ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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こちらは、改編前とさしたる変更はありません。



第14話 3歳児以下

 

『忙しい人よね、貴女も。』

 

真っ暗闇の中からパチュリーの声が響いて来て、ルイズはギョッとなった。

 

おかしい。

ついさっきまで、タバサの暴挙を目の当たりにしていた筈なのに……

 

ここは……一体何処なんだ?

一体いつの間に、こんな光の差さない魔境に辿り着いてしまったのか。

 

「コレもタバサの魔法だったりするの?だとしたらあの子は一体、何者なわけ?魔王の娘だったとか、そういうオチだったら……この国はどうなっちゃうのよ!」

 

ルイズは直前までのタバサの暴挙を思い出して、それでも不思議はないかと独りごちた。

 

『貴女、致命的な勘違いをしているわよ。あの子の使い魔は、私と同じく精霊魔法が使えるから……』

 

「あ、貴女の同類が竜に化けていたの?!ちょっと、恐ろしいこと言うのはやめてよ!」

 

『逆よ、逆。』

 

パチュリーから溜息と共に真相を語られたルイズは、フウと溜息をついた。まさか、タバサの使い魔が魔法を使える竜だったとは……

とんだ取り越し苦労もあったものである。

何だか今日は、から回ってばかりだ。

 

「ところでそもそも、ココは何処なの?」

 

『貴女の意識の中。身体そのものは、貴女の部屋に運んでおいたから、有り体に言えばここは、夢の中かしらね。私の目の前で惰眠を貪ろうなんて、百年早いわよ。』

 

「………100年後どころか、今すぐ大人しく眠らせて欲しいんだけど。」

 

『捨食の術の残り半分は、眠りを捨てること。貴女は今、肉体的には眠ってしまったから、頭だけでも起こしておこうと思ってね。せっかく上手く行きかけていたのが、気絶なんかで台無しにされたら堪ったものではないわよ。』

 

ルイズは早速、夢の中だというのに頭を抱えてしまった。

 

『時間が勿体無いから、早速やるわよ。』

 

「………ハイハイ、最早何を言っても無駄なんでしょう?何をさせるつもりよ?」

 

『身を守る術を、覚えて貰うわ。』

 

そう言えば、とルイズはコレまでの経緯を振り返った。

パチュリーから、魔法を一から教わるのは初めての事である。これまでは、あくまでもルイズが覚えた魔法へのアドバイスだった。

 

それをこうも寸暇を惜しんでまで直接指導するという事は……やはり、タバサとの一件が大きな影響を及ぼしているのだろう。

遠距離ではライトニング・クラウド、中距離はウィンディ・アイシクル、近距離ではあのライトニングと、死角無しだった。

 

「タバサ……凄かったわよね。何でいきなり、あそこまでの実力を身につけちゃうのよ。貴女一体、何をしたの?」

 

『何もしてないわよ。所謂、自己解決の類ね。』

 

「何てこと、まだまだ上がありそうじゃない……呆れたわね、明日にはスクエアになっているんじゃない?」

 

『そう思うなら、貴女ももう少し頑張らないとね。』

 

ルイズはええい、とばかりに両の手で頬をパンと叩いた。比較対象が悪すぎるのだ。タバサは学院有数の実力者で、パチュリーに至ってはこのハルケギニアでも及ぶ者がいるかどうか。

周りは気にせず、地道にやっていこう!

 

「それで、何を教えてくれるの?」

 

『コレ。』

 

そうしてルイズの前には……水のバリアーが出来上がっていた。

此れは……恐らく系統魔法ではない。そもそも原理からして、異なる代物だ。

 

精霊魔法。この世界で、禁忌の烙印を押された力。

 

しかし。

ルイズの心は弾んでいた。

驚愕の魔法に、アテられたからでは無い。

それがとっても……綺麗だったから。

 

思わず手を伸ばして触れてみると……スッパリ断ち切られ、五指が床に落ちた。よくよく見ると、水膜の表面はあり得ない速度で対流が起きている。魔法的なバリアであるだけでなく、物理的にも鉄壁の防御を誇っている様だ。

 

「ギャアアア!」

 

『落ち着きなさい。所詮コレは、夢だから。貴女の身体はとっくに、私が治してあるわよ。』

 

