であり、いかに女子寮とはいえこれはアウトだ。
「あ〜〜〜、やっぱり涼しいわぁ。生き返る〜〜〜。」
夏バテのオバちゃんみたいなコトを呟くキュルケの体表からは、シュウシュウと白い煙が立ち上っていた。
メイジでなければとっくの昔に死んでいる様な体温になっているため、タバサの冷却効果により人心地ついているのだ。本当は彼女を氷抱き枕がわりにしてピッタリとくっつけば手っ取り早いのだろうが……一悶着ありそうなのでそうはしなかった様である。
何しろここまで歩いてくるだけで、相当に体力を消耗しているのだ。
「長居はオススメしない。」
タバサも既に、恐怖と低温で息も絶え絶えであったが……眼下の脅威だけはしっかりと伝えた。
仮初めの友情とはいえ留学生どうし、キュルケのことを憎からず思っているからである。
「……こういうのを、弱り目に祟り目って言うのよね。ルイズも全く、悪意なくムゴいことをしてくれるわ。」
キュルケはブルブルと震えている小さな同級生を、どっこらしょと抱き締めた。色気も何もない仕草であったが、人肌というのはこういう時には有り難いものだろう。
こうして図らずもお互いの体温を調整し合った二人組は、束の間の眠りについた。
「……かあさま。」
タバサはもちろん服を着たままだったが、メガネは外していた。
そんないつになく無防備な状態で親友の双丘に顔を埋めた彼女は、とても安らかな顔をしている。母を呼ぶその寝顔は、年相応な少女そのものだった。キュルケがいつも通りだったらアクセル全開で揶揄いに行っただろうが……この時ばかりはさすがの彼女も疲れ切って夢の中である。
そんな時の事だ。
耳障りな重低音が、響き渡った。
タバサはハッとなって跳び起きて、窓の外に起立する巨大なゴーレムを見た。
メガネをかけていない事に気がつき、慌てていつも通りの視界でもう一度見直したが……初見の判断は誤ちではないと気づかされた。
「なあに、あれ?巨人?」
キュルケが呆れた様に呟いた。
それもそうだろう。遼棟の5階から眺めても頭頂部の見えないゴーレムなど、ハルケギニアのメイジの常識からは掛け離れている。こんな真似、スクエアの土メイジにだって難しい。
こんな凄腕のメイジを盗賊としてのさばらせているなど知ったら、タバサは呆れ返ってものが言えなくなっただろう。
しかしそうとは知らずに見当違いな事を確信した彼女は無言で、杖を握りしめた。たとえ風邪でブッ倒れていても、即応体制を解かぬのが彼女である。そして油断なく観察を続ける彼女達の前で、巨人の胸部に閃光が煌めいた。
「……ちょっと、意味が分からないんだけど。あれ、ルイズの爆発魔法よね?いつの間にあんな事に……というよりも、何だか再生し始めたわよ?」
「……魑魅魍魎め。」
タバサはボソリと呟き、視線に力を込めてその標的を射抜いた。
彼女は知り得た情報の中から、一つの仮説を立てていた。パチュリーが冥界から呼び出した幽霊をゴーレムの身体に押し込んで、それを制御しようとしたルイズが失敗したのだろうと。その検証は、一瞬で終わった。
「物凄くあり得そうな話よね。ルイズって、根本的な所ではドジなままだから。」
キュルケが二も三もなく賛成してくれたのである。
タバサはコクリと頷くと、学院の森で待機しているシルフィードに、此方へ向かうよう合図を送った。予め両者の間で取り交わした、緊急時のシグナルがあるのだ。
キュルケはその落ち着き払った仕草に、オヤという表情をした。
「貴女、幽霊とかダメじゃなかったの?さっきまでそれで震えていたわよね。」
「アレには今、肉体がある。」
タバサは先ほどから窓の外で躍動している、巨体を指差した。ごくごく普通のメイジなら、その姿を見ただけで怖気付くだろう。ましてやそれに6,000年前の幽霊が憑依しているとなれば、尚更だ。
ルイズとパチュリーに任せて高みの見物を決め込む気満々だったキュルケがそのように問うと、タバサは自信を持って応えた。
「肉体があるなら、殺せる。」
「……うん、まあ。苦手を克服出来たなら、いい事じゃあないかしら。」
さてはて。そんなタバサから乗車拒否ならぬ降車を勧告されたルイズと言えば。
こんなの冗談では済まされない、とパチュリーに対して烈火の如くまくし立てた。
何しろ散々梃子摺らされたゴーレムが、彼女の手によって鋼鉄製にされてしまったのだ。悪意すら感じられた。
