ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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大変申し訳ありません。
以前の話の先でパチュリーが平謝りしている場面を描いていて妙に書きづらい思いを味わい、8話からの流れを大幅に変更致しました。
勝手なことばかりして申し訳ありませんが、少しでもまともになっていくことを願っています。

どうぞよろしくお願いいたします。


第12話 タバサ先生

 

一瞬でゴーレムを氷漬けにしてしまったタバサは、パチュリーと一緒にレビューを行なっていた。2人揃って、ルイズの緊張感を他所に、呑気なものである。

 

「風主体の魔法で一旦貫通させて、そこから水主体の魔法へ繋げたのね。何で、始めから氷の中に閉じ込めなかったの?」

 

「こっちの方が、効率良い。」

 

「……?」

 

一言に効率と言ってもこの両者では、全く違うものが念頭にある。パチュリーは時間効率で、タバサは魔力効率を意識している。ベースとなる容量が違うので、同じものを見ても違う感想に到ってしまうのだ。

 

「……ひょっとしてその杖の使い道って、今のでお終い?」

 

これに対してタバサは、漠然とした世界観の違いを感じて、肩を竦めた。

 

「今のは試し撃ち。」

 

パチュリーとタバサがそんなことを話し合っているとき。

ルイズは……漸く念願叶ってゴーレムを打ち倒せたというのに、タバサが手柄を全部持って行つてしまった事に、筋違いな腹の立て方をしていた。

ついさっきまで戦々恐々としていたのに、ゲンキンなものである。

 

「ちちちち、チョット何なのよ、今の魔法は?!初めて見たんだけど?!」

 

「ウィンディ・アイシクル。」

 

「嘘おっしゃい?!あんな、丸ごと凍りつかせるなんて、聞いた事もないわよ!」

 

「……派生させただけ。制御が甘いから、二連撃になってしまった。」

 

「あ、あれで未完成ですって?!!うう〜〜〜!何なのよソレはぁ?!お陰で私の活躍が、霞んじゃったじゃない!」

 

何が派生技だ、今のはどう見ても、オリジナルスペルじゃないか。こんな狙い澄ましたかのようなイイトコ取りが、許されてなるものか、とルイズはプンプンしていた。

 

これに対して、キュルケは大喜びだった。

 

「凄いじゃない、タバサ!」

 

「……凄いのはジル。真似しただけ。」

 

今のは恩師が使っていた、凍矢というマジックアイテムを擬似的に再現したものだ。とてもではないが、タバサは自分の手柄だと思う気にはなれなかった。

 

「う〜〜ん、誰の事かは分からないけど、とにかく新技でしょう?!もっと嬉しそうにしなさいよ〜〜♪一発で決めるなんて、流石じゃない!」

 

とはいえ少しばかり胸を張っている親友を、ゲルマニアの留学生はヒシと抱き締めた。頭をナデナデしているが、タバサも嫌がる素振りは見せない。

 

その喜びの輪に、ギーシュも笑顔で拍手を送っていた。こちらもルイズと同じく途轍もない勘違いをしているが、素直にお礼を言っていた。

 

「いや〜〜、見事だったね!助かったよ、ありがとう!良ければその調子でギムリとヴィリエも、治療してくれると嬉しいな。」

 

「ヴィリエには必要ないと思うけどね〜」

 

キュルケはそう告げると、タバサに事の顛末を説明した。

タバサはため息をつきながら、ギムリに水魔法の回復をかけた。ヴィリエには本当に何の異常もないので、医務室の先生に任せる事にした。ギーシュはワルキューレと共に、そんな二人を運び去っていった。

 

こんな心温まる光景に、ルイズだけが不機嫌だった。

 

「キュルケがちゃんと動いてれば、もっと早く……」

 

ブツクサと、詮無いことを宣っている。

 

「貴女は、もっとやり方を工夫しなさい。別々の方向から念力で捩じ切るとか、色々出来たでしょう?」

 

おまけにパチュリーがダメ出しをしてきた。未だに事と次第を完全に勘違いしているルイズは、プンプン怒り始めた。

 

「そ、そもそも貴女があんな物騒なモノを作り出すから…って!何で、私のやった事を知ってるのよ!」

 

「視界を共有しているじゃない。」

 

「だっからそれは、貴女だけしか……はぁ、もういいわ。何だか一気に疲れちゃった。」

 

