「人間…!覚悟できてんだろうね!」
「へっ、今更てめーにビビると思ってんのか?」
アルフは優など無視してフェイトの元へ向かいたかったが、優はアルフの前に立ちはだかっており、また想像を超える実力と反応速度により振り切って向かうのは困難と判断し、苛立ちを募らせていた。
「それよりてめー、もしかしてライカンスロープか?」
「知らないねそんなの!あたしはアルフ!フェイトの使い魔だ!それ以外の何者でもない!」
「オレの知り合いに似たようなヤツがいたんだけどちがったか。まあ、その姿でおとなしくしてる時点でそうなんだろうなとは思ったがな」
ライカンスロープとは人間と同じ身体的特徴を持っている……が、それに加えて人間を遥かに凌駕する身体能力、それに加えて「身体能力の向上」と「再生能力を得る」という変身能力を併せ持っている種族だ。
スプリガンのS級特殊工作員の1人である「ジャン・ジャックモンド」は、優の親友であると同時にそのライカンスロープでもある。
平常時の見た目は人間と変わらず、頭脳も生殖能力も人間そのものだ。しかしその筋力は本気でなくとも並みの人間なら即死する威力を生み出し、移動速度は裏の世界の精鋭でもほとんどの者が彼の影すら捉えられないほどだ。
そして特筆すべきは上述にもある変身能力で、変身すれば「人間の体格を持った獣」…まさに獣人といった容姿になる。優がライカンスロープかと思って質問したアルフは耳や尻尾や爪など獣の部分はあるものの、人間の面影が強く残っているためライカンスロープに似ているとは言えない。
なお、身体能力は数倍に高まる上に不死身に近い再生能力を得られるが、自らの意思で変身することができない。しかも困ったことに身体を著しく損傷したり極度の興奮状態になると本人意思に関係なく変身して理性が消え去ってしまい、敵味方問わず視界に入る生物がいなくならない限り暴れ回り殺し続けるのだ。
そのため変身は便利で強力な能力ではなく、むしろいつ爆発してもおかしくない爆発物のように危険なものなの、謂わば諸刃の剣である。それでも直近では変身前から覚悟を決めていれば、強靭な精神力で辛うじて変身を抑え込むことができるようにはなったのだが。
「じゃあ強化手術でも受けたのか?オレの攻撃を軽く受け止めるなんてサイボーグやライカンスロープも真っ青な身体能力だぜ」
「そんなものに頼るほどあたしは弱くない…!人間と一緒にするな!」
優のいた世界では、特別な装備も持たずにA・Mスーツを装着した優と互角に渡り合える者が多数存在している。
その中の一部に
優はアルフの身体能力を目の当たりにして、焦りはしなかったもののライカンスロープかこの強化手術の線を疑っていたという訳だ。
「へえ、そりゃすげーな。てめー、そこそこスピードはあるしパワーだけならてめーに似てるあの
「それがどうした!あたしにビビったならさっさと帰っちまいな!」
「そういうことじゃねーんだけどな…」
優はなのはがフェイトと語り合う時間を稼ぐべく、なるべく会話でアルフの手を止めて戦いを引き延ばそうと試みた。しかし…
「もしてめーがあいつの保護者ならうまく言い聞かせてくれると助かるんだけどな。てめーはあのガ…フェイトと仲よさそうだし、少し話をしちゃもらえねえか?」
「お前がたちがおとなしく退けばフェイトだって戦わなくて済むんだよ!ゴタクはいいから戦う気があるならさっさとかかってきな!」
「………」
アルフのこの興奮ぶりに視線を落としつつ溜め息を一つ吐くと「これ以上はなにを言っても興奮させるだけ」と諦め、再びアルフを睨み付けて戦闘態勢に入る。
「どうしても引く気はねえ、か」
「さっきから言ってるだろ!こっちだって…」
「あとで後悔すんじゃねーぞ!!」
「それはあたしのセリフだぁぁぁぁ!!」
優VSアルフ、開始である。