ルイズと動く図書館   作:アウトウォーズ

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第11話 ヴェストリの広場

 

ルイズとキュルケが向かった先では、凄まじい光景が展開されていた。

 

「ヴィリエ、何やってんだ!回り込め、側面を叩けよ!」

 

「煩い!さっきっから釘付けにされてる奴が、偉そうに言うな!」

 

パチュリー型ゴーレムをやっつけようと、ヴェストリの広場へと向かったら……ギーシュとワルキューレ3体が、同級生二人を相手に大立ち回りを演じていた。

全くもって、訳が分からない。

 

7体同時制御という、その点に於いては頭一つ抜けてはいたが……そもそもギーシュのゴーレムは、ここまで高性能だっただろうか。

 

彼のお気に入りのワルキューレ達は、少しおかしな事になっていた。

妙に小さくなっている上、やたらと素早く、アクロバットな動き方をしている。その結果ラインメイジのヴィリエと、妙に武闘派なギムリが、劣勢に立たされていた。

 

……一体、何が起きたというのか。

 

前半までは、二人組優勢の展開だった。

ギムリが体を張って囮役をこなし、ヴィリエはちょこちょこ動き回ってワルキューレを掻き乱し、ギーシュは一方的にやり込められていた。

グラモン家の五男はゼーゼーと肩で息をしながら、一度はガクリと膝をついたのである。当初7体だったワルキューレ部隊はこの時点で、残り僅か2体にまで打ち減らされていた。

 

「く、クッソ……!こんな筈では……」

 

「目が覚めたかね?コレに懲りて、同性に懸想するような真似はやめてだね……」

 

「だからソレは違うと言っているだろう?!その言葉を引き下げるまで、ボクは諦めないぞ?!」

 

「……頼むから、諦めてくれよ。もう、ここまで来ると逐次迎撃するしかないのか?まあ、それならそれでいいんだが。」

 

「よ、よくないぞ、ヴィリエ!ギーシュは全く、これっぽっちも諦めていないじゃないか!キミは何処まで他人事なんだ!」

 

ヴィリエもギムリも、表情は暗かった。さすがに毎日こんな決闘紛いなことをしていては、溜まったものではない。

 

「だから君たちは…どこまで僕を挑発すれば気がすむんだね…!」

 

「ちょ、挑発だって?!冗談じゃない?!ボクラがいつ、キミの性欲を煽る様な真似をしたと言うんだ?!」

 

「何てことだ……ここまでやっても、全然堪えてないじゃないか。これならもういっそ、ワルキューレを丸裸にして仲良くやっていてくれた方が安心だな……」

 

ヴィリエが辟易してそう呟いた瞬間、ギーシュの表情が変わった。

 

「……そ、そうか、その手があったか!」

 

「おいおい、嘘だろう?」

 

「……もういいよ、ヴィリエ。僕らに累が及ばなければ、何だっていいさ。」

 

同級生2人の目には、ギーシュがとうとう人間でなくゴーレムに欲情し始めた様にしか映らなかった。

何しろ、ワルキューレの鎧が取り外され、全裸に剝かれていくのだ。

 

業が深いなんてもんじゃない、コレは最早、罪だ。

 

この場でギーシュが自らのズボンに手を掛けたら、ミスタ・ギトーでも呼んで来よう。悪いが友人として付き合ってやれるのも、此処までだ。

 

そう思い始めた、その時の事である。

 

ヴィリエは盛大なため息をついた。

 

「アイツ、バカだろ………」

 

ギムリは首を傾げた。

 

「今更だろ?」

 

「まぁ……その通りなんだが……よく見たまえ。ワルキューレの中身は、青銅じゃないか。」

 

「何かおかしいのかい?青銅を名乗っているくらいだ、別に不思議じゃないだろう?」

 

「鎧が全く、その体を成してなかったって事さ。単なる飾りだ、何処までカッコつけたがりなんだ、アイツは?」

 

「……それはつまりさ……」

 

「ギーシュは単なるバカじゃない、超バカだったって事だ。やれやれだ。」

 

「い、いや……こんな時になんだが、キミは本当に、その見下したがる性格は直した方がいいと思うぞ?」

 

「何故だ?バカをバカと言って、何が悪い?」

 

「僕等の状況が悪くなったんだよ!要するに、ワルキューレ達はこれまで、重りをつけて動いてたって事だろう?ハンデしょってたって事じゃないか!」

 