「夜伽専門のゴーレムの、どこが物騒なのよ♪」

 

「は、はぁっ?!一体どーゆー事よ、それは?!」

 

そんな見せかけ主従に、キュルケが楽しそうに声を掛けてきた。そしてまた、パチュリーがトンチンカンな事を言い出すのだった。

 

「貴女も、いい働きしてくれたわね。ありがとう。」

 

「キ、キキキキュルケが一体いつ、ファインプレーしたって言うのよ!愉快犯な事しかしてないわよ!」

 

「貴女へ不意打ちしてくれたじゃない。少しは、私の言っていた意味が分かったかしら。あの時この子が全力で攻撃していたら、今頃丸焦げでしょう?」

 

「だっから何でそう……貴女は無理矢理、物騒な方向へ話を進めようとするのよ。」

 

この時パチュリーは、チラリとタバサを見つめた。これに対して小柄なメイジは、うん分かったという様に、杖を掲げた。

キュルケはオヤという顔をして、フムフムと頷いた。そもそもが、共に本好きという共通の趣味を持っているのだ。意気投合しても不思議はないと思ったのだろう。

 

そうしてタバサは、ルイズに向けて一歩踏み出した。

ちなみにこの時の彼女は一日教員として……無表情の下でかなり舞い上がっていた。心持ち、というよりもかなり口数が多くなったのはそういう訳である。

 

何しろ彼女はこれから、ジルの真似事をするのだ。これはちょっと、いいところを見せたくなるというものである。

 

「今から貴女を、洗脳する。」

 

ルイズは自分の耳がおかしくなったのかと思い……タバサが大真面目な顔をしているので真っ青になった。

 

「な、なななな何よ、イキナリ!一体、私に何の恨みがあるのよ?!」

 

「ない。」

 

「だったら何で、そんな怖い事言うの?!やめてよ?!ビックリしちゃうじゃない!」

 

「頼まれた。」

 

「誰に?!」

 

タバサはその大きな杖で、広場の向こう側を指し示した。

そこではいつの間にやら移動したパチュリーが、氷漬けにされたルイズ型ゴーレムをしげしげと眺めていた。せっかく作ったものを壊された恨みを晴らさんでか、とかそういう訳ではなさそうだ。

 

だとしたら……、タバサの言い方が悪いのだろう。

 

「もう少し分かりやすく言ってよ。」

 

「……取り繕えば、個人指導。」

 

「だ……な、何で、個人指導が洗脳になっちゃうのよ?!」

 

「耳障りが良いだけ。教育とはそもそも、一方的な押し付け。洗脳と変わらない。」

 

「ば、バッカじゃないの?!だとしたらこのトリステイン魔法学院は、巨大な洗脳施設じゃない!」

 

タバサは満足そうに頷いた。

 

「貴女はいま、真実に一歩近付いた。」

 

「そっから疑い出したら、社会が成り立たなくなっちゃうでしょう?!いちいち、各国の歴史を比較しながら学べとでも言うの?!」

 

「なかなか飲み込みが良い。そこはまさしく、恣意的な解釈が一番入るところ。」

 

「ちちちちょっと待ってよ!あ、貴女、思想犯か何かなの?!国に何か恨みでもあるの?!」

 

「私はむしろ……」

 

実行犯だと言いかけて、タバサは口を噤んだ。なかなか……ルイズもやるではないか。さり気なく誘導をかけてくるとは、思った以上である。

 

「むしろ?!むしろって何よ?!あ、貴女は一体……」

 

タバサはいちいち説明するのが面倒だったので、強引にまとめに入った。

 

「とにかく、何でも疑ってかかることが肝心。」

 

「そ、そんなこと言われたら学習効果が半減しちゃうじゃない!」

 

「疑ってから学ぶ。そうすれば、2倍になる。」

 

無茶苦茶言ってくれるわね、この子?!