「……それならサッサと起こしてよ。もうイヤよ、こんな悪夢。」

 

ルイズは思わずベソをかいてしまったが……そんなのに痛痒を覚えるパチュリー・ノーレッジでは無かった。

 

『そうは行かないわ。言ったでしょう?そんな事では、つまらない死に方をすると。今の貴女では、同級生一人に簡単に撃ち負けるのよ。』

 

「……」

 

ルイズは今さっきの出来事をゆっくりと反芻した。

そして。タバサと自分では、何が一番違ったのかを思い出した。

 

目だ。

 

あの子は私を見ていなかった。

タバサはルイズを通して、別な誰かを見ていた。同じ様に無防備で、恐らく既にもうこの世には居ない、誰かを。

 

「ねぇ、パチュリー。タバサは貴女と一緒に居る時に、何か言っていなかった?」

 

『ああ、そう言えば……10歳の女の子が、引けもしない弓を握って死んで居たから、人は産まれながらに戦士の心を云々言っていたわね。』

 

はい、貴女達2人ともクビ。

 

ルイズは即決した。

今の言葉の詳細は不明だが、何か致命的に大事なメッセージを伝え忘れた事だけは、明らかなのだ。タバサもパチュリーも、絶対に人にものを教えるのは向いていない。

まぁ、今更聞きに行っても恥ずかしがって教えてはくれないだろう。

 

それに、今のルイズが言われても、面喰らうだけに違いない。

 

これまでルイズは……温かく素晴らしい世界で生きて来た。ルイズよりも年下なタバサがあからさまな偽名を名乗らずには、生きて来れなかった世界の、片隅で。自分はひたすらに護られてきた。

両親様々である。

 

そろそろ……独り立ちをすべき時なのだろう。

 

「それじゃあ、教えて貰いましょうか?精霊魔法を。」

 

ルイズには最早、ハルケギニアで異端とされる魔法に対する距離感など、微塵も抱いていなかった。

 

何しろタバサに杖を向けられたとき、確信したのである。

使える力を使いもせず、好き放題される事を受け入れられる程、寛容ではいられないと。

何よりもその事を自身の手で、あの場で証明してしまったのだから。

 

日和見主義を貫くならば、はじめから何の抵抗もしなければ良かったものを。

 

要するに。

あの時点でルイズは、タバサの生きて来た世界に片足を突っ込んでしまったのだ。

そしてその世界が怖いからと、クルリと背を向け布団の中で震える事は……良しと出来ない。

 

そうと決めた以上、無力な自分は放置出来ないのである。

 

パチュリーの声が、そんなルイズを歓迎するように響き渡った。

 

『その言葉を待っていたわ。貴女と精霊の契約には、うってつけの方法を考えてあるの。さあ……まずは古代ギリシア語から学んで貰いましょう。』

 

「古代ギ………何ですって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、睡眠学習が始まってから10分くらいが経った。

 

「わ、私を哀れむな〜〜〜〜〜!」

 

ルイズはソファーから飛び起き、その勢いで目を覚ました。

するとその隣では、パチュリーが呑気に浮かびながらこちらを見つめていた。それはもう、天然記念物を見る目つきで。

 

最悪の目覚め方である。

 

マジでムカつく!

 

ルイズはコレまでの人生でさんざっぱら、実技面で劣等生扱いされて来たが……頭の中身を腫れ物扱いされた事は無かった。

 

それなのに。

いや、それどころか。

 

オツムに関して珍しがられるなんて、とんでもない屈辱だった。

 

「哀れむなんてとんでもない、これはこの上なく素晴らしい事なのよ?聖書……こちらではブリミル教の教典にあたるものでもね、言語が分かれている事は大惨事扱いだから。言語の数だけ戦争が生まれると言っても、過言ではないのよ。」

 

「け、煙に巻く様なこと言い出すんじゃないわよ、ドチクショーーー‼︎」

 

ルイズはイキナリ、突き飛ばし魔法を発動した。

もう、全力でやっていた。部屋の中だと言うのに、お構いなしである。

あれ程消耗した後にしては、とっても元気で何よりだ。

 