その時ようやく、ヴィリエの顔に影が差し……彼等の抱いた嫌な予感は、現実のものとなってしまった。

 

ギーシュは、本当に格好つけたがりだという事が分かった。

 

ワルキューレ達の体積は半分以上が、鎧だったという事が明らかになったのである。そのやたらゴテゴテな重りをパージしたのだ、彼女達は、傍目にも相当に身軽になっていた。

強度は変わらないまま。

 

ギーシュの名誉のために言っておくと、ワルキューレ達は全裸という訳ではなく、よくよく見ると体表部分は薄布の様なもので覆われていた。とはいえ破廉恥極まりないのには、変わりがない。

しかしその操者たるギーシュの目は、真剣そのものだった。

 

「これでいい……これまで正直なところ、動きにどれ程の無駄があったか、全く分からなかったからね!」

 

「言ってて恥ずかしくないのか、このバカめ!」

 

「いや、アホだろ?!どれだけ無駄な事してたんだ!」

 

「ええい、煩い!さあ、戦乙女達よ、君達の真の実力を存分に見せてくれたまえ!」

 

そうして、3体の軽ゴーレムが一斉に飛び掛かってきた。

有り体に言って、速度が段違いだった。コレをはじめから7体でやられていたら、一気に畳み掛けられてしまった事だろう。

 

おまけに。

 

「ハーッハッハ!浅はかだな、ギーシュ・ド・グラモン!未だに武器に拘るか!そもそも全身凶器なゴーレムに、人間の武具など持たせる意味がない!」

 

「な、成る程……」

 

「ヴィリエ?!キミはさっきっから、一体どっちの味方なんだ!」

 

始終こんな調子だった。

尊大な態度に出るヴィリエがダメ出しをして、ギーシュがそれで学習し、ギムリがワリを食うというスパイラルに突入していったのである。

 

「バカめ!上空さえとってしまえば、キミのゴーレムは無力だ!」

 

「くっそ!言わせておくなよ、ワルキューレ!アイツを撃ち落とすんだ!」

 

「もう黙ってろヴィリエーー!」

 

制御する数が減ったワルキューレ達は、身体能力だけでなく連携まで見事にこなした。

低空で粋がるヴィリエの元に、土台になったワルキューレがもう一体を打ち上げて、迎撃してのけたのである。

 

ギーシュは、素直に感動していた。

自身の得意魔法が、友人達との諍いを経て磨き上げられているのだ。こんなにも素晴らしい事はない。

 

「何だかよく分からないけれど、感謝するよキミ達!これぞ正しく、青春ではないか!お陰で僕は、新たな何かを掴み始めている!」

 

「よせ!そっから先を言うな!聞きたくない!」

 

「どれだけ堕ちる気だ?!まさか僕等を殺して、死体を嬲るつもりか?!」

 

「くっそ、これでは埒があかない!ギムリ、モンモランシー呼んで来い!もう、落ちぶれた貴族令嬢の貞操なんて知った事か!」

 

「何を言ってるんだ?!」

 

「二人して青春ぶっち切って貰おう!既成事実を作らせて、ギーシュを人生の棺桶にブチ込むんだよ!それしかない!」

 

「き、キミは本当に見境いない奴だな?!そんなに自分が可愛いか?!」

 

「愚問だ!」

 

ルイズとキュルケは、こんな混沌とした場に駆け付けてしまった。全く以って、意味不明である。

まあ……三人揃って阿保だと言う事は良く分かるのだが。

 

「……何で、ギーシュがラインになりかけているの?」

 

ルイズは、こんなバカバカしい事でギーシュがメイジとして成長しかけている事を見破った。

 

「驚いた、本当に成長してるのね。エライわよ〜〜、ルイズちゃん?胸は全然だけど。」

 

「一言多いのよ!アンタは!」

 

ルイズは盛大なため息をつくと、ギーシュ達に呼び掛けた。

 

「ねぇ、アンタ達……ねぇ、ねえってば!」

 

「何だい?今いいとこなんだ、悪いが邪魔しないでくれないかな、ミス・ヴァリエール?」

 

「ピンクはお呼びじゃないんだよ!モンモランシー呼んで来い!」

 

「そんな事だからキミは、いつまでたってもピンクなんだ!空気くらい読んでくれ!」

 