ルイズはタバサに、胡散臭い目を向けた。

 

だが……さすがに本題に入ったタバサは、一味違った。

 

「貴女は、杖を使っていない。何故?」

 

仰天したルイズは、白々しい芝居を始めた。左手に持った杖らしき棒を、ブンブン振り回したのである。

 

「つ、使っているわよ!ホラ見て、これ!この立派な杖!」

 

「それは只の棒。魔力が通っていない。」

 

静かな湖面のような瞳に見据えられ、ルイズはしょげ返った。何だか、猿芝居をしていたのがバカバカしく思えてしまった。

見る人が見れば、一目で露見してしまうという事だろうか。

 

そうしてルイズは大人しく、懐から杖を取り出した。

両親から授かった、大切な杖なのだ。離しておく訳がない。

けれども……

 

ルイズはその杖を、悲しそうに見つめた。

 

「これを使うと、爆発しちゃうのよ。」

 

「その話は、昨日まで。今の貴女なら、制御できる筈。」

 

「でも……」

 

「それは、立派な武器。出し惜しむから、ここまで手古摺った。」

 

「だ、出し惜しみなんかしてないもん!」

 

ルイズは泣きそうになった。

この爆発は……正直、嫌なのだ。何しろ、過去の失敗の象徴だ。

 

今使える念力の方が、余程使い勝手がいい。

これ一つで、色々出来る。空だって食べるし、物も動かせる。今は非力でも、いずれはもっと凄い事が出来る筈だ。

 

けれども爆発は、破壊しか齎さない。

ミスタ・コルベールがこれまで目を掛けてくれたのも、それが一番の理由だろう。何となくだがあの人もこの力を、嫌がっていた気がするのだ。だからこそ、ルイズが間違った使い方をしないよう、自棄っぱちを起こさないように見守っていてくれた。

 

もう、ルイズは爆発を卒業した筈なのだ。

 

黙り込んでしまったルイズに、タバサは発破をかけることにした。メソメソされるのは、正直ゴメンだ。ルイズはやはり、キャンキャン言ってるくらいで丁度良いと思えた。

 

「私の杖は、とても凄いことが出来る。」

 

そうして反応を伺って……タバサはムゥと唸った。ダメだ、もっと分かり易く言わないと、悪口にもならない。

 

「私の杖に比べれば、貴女のはポンコツ。だから失敗する。」

 

タバサは嫌味を言い慣れていないので、それを言うなら自分の杖の方がポンコツだという事に、言った後で気が付いた。このへんは、従姉を見習うべきだろう。

 

だが、流石にルイズにも、誉め言葉でないことくらいは伝わったようである。タバサの挑発に対して、ムッとした表情を浮かべた。

 

「わ、私の杖は、お爺様の使っていた由緒ある年代物よ!バカにするのは、許さないわ!」

 

「私のは、それより前のもの。」

 

タバサはルイズの言葉に対して、自信をもって返した。年季に関しては、正直負ける気がしない。たかだか数十年ものの杖……も、充分に凄いが、その比ではないのだ。

余裕な表情を浮かべるタバサに対して、ルイズの中の何かにスイッチが入った。

 

「コホン、ええっと……表現が適切ではなかったわね。正確には、私のお父様にとってのお爺様だから、私にとってはひいお爺様に当たるわよ。」

 

「もっと前。」

 

「ああ、失敬失敬。これは私の勘違いだったわ、ひいひいお爺様のものだから!」

 

「更に昔。」

 

「い、言い間違えたのよ!ひいひいひいお爺様のものだから!」

 

「も……」

 

「う、嘘付くんじゃないわよ!一体、何百年遡る気よ?!

 

タバサは首を傾げた。正確には、分からない。余り王家との関係をちらつかせても不味いから……

 

「千年は固い。」

 

「そ、それこそ大嘘でしょうが!ウチの家にだって、そこまで昔の杖はないわよ!」

 

「管理が杜撰。」

 

「な、何ですってぇ?!」

 

当たり前の話である、ガリア王家の宝なのだ。数百年単位で使用者が現れなかった時代にも、専門の部署がキッチリ保管していた。如何にヴァリエール公爵家が偉大だろうと、国宝の管理体制に及ぶ筈もない。

 

まあ……本筋ではないので、タバサは結論を言った。

 

「そこまで怒るなら、使いこなす。でないと、杖に失礼。」

 

ルイズは言葉に詰まった。まさしく正論だからだ。

 

「貴女は杖を、無視してる。」

 

「……ま、まるで……会話でもできるみたいな言い方するわね?」

 

タバサはそう聞かれると、コクリと頷いた。

ルイズの頭の中に思い浮かんだのは、就寝前にパジャマを着たタバサが、この杖に一日の出来事を語っている図だ。それは何とも心温まる風景だが……

 

「言葉は不粋。メイジと杖は、魔法で話す。」

 

タバサはそう言って、杖を握りしめたまま深く目を閉じた。

そうして、年老いた杖に魔力を通わせ始めた。

 

