「じゃあそろそろ
((…来る!))
「ハァァァァ…!」
2人の敵を前にしても微塵の憂慮もないアルフは身構えると全身から黒煙を放出し始め、アルフの姿を視認できない程に身体を覆っていった。更に……
(どこまで広がるんだ!?)
(煙の中で放電してるのか?)
アルフを中心に黒煙が拡がって周囲十数メートルを埋め尽くし、その中で無数の光が弾けては消えてを繰り返す。
「ヒョオオオオオオ!!!」
「あ……」
「こ…この声…!」
アルフがいるはずの黒煙の中から身の竦むようなおどろおどろしい咆哮が鳴り響く。その声を聞いたユーノは途端に身体の震えと共に膝の力が抜けてその場にへたり込み、同じく優も身体が震え出した。
(力が…入ら…)
「ガアッ!!」
「!?」
「御神苗さん!!」
刹那、中からその黒煙に包まれた
(な…なんだ今のは…!)
(ぶ、無事か…。よかった…)
優は思うように身体が動かないので全く踏ん張りが利かずに派手に吹っ飛んでしまったが、辛うじて両腕で顔面をガードして事無きを得たため、地面で背中から一回だけバウンドしてから即座に体勢を立て直す。だが当然そんなことに安堵している場合ではない。
(黒い煙に包まれてて姿は見えねーがこれは………妖気、だな。ってことはこいつ妖怪か?)
襲撃者の姿はその身を包む黒煙によって視認することはできないが、直前の状況を鑑みればその正体がアルフであることは明白だ。今まで感じていなかった妖気を突如感じ始めたのは、恐らくはこの時まで他の者に悟られぬように抑えていたのだろう。
…………が、先程とは気配がまるで別物になっており、優はその違いに戸惑いながらも懸命にアルフの正体を探る。
(攻撃を受けた感じだとアルフと似ちゃいるが、パワーば段違いだ。それに妙に低い立ち姿は四足歩行になってるように見えるし、
喉まで出かかっているものの、そこからなかなか出てこない。優はこれ以上考えても仕方ないと割り切って目の前の敵(恐らくアルフ)に集中することにした。
〈ユーノ!こういう使い魔は手足ぶった切っても平気なのか!?〉
〈そ、それは危険です!切っても治すことはできますが当然痛いしダメージが大きいと命に関わります!〉
〈ちっ、めんどくせーな!〉
優にとっては単純に命の奪い合いなら即必殺の攻撃を加えて終わらせられるが、今目の前にいる相手はフェイトと深い絆で結ばれた者であるため、フェイトの心境に悪影響を及ぼさぬよう極力傷付けずに戦闘不能状態にしようとしている。
「ヒョーーーー!!」
(くっ、またこの声…!)
(あのスフィアは…!)
当然のことながらアルフは(思念通話なので聞こえはしないが)2人の話し合いを待つ理由は全く無い。
突如4個の黄色に輝く光球を頭上に出現させ、先程と同じような不気味な咆哮と共に光球からナイフ程度の長さの槍のようなものを撃ち出し始めた。
(我ながらよくこんな面倒な条件を設定したもんだな…!)
(気をしっかり保てば…!)
優はステップで回避し、ユーノはアルフの攻撃を先読みして出現させた魔法陣から発生させたバリア型防御魔法「サークルプロテクション」で完全防御。しかし着弾時にその槍が炸裂し、小規模とはいえ多数の魔力の爆片により視界が悪くなっていく。
優は胸中では自分の甘さとハードルの高さに悪態をつきつつも、先程より暗転した状況で如何に目的を達成するかを必死になって思案を巡らせる。
対してユーノは先程自分を脱力させた謎の咆哮に負けぬよう己を奮い立たせている。
〈ユーノ!さっきあいつを縛った魔法はいけるか!?〉
〈チェーンバインドのことですね!あれは動きが止まってる相手に対しては有効ですけどあんなに早く動き回られたら役に立ちません!〉
(これもダメか!だったら…)
回避に専念しながらまずチェーンバインドで牽制して(仮に捕らえられなくても)一瞬でも隙ができれば全力で仕留めるという作戦を立てたが、肝心要のチェーンバインドが役に立たずに御破算となり……
〈んじゃ、さっき………〉
代案として考えてあったもう一つの作戦のためにユーノに確認を取ると……
〈よし、やるぜ!〉
〈は、はい…〉
こちらは見事採用となった……が、採用となった喜びが顔に出てしまったのか、決まった途端に優への攻撃の割合が極端に増えていった。
〈………〉
〈なんか不満でもあんのか!?〉
〈い、いえ!全然ありません!〉
〈だったら集中しろよ!お前が要なんだからな!〉
〈りょ、了解!!〉
アルフの射撃を凌ぎつつも上の空になってしまったユーノに対する優の一喝で我に帰るユーノ。作戦開始と同時にアルフへ突撃していった優を見届けつつ……
(たった一度見ただけであんな作戦を考えつくなんて信じられない…!)
優の発想力に思わず舌を巻くのだった。