「だ、だだだた誰がピンクよ!上等じゃない、アンタら纏めて相手してやるわよ!かかって来なさい!」

 

「……ハイハ〜〜イ。みんな、頭を冷やして。ここに、ミス・ノーレッジが来なかった?」

 

キュルケはこの調子では日が暮れると思ったので、さっさと本題を切り出した。

わざわざゴーレムと言わなかったのは、その必要を感じなかったからである。この時そう切り出していれば、もう少しマシな事になったのであるが……

 

「……うえぇ、もう、ピンクに関わる話はやめてくれたまえ。そもそもコレも全て、ピンクの使い魔に関わった事が発端なんだ。」

 

「えっ?そうだったっけ?」

 

「忘れたのか、ギムリ。そもそもギーシュが深紫を男だから気に入ったとか何とかぬかし始めたのが……」

 

「な、何を言ってるのよアンタ達は……」

 

「ミス・ヴァリエール、彼等は終始こんな感じなんだ。キミからも何か言ってくれないかね?全く心外な事に、このボクが……」

 

「何が心外だ、被害者はコッチだぞ?!」

 

「もうやめて、バカが感染りそうだわ!」

 

「そうだ、もっと言ってやれピンク!」

 

「だからヴィリエ、キミは何でそう、他人のフリしようとするんだ!」

 

「そんな事どーでもいーわよ!アンタらさっきっから、私の事を何だと思って……‼︎」

 

「はいはい、もう分かったから!アンタら四人まとめて、スクエアバカって事でいいでしょう?それより、誰もミス・ノーレッジを見なかったの?こっちに来たと思ったんだけど……」

 

キュルケがいなかったら、ルイズを交えて四つ巴のケンカがおっ始まっただけだろう。

何だかんだ言って、頼りになる子である。

 

「いや、あの子が来たら流石に気がつくぞ?何よりも、ギーシュが黙ってないだろうから。」

 

「……これはキュルケ、アンタが間違えたって事じゃない。何よ、勢い良く飛び出しておいて!完全な空振りね。」

 

「おっかしいわねぇ……」

 

キュルケは頭をひねった。くっついて来たルイズに対して嫌味を言わないのは、彼女の優しさだろう。

 

「ところでミス・ノーレッジは、コッチに何しに来たんだい?」

 

ギーシュが気を利かせて、ルイズに尋ねて来た。この場合それは、新たな波紋をもたらすだけだったが。

 

「ああ、私達が探しているのは本人じゃあなくて、パチュリーの格好をしたゴーレムよ。」

 

ギーシュ、ヴィリエ、ギムリは揃って顔を見合わせると、一気にゲンナリし始めた。もう、ヴィリエに至っては背中が丸くなり始めている。

 

「……一体何なんだねそれは?」

 

「東方の異端審問官らしいわ。向こうで書かれた聖典の正義をハルケギニアに齎すため、拳で説教してくるらしいわ。」

 

「……開いた口が塞がらん。悪いがボクは、もう帰らせて貰うぞ。これ以上は付き合い切れん。」

 

「ボクもだ。そのゴーレムには、是非ともギーシュを懲らしめて欲しいものだよ。東方でも、同性愛は認められていないだろう?百歩譲って、合意の上ならアリなのかもしれんが……今のギーシュは、野獣と化していて、手の施しようがないんだ。」

 

「「うっわぁ……」」

 

ルイズとキュルケは揃って、ヴィリエのような顔をした。本気で気持ち悪いと思っている顔である。

だが。

 

「それだけじゃあないんだ。ギーシュは、ワルキューレを素っ裸にして喜んでいるんだよ。」

 

「ええ……?それは、もう手遅れなんじゃあ……」

 

「わ、悪いがもう……本当にダメだ……」

 

そして。

ヴィリエはもう、口元を抑えながら部屋へ戻ろうとしていた。流石に可哀想になってくるレベルである。

 

だが。

 

「おい……流石に本気で怒るぞ?」

 

ヴィリエの目の前には、ワルキューレが立ち塞がっていた。

これまで散々バカにされたギーシュが、意地悪し始めたかのようである。

 

そして……

 

「おいおい、そこまでしてヴィリエを手に入れたいのか、オアツイこったな。ま、頑張ってくれヴィリエ。ボクはこれから、モンモランシーに掛け合って、軟膏でも作って貰いに行くよ。ああ、それと……明日の授業には、クッション持って来ておいてやるから!座る時にケツの心配する事ないぞ!」