この杖は……とても無口だ。

 

父シャルルをスクエアへと導き、そして捨てられ。目を掛けた筈のその娘シャルロットにも、勝手に見限られ。

その事に、何一つ言わず。

あろう事か、見守り続けてくれた。

二代に渡って裏切り続けた父娘を、見捨てずにいてくれたのだ。

 

ひたすらに、沈黙を貫き。

何も言わず。

どこまでも、寡黙に。

 

やがて歩むべき道で、後進を待ち続けてくれた。

 

……有難い。

 

タバサは今、大いなる感謝に包まれていた。

これ程の存在と共に在る事に、背筋の震えが止まらなかった。

 

これまでの愚かな自分を赦してくれとは、言いたくなかった。

そんな暇があるなら、ひたすらに。これから先を、語り合いたい。

心から、そう思った。

 

そうして、ライトニングの呪文を唱えた。

 

「……嘘でしょ……」

 

ルイズは思わず、目の前の光景に魅入った。

 

紫電が舞っていた。

 

タバサが今、その杖の周囲に纏わせているのは、超難関とされるライトニングの魔法だ。雷を操るときは普通、ライトニング・クラウドで雷雲を作り出してから行う。しかし彼女はその途中をすっ飛ばして、杖から直接操っていた。

 

「スゴイ……」

 

最早、ルイズの口からは感嘆の溜息しか出なかった。

 

実家のおっかない母様も風系統の達人だが……パチュリー級にぶっ飛んでいるので、初歩中の初歩たる『ウインド』しか使ってくれないのだ。赤ん坊のエレオノール姉様を高い高いしたら、それだけで高度200メイルに到達してしまったから。

 

だからこうして、天の怒りとも称される雷を操るメイジを見るのは、生まれて初めての事だった。

 

しかし……その感動は、長続きしなかった。

タバサがその杖の切っ先を、ルイズに向け始めたからだ。

 

「今からコレを、貴女に向けて撃つ。」

 

ルイズは思わず唖然とし……タバサの顔に冗談の欠片も浮かんでいないことに気がついた。

 

「む、無茶苦茶言わないでよ?!私を殺す気なの?!」

 

「そのつもりはない……チョット、ピリッとするだけ。」

 

「そ、そそそそそんな、辛めの料理食べてみろ的なレベルの話じゃないでしょ〜が!」

 

「貴女を避けて撃つ。けれども、撃たれる感覚は本物。」

 

「あ、貴女は一体、何がしたいのよ……」

 

そこでタバサは、おお、という具合にコホンと咳払いをした。

 

「……はじめに言っておくと、貴女は爆発でここら辺を、吹き飛ばせば良い。そうすれば、防げる。」

 

「あ、アンタそれ言わずに始めてたら、全く無意味だったわよね?!忘れてたでしょ、今、忘れてたわよね?!」

 

「……結果的に言い忘れなかったので、問題ない。」

 

「も、問題大アリでしょ〜〜が!ここら辺って、一体何なのよその大雑把なアドバイスは!」

 

タバサはため息をつきたくなった。

ここまで手取り足取り教えないと、ダメなものなのだろうか。甘ったれるな、と一喝してしまいたくなる。

けれどもまあ、甘えられるうちに無理強いしているのは此方か。

 

それに……ヴァルハラからジルが見ているかと思うと、あまり大きな事は言えない。正直、シャルロットだった頃はジルに、甘え放題だった。

 

ここはひとつ、タバサがタバサとして積んだ経験の中で辿り着いた、金言を授けるべきだろう。ジルですらアッと驚く様な、至言があるのだ。

 

「考えない、感じる。」

 

ルイズはポカンとした間抜け面で、タバサを見つめて来た。

 

「……へ……?」

 

タバサはむくれた。

この言葉で納得できないとは、ルイズは相当に頭が固い。

 

そして盛大なため息をついたタバサは、大声で苦情を言い立てられてしまった。仕方がないので、もう少し優しい言い方をしてみる。

 

「い、いきなりそんな、ワケわかんない事言われても、ど〜しよ〜もないでしょ〜が!」

 

「……感じて、考えて、動く。この三つを同時にやる。」

 

「さっき考えるなって言ったでしょう?!」

 

「鵜呑みにしてはダメ。感じていることを、考える。」

 