「あああああ貴女一体、自分が今何したか分かってるの?!ワザとよね、絶対これ、ワザとやったでしょう?!」
「お帰りなさい。空の旅はどうだった?」
「ちょっと高過ぎて、途中下車しちゃったわよ…………じゃあないでしょう?!こここここれは一体、何の真似よ?!敵に塩送るとか、そういうレベルじゃないわよ?!」
「再生できないように、成分を変えただけよ。」
「だけ?!だけって何?!」
このときデカブツ君を観察していたデルフリンガーは、オオと声を上げた。そうして、パチュリーを手放しで褒め始めた。それはもう、魔女さんが困惑するレベルで。
「へぇ……何だかんだ言ってアンタも、チビピンクが可愛いと見えるな。腐っても師匠ってことかよ、憎いね!」
「……何を言ってるの?」
「オメー、なかなか頭回るよな。あーなっちまえば、うどの大木だ。」
「……話が見えないんだけど。」
「いや、だってほら、よく見とけ……な?動き止まっただろ。動かしたくても、関節までガチガチにされちゃあ、動かしよーがねーもん。いや、マジすげーよ。オレ、職業柄あんまメイジすげーとは言わないんだけど、ここらへんは流石だな、パジャマ。」
実際にデルフリンガーの指摘通りに、のっぺらぼうな巨人は動きを止めていた。七曜の魔女としてはあくまで手助けに終始してルイズ達にトドメを刺させようとしたのであるが……図らずも自らそうしてしまったのである。
この時ルイズは見逃していたが、デルフリンガーの反応からするに、パチュリーはさぞかし見ものな表情をしていたらしい。
「はぁっ?!ナニお前、その顔?!まさか、あんな状態で動ける奴がいるとでも思ったのかよ?!これもう既に、ゲームセットだぜ?!」
デルフリンガーは可笑しくてたまらずに、爆笑を始めた。
「あのな、土で作ってあるのには理由があんだよ!駆動部が稼動しなきゃ、動けなくなるに決まってるだろ?!硬けりゃいーってもんじゃあねーんだよ!つか、マジでウケるんだけど!バッカじゃねーの?!」
ゲラゲラと大笑いしている刀剣に対して、パチュリーのあからさまに不機嫌な声が掛かった。
「貴方、さっきから煩いわよ。ベラベラと。」
「そいつぁどうも!今んとこ、口しか動かしようがないんでね!何しろあんたが細工したゴーレムは、動かぬ彫像と化しちまったんだ!こいつが笑わずにいられるか!!」
「このくらいで固まらないでよ、興醒めもいいとこだわ。」
「いや、興醒めどころか爆笑もんだって!師弟揃って、マジで笑かしてくれるぜ!弟子は漏らすし、師匠は間抜けと来たもんだ!まあ、取り敢えずはこのままでい〜んじゃないの?!しっかり足止め出来たんだから!いやー、もういっそのことアレ、オメーさん達のおマヌケ記念碑にしちまおうぜ‼︎ちょうど良いや、オレ様が今日の日付を刻印してやんよ!」
「……仕方がないわね。」
「おいおい、やめとけって。あんな鋼鉄の塊を無理やり動かそうとしたら………」
この時。
パチュリーが強引に操り始めた鋼鉄製ゴーレムが、モノスゴイきしみ音を立て始めた。それはもう、巨獣の咆哮さながらである。
というよりは、超音波兵器か。
「うおおおお!やめろ!耳が千切れる、耳がーーーって、オレ様に耳はねーんだった!ガーッハッハ!こいっぁ傑作だ!おい見ろよあの膝とか腰の関節!鉄塊が舞ってるじゃねーか!動くだけで自滅してってるぞ!」
「だったらここらへんは、元どおりの土にすればいいのね?」
「いや、だからさっきっからそう言って………って、オマエバッカじゃねーの?!せっかく無力化した戦力を復活させて、どーすんだよ?!つかさ、ナニがどーーなってんだコレは?!オメーさん、そうとは知らずに盗賊からゴーレムをパクった事になんだよな?最っ高にクールじゃねーかよ!やっぱ見直したぜ!マジでやるな、アンタ!それからもう、わざわざオレに聞くこたねーよ!オメーさんには、立派な手足がついてんだろ!どこが固まったらヤバイとか、オレより詳しいだろがよ?!」
「………知らないわよ。」
「……はい?」
「手足なんて、ロクに動かした事ないもの。駆動部がどうとか言われても、イマイチよく分からないのよ。」
「………は、はぁっ?!おま、物臭にも程があんだろが!何なんだよその、魔法馬鹿一代は?!全然笑えねーぞ?!」
「冗談を言ったつもりはないわよ、事実だから。」
「……ったくよーー、アンタらと一緒にいると、退屈しねーな。ええい、もういい!言う通りにしろよ?!」