 

これまたギムリが、ここぞとばかりにヴィリエにやり返していた。

だが。

ヴィリエは吐き捨てるようにして反論した。

 

「ギーシュ……さっきっから気になっていたんだが、このワルキューレだけ妙な動きをしていた。コイツは一体、何なんだよ?!」

 

確かに。

ギーシュが先ほどから操っていた3体のゴーレムの中で、この1体だけは戦闘とは全く関係ない動きをしていた。それが妙に目を引くから、ヴィリエは注意を逸らされて全力を発揮できないという悪循環に陥っていたのだ。

 

ギムリも漸く、違和感を覚え始めた。そもそも彼ら2人は、前半戦終了時……ギーシュが一旦膝をついた瞬間まで、ワルキューレ達を2体にまで減らしていた筈なのだ。

それが後半戦が始まる際には、3体に増えていた。

 

「いや……それが先程から、どうにも妙でね。」

 

ずっとダンマリを続けていたギーシュが、その時深妙な顔つきで所見を語った。

 

「そこのワルキューレ……ボクの命令では動いていないんだよ。」

 

「はぁっ?!とうとうボケまで来たのか?」

 

「何を愚かなことを。この場合は、ボクの目覚めつつある才能が、顕在意識を超える逸品を作り出したと考えるのが妥当ではないのかね?」

 

「そんな都合の良い話があってたまるか‼︎ここは普通、別物がキミのワルキューレに化けたと考えるべきだろ!」

 

ギムリのその一言に、ルイズとキュルケは即座に反応した。泡を食って叫んだルイズに対して、キュルケは思いっきりニヤニヤしただけだったが。

 

「ヴィリエ、逃げて!」

 

「はっ?何を言って……」

 

遅かった。

どう見てもワルキューレにしか見えないそれは、ヴィリエに覆い被さり……そのまま首筋に噛み付いたのである。

 

「よ、よせ、離せ!」

 

「くそっ、何だコイツ?!」

 

ギムリは咄嗟にファイヤーボールを放ったのだが、空を切った。とんでもない反射神経で、ヒラリと躱されてしまったのである。ギーシュもワルキューレで対抗しようとしたが、流石に間に合わなかった。

ルイズは……完全にタイミングを逃してしまった。いつもと異なる緊張感に、ガチガチになっていたのである。

 

「……も、もうダメだぁ……」

 

ヴィリエは情けない声を出して、その場に倒れこんでしまった。この時ルイズがもう少し用心深く見ていれば、彼がとても幸せそうな顔をしていた事に気がついた筈である。

元より愛玩用ゴーレムなので、体表へのキス一つで男性を悦ばせる事くらいは、造作もないのである。

 

しかし。

 

最早ルイズの目にそのゴーレムは、想像以上に恐ろしげな何かにしか映らなかった。一体、何をどうしていいか分からない。もとより相手は東方の異端審問官で、話し合いの通じる相手ではないのだ。

分かり易く言えば、眼鏡を掛けた敬虔なカトリックの神父様に異教徒だとバレて、銃剣を十字に構えられた様なものである。

他にどうしようもないので、ルイズは悲鳴を上げるしかなかった。

 

「き、キャアアアア‼︎」

 

「な、何だコレは?!新手の吸血鬼か何かか?!」

 

「くっそ、ヴィリエがやられた!誰か、回復魔法を早く……って、ボクしか使えないじゃないか?!」

 

この面子で、水系統の回復魔法を使えるのはギムリだけだった。

レイナール少年が大人しそうに見えて意外と接近戦が得意な様に、このギムリも外見に反して器用な少年だった。

 

そんな中で、キュルケだけが妙に冷静に現状を分析していた。

 

「なんで、愛玩用のゴーレムがワルキューレに?ああ、ひょっとして他の女性に化けることも可能とか、そういうのかしら。それで、お仲間を見つけて一緒に遊んでいた、と。なんともマイペースよね〜って、ルイズ?しっかりしてよ。」

 

未だにキャーキャー言っていたルイズは、キュルケに頬をツネられて落ち着きを取りもどした。

 

「な、何てことするのよ!ほっぺが伸びちゃうじゃない!」

 

「いいから、とっととやることやっちゃいなさいよ。そもそがワルキューレに化けたのは、貴女が不用意に攻撃したからでしょうが。」

 