そして……衝撃波は一瞬で掻き消されてしまった。

 

「……落ち着いて、認識の齟齬に関しては素直に謝るわ。私の元いた世界では、国によって言語が違うのが常識だから、外国語を知らない人を探す方が難しいのよ。けれども所詮は、世界規模で滅茶苦茶非効率な事しているだけの話だから。どうか大目に見て、堪えて頂戴よ。」

 

「ぐぬぬぬぬぬ………」

 

ルイズは今や、耳から湯気を吹き出す寸前であった。その可愛いらしい頭の上に、水の入ったヤカンでも置いてあげれば、瞬時に沸騰するだろう。

 

「わ、私が気にしているのはね、そそそ、その非効率な世界で生きてきた貴女に、教養を疑われた事なのよ!」

 

「想像くらいはつくでしょう?多言語世界では、複数の言語を操れることは立派な技能なのよ。それだけで収入を得ている人も、沢山いたわ。貴族ともなればラテン語……使われなくなった言語を身につけるのがステータスにもなっていたのよ。だからひょっとして貴女もいくつか、と思ったのだけど……気に障ったら、ごめんなさい。」

 

「……く、くっそお……何なのよ、この屈辱感はぁ………‼︎」

 

ルイズの感じている怒りは、贅沢なものだった。

 

何しろこのハルケギニアは、規格統一の視点では超一流世界なのだから。

始まりからして、単一言語の世界なのだ。

外国語を学ぶ機会はおろか、そもそも使う必要が無い。

7,000近い言語が存在するパチュリーの元いた世界とは、利便性において雲泥の差がある。

 

計算で例えるなら、ルイズは生まれた時から電算機を使っている様なものだった。

筆算や算盤の技能など、そもそも磨く必要がない。

しかしまあ、算盤の達人の暗算能力とかも捨てたものではない……どころの話ではなく、側から見ればそれこそ魔法の様な技能だったりする。

 

今のルイズが直面しているのはこうした、陳腐化した技能に対する憧れの様なものだった。

 

そしてこういう時に限ってパチュリーが妙な気を利かせるものだから、ルイズの怒りに拍車が掛かっていた。

 

「もう、この話題はやめましょう?精霊との契約方法は、別なやり方があるから。」

 

「ぬぁぁぁぁ!か、可哀想な子供扱いするなーーー!」

 

ガンッ‼︎

 

ルイズはもう、怒りをそのままに壊れたベッドを蹴りつけた。

当然、痛い。しかしそれがどうした?

 

何しろ。

目処は立っているのだ。

 

精霊との契約を、その前段階の対話を可能にする言語。

 

それは、ハルケギニアの共通言語とは全く異なる文法と発音を有しているそうだ。成る程それでは、この世界の人間に精霊魔法が使えないというのも頷ける。

 

パチュリーの居た世界では、ギリシア語として現存しているらしいが……それですら、派生し過ぎていてそのままでは用を成さないという。

正確には、ギリシア祖語という既に喪われた理論上の言語を用いて精霊に語り掛ける必要があるのだとか。

 

だったらそれを、学べばいいだけの話ではないか。

 

言語習得の困難さを知らぬルイズが、この様に簡単な事として考えてしまうのも、全く無理からぬ事だった。……まぁ、実際に彼女ならばそう遠くないうちに実現しそうな話ではあるのだが。

 

しかし、ジェリーフィッシュ・プリンセスを今すぐにでも身につけさせたいパチュリーからすれば、これは恐ろしく気長な話である。

 

「可哀想とかそういう話ではないのよ。そもそもからして、貴女は外国語の学び方すら知らないでしょうに。一番手っ取り早い方法は何か知っているの?」

 

「辞書でしょう?ルーン言語のものなら、エレオノール姉様から見せて貰ったことあるもの!2週間もあればそのくらい……」

 

「それだと読み書きしか出来ないでしょう?話せる様になる為には、現地に行って生活するのが一番なのよ。それでも1ヶ月はかかるのが普通なの。」

 

「そもそも、その精霊が話し掛けてくれないから、こうして苦労してるんでしょうが!」

 

「その通りよ。だから尚更、大変なの。もう分かったでしょう?この話は一旦忘れましょうよ。」

 