そんなこんなで。随分とスムーズに動く、鋼鉄製にチューンナップされたゴーレムが誕生した。そして、ようやっと。
そのゴーレムは、再び破壊活動を始めようとして前進を再開した。
「……あ、アンタ達ねぇ……‼︎」
この一連の流れを呆気にとられて見つめていたルイズは、プルプルと肩を震わせていた。
「な・に・を ‼︎トチ狂って面白半分に、ヤヤコシイことしてくれてんのよ?!」
「いや〜〜、ワリーワリー、ついノリで。」
「私は真面目にやってるわよ。」
「貴女さっきっから、殆ど本から顔上げてないわよね?!そういう片手間、不真面目としか言わないから!それとそこの駄剣!アンタ、余計な入れ知恵してんじゃないわよ?!」
「とりあえずはあのデカブツを、何とかすることにしようぜ?このまま話していても、ラチが明かね〜〜よ。」
「そうよ、稼働時間が残り少ないから、早いとこ決めちゃって。」
「何?!一体何なのこれは?!私、今まで何か間違ったこと言った?!全部、アンタ達がオカシイ筈よね?!何で私が、ツマラナイ事に拘ってる可哀想な子扱いされなきゃならないのよ?!」
「いや……ホラ、一番はじめにアレ何とかするって大見得切ったじゃん。一応自分の言葉に責任持ってさ……」
「アンタ達が面白半分にチューンナップしたせいで、どうしようもなくなったわよ!」
ルイズはそう言うと右手で魔力を操って、手近な残骸を投擲した。ノールックで的確に命中させているところを見ると、かなり慣れて来たのだろう。
おまけにその時速は、優に300リーグを超えていた。
しかし如何に速くとも土の塊を鋼鉄に投げつけた所で、ペシャンと潰れるのは明らかである。
さっきまでは多少なりとも足止めになっていた手段が、最早完全に無力化されていた。
それだけでは済まされない。シルフィードを駆るタバサが急降下して巨大なジャベリンを命中させていたが、それですら蹌踉めくである。……いや、ちょっと待って欲しい。蹌踉めく?結構いいセン行ってるのではないか?
「見た?!今の見た?!見たでしょう?!このままだとまぁたあの子に、オイシイとこ全部持っていかれて……じゃなくて!問題は、私のこれまでの苦労が、全部パーになったって事よ!どーしてくれんの!」
「……あ〜、そうだった。確かにオメーさん、結構頑張ってたよ。すまんね、ついつい。このパジャマが余りにも笑かしてくれるもんで、忘れちまってた。」
そう言うと、デルフリンガーはどっこらしょとばかりにカシャンと音を立てた。
「さてさて、久しぶりに斬れ味自慢と洒落込みますかね。あ〜〜、ヤダヤダ。今更産まれたての剣みたいなことするの、カッコ悪いぜ。もしも同族に会う機会があってもこれ、内緒にしといてくれよ?」
「アンタ、ちゃんと目ぇついてる?相手は鋼鉄製よ?!斬れる訳ないじゃない!」
「そこまで役立たずに見える、オレ様?ちょっとショックなんだけど。今なら斬鉄くらい訳ないぜ、多分。」
そう言うと、デルフリンガーはブーンと震えだした。ついさっき身につけた、超振動の能力である。
ただでさえガンダールヴの相棒として有名を馳せた彼が、こんな事になればどうなるか。それはもう、脅威の斬れ味を発揮するに違いなかった。
「まぁ、こういうのは剣士が修行して身につける技術だから燃えるんだけどな。」
「ああああアンタ、そういう事できるならちゃんと申告しなさいよ?!」
「だっからそれを一番はじめに無視したオメーさんが言うか?」
そんなこんなでルイズ達が揉めているとき。
タバサは焦っていた。
まさか、身につけたばかりのジャベリン版急降下爆撃が通用しないとは。
かくなる上は、更に高度を上げて垂直降下を行うべきか。いやいや流石に、そんな事をすれば引き起こしに失敗するだろう。そうなれば墜落死間違いなしである。
やり方を変えねばならぬ。
この時タバサは、自身の持ち得る最大の攻撃オプションを思い出した。
ライトニング。
射程距離20メイルくらいの接近戦専用魔法だが、多方向に同時攻撃可能な点からして明らかな様に、威力に関しては文句なしである。オマケに相手は、全身を鋼鉄で覆われている。この上なく電撃の通りも良いだろう。
……いや待て、待つんだ。これは鎧の中に人が居る場合の対処法である。亡霊が相手の場合はどうなるのか?デッカい避雷針に雷落とす様な結果に終わるのでは?