「ええい、うるさい!命令しないでよ!」

 

こんな子が嫁ぎ先の義姉だったら、あしらうのが楽でいいなぁとか、キュルケはそんなことを考えていた。

ルイズはその間に、ワルキューレ型ゴーレムを全力で吹き飛ばしていた。さすがに杖なしで発動できるアドバンテージは、緊急対応として非常に役に立つ。

しかし……

 

「貴女、バカの一つ覚えみたいにそれしか出来ないの?さっきやって、全くダメだったじゃない。」

 

「もう、一体何なのよ!アンタもちゃんと、やる事やりなさいよ!」

 

「やってるじゃない、口出し。」

 

ルイズは、キッとキュルケを睨みつけた。彼女の中では、これはのっぴきならない緊急事態なのだ。杖をしまい始めたキュルケの言動は、不謹慎極まりない。

その事を指摘されたキュルケがまた、自由な事を言い出すからタチが悪かった。

 

「ええ?!だってあのゴーレム、植物みたいなものでしょう?私がやったら、一発でケリがついて面白くないじゃない。」

 

「え……、ゴーレムって、土で出来てるんじゃないの?」

 

「タバサが教えてくれたわよ、アレの素材は、可燃物ばかりだって。草とか根っこの細かいのが縒り合わさっているから、衝撃には滅法強いらしいわよ。」

 

「へぇ……流石……って!?!知ってたならはじめから言いなさいよ!伊達や酔狂でやってるんじゃないのよ?!」

 

「私はまさしく、それを求めているのよ♪」

 

「うううううう!なんで、私はこんな奴に負けてるのよ〜〜〜〜!」

 

ルイズは、これはダメだ、使い物にならんとばかりに、ギーシュ達を振り返った。

先ほどまでの乱痴気騒ぎを見ていると、トライアングルのキュルケには及ばないとしても、それなりの戦力にはなりそうだった。

 

そしたら。

 

「ギムリ!そんな奴の回復はいいから、レイナール呼んできてくれ!」

 

「ひ、ヒドイ奴だなキミは!何てこと言うんだ?!と言うか何でキミ達は、ボクを使いっ走りにしようとするんだよ?!」

 

「さっきの見ただろう?!変形する、吸血する、衝撃では壊れない!ブレイドが得意な奴を掻き集めて、ぶった斬って貰うしかないだろう?!それに、今のうちに応援呼ばないと、いいように蹂躙されてしまうぞ!ここは一旦、ボクらに任せて、早く!」

 

おお、これは……キュルケよりもよっぽど、頼りになりそうである。

ルイズは少しホッとした。しかしその安堵は、キュルケの次の一言で露と消えた。

 

「さてさて、お次は何に化けるのかしらね?」

 

ゲルマニア才女の視線の先では、自分の身体をグネグネと変化させ始めたゴーレムがいた。

 

しっかしまあ、これで本当に愛玩用だというのだから、恐ろしい性能である。

それもそのはずでパチュリーはこのゴーレムを、千の夜を不眠不休で不特定多数と交わっても、壊れないよう、飽きさせないよう、丁寧に作っていた。

因みに、蝋燭プレイとかにも対応済みであるため、ちょっとやそっとの火では燃えない。

タバサの分析に自分なりの解釈を加えたキュルは、若干勘違いしていた。

 

そうして変身を終えたゴーレムを見て、ギムリが途轍もなく嫌な声を出した。

 

「うっげえええええ!」

 

これは、ルイズにとって噴飯ものであった。

何しろ、そのゴーレムは。

自分と同じ顔形をしていたのだから。

 

「ああああアンタ、何なのよその反応は?!ブッ飛ばすわよ?!」

 

「し、仕方がないだろう?!キミが二人に増えるなんて、悪夢以外の何物でもないだろうが?!」

 

そしてこんな事態に、キュルケが黙っている訳がなかった。

 

「あ、偽物発見♪」

 

彼女はその深い胸の谷間から杖を取り出すと、ファイヤーボールを放った。早撃ちをしたせいか、異様に小さな火球であるのが気になる所である。

そして、なんと。

それは、本物のルイズに向かって直進してきた。

 

「うっわああ?!」

 

完全に不意を突かれたルイズは無意識のうちに、魔力を纏った片手でそれを払いのけた。いくら極小威力の火球とはいえ、なかなかに凄いことを咄嗟にやるものである。

 

