「それじゃあなのは、御神苗くんの寝ていた部屋を片付けてきてくれ。母さんは来客用の寝室の用意を頼む」
「はい!じゃあ片付けてくるね!」
「わかったわ。じゃあお店は午後からにしましょう」
「え!?で、でも何日も世話になるわけにはいか…」
「怪我人を放り出すわけにはいかないよ」
「どうか…どうかお礼させてください!」
「そうそう、だから遠慮しなくていいのよ」
「………」
果たして1日で済むのか、それとも数日かかるのか。こうして優は高町家の世話になるはめになった。
そうと決まれば行動の早い高町家。恭也と美由希は学校、なのはは優の寝床、桃子は新たな寝室を片付けるために足早に駆け出していった。
先程の賑やかさが嘘のように静まり返る。優はその静寂に、祭りが終わった後のような寂しさを感じた。
優と士郎以外に誰もいなくなったリビングルームで、士郎が徐に口を開く。
「さて、少し暇になったな。御神苗くん、少し2人きりで話をしようか」
(………ん?)
人は嘘をつく時、無意識に特定の言動を行ってしまう癖が存在する。
殆どの人は自身でそれに気付けるケースは少なく、気付くのは他人である事が殆どだ。
もし仮に自分の癖が判明しそれを隠すための言動を行おうとしても、それがかえって不自然さを生み出し、結果的に嘘である事を露呈させてしまう場合がある。
それを見破るのは相手の出した様々なサインから心を読む心理学の基本の1つであるが、そのような知識が無くともそれらのサインに「なんとなくおかしい」で気付いてしまう者も存在する。
優はそんな勘のいい人間であった。
「場所を変えようか。ついて来てくれ」
「……はい」
にこやかに言葉を発する士郎。だが優はそれに違和感を感じていた。
笑顔自体は先程となんら変わりはない。口調も非常に落ち着いている。
しかしその表情は取って外せてしまえる仮面のような無機質さを感じた。
その言葉は相手を誘うような…目的のために本心を抑えているような、そんな誘い文句に聞こえた。
そして気配の感知に長けた優が一瞬だけ感じたのは……
「うちは朝から賑やかだろう?毎朝こうなわけじゃないんだけどね。こういうのは独り身じゃわからない幸せだよ」
「………」
無言で士郎について行く優と、優の顔を見る事なくひたすら前を歩きながら喋り続ける士郎。
先ほどまで家族と楽しく会話していたとは思えない程に無機質で一方的なトークだ。
「俺は家族を心から愛してるんだ。だから俺はたとえちっぽけでもこの幸せな時間を守りたい」
「………」
歩きながら、会話とは言えない一方的なトークは続く。
「そのためなら俺はなんでもやるつもりだ。そう………なんでもだ」
「………」
会話が終わると士郎も無言になって完全な沈黙が訪れ、声の響かない廊下には床の軋む音だけが鳴り響く。
「着いたよ」
「………」
案内された場所は剣道場。ここは毎朝恭也と美由希が稽古している場所だ。
士郎はそのまま中へ入り、優もそれについて行く。
そして道場の中心に辿り着くと士郎は足を止め、爽やかな笑顔で優へ振り返る。
「ああそうだ、君に質問したい事があったんだ」
「あ、はい」
またしても仮面のような笑顔だ。
その不気味な表情に少しだけ不快感を感じたが、あえて受け流すことにした。
「一つだけ質問してもいいかな?」
「まあ、答えられる事な………!?」
優が返事の言葉を紡ごうとした瞬間、優に心臓を射抜くような殺気が浴びせられ、同時に優の身体を二つの光が通過した。