「オオオオオオ!!」
壁面から跳ね返って辺り一面に響き渡る獣の咆哮。
「ぐううっ…!」
その咆哮によって掻き消される、弱く小さい呻き声。
優は既に一切の反撃が無くなり、アルフの攻撃が数発ほど頭部を掠めるとますます動きも思考も鈍ってしまい、隙を窺うことさえ考えられなくなるほどに追い詰められていた。
(やべっ…!)
「ガアッ!!」
ついにやってしまった致命的なミス。優は足がもつれてよろめいてしまい、アルフはその隙を見逃さずに迷いなく優の足首をガッチリと握り締める。
(わりい、なのは…)
「アアアッ!!!」
アルフは握り締めた優を力任せに振りかぶる。
優は自分の頭部を両手で守りつつも「この一撃で自分は意識を失う」と覚悟して、心の中でなのはに自分の役目を果たせなかったことを謝罪するしかなかった。
「………」
おかしい。来るはずの衝撃が来ない。それどころか衝撃音もなにも来ない。そんなことはありえない。
本来ならば先程と同じく防ぎ切れなかった衝撃を頭部に受けてそのままK.O.されるはずだったのが、今こうして衝撃も痛みもなく意識をはっきりと保っている。
地面に叩き付けられる瞬間、上半身に感じた不思議な感触となにか関係があるのだろうか?疑問を抱いた優は衝撃に備えて閉じていた目を直ぐ様見開いて現状の確認を行った。
「グッ…アッ…!!」
「早く離れて!!」
「…!!」
聞き覚えのある声による一喝で我に帰った優は、自分の足を掴んでいたアルフの手を振りほどいてその場を離れるのだった。
「いま回復します。そのまま動かないでください」
「……助かったぜ、ユーノ……」
声の主……ユーノの元へ退避するとアルフを警戒しながらも片手・片膝を突いて脱力し、その間にユーノは左手を優に向けて治癒魔法を使い始めた。
「遅れてすみません。危ういところを間一髪でした」
「いや…」
ユーノは優がアルフに地面へ叩き付けられる瞬間、空中に足場を生成する結界魔法「フローターフィールド」によって衝撃を吸収する材質の足場を生成して優へのダメージを防ぎ切り、同時に捕獲魔法「チェーンバインド」によってアルフの動きを封じ、続けて空いた手で治癒魔法を使って優を回復して現在に至る。
「謝るのは…こっちの方だ…」
「?」
ユーノはなぜ優が自分に謝っているのかわからなかったが、理由は至極単純なことだった。
優はユーノに対して態度が悪いことが多く、特に戦闘においては補助以外にユーノに劣っている部分は無いと思っていた。ところがなのはに指摘されて態度の悪さを反省していたことと、今回の失態を助けられたことによって若干の負い目を感じてしまった…という訳だ。
「それよりもこの相手は……あの子の使い魔ですか?」
「………」
ユーノは優のそんな気持ちなど露知らず、現状把握を優先する。
「本人は…そう言ってた…」
「さっき二人に話しかけても応答がなかったから心配してたんですが、やっぱりまだジュエルシードは確保できてないみたいですね。……ってことは今はなのはも戦ってるってことですね?」
「…そのはずだ…」
「じゃあこっちは二人になったんだし早く勝負をつけてなのはの…」
「こんな…もので…!」
「「!?」」
優とユーノが会話を始めて間もなくアルフが奇妙な音を立て始め、気付いた2人はアルフの方向へ振り向くと……
「あたしを…!」
(あの犬女、拘束を解こうとしてやがるのか…!)
(使い魔があんな高度な魔法を…!)
「止められるかッ!!」
「「!?」」
アルフの怒声と共にチェーンバインドは砕け散ってしまった。
拘束を解いたアルフは息を切らしながらも2人を睨み付け、呼吸を整えながら再び戦闘態勢に移行する。
(この使い魔、思った以上に厄介だぞ…!)
(拘束魔法を力任せに破ったのか…)
ユーノはアルフの能力に驚きを隠せなかった。何故ならば、アルフの実行した行為はただの力技ではないからだ。
(バインドブレイクができるならきっとバリアブレイクも…)
(ユーノのやつ…なにを焦ってやがるんだ?)
アルフがユーノの拘束を解いた技を「バインドブレイク」と言う。
これは自身を捕縛する拘束魔法を解析して解放処理(干渉して拘束力を弱める)を行いながら、一定値まで弱体化させた時点で魔力を送り込んで破壊する技法のことだ。
この技法は消費する魔力は少ないものの、魔法の解析が必要なため難易度が高く、実戦では可能な限り高速で実行する必要があるため使い手が少ないのが現状である。
対して「バリアブレイク」はバリアタイプの防御魔法の生成プログラムに介入して行うので多少の知識や技術は必要だが、最低限の干渉ができればあとは送り込む魔力の量次第で強引に破壊することが可能だ。
魔力の消費量はバインドブレイクよりは多いものの極端な差はなく、バインドブレイクを行える者ならば基本的に問題なく可能である。
ちなみにアルフはこのバリアブレイクを得意としているためほとんど一瞬で破壊が可能で、バインドブレイクに関しては時間はかかるもののなんとか実戦での運用に値するレベルには達している。
「御神苗さん、相手は相当な手練れです」
「…ああ」
「ここは協力して一気に決着しましょう」
「………」
「……御神苗さん?」
ユーノが協力の申し出を打診するが、優は前を向いたまま口を閉ざしている。
「あ…あの…」
「なのはが心配だ。さっさとやるぞ」
「…!はい!!」
思うところはあるものの、アルフというイレギュラーが現れた以上は他に横槍が入る可能性も考慮しなければならない。それならば片側が早期決着を付けてもう片方を救援に向かうのが理想的と言える。
だがこれはアルフも同様で、彼女もまた優たちどの早期決着を望んで全力で叩きにきている。優から見れば相性が良いとはいえ、飛行魔法を駆使した戦術に不慣れな優にとっては難敵と言えよう。それならばここは人数の多さと優より魔道に明るいユーノという二つの利を活かして戦うのが最善だ。
(チッ、面倒だね…)
ユーノが参戦したことによってアルフの最大のアドバンテージであった「魔法戦闘の経験値」が帳消しとなった。更には二つの魔法を同時に、そして瞬時に使用できる程の腕を持つ手練れであるユーノは優とはまた違った強敵である。
「防御は任せてください」
「……しゃーねーか。んじゃ、ミスるなよ」
「……ふふっ」
「…なんだよ気持ちわりー笑い方しやがって」
「ふっ…いえ、なんでもないですよ」
ユーノは先程の
「じゃあそろそろ
「「…!!」」
そして優とユーノは、アルフの
バインドブレイクとバリアブレイクの話は原作設定をベースにした独自解釈です。