ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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ルイズに気絶して貰う為に書きました。
ここまでやって漸く、次話から改編前に戻って来れました。ご迷惑をおかけしました。


第13話 タバサと人攫い

タバサの使い魔は、先住魔法を操る韻竜である。生物としての頂点に立つと言っても過言ではないドラゴンが、魔法まで使えるのだ。

 

人間に化けて本屋でオツカイをするくらいは、朝飯前だろう。

このように何の危惧も抱かずに、王都へと送り出してしまった。

 

……迂闊だった。

 

人間に化けた時点で、使い魔は強固な鱗に覆われた竜でなくなるのだ。その瞬間を突かれれば、精神的には幼児である彼女を攫おうとするくらい、造作もない。何しろあの幼竜は、どう見てもカタギではない人間につけ回されても……一向に警戒する素振りがない。それ程に、世間知らずなのだ。

余りの呑気さに、視界を共有しているタバサは目眩すら覚えた。

 

彼女は今、大きく恥じ入っていた。

この体たらくでよくぞ、ルイズの事を心配出来たものである。偉そうに講釈を垂れる暇があるならば、使い魔の心配をすべきだったのだ。

 

「突き飛ばして、今すぐ。」

 

タバサは焦り、そう告げた。何も、自罰的な思いからその様な言葉を吐いたのではない。

 

頭の中では、緻密な計算を行なっていた。ルイズの念力で斜方投射して貰い、フライを全速で用いて、トリスタニアへと向かう。王都への推定到達時間を、空気抵抗を考慮した運動方程式を解き、導き出していた。

 

その結果、物凄く当たり前な結論に達した。

 

……とても間に合わない。

 

「いきなり変なこと言いださないでよ、もう!」

 

ルイズはプンプンしていた。彼女は今、パチュリー病ならぬ魔法バカ病の存在を疑っていた。タバサまでこんな訳の分からない事を言い出すとは、恐ろしい感染力である、と。

 

タバサはそんなルイズをよそに、パチュリーを見つめた。

 

これ以上、この魔女に借りを作りたくない。しかし……背に腹は変えられぬ。妙なこだわりを発揮している場合ではないのだ。何よりもこういう問題は時間の経過と共に、生存曲線の傾きが険しくなる。

 

「今すぐ私を、王都へ送り届けて欲しい。」

 

タバサは一気に言った。あの竜は自分の使い魔だ、可能な限り、自分で何とかしたい。最悪、パチュリーには召喚という奥の手があるが……それは本当に、どうしようもない場合にして貰いたい。

 

「急ぎの用なの?」

 

タバサはコクリと頷いた。

 

「私の使い魔に、不審者が接近中。」

 

「ならばそれを、貴女が取り除けばいいじゃない。何で早くやらないの?」

 

「……ここからでは不可能。」

 

「本当に?」

 

パチュリーは、胡散臭そうな顔をしていた。

 

「さっき、上手に雷を扱えたじゃない。キュルケに聞いたわよ、別な撃ち方があるんでしょう?そっちをやれば済む筈よ。」

 

パチュリーは、ライトニングより難易度的に劣るライトニング・クラウドを試してみろと言っていた。

 

タバサには、訳が分からなかった。彼女の理解ではライトニング・クラウドは、術者が感電する危険を少なくする為に開発された魔法だ。それより上位の技を使えるようになった以上、最早用はない……というよりも、そもそも両者ともに王都まで届かない。

 

この点は、ルイズが指摘し始めた通りである。

 

「あのねぇ、パチュリー。とっくに気がついているでしょう?地平線が見える事からして、このハルケギニアは球体なのよ。だから、直線的な魔法を撃っても、遠くには届かないの。ここから王都まで、一体何リーグあると思っているのよ?」

 

「貴女が距離を語るの?異世界に居た私を爆撃しておいて、それはないんじゃないかしら。」

 

ルイズは顔を顰めた。それこそ……言わないお約束ではないか。その通りなので仕方がないが。

 

「……爆発魔みたいに言うのはやめてよ。」

 

「ボマーだなんて、とんでもない。てっきり熟練のスナイパーだと思ったわ。」

 