取り付く島も無かった。

完全に見限ってくるのである。

 

「わわわわ、忘れられるもんですか!あ、アンタの世界の貴族がドンだけ凄いのかは知らないけど、やってやろうじゃあないの!古代言語だろうと何だろうと、身につけてやるわよ!」

 

「やめて。素地がなさすぎるもの、時間が掛かり過ぎるわ。」

 

「やってみなきゃ分からないでしょうが!私はね、座学に関してこうまでバカにされた事は、一度もないのよ!素養が何よ!諦めて溜まるもんですか!」

 

「貴女の利発さは分かっているから、ここは大人しくスルーしてよ。言語の習得は、頭の良さというよりも慣れの問題が大きいのよ。」

 

「だったら今すぐ始めましょう!遅れを取り戻すためには、一分一秒でも惜しいわ!」

 

「いや……そういうレベルの問題ではないのよ。ハッキリ言っておくけど、言語能力に関して貴女は、私の居た世界の三歳児以下よ。公用語が複数ある国も珍しくはないんだから。そのくらい溝が深いの。」

 

「う、うわあああああ!」

 

ルイズはとうとう癇癪を起こして、部屋の中で家具の嵐を巻き起こした。それはもう、完全に我を忘れていた。

 

コレは凄い。

 

傍目には、小規模な竜巻そのものである。これをアカデミーの職員が見たら、コモンマジックの定義がひっくり返るだろう。

 

「だ、黙れ黙れ黙れ〜〜〜!!私をバカにするなーー‼︎な、何が古代言語よ、やれば出来るんだからーーー‼︎」

 

ルイズの明け透けな怒りは、窓からベッドを叩き出し、タンスの中身をひっくり返し。

挙句には、この寮棟そのものをグラグラと揺れ動か………す所までは行かなかった。

 

つい先程まで、無理に爆発を起こしたりしていたものだから、早々に息切れしてしまったのである。

 

「……気は晴れたかしら。流石に、魔力は大したものよね。」

 

「……ひょっとしてそれ、慰めのつもり?」

 

ルイズはゼーゼーと息をして、パタリとソファーに倒れ込んだ。

 

「まさか。偽りのない本心よ。……いずれにせよ、今の話は本気でパスね。貴女には王道が似合うと思ったから勧めたけれど、潔く諦めましょう。でも、安心して頂戴。私と同じ道を歩めば済む話だから。」

 

「……どういうこと?」

 

「精霊に遜る必要は無いって事よ。」

 

いやいや、ちょっと待って欲しい。雲行きが怪しくなって来た。

ルイズは、パチュリー節が披露される予兆を感じて、思わず身構えてしまった。

 

「私も一応、ギリシア祖語を学んでみたのだけれど。はっきり言って、時間の無駄だったと思っているわ。精霊に媚び売って終わったと言えばいいのかしら?おべっか使う為にわざわざ一言語を学んだかと思うと、自分の浅ましさが嫌になったわ。」

 

「こ、媚び売るって……契約を結ぶんでしょう?相手に合わせるのは、最低限の礼儀じゃない。浅ましくなんてないわよ、お互いに譲り合うのは、美徳じゃない。」

 

「……貴女ならそう言うと思ったから、さっきの方法を勧めたのよ。けれども今からは私と同じ様に、礼儀を必要としない相手を選んで頂戴。精霊の中にも、即物的な者は大勢居るから。そうした者には、契約なんてまどろっこしい物は必要ないの。物々交換を持ちかければ済むのよ。」

 

「うっわ……一気に俗な話になったわね。」

 

ルイズは何処かしら、精霊魔法には幻想的なイメージを抱いていた。系統魔法が及びもつかない程の、超絶の魔法。喪われた古代言語で契約を結ぶ、不可視の精霊達。

しかしパチュリーの話を聞いていると、そうした神秘的なイメージが、ガラガラと崩壊して行く。

 

「聞くのが怖いのだけど……アウトローな精霊とか居ないわよね?」

 

「精霊に正邪の別は無いわ。即物的と言っても、名前すら持てない有象無象が、高位な存在への昇格を目指して頑張っているだけだから。」

 