「む、無茶苦茶言わないでよ!そんな高等技術、いきなりやれと言われて出来るわけないじゃない!」

 

「だから考えようとせず、感じて、動く。それを考えながらやる。」

 

「あ、アンタ致命的に説明が下手よ!」

 

「……とりあえず、やってみる。」

 

議論に飽きたタバサは、とうとう杖先でルイズに照準を合わせてしまった。

 

最早、ルイズは真っ青である。

死ぬ死ぬ、こんな事されたら、本当に死んでしまう。もしもの間違いが、無いとも限らないのだ。一体、何をどうすれば……

 

そこでルイズは、先ほどから呑気にこちらを観察している使い魔に気がついた。

 

「パ、パチュリー!」

 

「なあに?」

 

「た、助けてよ?!私、このままじゃ殺されちゃう!真っ黒クロ助になっちゃうわ!」

 

「……‼︎」

 

ルイズが必死に叫んだ瞬間、パチュリーは顔を輝かせた。そうか、その手があったかと言わんばかりである。

 

「成る程……人としての肉体の機能を殺せば、魔力だけで生きざるを得ないわよね。」

 

その次の瞬間、パチュリー・ノーレッジの身体は爛々と輝き始めた。

挙げ句の果てには空中に魔法陣が四つ五つと現れて……完全にルイズを取り囲んでしまった。キュインキュインと嫌な音を立てて、訳のわからない魔力の塊が形成されていく。

 

最早、何をしようとしているかは一目瞭然だった。

ルイズの身体を機能不全に陥らせ、魔力だけで生きる術を探させようと言うのだろう。捨食と捨虫の術を、強引に身につけさせる気なのだ。

 

「私もやる♪」

 

更にはキュルケまでフレイムボールを作り始めて、ルイズに対する必殺陣形が出来上がってしまった。ちなみに彼女は、ノリだけで参加している。

 

すると。

 

「横槍、ダメ、絶対。」

 

タバサは杖の向きを変え、パチュリーとキュルケに稲妻を走らせた。彼女としては、威嚇のつもりで放ったのだろう。パチュリーは顔色一つ変えず、キュルケも楽しそうにキャーキャー言うだけで済んでいた。

 

しかし。

 

それはルイズにしてみれば、見せしめに等しい光景となった。

 

タバサの杖先から、幾筋にも枝分かれした雷光。

それらが、パチュリーとキュルケの身体だけを避けて、あちこちへと迸ったのだ。

 

最早タバサが、黒いフードを纏って居ないのが不思議なくらいだった。実は昔のガリアは帝政で、『無限のパワーーーー!』と叫んだ皇帝がタバサの直系先祖だとしても、全く違和感ない。

 

そのくらい、無茶苦茶強力なライトニングだった。多弾頭型とでも、言い表せば良いのだろうか。最早、完全に別物であった。

 

そして。

 

「おお……!」

 

流石の雪風も、この結果にはビックリだった様である。ほんの試し撃ちのつもりが、面制圧射撃を成功させてしまったのだ。とってもあどけない表情で、素直に驚いていた。

 

だが。

 

「な、なななな何を面喰らっているのよ?!全く制御出来てなかったって事でしょう?!そんな状態で私に、ブチかますつもりだったの?!」

 

「………問題ない。全て予定通り。」

 

「そんなバレッバレの嘘が、通るワケないでしょうが!」

 

「……当たってないから、大丈夫。」

 

タバサはドンと来い、とでも言うように胸を反らしていたが……。ルイズは見逃さなかった。額に妙な汗かいているのを。

 

当たり前である。

タバサにしてみても、一発撃つだけのつもりが二桁発同時発射みたいな事になったのである。これで、狼狽えない筈がない。

 

被害が出なかったのはパチュリーが、当たりそうな雷撃を丁寧に逸らしていたからだ。息をする様に自然にこなしていたので、誰にも気がつけなかったというだけである。

 

更には。

 

「ルイズを避けるのではなく、ルイズの周辺を狙いなさい。その方が、貴女にとっても為になるわ。」

 

パチュリーの入れ知恵が飛び込んで来て、タバサはコクリと頷いていた。

 

「ば、バカな事言ってんじゃないわよ!もう、こんなの絶対にゴメンだからね!」

 

ルイズは逃げ出そうとし……既に手遅れだと知った。

鋭敏な魔力が此方の周囲にピタリと照準を合わせたのを、直感的に悟ってしまった。下手に動けば、自ら死地へと飛び込む様なものだ。

 