このときタバサはしかし、クワッと目を見開いた。
相手は確かに亡霊だ、しかしデルフリンガーという騎士の幽霊ときている。ならば生前の記憶を引き摺り、鋼鉄に包まれれば安心という経験則に従う筈だ。
タバサの唇は、知らず知らずのうちに釣りあがっていた。
冥界で大人しく輪廻を待てば良いものを。未練がましく現世に現れるとは、愚かさの極みである。ましてやこのシャルロット・エレーヌ・オルレアンの魂が宿るタバサの目の前に現れてしまったのが、運の尽きというものである。
いやいや、獲物を目の前に舌舐めずりは、素人のやる事だ。
タバサはプロである。ガリア北花壇騎……いや、前々からこの公称は気に食わなかった。大体なんだ、この響きの悪さは。よくぞこれまで、庭師と勘違いされなかったものである。いやいやそれこそ、ガーデニングのプロに失礼な話である。もうこの際だから、ドラゴンマジックナイトで通してしまおう。
いずれにせよ、現役の騎士である事に変わりはないのだ。6,000年前に引退したローテク如き、表情一つ変えずに退治してのけて当然なのである。
「む、無茶苦茶なのね!そんな至近距離の射撃訓練は、した事ないのね!一週間お肉追加して貰わないと、手を貸さないのね!」
タバサはシルフィードの耳元で作戦を伝えると、使い魔の返してきた言葉に微笑を浮かべた。
彼女がこう言う時は、だいたい成功する。
本当に、頼もしい使い魔である。私達は、本当にいいコンビだ。
そうと決めたタバサは最上の肉を約束し、攻撃準備に入った。
”この国の牛さんじゃないと、嫌なのね!こないだ貰ったお肉は、アルビオン産のゲテ物だったのね!脳味噌がトロトロで、一気に食べる気失せたのね!”
風を斬る急降下の中、シルフィードの不満が脳裏に響き渡った。
タバサはニヤリとした。丁度いい、ルイズには貸しがある、彼女に牛を7頭用意して貰おう。いや、場合によってはもっと吹っ掛けても良い。漏らした事を内緒にする事を条件に出せば、一週間どころか一ヶ月も夢ではないかもしれない。そうとなれば、シルフィードの分だけではなく自分の分も……
面倒臭い。牧場を丸ごと買い取って貰おう。
食欲を刺激されたタバサはそうして、エア・シールドを解いてライトニングの呪文を唱えた。
杖先に魔力を集中させる。
そしてついに、軸線に載って攻撃を仕掛ける瞬間。この場で一番相応しい詠唱を行なった。
「悪霊退散、一呪入魂、一撃必殺、雷撃呪文!」
こうして放たれた電撃は、幾条にも枝分かれし、その全てが鋼鉄製巨人の頭部に命中した。
迎撃すべく待ち構えていたと思しきデカブツ君の右腕は、あと一歩のところで奏功しなかった。一瞬のうちに、彼は動きを止められてしまったのである。
所謂スタン状態になったに過ぎなかったが、元より稼働時間の限界に差し掛かっていたのだ。
その後、デカブツ君は完全に動きを停止した。
その様子を安全圏に離脱した状態で眺めたタバサは、大きな杖を右手に抱え、左手でシルフィードを撫で付けた。
「最早この私に、恐れるものはない。今から私は、ゴーストバスター・ドラゴンマジックナイト・タバサである。」
しかし彼女の上機嫌も、長続きしなかった。
「チョーシこいてんじゃないわよ、この、手柄泥棒!降りて来なさい!」
ルイズが地上で、捲くし立てていた。
やれやれである。
タバサはため息をつくと、その言葉に大人しく従った。
さて、牧場が待っている。
パチュリーさんのうっかりを描きたかったのですが、うまく行ったでしょうか。
デルフリンガーは別に、パチュリーを本気になってバカにしてる訳ではなくて、アメリカ人的なノリでケラケラ笑ってる感じです。行き過ぎてたら、ご指摘下さい。
7/23 タバサが電撃流す理屈を、少し変えました。シンさん、ご指摘どうもありがとうございます。