それを聞いたルイズは、ホッと胸を撫で下ろした。

なんとも微笑ましい話ではないか。ちょっと、応援してしまいたくなる。

何せ今のルイズもまだ、二つ名を持てない駆け出しメイジなのだから。

 

「それで貴女は、今の私にしてくれてるみたいに、彼らの成長を助けてあげたのね?そのかわりに、必要な時には精霊さんの力を貸して貰っていると……なんだ、心配して損した。私、そういう話は好きよ?」

 

「……お人好し扱いしないでくれる?幸せそうな茹でガエルって、見ていて不快なのよ。貴女もそうだけど、少しは警戒したらどうなの。手っ取り早く力をつけられるからって、私の魔力をホイホイ取り込んでくれちゃって。内部から思いのままに操られているとも知らず、愚かな連中だわ。」

 

こんな言い方をされると、とても陰惨な光景が思い浮かんでしまう。

 

非力で純粋無垢な精霊が、悪い魔女に餌をチラつかされて。

ありがとうと笑顔を浮かべながらスクスク育ったら、いつの間にか首輪を嵌められていて。

どうしてどうしてと泣きながら、奴隷としてコキ扱われている様な。

 

しかし……今のパチュリーの様子を見るだに、実態は全然違うのだろう。人買いのつもりで招き入れた精霊に、予想外に懐かれてしまい。ドライな彼女が勝手に、据わりの悪い思いを味わっているに過ぎないのだろう。

 

「どうしてそんな言い方になっちゃうのかしらね?捨て子みたいな精霊を、貴女の手で大事に育ててあげたんじゃない。貴女は彼等の、お母さんじゃない。そんな冷たいこと言われたら、みんな泣いちゃうわよ。」

 

この時のパチュリー・ノーレッジのギョッとした表情を、ルイズは生涯忘れないだろう。

後々になってから、この時初めて自分達は対等になったと気がつくのだった。

 

「そうね……迷えるパチュリーさんには、是非とも授けたい言葉が………あんまり思い浮かばないわね。………そうよ、きっと、アレよ、アレ。愛よ、愛。きっとそれだわ!」

 

「……私は別に、パンを肉として食したり、ワインを血に見立てて飲む様な習慣は無いのだけど。」

 

「どれだけ貧相な吸血鬼なのよ、それは。何だか親しみが湧いちゃうわ。……そもそも、捨食の術を使っている貴女が用いるべき比喩ではないでしょうに。この話も、もうここまでにしましょうか?そもそも本筋ではないし。」

 

ルイズは大きく息を吸うと、話を前に進めた。

お互いに素直じゃないなあ、と思いながら。

 

「まぁ、要するに。私は、親しみ易い下位の精霊と友達になれば良いのね?」

 

「……そういうことよ。」

 

ルイズは溜息をついた。

 

「何処にいるのよ、そんな精霊は。」

 

「何時でも、何処にでも。」

 

嫌だなあ、こういう謎かけみたいなの。

ルイズはググっと体重を掛けて、ソファーに沈み込んだ。

 

パチュリーは、図星を指されたことで、少しムキになっている様だった。

 

「精霊はこの世の至るところに、遍く存在しているわ。貴女が気がついていないだけ。分かりにくければ……私の水の精霊を差し上げましょう。貴女からは、ミセス・シュブルーズの書物を頂いたしね。」

 

「……だからそういう、誤解を招く様な真似をしちゃダメよ。モンモランシーが聞いたら、卒倒しちゃうじゃない。」

 

この時。

 

ルイズはハッとなった。

 

そうだ!忘れていた!

水薬の調合に命掛けていると言っても過言ではない彼女なら、アレを持っていてもおかしくない。

 

「……例えばそれ、水の精霊が流した涙とかでも良いのかしら?」

 

「驚いたわね。そんなモノがあるの、此方には?」

 

「……うん。」

 

ルイズは少し、頭を悩ませた。

何しろ精霊の涙は、物凄く高価なのだ。モンモランシ家は代々、ラグドリアン湖の精霊との交渉を仰せつかる名家だが……だからこそ、易々とは譲ってくれないだろう。

 

いや、勿論それなりの対価は払うつもりだが……

 

とにかく、交渉してみない事には何も始まらないだろう。

 

 

 


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