「あなた、フェイトちゃんって言うんだね」
「………」
ジュエルシードを挟むように空に浮かぶ2人。なのははとても戦場に臨むとは思えない穏やかな表情でフェイトに話し掛ける。
「この前は自己紹介できなかったから、今ここでするね」
「………」
「わたしは高町なのは。私立聖祥大学付属小学校の三年生。魔法を使えるようになったのは一カ月くらい前だよ。あなたのフルネームは?」
「………」
「おみなえさんはどうだった?あの人、ちょっと口とか態度は悪いけどすっごく優しい人なんだ。話してると安心できるっていうか……どんなことでもなんとかなるって気持ちになるんだよね」
「………」
「おみなえさんも言ったと思うけど、私たちはジュエルシードを集めなくちゃならないの。でも、フェイトちゃんもジュエルシードがほしいんだよね?」
「………」
「ジュエルシードはユーノくんが見つけたもので、今はそれをこの世界にばら撒いちゃった責任を取るために集めてる最中なんだよ」
「………」
「それに…わかってると思うけど、ジュエルシードとっても危険なものなの。だから封印しなくちゃいけないの」
「………」
「それをわかっててどうしてジュエルシードを集めてるの?もしかして、あなたにとってなにか大事なことに使うためなの?」
「…!」
なのはのジュエルシードに関する質問にフェイトの表情に若干の変化が生じる。
それを察知したなのはは更に踏み込んだ質問をぶつける。
「話してくれればわたしたちでも力になれるかもしれない。それに、悩みって『誰かに打ち明けるだけでほんのちょっとでも気持ちが楽になる』っておかあさんが言ってたんだ」
(母……)
「もちろんそれだけで問題が解決するわけじゃないけど、少しでも気持ちが楽になればなにか新しい考えが浮かぶかもしれないよ。だからあなたの事情を少しでもわたしに話してくれないかな?」
「………」
以降もなのははフェイトへ継ぎ早に質問するが、それでもフェイトはなのはと目を合わせたまま沈黙を貫く。
まるで隙を伺うかの如く視線を外さないながらも戦闘態勢に入らない様を見るに、「自分の質問には答えないが言葉を聞く気だけはある」と判断したのははフェイトが自ら答えを口にするまで思いつくだけの疑問を全て吐き出すつもりで質問を続けた。
「………ジュエルシードは願いを叶える宝石…っていうことはなにか叶えたい願いがあるんだよね。あなたはなにを叶えようとしてるの?」
「………い」
「え?」
俯きながらもとうとうフェイトが口を開く。よく聞き取れなかったが、フェイトは確かになのはの質問に答えたのだ。
「い、今なんて言ったの!?」
「わたしじゃ……ない……!」
「あなたじゃ…?」
「…たしの…」
「じゃあいったい…」
「…さんの…」
「自分じゃない」。フェイトは確かにそう言った。要約すると「自分に叶えたい願いは無い」ということだ。では何故フェイトは叶えたい願いもないのにジュエルシードを欲するのか?
この答えは至極単純、フェイトは
「誰のため…」
「邪魔を…!」
「!?」
なのははその「誰か」を聞き出すために質問しようとしたが、フェイトはわずかに視線を落として石鎚形態のウコンバサラを強く握り締めると……
「するなぁーーーー!!」
「きゃあっ!」
なのはへ電撃を撃ち込むのだった。
「ジュエルシードは渡さない…。絶対に!」
「フェイトちゃん…」
間一髪でプロテクションを発動して防御したなのは。反射的に目を覆った腕を下ろして目をあけると、そこには仇敵を見るような瞳でなのはを凝視するフェイトの姿があった。
「わかった。今はもうなにも聞かないよ」
「………」
「その代わり…」
「…!」
意を決したなのははレイジングハートを前に突き出し…
「あとで絶対ちゃんと聞かせてもらうから!!」
「!!」
その意を示すために「言葉」ではなく「行動」で伝える準備を始めるのだった。