「くっ……改めて言われると、偶然って恐ろしいわね……それで?タバサにも、召喚魔法を爆発させてみろと言うの?」

 

「まさか。そもそも平面で考えるから届く届かないの話になるんじゃない。」

 

「……もう少し具体的に言って。」

 

「雷雲をその使い魔の間近に出して、直上から垂直に撃てばいいでしょう?だいたい、雷を水平に撃とうとするから難易度が跳ね上がるのよ。」

 

「それでもさっきと同じく、距離がネックになるじゃない。」

 

「なる訳ないでしょう?遠距離に魔法の媒体を出現させられなかったら、どうやって召喚魔法を成功させるのよ。使い魔を召喚出来た以上は、それとの距離はあまり、問題にならないわ。この場合は寧ろ、どれだけ魔力を共鳴させられるか、それこそが問題よ。」

 

ま〜た変なこと言ってる。

ルイズは呆れ返った。召喚魔法は、お互いの合意があって初めて成功する、双方向の魔法なのだ。攻撃魔法の様な一方的なものと、同列に語っていい訳ないじゃないか。

 

そもそも誘導なしに、遠くで魔法をぶっ放すなんて、論外だろう。命中する訳ない。魔力を無駄にするだけである。

 

「それで?だいたいの位置に雷雲を出して、後は滅多撃ちにするわけ?無差別攻撃でもしろと?」

 

「まさか。現地には既に、魔力の直結したこの上なく優秀な観測主がいるじゃない。」

 

ルイズは頭を抱えた。

まずい。何となくそれらしい理屈が並んでしまった。まさかとは思うがタバサもその気になったりは……

 

「成る程。」

 

案の定だった。めちゃくちゃヤル気になっている。

ルイズは嫌な予感がして、声を上げた。

 

「成る程って、何よ?!何をするつもりなの?!まさか今の話、鵜呑みにしたの?!」

 

「鵜呑みも何も、間接射撃の話をしただけじゃない。」

 

パチュリーがさりげなく突っ込んだ。

 

「関節……謝劇?一体何なのよ、それは。」

 

「大砲とかは将来的に、そういう撃ち方になると聞いてるわ。視界の外にいる標的を、射撃と観測で役割分担して攻撃するんだって。」

 

ルイズの疑問には、キュルケが答えてくれた。

彼女の実家はかなり尚武的なので、熱心に超地平線射撃でも研究しているのだろう。

 

キュルケの回答に対してルイズは、恩知らずにも鼻白んだ。

さすがはゲルマニアという、野蛮な国からの留学生だ。平民の武器の運用について、貴族がアレコレ口を出すとは、と見下したのである。

 

「フンっだ!何よそんなの、知らないわよ!」

 

「あのねえ……火のメイジにとっては、かなり厄介なのよ。下手すれば、戦争での出番がなくなっちゃうから。」

 

「アンタが怠けてるからでしょーが!もっと精進しなさいよ!」

 

「そうは言っても。地平線の向こうから弓なりに撃たれてしまうと、下手すれば一方的にやられてしまうじゃない?私はそうなる前に、タバサをちゃんと見習うことにするわ。」

 

「私ならこう、砲弾自体をパパパッと受け止めちゃうんだから!」

 

「はいはい、音にビックリして腰抜かさない様にね。」

 

「何ですってぇ〜〜‼︎」

 

ルイズとキュルケがそんなことを言い合っている間にも、タバサは深刻な顔をして杖を構えていた。

使い魔との魔力のリンクを辿り、それに合わせて魔法を発動する為である。

 

キュルケ達もいつの間にか押し黙り……ルイズはふと、疑問を感じた。

 

「そもそも……貴女の使い魔って、風竜だったわよね?」

 

魔力の操作に集中していたタバサは、黙ってコクリと頷いた。

 

「王都で何をしているの?」

 

「オツカイ。」

 

「……アンタ、ドラゴンに買い物させようとしているの?正気?」

 

この時タバサは、少しだけ狼狽えた。

 

彼女の使い魔のシルフィードは……ただの風竜だと申告してある。魔法を使える韻竜は通説で絶滅したと思われているので、周囲には正体を隠してきた。

……そのことが今、裏目に出たのである。

 

会話がチグハグになってしまった。

 