「ど、どこを狙っているのよ?!敵はアッチよ、アッチ!何で、私を狙うのよ!絶対ワザとでしょう?!」

 

「だって〜〜、私の知ってるミス・ヴァリエールは、煩く喚いたりしないから。貴女がニセモノなんじゃあないの?」

 

「な、何なのよその確信犯的な行動はぁ?!」

 

「そんなことより。あら、大変♪」

 

キュルケの指差した先では、ルイズが跳ね飛ばしたファイヤーボールが、ギムリを直撃していた。

後頭部にモロに喰らってしまったため、一撃でノックアウトだった。可燃性の高い髪の毛が殆ど燃えなかったところを見ると、キュルケもなかなかに器用な撃ち方をしたものである。

実質的には、マジックアローの球体バージョンに近いものだ。

 

「ギ、ギムリ〜!」

 

立て続けに友人がダウンしたギーシュは、信じられない、という顔をしてルイズを見つめてきた。

 

「き、キミは何てことをするんだ!」

 

「何で私が責められるのよ!オカシイでしょう?!悪いのはキュルケでしょうが!」

 

「そうだとしても、跳ね返す方向くらい考えたらどうなんだね!それとも何か?!咄嗟にやったら出来たとでも言うのかい?!そんな都合のいい話があってたまるか!」

 

「つ、都合よくパワーアップしてるアンタに、言われたかないわよ!そ、その通りなんだからどーしよーもないでしょうが!練習なんてしたことないんだから!」

 

ちなみに今ルイズがやったのは、魔法を跳ね返す魔法、なんて高尚なものではない。単純に、拳に纏った魔力で魔法をぶっ叩いただけである。キュルケが最小威力で撃っていなかったら、火傷くらいはしてしまっただろう。

その意味ではこの二人、妙なところで阿吽の呼吸を見せるのだった。

 

「さてさて。そんな事してる間に、近づいて来ちゃったわよ?」

 

「あ、あわわわわ……」

 

「ワルキューレ、ソイツをフクロにしてしまえ!遠慮はいらん、徹底的にやりたまえ!」

 

再び挙動不審になったルイズを他所に、ギーシュの指示が飛んだ。

ラインメイジに差し掛かっていた彼は、この一連の事態で完全にキレていた。これまでは、友人二人が相手というのもあって、どこかしら遠慮があったのだ。

しかしもはや、手加減などする必要もない。

 

戦乙女二人組は、機敏な連携を見せた。一人がルイズ型ゴーレムの真正面から襲いかかるうちに、もう一人は後背に回り込んでいた。

 

そして、一瞬優勢に見えたのだが……

 

やはり、打撃戦ではルイズ型ゴーレムにダメージを与える事は出来なかった。これでもかと言わんばかりにタコ殴りにしているのだが、全く応えていない。因みにだったら武器を持たせれば良いのだが……ラインに昇格したばかりのギーシュも、そこまでの魔力は残っていなかった。

 

もはや、このメンツでは完全に手詰まりな状況だった。

ルイズもギーシュも所謂、打撃的な攻撃手段しか持っていない。

唯一それ以外のオプションを持つキュルケは、この絶望的な状況を前にノリノリだった。

 

「やれやれ〜〜♪あと2、30発はぶっ叩いておきなさいよ!あ〜〜〜、とってもいい気分だわ、これぞまさしく、快・感って奴よね!」

 

何しろルイズと全く同じ姿のゴーレムが、ボッコボコにされているのだ。恨みなんて大袈裟なものではないが、刺々しい対応を重ねてくる隣人に対しては、色々とストレスが溜まっていたのである。

キュルケは今、気分爽快だった。

 

一体これは、どうなってしまうのか?

 

ルイズがそう思った、その時のことである。

 

冷え冷えとした……しかしどことなく叱る様な優しさを込めた声が、凛と鳴り響いた。

 

「全然ダメ。」

 

その次の瞬間。

偽物ルイズの胸を、一本の氷の矢が刺し貫いていた。

 

そして。

その胸元から、ピシピシと氷が這い伝わり……

ゴーレムの全身を、巨大な氷の牢屋に閉じ込めてしまった。

 

これまで、ルイズ達が散々に手こずらせて来たゴーレムは、いとも簡単に無力化されてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 


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