タバサは……本当に、巧みだった。

パチュリーの言葉を湯水の様に吸収し、そのまま実行しようとしている。今さっき初めて使える様になった筈の魔法をもう、完璧な制御下に置いていた。

 

これに対してルイズは自分が、随分とみみっちい真似をしているな、と感じた。

 

何も。

爆発を攻撃に使う必要はないと、タバサ自身が言っていたではないか。自分と彼女の、中間地点を爆破する。そうすれば、このオッカナイ雷撃だけを吹き飛ばす事が出来る。

 

だったらコレは、防御だ。

確かに爆発させるが、相手を傷つける為には使わない。これが体の良い詭弁だという事は、百も承知の上だ。

それ程までに棒立ちする事は、良しとは出来ない。

それは、逃げだから。

 

貴族たる者、背中を向ける訳にはいかないのだ。

 

「女は度胸よ!いっけ〜〜!」

 

ルイズは構えにすらなっていない状態で杖を握りしめ、呪文すら知らぬその技を用いた。これまで散々自分を悩ませてくれた爆発を、生まれて初めて意図的に使ったのだ。

 

そして、空が爆ぜた。

 

小規模な爆発ではあったが……タバサの稲妻が枝分かれする前に、迎撃に成功していた。つまりはその杖の切っ先で、ズドンといったのだ。

 

「杖と何かは、使いよう。」

 

タバサは爆発の衝撃で吹き飛びそうになった杖を、クルリとそのまま一回転させ、再びルイズへと向けていた。

これで、チェックメイトだとでも言いたいのだろうか。

 

「……もう!勘弁して頂戴よ!」

 

ルイズは右手をさすりながら、その様に言い放った。杖を握った手が、異様な痛みを訴えていた。

タバサの雷撃を喰らってはいないので、何かおかしい。

 

タバサは、まだまだ撃ち足りていない様で不満タラタラだったが……さすがに控えた様だ。と言うよりも。ルイズの目から見ても彼女は、当初の目的を忘れている様に思えてならない。そもそもタバサはルイズの、爆発に対するアレルギーを払拭するつもりでこんな事をしてくれた筈なのだ。

 

だからその……今の迎撃パターンを織り込んだ上で、ライトニングを放とうとするのはやめて欲しい。

そんな、お願い!みたいな顔をしても、ダメなものはダメなのである。これ以上は、ルイズの心臓が保たない。

 

こんな事を言い出すパチュリーが真横に控えていては、尚更である。

 

「呪文が違うようね。だったらやる事は一つだわ。」

 

彼女はルイズの様子を一瞥しただけで、彼女の身に何が起こっているのかを把握した様だった。曰く、あの爆発には専門の呪文があり、それを無視して使っているから反動が出始めたのだろう、との事である。

しっかしまあ…やる事は一つって、何をするつもりなのか。

 

「何よ、呪文が書かれた本でも見つけるの?」

 

そんな、あるかどうかも分からないものを探すなんて、遠回りも良いところだろう。

 

「ちょうど分かりやすい目印が出来た事だし、直接探しましょうよ。ミセス・シュヴルーズの授業の時、自分で言ってたじゃない。」

 

「……まさか。」

 

そのまさかだった。

パチュリーが語った構想は、非常に単純だった。このハルケギニアの母音と子音の組み合わせを、全て試す。

意味のない単語だろうが何だろうが、取り敢えずそれを発音し、爆発を起こす。痛みが走れば失敗で、痛みが無ければ成功。成功したら、その発音を元に1から同じことを繰り返していく。

 

やがては、正確な呪文に到達する筈だと。ルイズは余りにも気長なその作業に、眩暈を起こしそうになった。

 

そしてその時。妙に深刻な顔をしたタバサが、訳の分からないことを言い出した。

 

「どのくらい飛ばせる?」

 

「ハッ?」

 

「貴女の突き飛ばし魔法。アレで、何リーグ飛ばせる? 」

 

「い、いきなり何を……」

 

「王都に行きたい。今すぐ。」

 

「い、いや、訳が分からないんだけど……」

 

ルイズが本当に心臓に悪い思いをするのは、まだまだこれからの事だった。

 

 

 

 

 

 

 




あと1話挟んだら、以前の話の流れに戻る予定です。
杖に関する捏造設定が酷く、申し訳ありません。

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