申告通りの風竜だとすると、人に化ける様な真似は出来ない。

そうなるとタバサはルイズの指摘通り、人語を解さないドラゴンにお金だけを持たせて王都へ送り出した事になる。オツムの具合が疑われても、何も文句は言えないのである。

 

「風竜ということは……飛んで行ったのよね?王都へ向けて?!」

 

「……そうなる。」

 

「そりゃ、迎撃されて当然じゃない?!その不審人物って、魔法衛士隊じゃないの?!今頃、王都は大騒ぎよ!?」

 

ルイズの指摘はもっともである。

 

例えば友好国のアルビオンでは竜騎士隊が組織されている様に、空を飛べる竜はこのハルケギニアでは立派な航空戦力なのだ。

それがいきなり、王都上空なんかに現れようものなら。誰がどう見たって、緊急事態である。

王都を守護する魔法衛士隊が、黙って見過ごす筈がない。

 

タバサは嫌な汗をかきながら、最早こうなった以上は強引に押し通すしかないと思った。

 

「……細かい事に拘ると、老ける。」

 

「ふ、老けるって何よ?!私はアンタの1コ上なだけでしょうが!」

 

「3千万秒も老けてる。」

 

「な、何なのよその悪意ある言い方は?!それに、ぜんっぜん細かくないわよ!アンタ、ガリアからの留学生って自覚は無いの?!下手すりゃ国際問題よ?!」

 

「……バレないから大丈夫。」

 

「バレるわよ?!今の時点でそもそも、迎撃されそうになっているんじゃない!サッサと呼び戻しなさいよ!」

 

「……ちょっと、煩い。」

 

「う、煩いって何よ?!アンタねぇ、この国をメチャクチャにする気なの?!」

 

しかし今のタバサには、ルイズの勘違いにかまっている暇は無かった。

とうとう、不審人物が彼女の使い魔に手を出し始めたのである。最早、一刻の猶予もない。即刻撃退すべきである。

 

「ライトニング・クラウド!」

 

「って、な、何やってるのよアンタは〜〜〜?!私の話を聞いてたの?!」

 

「お見事、命中したわ。でも、威力不足ね。もう二、三発撃ちこんでおいた方がいいわ。」

 

タバサとパチュリーの言動に、ルイズは貧血を起こし、目の前が暗くなり始めた。思わずヒイイと情けない悲鳴を上げてしまったのは、無理からぬ事だろう。

彼女の頭の中では、雷雲を纏って稲妻を撒き散らしながら王都に迫る風竜の図が浮かんでいた。

 

「や、止めさせてよ?!魔法衛士に止め刺すなんて、冗談じゃ済まないわよ?!」

 

「大丈夫よ。黒づくめの変な男だから、人違いでしょう。」

 

「そ・れ・は!正しく魔法衛士の目印なのよ ‼︎」

 

因みにこの黒づくめ云々は人攫いの服装であり、ルイズが危惧している様な魔法衛士隊の黒マントではない。

 

そうこうしている間にも、タバサは魔法を詠唱して次々とライトニングクラウドを放っていた。

そうして、フウと一仕事やり終えた顔つきになった。

 

ルイズは膝をガクガクと震わせながら、アワアワと口を開いた。

 

「………ど、どうなったの?」

 

「脅威は無力化された。」

 

この時。

スクランブルをかけた魔法衛士隊が全機撃墜された光景を思い浮かべたルイズは……とうとう耐え切れずに意識を手放した。

 

タバサとキュルケはホクホク顔でその場を立ち去り、パチュリーは一人で思慮深げに佇んでいた。

 

タバサの使い魔の視界をハッキングしていた彼女は、1人の青年の姿を見た。長い髭を生やし、立派なマントを纏っていたその人物は……ルイズの言っていた魔法衛士ではなかった。黒いマントを羽織っていなかったからだ。

 

なかなかの魔力の持ち主であった。

その彼が黒マント軍団の一員でないとすると……もしもルイズがその集団と事を構える羽目になった場合には、現時点での爆発と念力の習熟度では、不安が残る。

 

やはり防御だけでも身につけて貰わねば、話にならない。

 





今回で、勘違いネタはお終いです。

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